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カンチョーダメ! ゼッタイ!
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めめさんは、目黒恵という名字と名前の頭をとってめめさんなんだとか、雑談に興じる山下の表情がほんわりしていて幸せそうで癒される。全体的に表情が薄いのに変わりはないんだけど、目の動きとか口元のちょっとした角度とかで何となくだけど判別が付くようになってきた。
顔を見て話を聴くのって大事だよなあと心底思う。
ついでに俺にも「ボン」呼び推奨されたので、次からはそう呼ばせてもらうことに決定。浩司先輩じゃねえけど、短いのはいいことだ~。
そんなことをしている間にようやく大野会長がやって来て、挨拶もそこそこに「はい、約束のもの」とポケットアルバムを手渡された。見開きで四枚収納できる現像の時に写真屋さんでくれるやつみたいだけど、表は仔猫の写真で凄く可愛いし、裏には特に店名もない。
「ありがとうございますっ! あの、金額とか教えて頂けたら」
結構分厚かったから中を見る前に財布を出そうとしたら、いいからと手の平で断られてしまう。
眼鏡の奥でにっこりと微笑みながら、椅子を引いて一番端っこに座るから、浮かしかけたケツの行き場がなくなってしまう。
中腰のまま目で追う俺に、「プレゼント」と駄目押しされて、戸惑いながらももう一度礼を言って腰を下ろそうとし……
「うぎゃっ!!」
ガタンと机に足をぶつけながら立ち上がる羽目になってしまった。
い、今、あらぬところに刺さりかけたんですけどっ!
ぐぬぬ、と歯を食いしばりつつ左隣に顔を向けて睨み付ける。しれっと扇子開いて口元隠したってニヤケてんのはバレバレなんだよ間野―っ!
「てめえは小学生かーっ!」
思わず自分の手で隠そうとしたところを更に撫でられて、また飛び上がりそうになっては机の上にカップがあるのを思い出して堪えた。
さっきのでお茶が零れていなくて良かったよ~。
会長の分を置こうとしていたしげくんの手が止まり、他の連中も驚き顔でこっちに注目している。
「わりぃわりぃ。手置いてたら急に座るから逃げそびれちった」
「人の席に普通手ぇ置かねえだろうが!」
とっくに手は退けられているし、皆からは死角になっていて見えなかったしで何が起こったのか良く判っていないしげくんが「なに? 大丈夫?」って訊いてくる。
うう、言うのもなんだか恥ずかしいような。けどほっといたらまたやられるかもしんねえし。
「間野が、カンチョーしやがった……。おまけに撫でられたし」
恥を忍んで告げる俺に「あれ、言っちゃう?」って意外そうな間野。
ボンは瞳がキラキラして見開かれているし、小橋はチッて舌打ちしてるし、しげくんはおろおろしてるし、サトサトはいつも通り自分の世界に居るし。
そんな中で、大野会長だけが不愉快そうに顔を顰めた。
「間野、直腸が傷付く。危険だからするなと小学生の頃に先生に習わなかったのか」
そう、ガキが一度は通る「カンチョー合戦」。両手を組んで人差し指で後ろからぶっ刺す遊びが必ず男子の間で一度は流行る。
だけどフリだけならともかく実際にんなもん刺さったら本気で痛いし、中には良く考えずに鉛筆を椅子の上に立てたりして洒落にならない事故が起こった年もあるみたいで、教師からは口を酸っぱくして禁止されたもんだ。
それなのに高校生にもなって何やってんだこいつは。
「親指だから大丈夫だろ」
「そういう問題じゃない」
会長にビシッと指摘されて、流石の間野もぶすっとしたままちらりとこっちを見て「ごめん」と小さな声で謝った。
まあ実際はスラックスに穴が開かない限りは根元まで入るなんて事態にはならないわけで、引き摺るのも可哀相だからもう許してやることにする。
に、しても、なんかいつもより機嫌悪いよなあ。入って来た時からずっとむくれてる感じ。
嫌なことあったにしても、俺に八つ当たりすんなよな。
一応それで手打ちという雰囲気になって、今度は対面のボンが身を乗り出すようにしてさっきの写真について尋ねてきた。
「あ、体育会で撮ってもらったやつだと思うけど」
ですよね?と会長に顔を向けると、にっこり笑って頷き返される。途端にボンは興味津々で「見せてもらえないかな」って言うし、一瞬にして間野も喜色浮かべるし、小橋やしげくんもぱあっと顔を輝かせて「見たい」の連呼が始まった。
いやー……つってもこれ、あの仮装のも入ってるわけだし、どんなのがあるかまだ俺すら見てねえのに。見た後なら変なのは抜いてから見せても良いけど。
思案している間に「現像したやつ、全部持ってきているが」と会長がもう二冊ポケットアルバムを取り出して机に置いた。
「ええ!?」
全員同じ叫びを上げつつ、嫌そうなのは俺の声だけ……。
机の向こうとこちら側とで奪い合うように一冊ずつ広げて、あっちでは小橋とボンが、こっちではしげくんと間野が覗き込んでいる。
「うおーっこれこれこれだよ!」
「ああ、やっぱり薄化粧にして正解だったよね。カズくん可愛い!」
「見ろ、このスカートの翻り具合。巻きスカート選んだ俺すげえ」
「こっちのお腹の見え具合もいい感じで」
間野! しげくん! 変なトコばっか見てんじゃねえよ~。
泣きそうになって、あっち側が静かだなと思って顔を向けたら、二人とも目はカッと見開いているのに口元を手の平で覆って無言でゆっくりとページを捲っていた。
な、なんだ……? それはそれで怖いっつーか。
顔を見て話を聴くのって大事だよなあと心底思う。
ついでに俺にも「ボン」呼び推奨されたので、次からはそう呼ばせてもらうことに決定。浩司先輩じゃねえけど、短いのはいいことだ~。
そんなことをしている間にようやく大野会長がやって来て、挨拶もそこそこに「はい、約束のもの」とポケットアルバムを手渡された。見開きで四枚収納できる現像の時に写真屋さんでくれるやつみたいだけど、表は仔猫の写真で凄く可愛いし、裏には特に店名もない。
「ありがとうございますっ! あの、金額とか教えて頂けたら」
結構分厚かったから中を見る前に財布を出そうとしたら、いいからと手の平で断られてしまう。
眼鏡の奥でにっこりと微笑みながら、椅子を引いて一番端っこに座るから、浮かしかけたケツの行き場がなくなってしまう。
中腰のまま目で追う俺に、「プレゼント」と駄目押しされて、戸惑いながらももう一度礼を言って腰を下ろそうとし……
「うぎゃっ!!」
ガタンと机に足をぶつけながら立ち上がる羽目になってしまった。
い、今、あらぬところに刺さりかけたんですけどっ!
ぐぬぬ、と歯を食いしばりつつ左隣に顔を向けて睨み付ける。しれっと扇子開いて口元隠したってニヤケてんのはバレバレなんだよ間野―っ!
「てめえは小学生かーっ!」
思わず自分の手で隠そうとしたところを更に撫でられて、また飛び上がりそうになっては机の上にカップがあるのを思い出して堪えた。
さっきのでお茶が零れていなくて良かったよ~。
会長の分を置こうとしていたしげくんの手が止まり、他の連中も驚き顔でこっちに注目している。
「わりぃわりぃ。手置いてたら急に座るから逃げそびれちった」
「人の席に普通手ぇ置かねえだろうが!」
とっくに手は退けられているし、皆からは死角になっていて見えなかったしで何が起こったのか良く判っていないしげくんが「なに? 大丈夫?」って訊いてくる。
うう、言うのもなんだか恥ずかしいような。けどほっといたらまたやられるかもしんねえし。
「間野が、カンチョーしやがった……。おまけに撫でられたし」
恥を忍んで告げる俺に「あれ、言っちゃう?」って意外そうな間野。
ボンは瞳がキラキラして見開かれているし、小橋はチッて舌打ちしてるし、しげくんはおろおろしてるし、サトサトはいつも通り自分の世界に居るし。
そんな中で、大野会長だけが不愉快そうに顔を顰めた。
「間野、直腸が傷付く。危険だからするなと小学生の頃に先生に習わなかったのか」
そう、ガキが一度は通る「カンチョー合戦」。両手を組んで人差し指で後ろからぶっ刺す遊びが必ず男子の間で一度は流行る。
だけどフリだけならともかく実際にんなもん刺さったら本気で痛いし、中には良く考えずに鉛筆を椅子の上に立てたりして洒落にならない事故が起こった年もあるみたいで、教師からは口を酸っぱくして禁止されたもんだ。
それなのに高校生にもなって何やってんだこいつは。
「親指だから大丈夫だろ」
「そういう問題じゃない」
会長にビシッと指摘されて、流石の間野もぶすっとしたままちらりとこっちを見て「ごめん」と小さな声で謝った。
まあ実際はスラックスに穴が開かない限りは根元まで入るなんて事態にはならないわけで、引き摺るのも可哀相だからもう許してやることにする。
に、しても、なんかいつもより機嫌悪いよなあ。入って来た時からずっとむくれてる感じ。
嫌なことあったにしても、俺に八つ当たりすんなよな。
一応それで手打ちという雰囲気になって、今度は対面のボンが身を乗り出すようにしてさっきの写真について尋ねてきた。
「あ、体育会で撮ってもらったやつだと思うけど」
ですよね?と会長に顔を向けると、にっこり笑って頷き返される。途端にボンは興味津々で「見せてもらえないかな」って言うし、一瞬にして間野も喜色浮かべるし、小橋やしげくんもぱあっと顔を輝かせて「見たい」の連呼が始まった。
いやー……つってもこれ、あの仮装のも入ってるわけだし、どんなのがあるかまだ俺すら見てねえのに。見た後なら変なのは抜いてから見せても良いけど。
思案している間に「現像したやつ、全部持ってきているが」と会長がもう二冊ポケットアルバムを取り出して机に置いた。
「ええ!?」
全員同じ叫びを上げつつ、嫌そうなのは俺の声だけ……。
机の向こうとこちら側とで奪い合うように一冊ずつ広げて、あっちでは小橋とボンが、こっちではしげくんと間野が覗き込んでいる。
「うおーっこれこれこれだよ!」
「ああ、やっぱり薄化粧にして正解だったよね。カズくん可愛い!」
「見ろ、このスカートの翻り具合。巻きスカート選んだ俺すげえ」
「こっちのお腹の見え具合もいい感じで」
間野! しげくん! 変なトコばっか見てんじゃねえよ~。
泣きそうになって、あっち側が静かだなと思って顔を向けたら、二人とも目はカッと見開いているのに口元を手の平で覆って無言でゆっくりとページを捲っていた。
な、なんだ……? それはそれで怖いっつーか。
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