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今はこれでいい
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土曜日の朝、登校すると何故か辰と周が教室の前で待っていて、二人ともどっちかというとうきうきした感じで俺たちを見ながら手を振るからびっくりした。
「はよー!」「おはよう」
荷物はもう中に入れているのか二人とも手ぶらで、周は両手をスラックスのポケットに入れてフッと笑い掛けてくるし、辰はブンブン両手を振ってにやにやと俺と智洋を見比べているしで何だか恥ずかしい。
「おはよ」「うす」
「その様子だと仲直りしたんだ~。心が広いなあ、カズ」
心底そう思っているのが判るから、智洋は気まずそうに視線を逸らしている。
「うん、いいんだ~。ちょっといびって遊んだから気が済んだ」
「ぷっ、何それ後で教えて」
吹き出して笑い掛けてくる辰に、慌てた智洋が口を塞いでくる。
「だっ、あ、あれはっ、だからっ」
「駄目―っ、あんなシーン見ちゃったんだから知る権利がありまーす」
愉快そうに笑っている辰は、あの時こそ智洋に対して怒っていたけど、俺が許すならそれもいいかという態度で安心した。
たまたま居合わせちゃったけど、本来俺たちの仲とは関係ない友人関係なわけだし、もしも俺と智洋が恋人じゃなくなったとしても、仲良くして欲しいと思う。
一方、周の方は気だるげに前髪をかき上げて、はあと溜め息をついていた。
「残念、壊れたんならつけ込もうと思ってたのに」
しおらしくしていた智洋が、途端にキッと睨み付けるのを面白そうに眺めて、俺の腰に手を回してくる。
「自分がしててカズだけ駄目っておかしいだろ。カズ、俺もしゃぶらせて。絶対そいつより巧いから」
手の平で包み込むようにケツを撫でながら流し目をされて、ぼんっと羞恥で紅潮する。
しゃ、しゃぶるとか……ど、どこのはなし!?
「あほか!」
ぺしんとその後ろ頭をはたいた辰が、周の手の甲を抓って持ち上げ「そろそろ入るぞー」とドアに足を向け、それに仕方無しに従って周も入って行く。
険のある目つきで見つめていた智洋を振り返り、
「なっ! 仲いいよな」
と笑い掛けると、曖昧に頷いていたけど。
あの二人、なんだかんだ言ってもじゃれあってるみたいで仲いいと思うんだ~。
昨晩あの後、智洋がどうするとかそういう話はしなかった。だけど俺が思っていること考えたこと感じたことは伝えたから……後は智洋次第だと思う。
もしも本当に赤堀が誰かに言って、それが噂で広まったとしても、俺はそれでもいいとすら思ってるんだ。少なくともその事で変な目で見たり態度を変えたりはしないと判っている人たちがいるから、俺は救われている。
クラスメイトの、辰と周と携。浩司先輩にウォルター先輩。それに、山下も、多分亮太も。俺の周りの人たちは、俺自身を受け入れてくれているんだって判っているから余計に強くなれるよ。
智洋は誰にも相談できなくて、当事者の俺にすら隠し通そうとして……それは凄く傷付くことだったけど、でも気持ちが解らないわけじゃない。
俺だって携に打ち明けていたときに拒絶されていたら、今みたいに能天気にはしていられなかったと思う。だから精一杯隠そうとした智洋のこと、責めたり出来ない。
まあ、昨日はかなり苛めちゃったけどさ!
「智洋、好き。大好き。二股かけるなら、次はもっとばれないように上手にやってな」
半身になって笑い掛ける。
もう少ししたら、きっと赤堀も登校して来るんだろう。俺はその場にいない方がいいと思う。
「和明……っ」
赤くなって、それから切なそうに目を細めて。そんな情けない表情を見せてくれる智洋も大好き。だから離さないよ。
極上の笑顔を作って、また後でねと手を振ってから教室に入った。
待ちに待った部活動の時間。一旦寮に帰って昼飯を食べてからまた部室棟に出直すから面倒といえば面倒だけど、自販機のパンとかで済ませるには寮の食事が美味しすぎて勿体無い。余程のことがない限り、全員が一旦寮に戻るのがお約束になっている状態だ。
学校でどんな風に話をしたのかわかんねえけど、食堂では赤堀が智洋の対面に座ることはなかった。それについてはノータッチで食事を済ませて、俺はルールブックなどのTRPG用品をショルダーバッグに詰め直して、部室棟まで智洋と一緒に向かう。
なかなか前のように屈託なく会話してくれるようにはならなくて、俺の方からもこれ以上突っ込んで訊くのもためらわれるというか、知りたいような知りたくないような微妙な感じだから、ひたすら授業の内容とか差し障りのないことばかりを投げかけて、智洋がそれに相槌を打つという遣り取り。
まあ、昨日の今日だし、色々と考えるところもあるんだろうけど……。
部室棟を見ると、山下と亮太のことを思い出して寂しくなった。
運動部と文化部の部室は少し部屋の造りが違うから、棟も別になっている。ロッカーや倉庫的な意味合いが強い運動部と、その中で毎日活動することが多い文化部なんだから、それは当然で。
グラウンドに近い方の部室棟に足を向ける智洋の手をギュッと握り締めて、「また後で」と笑顔を向けた。
ほんの一瞬だけのそのぬくもりを逃さないようにと、離した後もグーにして手の平に閉じ込める。驚いて目を見開いた智洋も、笑顔を返してくれたから、今はそれでいい。
「はよー!」「おはよう」
荷物はもう中に入れているのか二人とも手ぶらで、周は両手をスラックスのポケットに入れてフッと笑い掛けてくるし、辰はブンブン両手を振ってにやにやと俺と智洋を見比べているしで何だか恥ずかしい。
「おはよ」「うす」
「その様子だと仲直りしたんだ~。心が広いなあ、カズ」
心底そう思っているのが判るから、智洋は気まずそうに視線を逸らしている。
「うん、いいんだ~。ちょっといびって遊んだから気が済んだ」
「ぷっ、何それ後で教えて」
吹き出して笑い掛けてくる辰に、慌てた智洋が口を塞いでくる。
「だっ、あ、あれはっ、だからっ」
「駄目―っ、あんなシーン見ちゃったんだから知る権利がありまーす」
愉快そうに笑っている辰は、あの時こそ智洋に対して怒っていたけど、俺が許すならそれもいいかという態度で安心した。
たまたま居合わせちゃったけど、本来俺たちの仲とは関係ない友人関係なわけだし、もしも俺と智洋が恋人じゃなくなったとしても、仲良くして欲しいと思う。
一方、周の方は気だるげに前髪をかき上げて、はあと溜め息をついていた。
「残念、壊れたんならつけ込もうと思ってたのに」
しおらしくしていた智洋が、途端にキッと睨み付けるのを面白そうに眺めて、俺の腰に手を回してくる。
「自分がしててカズだけ駄目っておかしいだろ。カズ、俺もしゃぶらせて。絶対そいつより巧いから」
手の平で包み込むようにケツを撫でながら流し目をされて、ぼんっと羞恥で紅潮する。
しゃ、しゃぶるとか……ど、どこのはなし!?
「あほか!」
ぺしんとその後ろ頭をはたいた辰が、周の手の甲を抓って持ち上げ「そろそろ入るぞー」とドアに足を向け、それに仕方無しに従って周も入って行く。
険のある目つきで見つめていた智洋を振り返り、
「なっ! 仲いいよな」
と笑い掛けると、曖昧に頷いていたけど。
あの二人、なんだかんだ言ってもじゃれあってるみたいで仲いいと思うんだ~。
昨晩あの後、智洋がどうするとかそういう話はしなかった。だけど俺が思っていること考えたこと感じたことは伝えたから……後は智洋次第だと思う。
もしも本当に赤堀が誰かに言って、それが噂で広まったとしても、俺はそれでもいいとすら思ってるんだ。少なくともその事で変な目で見たり態度を変えたりはしないと判っている人たちがいるから、俺は救われている。
クラスメイトの、辰と周と携。浩司先輩にウォルター先輩。それに、山下も、多分亮太も。俺の周りの人たちは、俺自身を受け入れてくれているんだって判っているから余計に強くなれるよ。
智洋は誰にも相談できなくて、当事者の俺にすら隠し通そうとして……それは凄く傷付くことだったけど、でも気持ちが解らないわけじゃない。
俺だって携に打ち明けていたときに拒絶されていたら、今みたいに能天気にはしていられなかったと思う。だから精一杯隠そうとした智洋のこと、責めたり出来ない。
まあ、昨日はかなり苛めちゃったけどさ!
「智洋、好き。大好き。二股かけるなら、次はもっとばれないように上手にやってな」
半身になって笑い掛ける。
もう少ししたら、きっと赤堀も登校して来るんだろう。俺はその場にいない方がいいと思う。
「和明……っ」
赤くなって、それから切なそうに目を細めて。そんな情けない表情を見せてくれる智洋も大好き。だから離さないよ。
極上の笑顔を作って、また後でねと手を振ってから教室に入った。
待ちに待った部活動の時間。一旦寮に帰って昼飯を食べてからまた部室棟に出直すから面倒といえば面倒だけど、自販機のパンとかで済ませるには寮の食事が美味しすぎて勿体無い。余程のことがない限り、全員が一旦寮に戻るのがお約束になっている状態だ。
学校でどんな風に話をしたのかわかんねえけど、食堂では赤堀が智洋の対面に座ることはなかった。それについてはノータッチで食事を済ませて、俺はルールブックなどのTRPG用品をショルダーバッグに詰め直して、部室棟まで智洋と一緒に向かう。
なかなか前のように屈託なく会話してくれるようにはならなくて、俺の方からもこれ以上突っ込んで訊くのもためらわれるというか、知りたいような知りたくないような微妙な感じだから、ひたすら授業の内容とか差し障りのないことばかりを投げかけて、智洋がそれに相槌を打つという遣り取り。
まあ、昨日の今日だし、色々と考えるところもあるんだろうけど……。
部室棟を見ると、山下と亮太のことを思い出して寂しくなった。
運動部と文化部の部室は少し部屋の造りが違うから、棟も別になっている。ロッカーや倉庫的な意味合いが強い運動部と、その中で毎日活動することが多い文化部なんだから、それは当然で。
グラウンドに近い方の部室棟に足を向ける智洋の手をギュッと握り締めて、「また後で」と笑顔を向けた。
ほんの一瞬だけのそのぬくもりを逃さないようにと、離した後もグーにして手の平に閉じ込める。驚いて目を見開いた智洋も、笑顔を返してくれたから、今はそれでいい。
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