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亨珈

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そんなにしてまで、セックスしたいのか

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「出来ないくせに、俺を縛るなよ」
「縛ったことなんてないだろ!」
 そのまましょぼくれるかと思ったら、最後の一言に食いついて睨まれた。
「いつだって何も言わずに出て行って、メールも電話もなしで。だからせめて合い鍵でも持ってないと、いつ会えるかも判らねえお前を待っていられないじゃん。女だったらとっくに捨てられてるよ、琉真なんて」
 知ってる。てか、豪だからわざとそうしてるのに、なんで責められてんの俺。
 まあ、いい。豪からも距離を置いてくれたらと思ってわざとやってたのは事実だし、こいつがそれに気付いてたのなら一応意味はあったってことだ。但し、結果は伴っていないようだけど。
 ぐっと拳を握りしめてから、力を抜いた。やばい。負けそう。折り合いなんて付けたくねえのに、まさかこんな風に豪からくるなんて予想してなかったから、心の準備ができていなくて流されそうになる。
「で、結局なに? このままずっと俺にお前のシモの世話続けろと? なんか俺にメリットある?」
 捨て鉢な気分。力の入らない声が、豪を素通りして床に落ちている気がする。
「は? 俺のこと好きなんだろ。抱けて中出しまで出来るなんて、それ以上にいいことあんのかよ」
 訳が分からないという表情で首を傾げる豪。これ計算じゃなくて素でやってるんだから困る。
 もう疲れた。
「お前に愛してるって言われて、散々に甘やかしてどろっどろに溶け合うようなセックスがしたい。キスから始めて、俺もお前も気持ちいいやつ。別に中出ししたいわけじゃなくて、それはお前の事情だろ。ゴムくらいいつでも用意するし」
 なんだコイツって顔で、ちょっと傾げたまま俺を見上げている豪を誰か今すぐここから連れ出してくれ。
 俺が豪を好きだから、自分は好かれているんだから何を言っても許されて、願いは叶うと思ってるのか。
 溜め息しかでなくて、そのまま立っていると、豪が顔を引き締めて考えこんだ。シーツに眼を落として、今度は何を言い出すんだろうと身構えていると、ベッドから下りて俺の目の前に立つ。裸のままだから流石に寒くなってきたのか鳥肌が立っている。
 リモコンを探して視線を動かすと、豪の手が伸びてきて、俺の頬を両手で挟み込んだ。
「琉真、好きなんだ。愛してる」
 思わず真っ直ぐに豪の目を覗き込むと、からかう色はない。だけどにわかには信じられなくて、多分だけど演技なんだろうなと憶測する。
 そこまでしてセックスしたいのか?
 それとも、女たちに言っているくらいの軽々しさで口にしてるのか。どちらにしたって、性質が悪い。
 頭一つ離れた位置で、豪がそっと瞼を閉じた。
 えーと……。いわゆるキス待ち顔ってやつ?
 え? キスしていいの?
 ごくりと音が聞こえるくらい大きく唾を飲み込んだ。
 あれだけしたかったキスだけど、これでいいのか? 確かに俺がしたいことだけど、それは豪も俺が好きで両思いでっていう前提の元でだ。
 豪が、自分の欲しい物を手に入れるためにここまで無理してる。だってほら、睫も、指先も細かく震えてる。真面目な顔で考えて、出した結論がこれなのか?
 そんなにしてまで、セックスしたいんだ――。
 残念な気持ちもあるけど、それと同じくらい、豪がそこまでして俺を必要としていることに感動を覚える。
 俺じゃなくてもいいんだろ。男なら誰だっていいんだろうって。だけどそれを許せるのは俺だけ。
 それならそれでいいんじゃないか?
 そうやってずるずる体だけの関係を続けたくないと思ってた。それなのに、今度は豪に求められている。
「早くしろよ、この野暮天」
「江戸っ子かよ」
 突っ立っている俺に業を煮やしたのか、瞼が上がって睨み付けられた。

 喉が鳴る。この機会をふいにはしたくない。
 そっと、唇を押しつけてみる。乾いているけど、弾力のある柔らかな肉同士を何度も合わせて、それから両脇から挟むようについばむと、うっすらと開いた隙間から舌を差し込んだ。
 豪への気持ちが、友情じゃないと気付いた中学生のあの日、豪とマドンナが交わしていたキスを思い出す。あの時の二人も、こんな風にたどたどしかったのか、それとも、もっとこなれていたのかは判らないし知りようがない。
 その倍も年を重ねた俺が、今ようやく求めたものを手に入れようとしている。
 隅々まで中を調べて、肉同士を絡めて啜る。今までみたいに逃げようとしない豪を、それでもぎゅっと抱き寄せて、肩と腰をホールドしたまま貪り続ける。
 唇がふやけるくらいに唾液を塗り付けて、中へも送り込んで、少し上向かせて上顎を刺激し続けて嚥下を促すと、こくりと喉仏が動いた。
「ぁ……りゅ、ま、しつこ、」
「どんだけ我慢したと思ってんだよ」
 文句をこぼす唇を再び封じて、布切れ一枚だけ残している尻を撫でると、豪が震えた。キスを始めてから、豪の体が硬くなり、そして次第に弛緩していくのを感じていた。
 やはり嫌なのか、それでもそれを許すくらいにこの先の行為を望んでいるのか。複雑なまま、引き締まった臀部を優しく撫でる。そこから上へと手のひらを移動させていくと、ささやかに触れているだけなのに、またびくびくと豪が震えた。
 もしかして、背中が弱いのか。
 更に力を抜いて、触れるか触れないかの加減で両手を蠢かせていると、ついに豪の頭が反った。
「はぁ、んっ」
 白い頬が紅潮して、睫を半分伏せている奥の眼が濡れて光っている。
「やっ、いや、だ、りゅ、ま」
 びくびくしたまま言うもんだから、まともに言葉になってやしない。昔、友達同士でくすぐりあったような気もするけど、こんな反応はしていなかったと思う。なんだ? くすぐったいのとはまた別なのか。
「嫌ならやめようか、セックス」
 ぴたりと手を止めると、のけぞっていた顔を戻して、ぐうっと涙目で睨み付けられる。
 やっばい……止められるわけがない。今すぐ突っ込んで喘がせたい。でも我慢、我慢だムスコよ。
 癖のない黒髪までが濡れたように誘っていて、首筋に絡んでいる襟足が色っぽい。そこに舌を這わせたくてうずうずしていると、豪が呻いた。
「止められんの?」
 体を寄せて、股間同士を合わせて腰を使われて、俺も呻いた。でも負けられない。
「俺が、我慢強いの、知ってるだろ」
 息が切れてるのは見なかったことにしてくれ。
「好きにさせてくれないなら、なし」
 乱れた息のまま睨み会うように対峙して、やがて折れたのは豪の方だった。
「わかったよ。ったく、ねちっこいんだから」
 ああそうですか。もっとねちっこいのお望みなんですね。
 吐息する唇をまた塞いで、今度はもっと強く蹂躙する。逆に肌に触れる手のひらからは力を抜いて、ひたすら撫でさする。そうすると豪は立っていられないくらいに震え始めたから、キスを解除してベッドにうつ伏せにした。
「りゅう、」
 驚いている豪の下着を足から抜くと、乗り上げてその両手を絡め取る。それぞれの手の指を絡めて布団に縫いつけると、唇で背骨を伝った。
「はぁ、ん……んんっ」
 じたばたと足だけでもがいて、豪の背がしなる。もはや堰止められなくなった喘ぎが、涙の粒と共にシーツに染み込んでいく。
「やだ、やだ、りゅ、ま」
 この期に及んでまたんなこと抜かす口が憎たらしい。
「いや? いいって言えよ。気持ちいいくせに」
 脱がせるときにシミが付いていたのを知っているから、自信をもって言ってやる。肌に触れる距離のままで声を出したもんだから、それが新たな刺激になったみたいで、豪は腰を浮かせた。
 右手を解放してそこに差し込むと、敏感な先端に触れる。鈴口から液体が溢れて、隠しようのない快感を表していた。
「淫乱。やっぱり他にも抱かせてるんだろ」
 ひくんと、手の中の竿が動いた。
「嘘じゃな、ぁっ」
 判ってる。先刻の言葉は嘘じゃない。ただ俺がいじわるしたいだけだ。
 顔が見えなくて不安がっている豪の背に、声を落として舌を伝わせてキスをして。
 段々と上がっていき、肩口に歯を立ててから、耳に吸い付く。
「ひゃぁ、」
 ひときわ高い声を上げて反る、しなやかな背。そちらは指で愛撫を続けて、中心は放置して耳の中に舌を差し込んだ。
「やぁっ、それやっ、りゅうっ」
 縋る声を無視して、淫らに音を立てて舌を抜き差しして、唇で塞いで吸う。
「やぁ……っ」
 びくびくと震えて強ばる様子が、まるでイった時みたいだ。あまりにも可愛い反応ばかり返すから、もう何を言われても止まれそうにない。
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