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狭量すぎて、みっともないよ
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乾いた布巾で拭いた食器を水屋に仕舞ってから全員一緒に廊下に出る。
今日は大野会長来なかったなあなんて思いながら小橋が施錠するのを見守っていると、振り返ったときにいつの間にか人が増えていた。
「あれ?」
俺を見上げる(!)ぱっちり黒目とばっちり目が合って。くりくりと巻いている天パらしき黒髪は、襟足でくくってあるのがちょっとした尻尾みたい。ヘアスタイルだけならバスの運転手さんと同じと言えなくもないけど、印象が全然違ってる。
俺よりちっちゃいってことが何よりポイントで、思わずぱあって笑い掛けてしまったら、「アキ」って慌てて山下の後ろに逃げ込んでしまった。
山下の制服をギュッと握り締めてちらちらとこっちを確認してくる仕草の可愛いこと可愛いこと。リスみてえ~!
でもあんまり見つめていると苛めてるみたいになるから、前に立ってさり気なく後ろ手に彼を擦ってあやしている山下を見上げた。
「あ、同室の中野亮太だよ。迎えに来てくれたみたいで」
空中に字を書いて、漢字付きで教えてくれる山下。へえーと頷いて、もう一度彼の方へと顔を向ける。
「よろしく、俺B組の霧川和明」
自然と笑顔になってしまうんだけど、中野は後ろに隠れたままコクコクと小さく頷いた。
「し、知ってます……アキから、お噂は、かねがね」
一所懸命に口を動かしている様子が伝わるから、こっちもうんうんと頷いてしまう。
けど、噂って?
「同好会の皆は個性的で面白いから、亮太が聞かせろって言うんで色々話してるんだ」
上から降ってくる言葉に、俺も面白メンバーの一人かよと口が引き攣ったけど、中野が口元を綻ばせたのでまあいいかと諦めた。
「あのな、俺のことはカズでいいよ。俺も亮太って名前で呼んでいい?」
「え、いいの? ほんとに?」
おずおずと顔だけ出して嬉しそうな声。
「いいよ、亮太」
「え、えと……わかった、カズくん」
かあっと真っ赤になって上目遣いに呼んでくる声が、小さいんだけど可愛くって。
その後も、歩き出した山下の手をギュッと握ってるのがなんか微笑ましい。
「なんか全然態度が違うんですけどー!」
鞄を斜めに肩から掛けた間野が、頭の後ろで両手を組んでぶつぶつとぼやいてる。
「しょうがねえじゃん、亮太可愛いけどお前らただの変態だし」
「おや、男同士手を繋いで歩くのは変態じゃないんですか」
「可愛いからいいんだ」
へらっと口を滑らせると、黒いオーラ漂って来ましたよ。何かスイッチ押しちゃいましたかね……!
見事なまでに揃った呼吸で、左右に間野と小橋がやって来てそれぞれに手を握られる。
「てことはカズが可愛いから問題ねえな!」
「可愛いのレベルが桁外れですからね」
「ギャーッ! ちょっ、冗談にもほどがあんだろ!」
部室内なら部外者に見えないからいいんだけど、棟から出て校庭を歩いていれば同じように切り上げた文化部の連中からしてみりゃいい見世物だ。注目を浴びつつもがいていると、後ろからやって来た大野会長がちょんちょんと繋ぎ目を手刀で切ってくれた。
「ま、ほどほどにな」
にっこり微笑む会長が菩薩に見えます。今日も素敵に万能ですね、会長!
荷物を放り出して食堂に向かうと、今日は俺が一番。そういえば、体育会も終わったし天気が良い日はテニス部十八時まで練習するとか言ってたような気もする。でも並んでいる間に携もやってきて、いつもの席に着いてさっきの亮太のことを早速話した。
「ああ、そう言われてみれば、大小コンビで歩いている奴らがいたなあ。あれかな」
思い出すことがあったのか、携は納得の表情だ。
「二人ともちょっと地黒な感じで黒目が大きくてさ、なんか兄弟みたいな雰囲気あるからかな、手とか繋いでも自然でさあ、おかしくねえっていうか」
「じゃあやっぱりあの二人か」
頷きながら、八宝菜を口に運んでいる。
知ってたんだな。俺なんか全然知らなかったや……周り見てねえ証拠?
これからはもっと人の事も気にしてた方がいいのかもなあなんて思いながら二人でごちそうさまをする頃、ようやく智洋が現れた。
「おつかれ~」「お疲れ様」
二人揃って見上げて声を掛けると、おうと答えて椅子を引いて。
「こんばんは」
その後ろからひょっこり現れて、智洋の向かいに腰掛けたのはあの赤堀だった。
意表をつかれてぽかんとしていると、カタンと立ち上がった携に肩を叩かれて我に返った。
マシンガントークってわけでもないけれど、食べる合間に話し掛ける赤堀に相槌を打っている智洋。出てくる名前は知らないのばかりだから、きっとクラスでの出来事なんだろう。
そのまま居座るわけにも行かなくて、お先にと声を掛けて席を立った。
どうせこの後部屋に帰ってくるんだから……食事中くらい、他のやつと居てもいいや。
食べ過ぎたわけでもないのに、胸がいっぱいで苦しくて。
ただ、俺と親しくないやつと一緒に居るってそれだけで気分を害するなんて、狭量すぎてみっともない。
あの日、同好会の様子を見ていた智洋が仏頂面だった理由が、理解できた気がした。
今日は大野会長来なかったなあなんて思いながら小橋が施錠するのを見守っていると、振り返ったときにいつの間にか人が増えていた。
「あれ?」
俺を見上げる(!)ぱっちり黒目とばっちり目が合って。くりくりと巻いている天パらしき黒髪は、襟足でくくってあるのがちょっとした尻尾みたい。ヘアスタイルだけならバスの運転手さんと同じと言えなくもないけど、印象が全然違ってる。
俺よりちっちゃいってことが何よりポイントで、思わずぱあって笑い掛けてしまったら、「アキ」って慌てて山下の後ろに逃げ込んでしまった。
山下の制服をギュッと握り締めてちらちらとこっちを確認してくる仕草の可愛いこと可愛いこと。リスみてえ~!
でもあんまり見つめていると苛めてるみたいになるから、前に立ってさり気なく後ろ手に彼を擦ってあやしている山下を見上げた。
「あ、同室の中野亮太だよ。迎えに来てくれたみたいで」
空中に字を書いて、漢字付きで教えてくれる山下。へえーと頷いて、もう一度彼の方へと顔を向ける。
「よろしく、俺B組の霧川和明」
自然と笑顔になってしまうんだけど、中野は後ろに隠れたままコクコクと小さく頷いた。
「し、知ってます……アキから、お噂は、かねがね」
一所懸命に口を動かしている様子が伝わるから、こっちもうんうんと頷いてしまう。
けど、噂って?
「同好会の皆は個性的で面白いから、亮太が聞かせろって言うんで色々話してるんだ」
上から降ってくる言葉に、俺も面白メンバーの一人かよと口が引き攣ったけど、中野が口元を綻ばせたのでまあいいかと諦めた。
「あのな、俺のことはカズでいいよ。俺も亮太って名前で呼んでいい?」
「え、いいの? ほんとに?」
おずおずと顔だけ出して嬉しそうな声。
「いいよ、亮太」
「え、えと……わかった、カズくん」
かあっと真っ赤になって上目遣いに呼んでくる声が、小さいんだけど可愛くって。
その後も、歩き出した山下の手をギュッと握ってるのがなんか微笑ましい。
「なんか全然態度が違うんですけどー!」
鞄を斜めに肩から掛けた間野が、頭の後ろで両手を組んでぶつぶつとぼやいてる。
「しょうがねえじゃん、亮太可愛いけどお前らただの変態だし」
「おや、男同士手を繋いで歩くのは変態じゃないんですか」
「可愛いからいいんだ」
へらっと口を滑らせると、黒いオーラ漂って来ましたよ。何かスイッチ押しちゃいましたかね……!
見事なまでに揃った呼吸で、左右に間野と小橋がやって来てそれぞれに手を握られる。
「てことはカズが可愛いから問題ねえな!」
「可愛いのレベルが桁外れですからね」
「ギャーッ! ちょっ、冗談にもほどがあんだろ!」
部室内なら部外者に見えないからいいんだけど、棟から出て校庭を歩いていれば同じように切り上げた文化部の連中からしてみりゃいい見世物だ。注目を浴びつつもがいていると、後ろからやって来た大野会長がちょんちょんと繋ぎ目を手刀で切ってくれた。
「ま、ほどほどにな」
にっこり微笑む会長が菩薩に見えます。今日も素敵に万能ですね、会長!
荷物を放り出して食堂に向かうと、今日は俺が一番。そういえば、体育会も終わったし天気が良い日はテニス部十八時まで練習するとか言ってたような気もする。でも並んでいる間に携もやってきて、いつもの席に着いてさっきの亮太のことを早速話した。
「ああ、そう言われてみれば、大小コンビで歩いている奴らがいたなあ。あれかな」
思い出すことがあったのか、携は納得の表情だ。
「二人ともちょっと地黒な感じで黒目が大きくてさ、なんか兄弟みたいな雰囲気あるからかな、手とか繋いでも自然でさあ、おかしくねえっていうか」
「じゃあやっぱりあの二人か」
頷きながら、八宝菜を口に運んでいる。
知ってたんだな。俺なんか全然知らなかったや……周り見てねえ証拠?
これからはもっと人の事も気にしてた方がいいのかもなあなんて思いながら二人でごちそうさまをする頃、ようやく智洋が現れた。
「おつかれ~」「お疲れ様」
二人揃って見上げて声を掛けると、おうと答えて椅子を引いて。
「こんばんは」
その後ろからひょっこり現れて、智洋の向かいに腰掛けたのはあの赤堀だった。
意表をつかれてぽかんとしていると、カタンと立ち上がった携に肩を叩かれて我に返った。
マシンガントークってわけでもないけれど、食べる合間に話し掛ける赤堀に相槌を打っている智洋。出てくる名前は知らないのばかりだから、きっとクラスでの出来事なんだろう。
そのまま居座るわけにも行かなくて、お先にと声を掛けて席を立った。
どうせこの後部屋に帰ってくるんだから……食事中くらい、他のやつと居てもいいや。
食べ過ぎたわけでもないのに、胸がいっぱいで苦しくて。
ただ、俺と親しくないやつと一緒に居るってそれだけで気分を害するなんて、狭量すぎてみっともない。
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