Complex

亨珈

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Fifth Contact 笑顔の行方

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 ガタガタと物音がして、ベッドに寝転がっていた紫はドアの方を見た。読みかけの雑誌はそのままにして、パジャマ姿のまま廊下に出る。どうやら今日は非番だったらしい。
 物音は隣の部屋から聞こえて来ており、紫はいつも通りノックもなしにドアを開けた。

「どうしたの、コウちゃん。今日は学祭でしょ?」

 問い掛けたが、浩司は黙ってライダースーツのジッパーを上げ、机の上の手袋を掴んだ。

「こら、返事しろって」

 少し語気を強めたが、浩司は紫を一瞥しただけで、無言で部屋を出て行ってしまった。
 久々に見る弟の険しい表情に、紫は困惑した。

「一体何なのよォ……!?」







 ピンポーンッ。浩司の家の前に着くと、翔子は何のためらいもなくチャイムを押し、ものの五秒もしない内に連続でチャイムを何回も鳴らす。そして、木製のドアを乱暴に叩いた。

(一発は引っ叩いてやんないと、気ィ済まないっ!)

 カチャリとドアの開く音がした瞬間、翔子は怒鳴った。

「なにっ!? さっきの言い草はっ! どーゆぅ」

 ドアの向こうに立つ人物が違う事に気付いたが、出てしまった言葉は引っ込められない。すこぶる付きで不機嫌そうな紫の顔を見て、翔子はもごもごと口を閉じた。

「っとォ、あの……」

 てっきり浩司しか居ないと思っていたので、無礼な態度を謝るべきかと考えながら困惑していると、

「あー、確かコウちゃんのこと気に入ってた、キスマークの子、よね?」

 紫がじいっと翔子を凝視してから言い、数ヶ月前の海での事を思い出した。

「コウちゃんなら出掛けちゃったわよ。帰って来るなり直行で」

「で、あの……何処へ行ったか判ります?」

 ここまで引っ張ってきた怒りを押さえ込むと、翔子はおずおずと尋ねた。

「さあねぇ……あの調子じゃ、今日は帰って来ないかもしんないなぁ」

 紫は両手を軽く上げお手上げのポーズをすると、肩を竦ませた。

「そう、ですか……」

(っとに、余計に腹立って来たっ)

 両手に力を入れて拳を作ると、「じゃ、いいですっ」と紫に背を向け駆け出した。その背中に紫が声を掛けたが、怒り心頭の翔子の耳には届かずに消えてしまった。







(どうしてくれよう、この怒りっ! 何処へ持ってけってんだよっ。加害者は行方不明だしっ。ケータイくらい持てっつーんだよ!)

 翔子はベッドの上に胡坐を掻き、クッションをサンドバッグ代わりに殴り続けていた。

(ケータイ持ってても電源切ってっか、どーせ。大体何だってこの私が、あっこまで言われなきゃなんねーんだぁ!?)

 連続してドカドカやっていると、コンコンとノックの音がしてちょっぴりドアが開き、麻子の顔が覗いた。

「お姉ちゃん……」

 当然声も遠慮がちだ。

「何か用かよ?」

 少しドスの利いた声で振り向く翔子の目は据わっている。

「あ、あの……」

 姉の怒りがいつもとは違うと感じていたものの、ここまで酷いとは思っていなかった麻子は言葉に詰まった。

「用がねえんなら呼ぶんじゃねーよ」

 冷めた口調で言うと、妹に背を向けた。

「えっと、あの……、ご飯出来てるから、お腹空いたら下りて来てね」

 消え入りそうな声で告げると、返事がないまま、静かにドアを閉めた。
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