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Third Contact すれ違いの純情
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「さ、さぁ。私が行く前の事だろーから、よくわかんねぇしぃ……」
円華は何とか知らん振りを決め込む。
『ふーーーーーん……あっそ』
保の口調はいかにも「知ってんのに嘘つきやがったな」と示していた。
『じゃ二つ目。今日祭行ってたっつって、誰と?』
(げっ。さっき巧く話逸らせたと思ってたのに、まだ憶えてたんかいっ)
「私と翔子と」
どうにかケロリと聞こえただろうか。
『で、あとは!? 』
声に怒りが混じっている。
「三人で行ったんだってば」
襟川町の駅までは。と心の中で付け足し、ペロリと舌を出す。嘘ではない。
『おっかしぃなぁ、おれのツレが確か祭でお前らのこと見掛けたって言ってたんだけど、そんときゃーほかにぃ……』
独り言のように喋る保に、円華は慌てて、
「いや、あのっ、あの人らはねっ、」
と口走ってしまっていた。
(れ? 確かさっき、祭に行ったこと私の口から初めて聞いたような口調だったような……)
はっと口を噤んだが遅かった。保は電話の向こうでニターッと笑いながら、
『あの人らは……? 何だよ!? 』
勝ち誇ったように言った。
「卑怯もんっっ! カマかけやがったなっっ、きったねぇーっ」
『何とでも言え。で、さっきの続きは!! 』
「新菜から聞きゃあいいだろっ」
自棄になって円華も怒鳴る。それは逃げ口上でしかないことを保は知っている。
『やっぱ、ヤローと一緒だったんじゃねーか!! 』
「るっせえ、知るか!! 」
怒鳴り合いになってしまった時、円華の家の電話が鳴り始めた。
正直ほっとして、タイミングの良い電話に感謝してしまう。
「家の電話鳴ってんから、じゃーなぁ」
と切りかけると、
『待ってるから出ろ。後でじっくりさっきの話の続き聞いてやっから』
保の声と共に、ガスライターを点ける音がした。どうしても解放してくれる気はないらしい。
その粘り強さには感服するが、負けるわけにはいかない。「ったく……」と円華は左手で持っていた携帯端末を下ろし、右手でコードレスフォンを取った。
「はい」
『あ、円華。あたし』
ぽつりと聞こえた新菜の声。勿論保の時のように意地悪を言ったりはしない。
それにどうもいつもと様子が違う。
「新菜、ちと待って」
そう言って保留ボタンを押すと、再び携帯電話の方を耳に当てた。
「もっしぃ、悪ぃけどまた今度―」
『おいっ、電話、七元からなのかよ? 』
円華の言葉が遮られる。
「ん。と、いう訳で、じゃーねん」
保が何か言っていたが、お構い無しに今度こそ本当にフリッパーを閉じた。そして電話機の保留ボタンを解除する。
「どった? 何かあった?」
保に対してとは比べものにならないくらいに優しい声が出た。
私は、どっちの味方なんだろう。新菜のことも、保のことも好きだ。だが、保の幸せは自分の幸せではない。味方の振りをして、打算だらけで傍にいる。
新菜は口を濁してから、ようやっと用件を言った。
『あのさ、今からそっち行っていいかな?』
「今更んなこという間柄かよ。いつもなら前置き無しに来てるくせに」
いつも通りに聞こえるように言うと、新菜はホッと息をついた。
『そう、だっけ? ……じゃあね』
それだけ言うと、電話は切れた。
円華は何とか知らん振りを決め込む。
『ふーーーーーん……あっそ』
保の口調はいかにも「知ってんのに嘘つきやがったな」と示していた。
『じゃ二つ目。今日祭行ってたっつって、誰と?』
(げっ。さっき巧く話逸らせたと思ってたのに、まだ憶えてたんかいっ)
「私と翔子と」
どうにかケロリと聞こえただろうか。
『で、あとは!? 』
声に怒りが混じっている。
「三人で行ったんだってば」
襟川町の駅までは。と心の中で付け足し、ペロリと舌を出す。嘘ではない。
『おっかしぃなぁ、おれのツレが確か祭でお前らのこと見掛けたって言ってたんだけど、そんときゃーほかにぃ……』
独り言のように喋る保に、円華は慌てて、
「いや、あのっ、あの人らはねっ、」
と口走ってしまっていた。
(れ? 確かさっき、祭に行ったこと私の口から初めて聞いたような口調だったような……)
はっと口を噤んだが遅かった。保は電話の向こうでニターッと笑いながら、
『あの人らは……? 何だよ!? 』
勝ち誇ったように言った。
「卑怯もんっっ! カマかけやがったなっっ、きったねぇーっ」
『何とでも言え。で、さっきの続きは!! 』
「新菜から聞きゃあいいだろっ」
自棄になって円華も怒鳴る。それは逃げ口上でしかないことを保は知っている。
『やっぱ、ヤローと一緒だったんじゃねーか!! 』
「るっせえ、知るか!! 」
怒鳴り合いになってしまった時、円華の家の電話が鳴り始めた。
正直ほっとして、タイミングの良い電話に感謝してしまう。
「家の電話鳴ってんから、じゃーなぁ」
と切りかけると、
『待ってるから出ろ。後でじっくりさっきの話の続き聞いてやっから』
保の声と共に、ガスライターを点ける音がした。どうしても解放してくれる気はないらしい。
その粘り強さには感服するが、負けるわけにはいかない。「ったく……」と円華は左手で持っていた携帯端末を下ろし、右手でコードレスフォンを取った。
「はい」
『あ、円華。あたし』
ぽつりと聞こえた新菜の声。勿論保の時のように意地悪を言ったりはしない。
それにどうもいつもと様子が違う。
「新菜、ちと待って」
そう言って保留ボタンを押すと、再び携帯電話の方を耳に当てた。
「もっしぃ、悪ぃけどまた今度―」
『おいっ、電話、七元からなのかよ? 』
円華の言葉が遮られる。
「ん。と、いう訳で、じゃーねん」
保が何か言っていたが、お構い無しに今度こそ本当にフリッパーを閉じた。そして電話機の保留ボタンを解除する。
「どった? 何かあった?」
保に対してとは比べものにならないくらいに優しい声が出た。
私は、どっちの味方なんだろう。新菜のことも、保のことも好きだ。だが、保の幸せは自分の幸せではない。味方の振りをして、打算だらけで傍にいる。
新菜は口を濁してから、ようやっと用件を言った。
『あのさ、今からそっち行っていいかな?』
「今更んなこという間柄かよ。いつもなら前置き無しに来てるくせに」
いつも通りに聞こえるように言うと、新菜はホッと息をついた。
『そう、だっけ? ……じゃあね』
それだけ言うと、電話は切れた。
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