Let me in

亨珈

文字の大きさ
上 下
2 / 35

告白、そして最悪な展開

しおりを挟む
 中学の卒業式、既に市外に進学を決めていた俺と、豪の離別は決定的になっていた。
 幼稚園で仲良くなり、そのまま市立の小学校、中学校と共に通い、沢山の時間を共有した。豪の容姿に惹かれて寄ってくる女子は、花の蜜に誘われる蝶のように華やかで、それでも巧く調整して男のツレとの付き合いも大事にしていたから、嫌われて孤立することもなかった。
 取り立てて飾っているわけじゃないのに、独特のオーラで人を引き寄せる。途中までは、ただ一緒に遊ぶのが楽しかっただけの俺は、年を経るにつれ寂しさを募らせるようになった。
 決定的だったのは、中三の春。放課後の自転車置き場でキスシーンを見たことだろう。トタンに遮られて見えにくいと思ったんだろうが、校舎脇の細い隙間を抜けて近道をしていた俺にははっきりと見えてしまっていた。
 同じ学年で一番の美人と誰もが肯定するマドンナと、豪。白い頬を紅潮させて豪に抱かれている彼女を見た瞬間、駆け寄って引き剥がしたい衝動に駆られた。その次の瞬間に、自分自身に動揺し、後ずさりしてから無理矢理視線を外して駆け戻った。
 どんなに考えても、豪に嫉妬したわけじゃないのは解りきっていた。女の方に悋気を覚えたんだ。
 そんな馬鹿な。
 何度も何度も自分に問い、そうして納得した。
 今時小学生でも誰それが好き、と友達と話題にするのに、付き合いで無難そうな名前を挙げていたものの、その子がほかの誰かを好きと後で聞かされてがっかりしたことがない。
 中学に上がってからも同じ状態が続き、いつだって俺が建前として引き合いに出すのは、間違っても俺なんか相手にしてくれなさそうなレベルの高い女子の名前。なんだお前もかよって皆が納得してくれるような、それで追求されないような、そんな存在。
 そうだ。俺は女を好きになったことがないんだ。そう思い至って、ようやく何かのピースがかちりとはまったかのように、心が落ち着いた。
 あのキスシーンを見て、ようやく自覚したんだ。俺が欲しいのは、豪なんだって。

 日焼けしにくい質だという白い肌を乱暴に撫で上げる。その間ずっと離れることのない互いの唇は開いたまま、舌を伸ばして中を探り合い、唾液を啜る間もなく上顎を愛撫する。
 鼻にかかった甘い声が俺の理性を溶かしていく。
 少しだけ長くした爪の先で胸元を引っかく仕草は強請っている証拠で、誘われるままに豪の乳首を摘むと、漏れる声のトーンが上がる。
「りゅ、ま……琉真、ああ……舐めろよ、はや、く」
 言われるままに舌を伸ばしながら、中学の卒業式の日を思い出していた。

 一足先に帰った母親は、午後から出勤だからと急いでいた。昼飯は作ってあると言うから、同級生たちと街へ繰り出すでもなく、俺は帰ろうとしていた。
 そこへ、学ランの前を全開にした豪が小走りに現れたんだった。
 袖のボタンまで見事に全部なくなっている学生服はしまりがないはずなのに、豪が羽織っているだけでイケてるように見える。これは元々そういう上着で、かっちり全部のボタンがある俺の方が格好悪いような。
「琉、待てよっ」
 襟足の長い髪が肩に当たって跳ねる。呼ばれて振り返って瞠目していると、俺の学ランを確認した豪がからかうように笑った。
「誰かにお下がりで遣る予定なのか」
「別に」
 前ボタンに視線だけ落として、どれひとつあげる相手のいない自分が惨めになった。言われてみれば、後輩の誰かに譲るとか、今度入学する予定の誰かにっていう手もあるわけだ。生憎欲しがっている知り合いもいない。
 沢山の女生徒にもみくちゃにされているところから抜け出してきて、わざわざ俺をからかいたかったんだろうか。ムッとしているところに豪が手を差し出してきて、目をしばたく。
「なんだよ」
「だからー、お下がりの予定ないなら、俺がもらってやるよ。そしたら少しは格好つくだろ」
 別に格好なんてつかなくていい。更に仏頂面になったところに、焦れた豪が両手で前立てを掴んで上から二番目のボタンを外してしまった。
「ほら、こっちんが男前」
「あのな、豪」
 ついでのようにボタンにキスをしてちゅってリップ音までさせて。綺麗なウインクのおまけつきだ。なんだかどうでもよくなってくる。
 この日をずっと待っていた。
 そして、怖れてもいた。
 黙って消えようと思いもしたし、でもそれじゃあ親からバレたあとに酷く詰られそうだなと思い直した。
 責められてもいいから、この気持ちにピリオドを打ちたかった。離れてしまえばどうにかなると思ってた。顔を見なくなれば、徐々に消えるんじゃないかって。
 今ならそれは間違いだったって解る。でもこの後の展開が最悪だったのも間違いない。


 物思いに耽る俺の前で、豪は自ら服を脱いでいく。シャツもジーンズも、無造作に床に投げ捨てて、俺の前に膝を突き、上目に見上げてくる。
 口角の上がった唇から、ちろりと赤い舌が覗く。指の腹で布地の上から俺の中心を撫でると、顔を寄せて大きく甘噛みした。
 もう、やめたい。離れたい。諦めたい。
 辛すぎて胸が痛くて。それなのに、もしかしたらという僅かな期待があるから諦めきれない。
 どんな括りでもいい。確かに自分が豪に必要とされているって信じていたくて、幼なじみで親友というポジションをキープしているように見せかけて、ただ時折、豪が必要としたときにだけ体を繋いでいる。
 切なくて、泣きたいくらいに惨めなのに、それでも豪の愛撫で中心が芯を持つ。下半身が重くなっていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

帰りたい場所

小貝川リン子
BL
 ある雪の日、殺しを生業とする風間は、若い男を拾う。鶫と名乗るその少年は、訳あって家出中の身であり、絶対に家には帰らないと言い張る。風間は、殺し屋の仕事を手伝うことを条件に、鶫を居候させることにした。  不安定な心を隠すため風間に抱かれたがる鶫。やがて明らかになる壮絶な過去。共同生活を続けるうちに愛着を深めていく二人だが、体だけでなく心を繋げることはできるのか。  ♡=濃厚甘エロシーン  ⚠︎=モブレシーン  ※=ぬるめのR18  *残酷描写・暴力描写・流血表現・性的虐待・児童虐待・児童売春・近親相姦・若干の和風ファンタジー要素あり  *受けは固定ですが、回想で輪姦・凌辱されたり、ショタ攻めがあったり、モブおじさんに買われたり、逆レイプされたりするので注意。  *過去回想シーンはとにかく不憫、悲惨、場合によっては胸糞悪いです。現代軸に戻るとそれなりに幸せでエッチも甘め。  *青姦・中出し・濁点喘ぎ・自慰・乳首責め・結腸責め・潮吹き・連続絶頂あり

あいつと俺

むちむちボディ
BL
若デブ同士の物語です。

君だけを愛してる

粉物
BL
ずっと好きだった椿に告白されて幼馴染から恋人へと進展して嬉しかったのに、気がつくと椿は次から次へと浮気を繰り返していた。 すっと我慢してたけどもうそろそろ潮時かもしれない。 ◇◇◇ 浮気症美形×健気平凡

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

処理中です...