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Third Contact すれ違いの純情
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「どうって言われても」
口を濁す兄に焦れ、その背中に手を置いて美里が揺すぶった。
「ほらぁ、反応とかさぁ」
「っても、渡してすぐ帰って来ちゃったしなぁ……すんげー恥ずかしかったし」
今思えば、店内には円華も翔子も、さらには新菜の母親まで居たのに、挨拶も何もなしで逃げるように出てきてしまった。
あの時はいっぱいいっぱいだったから自分では仕方ないと思うのだけれど、後々のことを考えてもっときちんと挨拶もするべきだったかと後悔してしまう。
しょげてしまった兄に、
「ばっかだねー、兄貴…肝心なことを……」
と追い討ちをかけ、美里はふーっと溜め息をついた。が、すぐにハッとして「あ、そうだ!!」と今度は背中を叩いた。
「来週の土曜日、商店街の夜市に誘いなよ!!
『浴衣楽しみにしてるよ』とか何とか言ってさ。浴衣着ればきっと髪をまとめるから、そん時ピアスしてるかどうか判るじゃんっ」
名案だ~っと興奮して続け様にバシバシと背中を叩いている。
「ててっっ、止めろって……! でも、して来るとは限んねーじゃん」
満はごろりと仰向けになると、美里の腕を掴んで叩くのを止めさせた。
「してなかったら仕方ない。それはそれ。
でも少しでも気がある男からもらったんなら、付けて来るって。そしたらちゃんと指摘して反応確かめるの。
嫌いな男からだったらまず付けないだろうから、する筈だよ?」
「ほんとかよ……」
「年頃の女の子の言うことを信じなさいって」
薄い胸を張って言う美里に、
「お前もいっちょ前に女だったんだな」
とつい口を滑らせてしまい、コブラツイストを食らう羽目になってしまった満だが、
(ま、美里の言うことももっともだよな)
と心の中では納得していたのだった。
そして夜市の日がやって来た。
まだ明るい内から気の早い客たちが駅前を涼しげな格好でそぞろ歩く姿が多く見られ、日は落ちきっていないものの既に夕食の時間帯となった今となっては、かなりの人込みとなってきていた。
電車でやって来た三人が改札を抜けた途端、探すまでも無く待ち合わせ相手の男連中が目に飛び込んでくる。
浴衣や甚平など和装の中でも一際輝く金髪碧眼が、仰いでいた団扇を持ったままの右手を振って「いよっ!! 久し振り」なんて笑い掛けてくる。
いや、嬉しい、嬉しいのだけど――
女三人は、乾いた笑いを浮かべて何とか手を振り返した。
今までちらちらとウォルターたちを窺っていた若い女性たちの視線がまとめて突き刺さってくる。
頼むからこれ以上目立たないでと切実に思う新菜と円華だったが、翔子だけは別のことしか頭にないらしい。
「きゃあーっっ!! 浩司くんってば色っぽいっ」
もうすっかり目がハートマークになっている。
黒っぽい浴衣を着流している浩司は、白っぽいグレーの浴衣のウォルターとは対のように、陰になるように立っている。その傍らでは紺色の絣風甚平姿の満が笑顔で手を振って出迎えてくれている。
「こんにちはーっていうより、こんばんは~」
思わず駆け出しそうになり、裾が捲れるのを気にして小股を心掛けて浩司の元へと小走りに向かった。
「ほらっ、約束通り浴衣で来たよ。似合うー?」
タンポポ色の布地に青と赤の大きな朝顔柄の浴衣は、翔子にとても似合っていた。赤と黄色のオーソドックスな浴衣帯を蝶々に締めて、それをひらめかせてクルリとターンしてみせる。
「ほんと、馬子にも衣装ってやつ?」
浩司はにやりと笑うと、アップにしてレースの髪飾りなどで華やかにまとめているふわふわの髪を、団扇でぽふぽふと叩いた。
「ううーっ。それって褒め言葉じゃないいっ」
「俺なりに褒めてるつもりだけど?」
けたけたと笑いながら団扇で顔を仰ぐ浩司に、膨れっ面をすぐに引っ込めた翔子はさかんに話し掛けている。
口を濁す兄に焦れ、その背中に手を置いて美里が揺すぶった。
「ほらぁ、反応とかさぁ」
「っても、渡してすぐ帰って来ちゃったしなぁ……すんげー恥ずかしかったし」
今思えば、店内には円華も翔子も、さらには新菜の母親まで居たのに、挨拶も何もなしで逃げるように出てきてしまった。
あの時はいっぱいいっぱいだったから自分では仕方ないと思うのだけれど、後々のことを考えてもっときちんと挨拶もするべきだったかと後悔してしまう。
しょげてしまった兄に、
「ばっかだねー、兄貴…肝心なことを……」
と追い討ちをかけ、美里はふーっと溜め息をついた。が、すぐにハッとして「あ、そうだ!!」と今度は背中を叩いた。
「来週の土曜日、商店街の夜市に誘いなよ!!
『浴衣楽しみにしてるよ』とか何とか言ってさ。浴衣着ればきっと髪をまとめるから、そん時ピアスしてるかどうか判るじゃんっ」
名案だ~っと興奮して続け様にバシバシと背中を叩いている。
「ててっっ、止めろって……! でも、して来るとは限んねーじゃん」
満はごろりと仰向けになると、美里の腕を掴んで叩くのを止めさせた。
「してなかったら仕方ない。それはそれ。
でも少しでも気がある男からもらったんなら、付けて来るって。そしたらちゃんと指摘して反応確かめるの。
嫌いな男からだったらまず付けないだろうから、する筈だよ?」
「ほんとかよ……」
「年頃の女の子の言うことを信じなさいって」
薄い胸を張って言う美里に、
「お前もいっちょ前に女だったんだな」
とつい口を滑らせてしまい、コブラツイストを食らう羽目になってしまった満だが、
(ま、美里の言うことももっともだよな)
と心の中では納得していたのだった。
そして夜市の日がやって来た。
まだ明るい内から気の早い客たちが駅前を涼しげな格好でそぞろ歩く姿が多く見られ、日は落ちきっていないものの既に夕食の時間帯となった今となっては、かなりの人込みとなってきていた。
電車でやって来た三人が改札を抜けた途端、探すまでも無く待ち合わせ相手の男連中が目に飛び込んでくる。
浴衣や甚平など和装の中でも一際輝く金髪碧眼が、仰いでいた団扇を持ったままの右手を振って「いよっ!! 久し振り」なんて笑い掛けてくる。
いや、嬉しい、嬉しいのだけど――
女三人は、乾いた笑いを浮かべて何とか手を振り返した。
今までちらちらとウォルターたちを窺っていた若い女性たちの視線がまとめて突き刺さってくる。
頼むからこれ以上目立たないでと切実に思う新菜と円華だったが、翔子だけは別のことしか頭にないらしい。
「きゃあーっっ!! 浩司くんってば色っぽいっ」
もうすっかり目がハートマークになっている。
黒っぽい浴衣を着流している浩司は、白っぽいグレーの浴衣のウォルターとは対のように、陰になるように立っている。その傍らでは紺色の絣風甚平姿の満が笑顔で手を振って出迎えてくれている。
「こんにちはーっていうより、こんばんは~」
思わず駆け出しそうになり、裾が捲れるのを気にして小股を心掛けて浩司の元へと小走りに向かった。
「ほらっ、約束通り浴衣で来たよ。似合うー?」
タンポポ色の布地に青と赤の大きな朝顔柄の浴衣は、翔子にとても似合っていた。赤と黄色のオーソドックスな浴衣帯を蝶々に締めて、それをひらめかせてクルリとターンしてみせる。
「ほんと、馬子にも衣装ってやつ?」
浩司はにやりと笑うと、アップにしてレースの髪飾りなどで華やかにまとめているふわふわの髪を、団扇でぽふぽふと叩いた。
「ううーっ。それって褒め言葉じゃないいっ」
「俺なりに褒めてるつもりだけど?」
けたけたと笑いながら団扇で顔を仰ぐ浩司に、膨れっ面をすぐに引っ込めた翔子はさかんに話し掛けている。
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