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恐怖の罰ゲーム
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「聞いてねえし!」
両手で頭を抱えれば、
「ゲームに罰ゲームがあるのは必然じゃないですか」
と、手の甲に頬杖を突いた小橋がにっこりと微笑んでいる。
一体どんなことが書いてあるのかも知らないし、しかも引くのは上二人で命令は指名制のものもあるとか嫌過ぎるんだけど。山下はともかく、小橋が指名制の札引かないようにと祈るしかねえ。
まずはと小橋が一枚手に取った。つまらなさそうにピラッとこっちに向けられた指令を見ると「バツゲーム 腕立て伏せ十回」。小橋は二番上がりだから、この指令は間野が受けなければいけないらしい。
うえーって舌を出してげんなりした間野が、床に腕を突いて真面目にこなしている。
こういう指令なら問題ないか。体力にはまあまあ自信あるし。
ほっと息をついていると、人差し指の先ですっと一枚手前に引いた山下が、指先で摘まんだ札を前に思案している。
はっ! 指令札か!?
それをひょいと覗き込んだ小橋の顔が! 顔がーっ! 怖い怖い怖いよーっ! 今すぐダッシュで寮に帰ってもいいですか!?
山下は相変わらずぽえっとした感じの薄い表情で。仕方ないなあという風に札を裏返して見せた。
「バツゲーム キス (指名制)」
やっぱりロクでもねえ指令じゃんかよーっ!
両手で頭を抱えている俺に、ぽそりと山下が口を開く。
「当然ひとりはカズくんなわけだけど」
負けたんだからそうですね……当然ですね……。
燃え尽きた俺は、冷めたまま半分残っていた緑茶を一口飲んだ。まろやかで甘いです。しげくん流石です。
目を爛々と輝かせた小橋と間野が挙手しているのはなんなんですかね。見なかった事にしていいんでしょうか。
もうどっちでもいい、いや良くねえけど。泣きてえ。
「とても嫌そうなんだけど、カズくんは誰が一番嫌なの?」
「誰でも絶対嫌」
そこは即答。ギッと挙手してる二人と山下を睨み付ける。
ふうん、と首を傾げて、山下は二人を交互に見た。
「じゃあじゃんけんでいいや。勝った方がカズくんとキス出来るってことで」
うわあ、その一言で運命が決まっちゃったよ……。サトサトかしげくんなら、チュッてして一瞬で終わっただろうに、絶対この二人それだけじゃ終わんねえっしょ。ってか、相手を自分にしない辺り、やっぱり彼女持ちなんだなあって納得した。
瞳を煌かせた後はごおって炎を背に背負って、小橋と間野が睨み合っている。腰だめにした拳。
「最初はグー、じゃんけん、」
ぽん、で出た間野のパーに小橋のチョキ。
──ああ、こんな時にも間野の運は尽きていた……。
声も無く崩れ落ちる間野とは逆に、ぱあっと後光でも差しているかのように両手を広げて小橋が満面の笑みを浮かべている。
「さあ、カズくん」
嫌だあぁぁぁーっ!
辰とか周とかなら別にこんな嫌悪感は湧かないのに、なんでか生理的に嫌なんだよぉ。
恨む、ぜってえ恨んでやるからな、山下ぁっ……。
涙でうるうるしながら上目遣いに山下を見遣ると、また吹き出しそうになったのかパフンと手の平で口元を隠してしまった。
椅子から立ち上がってノロノロと小橋の側に回ると、もう覚悟を決めて目を瞑った。
ええい! 俺も男だ! しかもこれは罰ゲームだ! 犬に噛まれたと思って……、思って……──
犬並みに噛んだり舐めたりすんじゃねえよ!
めっちゃ唇を犯されたけど、意地でも中には入らせないつもりで歯を食いしばっていたら、ようやく唇が離れたから恐る恐る目を開けた。
「そんなに全力で拒否しなくてもいいのに……」
わざとらしく吐息しながら眼鏡のフレームを直している小橋の後ろでは、まだ口元を隠したままの山下の瞳が輝いている気がした。
楽しかったのかなー? まあいいや、もういいや……。
なんかもう、精神的にぐったり来てて、取り敢えず廊下に出て手洗い場でしつこいくらいにうがいして唇を洗った。ああ、気持ちワル。
お盆に湯飲みと急須を載せたしげくんが出てきて、帰り支度が始まっていることを知った。
「災難だったねえ。まあ、お酒無しであんな罰ゲーム当たったらやってらんないよね」
苦笑して隣で洗い物を始めるから、なんとなく手を伸ばして手伝う。
「今までは四人だったから、あの手の札は使ってなかったんだ。よく麻雀とかもするけど、僕たちの間では本当にお金賭けるから。だけど流石に学校じゃ出来ないでしょ」
「へ、へえ~……」
お金絡む方が非道だと思うんだけど。真面目そうに見えて、やってることえげつない。
しげくんの話によると、何しろ記憶力もいいし盲牌出来るから積み込むしで、もう四人でやるのは限界らしい。だからこうやって健全にゲームで遊ぶことになったとか、どんだけ腐った中学時代送ってきたんだよお前ら。
両手で頭を抱えれば、
「ゲームに罰ゲームがあるのは必然じゃないですか」
と、手の甲に頬杖を突いた小橋がにっこりと微笑んでいる。
一体どんなことが書いてあるのかも知らないし、しかも引くのは上二人で命令は指名制のものもあるとか嫌過ぎるんだけど。山下はともかく、小橋が指名制の札引かないようにと祈るしかねえ。
まずはと小橋が一枚手に取った。つまらなさそうにピラッとこっちに向けられた指令を見ると「バツゲーム 腕立て伏せ十回」。小橋は二番上がりだから、この指令は間野が受けなければいけないらしい。
うえーって舌を出してげんなりした間野が、床に腕を突いて真面目にこなしている。
こういう指令なら問題ないか。体力にはまあまあ自信あるし。
ほっと息をついていると、人差し指の先ですっと一枚手前に引いた山下が、指先で摘まんだ札を前に思案している。
はっ! 指令札か!?
それをひょいと覗き込んだ小橋の顔が! 顔がーっ! 怖い怖い怖いよーっ! 今すぐダッシュで寮に帰ってもいいですか!?
山下は相変わらずぽえっとした感じの薄い表情で。仕方ないなあという風に札を裏返して見せた。
「バツゲーム キス (指名制)」
やっぱりロクでもねえ指令じゃんかよーっ!
両手で頭を抱えている俺に、ぽそりと山下が口を開く。
「当然ひとりはカズくんなわけだけど」
負けたんだからそうですね……当然ですね……。
燃え尽きた俺は、冷めたまま半分残っていた緑茶を一口飲んだ。まろやかで甘いです。しげくん流石です。
目を爛々と輝かせた小橋と間野が挙手しているのはなんなんですかね。見なかった事にしていいんでしょうか。
もうどっちでもいい、いや良くねえけど。泣きてえ。
「とても嫌そうなんだけど、カズくんは誰が一番嫌なの?」
「誰でも絶対嫌」
そこは即答。ギッと挙手してる二人と山下を睨み付ける。
ふうん、と首を傾げて、山下は二人を交互に見た。
「じゃあじゃんけんでいいや。勝った方がカズくんとキス出来るってことで」
うわあ、その一言で運命が決まっちゃったよ……。サトサトかしげくんなら、チュッてして一瞬で終わっただろうに、絶対この二人それだけじゃ終わんねえっしょ。ってか、相手を自分にしない辺り、やっぱり彼女持ちなんだなあって納得した。
瞳を煌かせた後はごおって炎を背に背負って、小橋と間野が睨み合っている。腰だめにした拳。
「最初はグー、じゃんけん、」
ぽん、で出た間野のパーに小橋のチョキ。
──ああ、こんな時にも間野の運は尽きていた……。
声も無く崩れ落ちる間野とは逆に、ぱあっと後光でも差しているかのように両手を広げて小橋が満面の笑みを浮かべている。
「さあ、カズくん」
嫌だあぁぁぁーっ!
辰とか周とかなら別にこんな嫌悪感は湧かないのに、なんでか生理的に嫌なんだよぉ。
恨む、ぜってえ恨んでやるからな、山下ぁっ……。
涙でうるうるしながら上目遣いに山下を見遣ると、また吹き出しそうになったのかパフンと手の平で口元を隠してしまった。
椅子から立ち上がってノロノロと小橋の側に回ると、もう覚悟を決めて目を瞑った。
ええい! 俺も男だ! しかもこれは罰ゲームだ! 犬に噛まれたと思って……、思って……──
犬並みに噛んだり舐めたりすんじゃねえよ!
めっちゃ唇を犯されたけど、意地でも中には入らせないつもりで歯を食いしばっていたら、ようやく唇が離れたから恐る恐る目を開けた。
「そんなに全力で拒否しなくてもいいのに……」
わざとらしく吐息しながら眼鏡のフレームを直している小橋の後ろでは、まだ口元を隠したままの山下の瞳が輝いている気がした。
楽しかったのかなー? まあいいや、もういいや……。
なんかもう、精神的にぐったり来てて、取り敢えず廊下に出て手洗い場でしつこいくらいにうがいして唇を洗った。ああ、気持ちワル。
お盆に湯飲みと急須を載せたしげくんが出てきて、帰り支度が始まっていることを知った。
「災難だったねえ。まあ、お酒無しであんな罰ゲーム当たったらやってらんないよね」
苦笑して隣で洗い物を始めるから、なんとなく手を伸ばして手伝う。
「今までは四人だったから、あの手の札は使ってなかったんだ。よく麻雀とかもするけど、僕たちの間では本当にお金賭けるから。だけど流石に学校じゃ出来ないでしょ」
「へ、へえ~……」
お金絡む方が非道だと思うんだけど。真面目そうに見えて、やってることえげつない。
しげくんの話によると、何しろ記憶力もいいし盲牌出来るから積み込むしで、もう四人でやるのは限界らしい。だからこうやって健全にゲームで遊ぶことになったとか、どんだけ腐った中学時代送ってきたんだよお前ら。
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