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夢を見過ぎていたらしい
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「見ーまーしーたーよ~」
部室に入るなり、眼鏡の位置を直しながら小橋ににやりと笑われる。
後ろ手にドアを閉めて見回せば、窓際に一列になっている会長とサトサト以外のメンバー。
えっ、なに、俺のこと?
どぎまぎしながら長机の椅子に荷物を下ろす俺を見る皆の視線が痛い。こんな時でも一人でファイルを捲っているサトサトすげえ。協調性はゼロだけど、俺にとってはありがたいことこの上ない。
意地悪そうに目が光っているのが小橋、ぶすくれているのが間野、恥ずかしそうなのがしげくんで瞳をキラッキラさせて口元を押さえている山下。
「みんな、昼飯ちゃんと食ってんの?」
俺、結構急いで来たつもりだったんだけど、なんで会長以外の全員が揃ってティータイムしてんだよ。机の上には紅茶らしき飲み物が入った各々のマグカップが放置されて、真ん中辺りにはクッキーが入った籐の籠が置いてある。
「食ったに決まってんだろ」
唇を尖らせて扇子でぱたぱたと風を起こす間野に、「窓開ける?」って提案したら「暑いわけじゃねえ」って返された。
暑くもねえのに扇ぐなんて変なやつー。
「カズくん、そのクッキーめめさんの手作りなんだ。良かったら食べてよ」
窓際から椅子へと移動した山下に勧められるまま、対面に腰掛けて籠の中のクッキーを摘まむ。
「まじで? 女の子の手作りって初めて! いいの?」
白と黒の生地で模様を作って丸や四角に焼いてあるクッキーは、さっきメシ食ったばかりでも全く平気な良い香りを漂わせている。
「同好会の皆でどうぞってくれたから、遠慮しないで」
「へえー! いいなあ、彼女って」
じっくりと拝んでから口に運ぶと、さくさくしていて口の中でほろっと崩れてバターとココアが効いていて売り物みたいに美味しい。
他の連中はもうかなり食べた後らしく、どうぞどうぞと籠を目の前に押されてパクパク食べている間に、俺の分もしげくんが紅茶を入れてくれた。
「めめさんには僕らも会ったけど、素敵な女性だったよ~。またシナリオ一緒にやるんだ。今度もカズくんは行かないの?」
しげくんが言うには、落ち着いていて大人っぽい理知的な感じの人らしい。
でも日曜はやっぱりビリヤード優先だしなあ。
「遠慮しておくよ。それに人の彼女に会ったからってどうなるもんでもないし」
熱い紅茶もうまいです。今日はセイロンかな? 独特の風味。
端っこに座って給仕されている俺の隣に、ドカッと間野が腰を下ろして腕を組んだ。今日も態度でかっ!
「めめさんの友達も二人来てたぜ、この間。まあまあ可愛かった」
「へえ~。女性のプレイヤーって結構いるんだな」
「まあなあ。いるっちゃいるけど……」
「嬉しいくせに」
あまり興味も無さそうにして、一旦胸ポケットに差した扇子を取り出してはぺたぺたと自分の手を叩いたりしているから、俺はカップを置いて肘で横腹を突付いてやった。
「現実は厳しいものです」
え? っと思って反対端に目を遣ると、ファイルから顔を上げたサトサトが、鼻の先に落ちてきた眼鏡を指で押し上げているところだった。ぺちゃっとしていて付け根も低いからすぐに落ちてしまうらしい。それなのに0.01くらいしか視力がないから面倒臭くてかなわないと前にぼやいていたっけ。
でも言っている意味が解らない。左隣の間野も口を噤んでいるから正面を見れば、山下は何となく微笑んでいるような感じの口元でじいっと見返してくるだけで説明はしてくれない。
一旦離れていたしげくんがそっと寄って来て、ぼそぼそと耳打ちしてくる。
「女性に夢を見すぎていると痛い目に遭うということを実感しただけだよ」
「あー……」
あれか、外面完璧家の中では鬼か悪魔かってうちの姉貴みたいな。あんな感じの何かしらを見ちゃったんだろう。中学でも同級生とか見ていたらなんとなく解りそうなものだけど、周りの子は学校でも人格作っていたんだろうか。
まあいいや。
しげくんから見たら「普通の女の子」たちだったらしい。そして、山下がそっと付け足したことには「あれでも大人しかった」らしい。
何があったんだかは訊かない方が良さそうだな、うん。
部室に入るなり、眼鏡の位置を直しながら小橋ににやりと笑われる。
後ろ手にドアを閉めて見回せば、窓際に一列になっている会長とサトサト以外のメンバー。
えっ、なに、俺のこと?
どぎまぎしながら長机の椅子に荷物を下ろす俺を見る皆の視線が痛い。こんな時でも一人でファイルを捲っているサトサトすげえ。協調性はゼロだけど、俺にとってはありがたいことこの上ない。
意地悪そうに目が光っているのが小橋、ぶすくれているのが間野、恥ずかしそうなのがしげくんで瞳をキラッキラさせて口元を押さえている山下。
「みんな、昼飯ちゃんと食ってんの?」
俺、結構急いで来たつもりだったんだけど、なんで会長以外の全員が揃ってティータイムしてんだよ。机の上には紅茶らしき飲み物が入った各々のマグカップが放置されて、真ん中辺りにはクッキーが入った籐の籠が置いてある。
「食ったに決まってんだろ」
唇を尖らせて扇子でぱたぱたと風を起こす間野に、「窓開ける?」って提案したら「暑いわけじゃねえ」って返された。
暑くもねえのに扇ぐなんて変なやつー。
「カズくん、そのクッキーめめさんの手作りなんだ。良かったら食べてよ」
窓際から椅子へと移動した山下に勧められるまま、対面に腰掛けて籠の中のクッキーを摘まむ。
「まじで? 女の子の手作りって初めて! いいの?」
白と黒の生地で模様を作って丸や四角に焼いてあるクッキーは、さっきメシ食ったばかりでも全く平気な良い香りを漂わせている。
「同好会の皆でどうぞってくれたから、遠慮しないで」
「へえー! いいなあ、彼女って」
じっくりと拝んでから口に運ぶと、さくさくしていて口の中でほろっと崩れてバターとココアが効いていて売り物みたいに美味しい。
他の連中はもうかなり食べた後らしく、どうぞどうぞと籠を目の前に押されてパクパク食べている間に、俺の分もしげくんが紅茶を入れてくれた。
「めめさんには僕らも会ったけど、素敵な女性だったよ~。またシナリオ一緒にやるんだ。今度もカズくんは行かないの?」
しげくんが言うには、落ち着いていて大人っぽい理知的な感じの人らしい。
でも日曜はやっぱりビリヤード優先だしなあ。
「遠慮しておくよ。それに人の彼女に会ったからってどうなるもんでもないし」
熱い紅茶もうまいです。今日はセイロンかな? 独特の風味。
端っこに座って給仕されている俺の隣に、ドカッと間野が腰を下ろして腕を組んだ。今日も態度でかっ!
「めめさんの友達も二人来てたぜ、この間。まあまあ可愛かった」
「へえ~。女性のプレイヤーって結構いるんだな」
「まあなあ。いるっちゃいるけど……」
「嬉しいくせに」
あまり興味も無さそうにして、一旦胸ポケットに差した扇子を取り出してはぺたぺたと自分の手を叩いたりしているから、俺はカップを置いて肘で横腹を突付いてやった。
「現実は厳しいものです」
え? っと思って反対端に目を遣ると、ファイルから顔を上げたサトサトが、鼻の先に落ちてきた眼鏡を指で押し上げているところだった。ぺちゃっとしていて付け根も低いからすぐに落ちてしまうらしい。それなのに0.01くらいしか視力がないから面倒臭くてかなわないと前にぼやいていたっけ。
でも言っている意味が解らない。左隣の間野も口を噤んでいるから正面を見れば、山下は何となく微笑んでいるような感じの口元でじいっと見返してくるだけで説明はしてくれない。
一旦離れていたしげくんがそっと寄って来て、ぼそぼそと耳打ちしてくる。
「女性に夢を見すぎていると痛い目に遭うということを実感しただけだよ」
「あー……」
あれか、外面完璧家の中では鬼か悪魔かってうちの姉貴みたいな。あんな感じの何かしらを見ちゃったんだろう。中学でも同級生とか見ていたらなんとなく解りそうなものだけど、周りの子は学校でも人格作っていたんだろうか。
まあいいや。
しげくんから見たら「普通の女の子」たちだったらしい。そして、山下がそっと付け足したことには「あれでも大人しかった」らしい。
何があったんだかは訊かない方が良さそうだな、うん。
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