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First Contact 海へいこう!
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「もう少し行ってみる?」
新菜が沖の方を指差した。
「オッケイ。溺れたらオレが人工呼吸してやっから」
満が人差し指を唇に当てて冗談めかして言い、新菜は「ぶぁーか」と軽く舌を出した。
そんな軽口が叩けるほど、いつの間にか新菜の心はほぐされて打ち解けてしまっていた。
「ちょっと待ってて」
そういい残して、新菜は岸に向かって泳いだ。といっても足のつく深さにいたのですぐに水面は膝の高さになり、その辺りからはザバザバと波を掻き分けて歩きパラソルの向けて真っ直ぐに駆けて行った。
「ニーナ?」
ウォルターが呼びかける声に、翔子は身じろぎして体を起こした。
「に、新菜さん、どーしたんっすか?」
少しどもってしまったが、それには気付いていない様子の新菜は、自分の鞄に手を突っ込んでごそごそとやっている。
やがて目当てのものが見つかったのか、「あったあった」と言いながら手を引き抜いた。
「うき、わ?」
「そ。あ、これに空気入れて」
新菜は翔子に折りたたまれたままのそれを投げて寄越そうとしてぴたりと腕を止めた。猫のマスコットキャラクターが入った赤い浮き輪の横で、切れ長の目が大きく見開かれた。
「しょ、翔子っ!! なにそれーっっ!?」
首筋に散る無数の跡を目にして驚愕を露にしている。
「あ、これですか。キスマークぅ~」
翔子の方は平然と笑顔を向けている。
「んなこたぁわぁーってんよっっ!」
「つけられちゃった」
怒鳴られても嬉しそうに小首を傾げている翔子を見て、新菜は大きく息を吐き振り上げたままだった肩を下ろすとポイッと浮き輪を放った。
「これ、空気入れて」
「新菜さぁん、けどエアポンプ忘れちゃってぇ」
折り畳まれている浮き輪をぺりぺりと広げる。
「忘れたぁ?」
こくこくと頷きながらゴメンナサイしている翔子。一瞬考えて、新菜はウォルターに向き直った。
「じゃあ、男の方が肺活量あるからこれ頼みたいんだけど……」
話しかけられる前に荷物を探っていたウォルターは、中からエアポンプを取り出して新菜に差し出した。
「そっか、満くんがこんな重要アイテム持ってないはずがないよねぇ。じぁ有り難く拝借~」
受け取ると、浮き輪に接続して空気を送り始めた。
(に、しても。円華には突然ディープキスで、翔子にゃあキスマークかよ。っとに女なら誰でも手ぇ出すんかいこいつは……。
まああっちの国では挨拶代わりなんかもしれんけどぉ)
冷めた目つきでちらりと伺うと、平然としているウォルターのグリーンアイズとぶつかった。
「俺、だと言いたいわけね。その目は」
「しか、するヤツいねぇんじゃねーの?」
冷めた口調で言うと、ウォルターは目を伏せて首を振り、
「残念だけど」
と親指で浩司を指した。
「マジ?」
こくりと頷くウォルター。
「安眠妨害するとああなるらしいけど、試しにしてみる?」
「冗談……」
新菜の顔が引きつっている。
「先刻、見てる方は面白かったよ」
にっこり笑うウォルターを前に、新菜の心中は複雑だった。
(浩司くんまでがまさかの……これも手が早いって言うの!?
女性不信って嘘だったん? うちら騙されてる??
満くんはんなこたしそうにないけど……でもやっぱり人って見かけどおりじゃないから)
もやもやしている内に空気はぱんぱんに入り、翔子が栓をして渡してくれた。
「はい、新菜さん。浮き輪」
その時、ふわぁ~と欠伸をしながら、翔子の隣の円華が上半身を起こした。
「冷やしてこっかな」
と立ち上がって、うーんと伸びをした。
「行こっか」
促されて、浮き輪を持った新菜も一緒に海へと向かう。
「浩司くんも、んなとこでやってくれるわ」
「あんた起きて……」
「た、わよ」
腰まで浸かる深さに来ると、円華は足を曲げて肩まで海水に浸した。陽光で熱くなった体が少しづつ冷やされていく。
パラソルの下を一瞥してから、新菜に向き直りにやあっと笑う。
「ま、新菜も頑張れ」
ぽんぽんと背中を叩かれても、新菜は溜め息しか出ない。
「あ、そうだ。三人に声掛けたとき、一体なんて言ったのあんた」
ふと思い出し顔を上げた。
「『今日一日楽しく過ごすために美人コンパニオン要りませんか? 勿論御代は一切頂きません』」
円華は真顔だった。
「なんか変だった?」
「あんたらしいわ……」
「それより新菜。満くんのこと気に入ってんの?」
突然そんなことを訊かれても、新菜は「はあ?」と首を傾げるしかない。
「だって、男と話してて楽しそうなのって珍しいじゃん。笑ってんの久々に見たしー」
(そう言われると……そうかも。
今まで付き合ってきた男って、あたしの顔だけ気に入ったみたいで、飾り物にして使い捨てカイロのごとく扱ってくれたもんなぁ。あと体目当てとか。
勿論全員病院送りにしてやったけど、男と居て笑うことって確かになかったかも……。
満くんは人懐こくてなんか可愛いんだもん。男にとって褒め言葉じゃないって判ってるから言えないけど、やっぱり可愛いからついつい……瞳が柔らかくて優しいトコなんかうちの犬とそっくり。
ん? マルルのことは好きなんだよねぇ。ってことはやっぱりあたし満くんのことも好きってこと?
でもまだ知り合ったばっかだし)
頭の中でぐるぐる考えていると、
「深くは追求しないけど、今が楽しけりゃそれはそれでいいんじゃん?」
水に体を沈めたまま、上目遣いに円華が言った。
はっと我に返る新菜。
「そいやさっき、わざと翔子のこと呼んだでしょ」
カキ氷の時のことを思い出し、咎めるように軽く睨んだ。
「バレてた? やっぱ」
「何年ツルんでると思ってんの」
「ほら、満くん待ってるよ」
円華はあははーと作り笑いをしながら、満の方へと顎をしゃくった。
「翔子、きっとまた性懲りもなく浩司くんにちょっかい出すだろうから、ウォルターと見学させてもらっとくわ」
シシシっと変な笑いをすると、円華はさっさとシートの方へ帰ってしまった。
これ以上手を出すとどうなるんだろうと一瞬考えたものの、少し離れた波打ち際で手を振っている満を見て、まぁいいかと打ち切った。
新菜が沖の方を指差した。
「オッケイ。溺れたらオレが人工呼吸してやっから」
満が人差し指を唇に当てて冗談めかして言い、新菜は「ぶぁーか」と軽く舌を出した。
そんな軽口が叩けるほど、いつの間にか新菜の心はほぐされて打ち解けてしまっていた。
「ちょっと待ってて」
そういい残して、新菜は岸に向かって泳いだ。といっても足のつく深さにいたのですぐに水面は膝の高さになり、その辺りからはザバザバと波を掻き分けて歩きパラソルの向けて真っ直ぐに駆けて行った。
「ニーナ?」
ウォルターが呼びかける声に、翔子は身じろぎして体を起こした。
「に、新菜さん、どーしたんっすか?」
少しどもってしまったが、それには気付いていない様子の新菜は、自分の鞄に手を突っ込んでごそごそとやっている。
やがて目当てのものが見つかったのか、「あったあった」と言いながら手を引き抜いた。
「うき、わ?」
「そ。あ、これに空気入れて」
新菜は翔子に折りたたまれたままのそれを投げて寄越そうとしてぴたりと腕を止めた。猫のマスコットキャラクターが入った赤い浮き輪の横で、切れ長の目が大きく見開かれた。
「しょ、翔子っ!! なにそれーっっ!?」
首筋に散る無数の跡を目にして驚愕を露にしている。
「あ、これですか。キスマークぅ~」
翔子の方は平然と笑顔を向けている。
「んなこたぁわぁーってんよっっ!」
「つけられちゃった」
怒鳴られても嬉しそうに小首を傾げている翔子を見て、新菜は大きく息を吐き振り上げたままだった肩を下ろすとポイッと浮き輪を放った。
「これ、空気入れて」
「新菜さぁん、けどエアポンプ忘れちゃってぇ」
折り畳まれている浮き輪をぺりぺりと広げる。
「忘れたぁ?」
こくこくと頷きながらゴメンナサイしている翔子。一瞬考えて、新菜はウォルターに向き直った。
「じゃあ、男の方が肺活量あるからこれ頼みたいんだけど……」
話しかけられる前に荷物を探っていたウォルターは、中からエアポンプを取り出して新菜に差し出した。
「そっか、満くんがこんな重要アイテム持ってないはずがないよねぇ。じぁ有り難く拝借~」
受け取ると、浮き輪に接続して空気を送り始めた。
(に、しても。円華には突然ディープキスで、翔子にゃあキスマークかよ。っとに女なら誰でも手ぇ出すんかいこいつは……。
まああっちの国では挨拶代わりなんかもしれんけどぉ)
冷めた目つきでちらりと伺うと、平然としているウォルターのグリーンアイズとぶつかった。
「俺、だと言いたいわけね。その目は」
「しか、するヤツいねぇんじゃねーの?」
冷めた口調で言うと、ウォルターは目を伏せて首を振り、
「残念だけど」
と親指で浩司を指した。
「マジ?」
こくりと頷くウォルター。
「安眠妨害するとああなるらしいけど、試しにしてみる?」
「冗談……」
新菜の顔が引きつっている。
「先刻、見てる方は面白かったよ」
にっこり笑うウォルターを前に、新菜の心中は複雑だった。
(浩司くんまでがまさかの……これも手が早いって言うの!?
女性不信って嘘だったん? うちら騙されてる??
満くんはんなこたしそうにないけど……でもやっぱり人って見かけどおりじゃないから)
もやもやしている内に空気はぱんぱんに入り、翔子が栓をして渡してくれた。
「はい、新菜さん。浮き輪」
その時、ふわぁ~と欠伸をしながら、翔子の隣の円華が上半身を起こした。
「冷やしてこっかな」
と立ち上がって、うーんと伸びをした。
「行こっか」
促されて、浮き輪を持った新菜も一緒に海へと向かう。
「浩司くんも、んなとこでやってくれるわ」
「あんた起きて……」
「た、わよ」
腰まで浸かる深さに来ると、円華は足を曲げて肩まで海水に浸した。陽光で熱くなった体が少しづつ冷やされていく。
パラソルの下を一瞥してから、新菜に向き直りにやあっと笑う。
「ま、新菜も頑張れ」
ぽんぽんと背中を叩かれても、新菜は溜め息しか出ない。
「あ、そうだ。三人に声掛けたとき、一体なんて言ったのあんた」
ふと思い出し顔を上げた。
「『今日一日楽しく過ごすために美人コンパニオン要りませんか? 勿論御代は一切頂きません』」
円華は真顔だった。
「なんか変だった?」
「あんたらしいわ……」
「それより新菜。満くんのこと気に入ってんの?」
突然そんなことを訊かれても、新菜は「はあ?」と首を傾げるしかない。
「だって、男と話してて楽しそうなのって珍しいじゃん。笑ってんの久々に見たしー」
(そう言われると……そうかも。
今まで付き合ってきた男って、あたしの顔だけ気に入ったみたいで、飾り物にして使い捨てカイロのごとく扱ってくれたもんなぁ。あと体目当てとか。
勿論全員病院送りにしてやったけど、男と居て笑うことって確かになかったかも……。
満くんは人懐こくてなんか可愛いんだもん。男にとって褒め言葉じゃないって判ってるから言えないけど、やっぱり可愛いからついつい……瞳が柔らかくて優しいトコなんかうちの犬とそっくり。
ん? マルルのことは好きなんだよねぇ。ってことはやっぱりあたし満くんのことも好きってこと?
でもまだ知り合ったばっかだし)
頭の中でぐるぐる考えていると、
「深くは追求しないけど、今が楽しけりゃそれはそれでいいんじゃん?」
水に体を沈めたまま、上目遣いに円華が言った。
はっと我に返る新菜。
「そいやさっき、わざと翔子のこと呼んだでしょ」
カキ氷の時のことを思い出し、咎めるように軽く睨んだ。
「バレてた? やっぱ」
「何年ツルんでると思ってんの」
「ほら、満くん待ってるよ」
円華はあははーと作り笑いをしながら、満の方へと顎をしゃくった。
「翔子、きっとまた性懲りもなく浩司くんにちょっかい出すだろうから、ウォルターと見学させてもらっとくわ」
シシシっと変な笑いをすると、円華はさっさとシートの方へ帰ってしまった。
これ以上手を出すとどうなるんだろうと一瞬考えたものの、少し離れた波打ち際で手を振っている満を見て、まぁいいかと打ち切った。
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