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階段下の攻防
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一体どんな写真なんだろうと、自分用のアルバムをパラリと捲ってみる。
そこには、二人三脚で俺と辰がトラックを回っているところ、バトンを渡すところ、一位になって肩を抱き合って笑っているところから始まり、応援合戦の整列風景、演舞がいっぱい、それに退場門のところで浩司先輩や皆と一緒のものが沢山入っていて、順番にじっくりと見つめているとあの感動が蘇ってきて目頭が熱くなった。
うう、感激したよな……。あの二人三脚、トラックの反対側の観客の驚いた顔までがちゃんと入っていて、凄く躍動感がある。
姉ちゃん、美形好きだからこの写真焼き増ししてもらおうかな。あと、伴美さんにも送りたいから浩司先輩と一緒のやつとか。
で、捲っていくと後ろの方には当然あのエルフ姿のも数枚ありまして。
でも、プラカード持って走っているところの後は浩司先輩に抱き上げられていっぱいハグしてもらったやつばかりだし、二人のバストアップの構図が多いからそんなに変でもない。
んんー? あっちのと、内容が違うのかな。
取り敢えず、焼き増し用の目印付けて会長にお願いしてみよう。
そう思ってふと顔を上げると、いつの間にやら会長はサトサト以外の全員に取り囲まれて、話し掛ける隙間もなくなっていた。
なにやってんだ……?
なんかぼそぼそと漏れ聞こえてくるのは、百円とか二百円とか金額らしきもので。
え? 他の人はお金要るのかな。俺だけサービス? もしかしてこっちから事前に頼んでおいたからかなあ。
一般的には五十円くらいが相場だけど、会長は流石写真部所属なだけあってどれも笑い声や歓声が聞こえてきそうなくらい良い瞬間を良いアングルで写し取っている。だから少しくらい手間賃上乗せしたって誰も文句なんか言わないっしょ。
自分だけなんか得したような気がして、もう一度最初から眺めながら、一人で思い出し笑いをしていた。
その後も暫くはああだこうだと折衝が続いたらしく、ようやく落ち着いて席に着いてショートシナリオで遊び、部室を後にしたのが十七時半。その時になってようやく俺も焼き増しの件をお願いすることに成功。
「これとこれと」ってアルバムを指差しただけで会長は憶えられるらしく、また直接渡すからと請け負ってくれた。
良かった~。じゃあ今日は伴美さんに手紙だけでも書いておこう。
因みに郵便は毎日局員さんが教務員室まで集荷に来てくれていて、寮内のものも全部一緒に預けられるからポストまで行かなくても大丈夫。そもそもポストが山の下だから、いちいち大変過ぎるっていうか。
前に購買で購入した記念切手の中から、ふんわりした家のイラストのものを選んでペパーミントグリーンの封筒に貼って出したら可愛いよなあなんて想像しながら皆で騒がしく寮に帰った。
その中にはさり気なく亮太も混じっていて、もういっそのこと同好会に入っちゃえばいいのにと思ったけど、もしかしたら別の部活をやっているのかなあ。今度訊いてみよう。
当たり前のように手を繋いでいる二人の背中を見ながら、靴を履き替えてホールから部屋の方へと足を向けたらいきなり背後から長い腕に捕捉されてしまった。
「霧川~っ」
む、この甘ったるい声と柑橘系のコロンの香りは!
「なんすか森本先輩」
その腕を片方両手で掴んで思わず前屈みから背負い投げに入ろうとしたら、踏ん張られて無理でした……。くそう。
「なあ今投げようとしただろ」
「えっ、やだなあ先輩に向かってそんなこと」
「いや腰入れてたから、思い切り足払おうとしてたから」
「いきなり来るからびっくりして足が滑ったのかもっ」
重心を意識的に下半身に移されてしまうと、身長差でもうどうにも動かせないから、仕方なく森本先輩の腕を引き剥がしながら振り向いてにっこりと微笑んでみせる。
へえーなんて先輩もにっこり笑いながら、パッと手を離して「ちょっとちょっと」と手招きされる。
何処か遊びに出ていたのか部屋着にしてはお洒落な格好で、指輪とかチョーカーとかとってもお似合いなんだけど、そんな先輩が応援のこと以外で俺に絡むことなんてあんのかなって首を傾げながら、素直に階段の向こうへとついて行く。
階段脇には半地下の小部屋があるんだけど、施錠されているし俺はそれが何をするところなのかも知らない。そこ?って思ったらそうじゃなくて本当に階段の下の空間に腕を引かれて、顔の両脇に手を突いて至近距離でまじまじと見つめられている現在。
背中は壁になっていて下からすり抜けるしか逃げ場がない。
一体これはどういう状況なんでしょうかっ。
なんかデジャヴがですね……。
そこには、二人三脚で俺と辰がトラックを回っているところ、バトンを渡すところ、一位になって肩を抱き合って笑っているところから始まり、応援合戦の整列風景、演舞がいっぱい、それに退場門のところで浩司先輩や皆と一緒のものが沢山入っていて、順番にじっくりと見つめているとあの感動が蘇ってきて目頭が熱くなった。
うう、感激したよな……。あの二人三脚、トラックの反対側の観客の驚いた顔までがちゃんと入っていて、凄く躍動感がある。
姉ちゃん、美形好きだからこの写真焼き増ししてもらおうかな。あと、伴美さんにも送りたいから浩司先輩と一緒のやつとか。
で、捲っていくと後ろの方には当然あのエルフ姿のも数枚ありまして。
でも、プラカード持って走っているところの後は浩司先輩に抱き上げられていっぱいハグしてもらったやつばかりだし、二人のバストアップの構図が多いからそんなに変でもない。
んんー? あっちのと、内容が違うのかな。
取り敢えず、焼き増し用の目印付けて会長にお願いしてみよう。
そう思ってふと顔を上げると、いつの間にやら会長はサトサト以外の全員に取り囲まれて、話し掛ける隙間もなくなっていた。
なにやってんだ……?
なんかぼそぼそと漏れ聞こえてくるのは、百円とか二百円とか金額らしきもので。
え? 他の人はお金要るのかな。俺だけサービス? もしかしてこっちから事前に頼んでおいたからかなあ。
一般的には五十円くらいが相場だけど、会長は流石写真部所属なだけあってどれも笑い声や歓声が聞こえてきそうなくらい良い瞬間を良いアングルで写し取っている。だから少しくらい手間賃上乗せしたって誰も文句なんか言わないっしょ。
自分だけなんか得したような気がして、もう一度最初から眺めながら、一人で思い出し笑いをしていた。
その後も暫くはああだこうだと折衝が続いたらしく、ようやく落ち着いて席に着いてショートシナリオで遊び、部室を後にしたのが十七時半。その時になってようやく俺も焼き増しの件をお願いすることに成功。
「これとこれと」ってアルバムを指差しただけで会長は憶えられるらしく、また直接渡すからと請け負ってくれた。
良かった~。じゃあ今日は伴美さんに手紙だけでも書いておこう。
因みに郵便は毎日局員さんが教務員室まで集荷に来てくれていて、寮内のものも全部一緒に預けられるからポストまで行かなくても大丈夫。そもそもポストが山の下だから、いちいち大変過ぎるっていうか。
前に購買で購入した記念切手の中から、ふんわりした家のイラストのものを選んでペパーミントグリーンの封筒に貼って出したら可愛いよなあなんて想像しながら皆で騒がしく寮に帰った。
その中にはさり気なく亮太も混じっていて、もういっそのこと同好会に入っちゃえばいいのにと思ったけど、もしかしたら別の部活をやっているのかなあ。今度訊いてみよう。
当たり前のように手を繋いでいる二人の背中を見ながら、靴を履き替えてホールから部屋の方へと足を向けたらいきなり背後から長い腕に捕捉されてしまった。
「霧川~っ」
む、この甘ったるい声と柑橘系のコロンの香りは!
「なんすか森本先輩」
その腕を片方両手で掴んで思わず前屈みから背負い投げに入ろうとしたら、踏ん張られて無理でした……。くそう。
「なあ今投げようとしただろ」
「えっ、やだなあ先輩に向かってそんなこと」
「いや腰入れてたから、思い切り足払おうとしてたから」
「いきなり来るからびっくりして足が滑ったのかもっ」
重心を意識的に下半身に移されてしまうと、身長差でもうどうにも動かせないから、仕方なく森本先輩の腕を引き剥がしながら振り向いてにっこりと微笑んでみせる。
へえーなんて先輩もにっこり笑いながら、パッと手を離して「ちょっとちょっと」と手招きされる。
何処か遊びに出ていたのか部屋着にしてはお洒落な格好で、指輪とかチョーカーとかとってもお似合いなんだけど、そんな先輩が応援のこと以外で俺に絡むことなんてあんのかなって首を傾げながら、素直に階段の向こうへとついて行く。
階段脇には半地下の小部屋があるんだけど、施錠されているし俺はそれが何をするところなのかも知らない。そこ?って思ったらそうじゃなくて本当に階段の下の空間に腕を引かれて、顔の両脇に手を突いて至近距離でまじまじと見つめられている現在。
背中は壁になっていて下からすり抜けるしか逃げ場がない。
一体これはどういう状況なんでしょうかっ。
なんかデジャヴがですね……。
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