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Third Contact すれ違いの純情
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「へぇ、新菜ってモテんだ~。ま、あたしの娘だから当然かぁ」
煙草片手に美緒が厨房から出て来た。つきだしの支度が終わったらしい。
「るっせえ」
薔薇を鋏で切り直し花瓶に生けてから、新菜も煙草に火を点けた。
五人の前にも灰皿を置き、咥えたままコースターと箸を並べていると、美緒が眉を怒らせた。
「こら、新菜っ。客の前で咥え煙草すんなっつってんだろ」
「いいんだよ。客じゃあねーんだから」
咥え煙草のまま返答すると、
「随分な言いよう」
と円華がバッグから自分の煙草を取り出しながら嘆息した。
「じゃあ、金払うってのか? 金払ってこそ『客』っつーんだよ」
ぷはーっと煙を吐きながら新菜に横目で睨まれ、円華は言葉を詰まらせた。
たまに一人千円とか格安で『友達用ボトル』を飲ませてもらってはいるが、基本的にはたかりに来ている様なものである。出世払いという言葉でツケにもしないのは美緒の優しさだった。
だからといって無制限に飲めるわけでもなかったが。
ドアの付近で渋々片づけをしている三人も、背中を向けたまま無言で立ち働いている。
それをしばらく眺めて言葉が浸透するのを確かめてから、新菜は水屋から人数分のグラスを取り出し声を掛けた。
「で、何飲む? まさかジュースってわけじゃねーだろ?」
途端に目を輝かせて三人が振り向いた。
「私冷酒―っ」「私、水割りー」「おれ、ヘネシーのロックぅ」
「私はビールっ」
と円華と翔子が煙草片手に声を揃えた。
「テメーらはぁ……ただ酒の癖にヘネシーだぁ?」
貧乏人が飲む銘柄じゃねぇっつーの、とぶちぶち言いながら用意していると、
「たまにゃあいいじゃん」
と美緒がチャームを置きながら許可を出した。
娘の誕生祝なのだから、母親としては太っ腹なところも見せておきたいのだろう。
「たま、じゃねぇだろ、こいつらは……」
「そういえば、さっきのトレーニングウェアの彼も一緒に飲んで祝って行ってくれたら良かったのにねぇ。お金とか格好気にしなくていいって声掛ければ良かったわぁ」
新菜のボトルを取りながら、ふと思い出して美緒が言い、新菜は「ば、馬鹿っ」と息を呑んだ。円華もカウンターの向こうで顔を歪めて髪をくしゃくしゃとしてしまった。
(やっべぇぞ……保、ああ見えてマジで新菜に一途なのに、自分以外の男がモーション掛けてるなんて知ったら……。
相手が誰か判った日にゃあどうなることか……)
今更言った言葉は戻せない。外面は悪くない保の裏の顔を知らない美緒には、皆に祝って欲しいという思いしかなかったのは良くわかる。
良く解るのだが――
どうにもタイミングが悪過ぎた。
「七元、その『トレーニングウェアの彼』って何処のどいつ?」
片付けを終えた保が座り直し、白々とした笑みを湛えて問うた。
「テメーにゃあ関係ねぇよ」
目を合わせずに乱暴に答え、それに対してまた保が口を開きかけた時、店のドアが開いた。
「おはよーございまぁすっ」
元気良く入って来たバイトの女の子の声に、そのままその話題は中断されたのだった。
煙草片手に美緒が厨房から出て来た。つきだしの支度が終わったらしい。
「るっせえ」
薔薇を鋏で切り直し花瓶に生けてから、新菜も煙草に火を点けた。
五人の前にも灰皿を置き、咥えたままコースターと箸を並べていると、美緒が眉を怒らせた。
「こら、新菜っ。客の前で咥え煙草すんなっつってんだろ」
「いいんだよ。客じゃあねーんだから」
咥え煙草のまま返答すると、
「随分な言いよう」
と円華がバッグから自分の煙草を取り出しながら嘆息した。
「じゃあ、金払うってのか? 金払ってこそ『客』っつーんだよ」
ぷはーっと煙を吐きながら新菜に横目で睨まれ、円華は言葉を詰まらせた。
たまに一人千円とか格安で『友達用ボトル』を飲ませてもらってはいるが、基本的にはたかりに来ている様なものである。出世払いという言葉でツケにもしないのは美緒の優しさだった。
だからといって無制限に飲めるわけでもなかったが。
ドアの付近で渋々片づけをしている三人も、背中を向けたまま無言で立ち働いている。
それをしばらく眺めて言葉が浸透するのを確かめてから、新菜は水屋から人数分のグラスを取り出し声を掛けた。
「で、何飲む? まさかジュースってわけじゃねーだろ?」
途端に目を輝かせて三人が振り向いた。
「私冷酒―っ」「私、水割りー」「おれ、ヘネシーのロックぅ」
「私はビールっ」
と円華と翔子が煙草片手に声を揃えた。
「テメーらはぁ……ただ酒の癖にヘネシーだぁ?」
貧乏人が飲む銘柄じゃねぇっつーの、とぶちぶち言いながら用意していると、
「たまにゃあいいじゃん」
と美緒がチャームを置きながら許可を出した。
娘の誕生祝なのだから、母親としては太っ腹なところも見せておきたいのだろう。
「たま、じゃねぇだろ、こいつらは……」
「そういえば、さっきのトレーニングウェアの彼も一緒に飲んで祝って行ってくれたら良かったのにねぇ。お金とか格好気にしなくていいって声掛ければ良かったわぁ」
新菜のボトルを取りながら、ふと思い出して美緒が言い、新菜は「ば、馬鹿っ」と息を呑んだ。円華もカウンターの向こうで顔を歪めて髪をくしゃくしゃとしてしまった。
(やっべぇぞ……保、ああ見えてマジで新菜に一途なのに、自分以外の男がモーション掛けてるなんて知ったら……。
相手が誰か判った日にゃあどうなることか……)
今更言った言葉は戻せない。外面は悪くない保の裏の顔を知らない美緒には、皆に祝って欲しいという思いしかなかったのは良くわかる。
良く解るのだが――
どうにもタイミングが悪過ぎた。
「七元、その『トレーニングウェアの彼』って何処のどいつ?」
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「テメーにゃあ関係ねぇよ」
目を合わせずに乱暴に答え、それに対してまた保が口を開きかけた時、店のドアが開いた。
「おはよーございまぁすっ」
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