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Fourth Contact きみが好き
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「ちょっ……満くんっ!?」
新菜が受話器に向かって言った時には、既に『ツー、ツー』と回線の切れた音しか聞こえて来なくなっていた。その電話口にもう一度呼びかけてみるが、勿論返答がある筈はない。
「ったく、一方的に切っちまうしぃ……」
溜め息をついて受話器を置き、部屋に戻ろうと新菜が振り返ると、マルルを抱いた美緒がダイニングからひょこりと顔を覗かせているのと視線がぶつかった。にたぁ、と意味有り気に笑っている。
「何だよ、その目ぇ……」
新菜が睨む。
「べえっつにぃ―――」
美緒は笑みを残したまま、
「新菜の口からあんな台詞が出るなんて、こりゃ明日は嵐だな。なっ、マルル」
と窓の外に目を移し、ぐしゃぐしゃと犬の頭を撫でた。解っているのかいないのか、マルルもワンッと一回吠える。
「るっせぇっ。人の会話聞いてんじゃねぇつってんだろ!!」
キッと睨んで階段を上る新菜の背中にまた美緒が話し掛けてきた。
「保くんといい満くんといい、もてる女は辛いねぇ」
シシシッと笑ったが、その後真面目な口調になり、
「誕生日は、ちゃんとお返ししろよ」
と言った。一瞬足を止めた新菜だったが、振り返ることは無くそのまま二階へと上がって行ったのだった。
「早く早くっ!!」
翔子がぐいぐいと新菜と円華の腕を引っ張る。その後ろを唯と夏美がぽてぽてと付いて来ている。
「わぁーった、わぁーった」
円華はげんなりしながら頷いた。
「もしかしたら、浩司くん応援合戦出てるかも知んねぇしぃっ」
翔子は駅を出てずっと今まで腕を引っ張り続けて急かしているのだ。本当は一人で飛んで行きたいに違いない。
「っとにぃ……ショートホームルームまでサボらせて、何事かぁ思えば……」
と新菜が呆れている。
新菜と円華は翌日だけ来ようと思っていたのだが、話を聞いて体育祭を観たいと言い出した翔子に押し切られる形でやって来たのである。勿論全員制服だ。それもあって、かなり足取りの重い新菜である。
駅から五分ほど歩いたところで、微かに風に乗って聞こえて来た太鼓の音が、星野原学園に近付くにつれて大きくなって来る。ギャラリーの歓声も聞こえるようになって来た。
「私は星野原のヤローの中から、目の保養でも探すとすっか」
こんな機会でもないと来る事のない唯が、バッグから手鏡を出して、歩きながら髪型とメイクをチェック。
「んな事したって、どーせ誰も気にもとめねぇって」
その隣で夏美が言った時、一際大きな歓声が上がった。
「おっ、やってるやってる」
声のする方へと顔を向ける円華。とはいえ、身長より高い塀に囲まれているので全然中は見えないのだったが。
「もう始まってんじゃんっ」
翔子が掴んだ腕を更に引っ張り、校門に向かって歩きながら時折ぴょこんと飛び上がってみたりする。勿論見えない。
「翔子、言っとくけど見るだけだかんな」
(あたしら五人が、それも梁塁の制服着て星野原なんかに来て、全校生徒集まってるグラウンドで満くんたちに接触したりしたら、どーゆー目で見られる事か……)
暗澹たる気持ちになりながら、新菜は釘を刺した。
「判ってますよぉ」
翔子はにこにこしながら新菜の方を向くが、どうも信憑性がない。
五人は開放された正門から敷地内に入って行った。
グラウンドの周囲をグルッと取り囲む形で、体操服姿の生徒たちの生垣が出来ている。
星野原は一年から三年までの同じクラスが縦割りで一ブロックを作り、それが約百二十人程になる。更にその中の十数人で応援団を結団し、昼の時間に応援合戦をやるのだ。各ブロック毎にイメージカラーが決まっていて、応援団の女子の衣装や男子のハチマキ、腕章、その他の生徒のワッペンなどはその色で作る決まりになっている。
今は丁度ブロック毎の演技に入っているらしく、グラウンドの中央に出ているチームが本部席のほうを向いて型の演舞をしている真っ最中だった。
「うわぁ……結構人来てんのねぇ」
円華は背伸びしてグラウンドの中央を見遣った。
「こっちからじゃ、背中しか見えないよぉっ」
翔子は目をうるうるさせている。
「どっちみち顔なんか見えんだろーが」
新菜が指摘したが、
「浩司くんだけは見えるんだもーんっ!!」
と言って、翔子は校舎の方へ向かって一人でズンズンと歩き出した。
向かって左が退場門になっているらしく、演技の終わった生徒たちが五人の方へ向かってドカドカと歩いて来た。短ランの男子と、赤を基調にしたオーガンジーの衣装を纏った女子たちである。
それを見た途端に、翔子の目がキラリと光った。
「浩司くんだぁっ!!」
嬉しさ満面に声を上げ、誰かが止める間もなく翔子は駆け出した。
新菜が受話器に向かって言った時には、既に『ツー、ツー』と回線の切れた音しか聞こえて来なくなっていた。その電話口にもう一度呼びかけてみるが、勿論返答がある筈はない。
「ったく、一方的に切っちまうしぃ……」
溜め息をついて受話器を置き、部屋に戻ろうと新菜が振り返ると、マルルを抱いた美緒がダイニングからひょこりと顔を覗かせているのと視線がぶつかった。にたぁ、と意味有り気に笑っている。
「何だよ、その目ぇ……」
新菜が睨む。
「べえっつにぃ―――」
美緒は笑みを残したまま、
「新菜の口からあんな台詞が出るなんて、こりゃ明日は嵐だな。なっ、マルル」
と窓の外に目を移し、ぐしゃぐしゃと犬の頭を撫でた。解っているのかいないのか、マルルもワンッと一回吠える。
「るっせぇっ。人の会話聞いてんじゃねぇつってんだろ!!」
キッと睨んで階段を上る新菜の背中にまた美緒が話し掛けてきた。
「保くんといい満くんといい、もてる女は辛いねぇ」
シシシッと笑ったが、その後真面目な口調になり、
「誕生日は、ちゃんとお返ししろよ」
と言った。一瞬足を止めた新菜だったが、振り返ることは無くそのまま二階へと上がって行ったのだった。
「早く早くっ!!」
翔子がぐいぐいと新菜と円華の腕を引っ張る。その後ろを唯と夏美がぽてぽてと付いて来ている。
「わぁーった、わぁーった」
円華はげんなりしながら頷いた。
「もしかしたら、浩司くん応援合戦出てるかも知んねぇしぃっ」
翔子は駅を出てずっと今まで腕を引っ張り続けて急かしているのだ。本当は一人で飛んで行きたいに違いない。
「っとにぃ……ショートホームルームまでサボらせて、何事かぁ思えば……」
と新菜が呆れている。
新菜と円華は翌日だけ来ようと思っていたのだが、話を聞いて体育祭を観たいと言い出した翔子に押し切られる形でやって来たのである。勿論全員制服だ。それもあって、かなり足取りの重い新菜である。
駅から五分ほど歩いたところで、微かに風に乗って聞こえて来た太鼓の音が、星野原学園に近付くにつれて大きくなって来る。ギャラリーの歓声も聞こえるようになって来た。
「私は星野原のヤローの中から、目の保養でも探すとすっか」
こんな機会でもないと来る事のない唯が、バッグから手鏡を出して、歩きながら髪型とメイクをチェック。
「んな事したって、どーせ誰も気にもとめねぇって」
その隣で夏美が言った時、一際大きな歓声が上がった。
「おっ、やってるやってる」
声のする方へと顔を向ける円華。とはいえ、身長より高い塀に囲まれているので全然中は見えないのだったが。
「もう始まってんじゃんっ」
翔子が掴んだ腕を更に引っ張り、校門に向かって歩きながら時折ぴょこんと飛び上がってみたりする。勿論見えない。
「翔子、言っとくけど見るだけだかんな」
(あたしら五人が、それも梁塁の制服着て星野原なんかに来て、全校生徒集まってるグラウンドで満くんたちに接触したりしたら、どーゆー目で見られる事か……)
暗澹たる気持ちになりながら、新菜は釘を刺した。
「判ってますよぉ」
翔子はにこにこしながら新菜の方を向くが、どうも信憑性がない。
五人は開放された正門から敷地内に入って行った。
グラウンドの周囲をグルッと取り囲む形で、体操服姿の生徒たちの生垣が出来ている。
星野原は一年から三年までの同じクラスが縦割りで一ブロックを作り、それが約百二十人程になる。更にその中の十数人で応援団を結団し、昼の時間に応援合戦をやるのだ。各ブロック毎にイメージカラーが決まっていて、応援団の女子の衣装や男子のハチマキ、腕章、その他の生徒のワッペンなどはその色で作る決まりになっている。
今は丁度ブロック毎の演技に入っているらしく、グラウンドの中央に出ているチームが本部席のほうを向いて型の演舞をしている真っ最中だった。
「うわぁ……結構人来てんのねぇ」
円華は背伸びしてグラウンドの中央を見遣った。
「こっちからじゃ、背中しか見えないよぉっ」
翔子は目をうるうるさせている。
「どっちみち顔なんか見えんだろーが」
新菜が指摘したが、
「浩司くんだけは見えるんだもーんっ!!」
と言って、翔子は校舎の方へ向かって一人でズンズンと歩き出した。
向かって左が退場門になっているらしく、演技の終わった生徒たちが五人の方へ向かってドカドカと歩いて来た。短ランの男子と、赤を基調にしたオーガンジーの衣装を纏った女子たちである。
それを見た途端に、翔子の目がキラリと光った。
「浩司くんだぁっ!!」
嬉しさ満面に声を上げ、誰かが止める間もなく翔子は駆け出した。
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