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Third Contact すれ違いの純情
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「ホント、浩司抜きでってのは初めてだなぁ」
マスターが満の前にホワイトレディのカクテルグラスをコトンと置いた。ナカさん、と浩司は呼んでいるが、本名は秘密らしい。年はまだ二十三歳と若いのだが仙人のように淡白な雰囲気の不思議な印象の人である。
「まあ、ね」
満はグラスを右手で持つと、舌先で舐めた。とても一息で飲めるような代物ではない。
「しかもメニューまでそれとは……何事?」
ホワイトレディは常ならば浩司が好んで飲むカクテルだ。しかもマスターが浩司の好みの割合にブレンドしているちょっときつめのレシピで頼んだのだった。
「いーのっ、何かそーゆー気分なのっ。気分で選ぶもんでしょ、お酒って」
グイッとグラスをあおる満を見て、ウォルターが息をついた。
「ま、そーだけどさぁ……。ああ、言っとくけど満、潰れても俺連れて帰らねーぞ」
チラチラとこちらに視線を向けてくるテーブル席の女性たちに微笑み返しながら、ウォルターが釘を刺した。
「へぇへぇ、どーせ、自分ちには帰んないんだろ。いーよ、一人寂しく帰るからぁ」
満はそう言ってから、自棄になったようにパクパクとスパゲティを平らげた。
「んでさぁ……唐突なんだけどぉ」
そしてようやく話す気になったのか、カランとフォークを皿に乗せ、カウンターの上に置いた。
「女の子とキスしてさぁ……後でその事について『犬に噛まれたと思って忘れる』って言われるって事はさあ、別に好きでもなんでもないって事だよな。忘れたいってんだもんなぁ……」
平静を装って、しかしやや照れながら言う満を見て、ウォルターはぽかんと口を開け一瞬言葉を失った。
「――それって、ニーナの事?」
「う……まぁ、そう」
恥ずかしいのか、満はカウンターの方ばかり見つめてくしゃくしゃと髪を掻き回している。
「『嫌いな男とはグループでも会ったりしない』とも言われたんだ。だから嫌いじゃあないらしいんだけどぉ~」
「ふん……ま、そうなんだろ」
「けどその後、『じゃオレのことは特別なのか』って訊いたら、返事がなくってさ……」
ようやく髪をいじるのをやめ、満は両手でグラスを持つとかくんと項垂れてしまった。
ウォルターは、ほぉーと声を出し、口を挟まずに聞いているマスターに自分のグラスを渡してお代わりを催促した。
「みっちゃんたら、はぐれてる間にそんな事話してたのねっ」
少し茶化してから、真面目な表情になる。
「返事はなし、かぁ。まあ、ニーナも男性不信っつーことだし、そんなすぐに俺らのこと信用しろってのも無理があるんじゃない?
浩司も女の事は毛嫌いしてるけど、ショーコには大分慣れて来たみたいだし……けど、それだから好きってんじゃないだろうし。
だったらさ、のんびり行くしかないだろ」
お代わりが差し出され、受け取って一口飲んだ。
「あー、だけど、大切な事が一つある」
ハタと思い出し、きっぱりとウォルターは言った。
「え? な、何??」
満は顔を上げると、どきどきしながら視線を合わせ、続きを待った。
「特に満みたいな優柔不断には、大切な事なんだけど」
ウォルターにまで優柔不断と断定され、満は虚しく口を開閉させた。
「まず、本当に好きなのかどうか、自分の気持ちをハッキリさせること。
それから、その気持ちを相手に伝えること。
じゃねーと、連れと思われちゃうからな。男として好きなんだって事をハッキリさせとかないと、一度男友達になっちゃったら、そっから恋人になるのは難しいだろ」
「そ……そーかな」
まずはお友達から、っていう常套句はどうなるんだろうと満は首を傾げる。
「そうなの。遠回しにアプローチしてるだけじゃあ駄目なのよ。
言葉で伝えないと、女ってのは解ってくれねーし、そうなのかもって思ってても、自分の思い過ごしかもって決着つけちゃうような事もあるし。
態度もそうだけど、言葉も大事だからなっ。違う場合もあるけど、今まで俺が見てた限りじゃあニーナはこのタイプだから」
自信満々に言い切り、グラスを干す。
「素晴らしい」とマスターが拍手をした。
「流石場数を踏んでるだけはあるなぁ」
「おうよ。修羅場になんないように気ぃ遣うのも大変なのよ」
ウォルターはへらりと笑うと、またお代わりを請求した。
「つー事。解った?」
再度ウォルターが満の方を向く。
「ん……努力する」
口調は軽そうだったが、真面目に見つめられているのが判り、満は神妙な顔でこくりと頷いた。
「はい、そんじゃー、湿っぽい話はここまで」
ウォルターは椅子を少し後ろに引くと、テーブル席の方へ体を向けて笑った。
「彼女たちぃ~、良かったら一緒に飲まない?」
キャアーッと歓声が上がり、ウォルターはグラスとつまみを持って立ち上がった。
「ほら行くぜ、満」
「えっ!? オレも?」
「当ったり前でしょお」
ウォルターは爪先でコンコンと満の椅子を蹴ってせっつくと、立ち上がった満と一緒に女の子たちのテーブルへと向かった。
マスターが満の前にホワイトレディのカクテルグラスをコトンと置いた。ナカさん、と浩司は呼んでいるが、本名は秘密らしい。年はまだ二十三歳と若いのだが仙人のように淡白な雰囲気の不思議な印象の人である。
「まあ、ね」
満はグラスを右手で持つと、舌先で舐めた。とても一息で飲めるような代物ではない。
「しかもメニューまでそれとは……何事?」
ホワイトレディは常ならば浩司が好んで飲むカクテルだ。しかもマスターが浩司の好みの割合にブレンドしているちょっときつめのレシピで頼んだのだった。
「いーのっ、何かそーゆー気分なのっ。気分で選ぶもんでしょ、お酒って」
グイッとグラスをあおる満を見て、ウォルターが息をついた。
「ま、そーだけどさぁ……。ああ、言っとくけど満、潰れても俺連れて帰らねーぞ」
チラチラとこちらに視線を向けてくるテーブル席の女性たちに微笑み返しながら、ウォルターが釘を刺した。
「へぇへぇ、どーせ、自分ちには帰んないんだろ。いーよ、一人寂しく帰るからぁ」
満はそう言ってから、自棄になったようにパクパクとスパゲティを平らげた。
「んでさぁ……唐突なんだけどぉ」
そしてようやく話す気になったのか、カランとフォークを皿に乗せ、カウンターの上に置いた。
「女の子とキスしてさぁ……後でその事について『犬に噛まれたと思って忘れる』って言われるって事はさあ、別に好きでもなんでもないって事だよな。忘れたいってんだもんなぁ……」
平静を装って、しかしやや照れながら言う満を見て、ウォルターはぽかんと口を開け一瞬言葉を失った。
「――それって、ニーナの事?」
「う……まぁ、そう」
恥ずかしいのか、満はカウンターの方ばかり見つめてくしゃくしゃと髪を掻き回している。
「『嫌いな男とはグループでも会ったりしない』とも言われたんだ。だから嫌いじゃあないらしいんだけどぉ~」
「ふん……ま、そうなんだろ」
「けどその後、『じゃオレのことは特別なのか』って訊いたら、返事がなくってさ……」
ようやく髪をいじるのをやめ、満は両手でグラスを持つとかくんと項垂れてしまった。
ウォルターは、ほぉーと声を出し、口を挟まずに聞いているマスターに自分のグラスを渡してお代わりを催促した。
「みっちゃんたら、はぐれてる間にそんな事話してたのねっ」
少し茶化してから、真面目な表情になる。
「返事はなし、かぁ。まあ、ニーナも男性不信っつーことだし、そんなすぐに俺らのこと信用しろってのも無理があるんじゃない?
浩司も女の事は毛嫌いしてるけど、ショーコには大分慣れて来たみたいだし……けど、それだから好きってんじゃないだろうし。
だったらさ、のんびり行くしかないだろ」
お代わりが差し出され、受け取って一口飲んだ。
「あー、だけど、大切な事が一つある」
ハタと思い出し、きっぱりとウォルターは言った。
「え? な、何??」
満は顔を上げると、どきどきしながら視線を合わせ、続きを待った。
「特に満みたいな優柔不断には、大切な事なんだけど」
ウォルターにまで優柔不断と断定され、満は虚しく口を開閉させた。
「まず、本当に好きなのかどうか、自分の気持ちをハッキリさせること。
それから、その気持ちを相手に伝えること。
じゃねーと、連れと思われちゃうからな。男として好きなんだって事をハッキリさせとかないと、一度男友達になっちゃったら、そっから恋人になるのは難しいだろ」
「そ……そーかな」
まずはお友達から、っていう常套句はどうなるんだろうと満は首を傾げる。
「そうなの。遠回しにアプローチしてるだけじゃあ駄目なのよ。
言葉で伝えないと、女ってのは解ってくれねーし、そうなのかもって思ってても、自分の思い過ごしかもって決着つけちゃうような事もあるし。
態度もそうだけど、言葉も大事だからなっ。違う場合もあるけど、今まで俺が見てた限りじゃあニーナはこのタイプだから」
自信満々に言い切り、グラスを干す。
「素晴らしい」とマスターが拍手をした。
「流石場数を踏んでるだけはあるなぁ」
「おうよ。修羅場になんないように気ぃ遣うのも大変なのよ」
ウォルターはへらりと笑うと、またお代わりを請求した。
「つー事。解った?」
再度ウォルターが満の方を向く。
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口調は軽そうだったが、真面目に見つめられているのが判り、満は神妙な顔でこくりと頷いた。
「はい、そんじゃー、湿っぽい話はここまで」
ウォルターは椅子を少し後ろに引くと、テーブル席の方へ体を向けて笑った。
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「えっ!? オレも?」
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