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俺より玄人さんでした
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「体育会の後に、同好会に入りたいと執行部に来てくれてな」
大野会長は、いつになくにこにこと嬉しそうだ。
本当にTRPG広めたいんだなあ。
体育会がきっかけで入ってくれるなら、俺も恥ずかしい思いをした甲斐があるってもんだけど。
「全員揃ってからと思って、自己紹介めいたものはまだなんだよ。いいかな? 山下くん。そうそう、TRPGについてはどの程度知っているんだろう」
俺のときにもそんな感じのこと訊かれたなあと、山下に目を遣る。
当人は質問の意味を図りかねたように顎に手を遣って首を傾げた。
「ええと、ゲーマスが出来るかという意味ならば、ソードワールド、D&D、モンスター・メーカー、蓬莱学園の冒険!!、退魔戦記くらいですか……。プレイヤーとしてなら大抵のものは大丈夫だと思うんですが、各種ダイスはともかく全てのルールブックを持っているわけではないので」
俺はぽかんと口を開け、俺以外の、主に大野会長辺りは瞳を輝かせて山下を見つめて。俺以外の全員から、歓声が上がった。
「ちょ、何ですぐに同好会に入んなかったんだよ!」
「そうですよ~。まさかそんな玄人だとは思いませんでした」
間野と小橋の剣幕に押されながら、山下は、「はあ」と首肯した。
「正直、部活をやるつもりが全くなかったんで、配られたプリントを見ていなかったんですよ。それに週末は帰省して、公民館でセッションしていますし」
ああー、という歎き声の中、俺は隣のしげくんをこっそり突付く。
「セッションってなに?」
「会費を払って、卓ごとに異なるゲームを行うイベント会場でのシナリオだよ。決まったグループで参加する場合もあるし、単独でもレベルが同じくらいのグループがあれば持ちキャラで参加できるし。知り合い同士でプレイ出来る人は限られているから、そういう場は貴重かな」
彼はかなりレベルが高そうだね、なんてしげくんの瞳も期待に輝いている。
だよなあ。俺以外は皆、中学時代からTRPGやってるわけで、一人だけ丸っきり初心者じゃん俺……。
「今はこちらでは何をプレイしているんですか?」
山下の問いに「ソードワールドだ」と会長が応じる。本当に眼鏡の向こうの瞳が輝いてるんですけど。
「オーソドックスですね。それでエルフだったんですか」
ちらりと視線が来て、ビクッと肩が上がる。
「カズの女装目当てか~。やっぱキャラのチョイスは間違っていなかった!」
腕組みをしてフフフフフと笑っている間野を今すぐ蹴飛ばしてやりたい。けどあそこに行くと二人がかりで拉致られそうだし、今日はんなことになったら智洋が来て血の雨が降りかねないから自重する。
「あのな……普段仮装するわけじゃねえんだから、きっかけは何だったとしても真面目にやろうよ」
控え目に提案するに留めると、山下は首を傾げた。殆ど無表情に近いというか、キョトンに近い感じで固定されてる。
「ディードのイメージでしたよね? 正直それだけでは入部まではと思ったんですが……」
「じゃあどうして来る気になったんです?」
今度は小橋が首を傾げた。客引きのつもりで頑張った俺の功労は一体何処に……。
あ、ちなみにサトサトは相変わらずルールブックとシナリオのファイルと睨めっこしているけど、多分会話は耳に入っているんだと思う。
「彼女が……ああ、セッションで知り合ってから付き合っている人がいるんですけど、その人が是非入部して平日だけでも活動しろと言うものですから。
あ、土曜は活動後に帰省しますのでもしも日曜にシナリオしているのなら参加できません。あちらにも固定パーティーを抱えていますんで」
後半、まともに聞いちゃいなかった。恐らく皆も。
「彼女―っ!?」
半分悲鳴、半分羨望の雄叫びが口々に溢れてですね。あ、勿論会長とサトサトは別な。
「な、なんて恨めし、いや羨ましい……」
間野―、本音漏れてるぞ。
「はあ、実はメンバーが僕以外女性なので、シナリオを作っていかないと袋叩きにされます」
困ったように続ける山下に、ヒーッ!とまた悲鳴が上がる。
じょ、女性に囲まれてる……? 世の中にはそんなに女性のTRPG好きさんがいるもんなんでしょうか!?
有名な絵画のような顔で叫んでいるメンバーの向こうで、淡々と頷いている会長とサトサト。
「ああ……それは帰らないと怖いな」
「事情は判りました」
山下は、はあ、と相変わらずぽかんとした顔で、それでも申し訳無さそうに広い肩を窄ませている。
俺もねえちゃんいるから、その辺りはなんとなくだけど理解できる。
伴美さんみたいな人ならともかく、うちみたいに静かに怒りを表すタイプとかさ、もしかしたら翔子さんみたいに暴力に訴える人もいるかもしれないしさ、しかもいくらハーレム状態に見えたって、男一人だけは辛いというか肩身が狭いというか……。
以前しげくんもお姉さんがいるとか言ってたからか、俺と同じように理解を示した顔でうんうんと頷いている。
会長は判らないけど、実は同好会員は、小橋と間野が弟一人、サトサトは兄貴二人と男系家族なんだよな。だから「彼女」って言葉に凄く憧れを抱いているっぽい。
姉貴のいる俺やしげくんからしてみれば「女は怖いんだぞ~」って声を大にして言いたいところだけど、言ったところで信じられるわけじゃないだろう。あーあ。
大野会長は、いつになくにこにこと嬉しそうだ。
本当にTRPG広めたいんだなあ。
体育会がきっかけで入ってくれるなら、俺も恥ずかしい思いをした甲斐があるってもんだけど。
「全員揃ってからと思って、自己紹介めいたものはまだなんだよ。いいかな? 山下くん。そうそう、TRPGについてはどの程度知っているんだろう」
俺のときにもそんな感じのこと訊かれたなあと、山下に目を遣る。
当人は質問の意味を図りかねたように顎に手を遣って首を傾げた。
「ええと、ゲーマスが出来るかという意味ならば、ソードワールド、D&D、モンスター・メーカー、蓬莱学園の冒険!!、退魔戦記くらいですか……。プレイヤーとしてなら大抵のものは大丈夫だと思うんですが、各種ダイスはともかく全てのルールブックを持っているわけではないので」
俺はぽかんと口を開け、俺以外の、主に大野会長辺りは瞳を輝かせて山下を見つめて。俺以外の全員から、歓声が上がった。
「ちょ、何ですぐに同好会に入んなかったんだよ!」
「そうですよ~。まさかそんな玄人だとは思いませんでした」
間野と小橋の剣幕に押されながら、山下は、「はあ」と首肯した。
「正直、部活をやるつもりが全くなかったんで、配られたプリントを見ていなかったんですよ。それに週末は帰省して、公民館でセッションしていますし」
ああー、という歎き声の中、俺は隣のしげくんをこっそり突付く。
「セッションってなに?」
「会費を払って、卓ごとに異なるゲームを行うイベント会場でのシナリオだよ。決まったグループで参加する場合もあるし、単独でもレベルが同じくらいのグループがあれば持ちキャラで参加できるし。知り合い同士でプレイ出来る人は限られているから、そういう場は貴重かな」
彼はかなりレベルが高そうだね、なんてしげくんの瞳も期待に輝いている。
だよなあ。俺以外は皆、中学時代からTRPGやってるわけで、一人だけ丸っきり初心者じゃん俺……。
「今はこちらでは何をプレイしているんですか?」
山下の問いに「ソードワールドだ」と会長が応じる。本当に眼鏡の向こうの瞳が輝いてるんですけど。
「オーソドックスですね。それでエルフだったんですか」
ちらりと視線が来て、ビクッと肩が上がる。
「カズの女装目当てか~。やっぱキャラのチョイスは間違っていなかった!」
腕組みをしてフフフフフと笑っている間野を今すぐ蹴飛ばしてやりたい。けどあそこに行くと二人がかりで拉致られそうだし、今日はんなことになったら智洋が来て血の雨が降りかねないから自重する。
「あのな……普段仮装するわけじゃねえんだから、きっかけは何だったとしても真面目にやろうよ」
控え目に提案するに留めると、山下は首を傾げた。殆ど無表情に近いというか、キョトンに近い感じで固定されてる。
「ディードのイメージでしたよね? 正直それだけでは入部まではと思ったんですが……」
「じゃあどうして来る気になったんです?」
今度は小橋が首を傾げた。客引きのつもりで頑張った俺の功労は一体何処に……。
あ、ちなみにサトサトは相変わらずルールブックとシナリオのファイルと睨めっこしているけど、多分会話は耳に入っているんだと思う。
「彼女が……ああ、セッションで知り合ってから付き合っている人がいるんですけど、その人が是非入部して平日だけでも活動しろと言うものですから。
あ、土曜は活動後に帰省しますのでもしも日曜にシナリオしているのなら参加できません。あちらにも固定パーティーを抱えていますんで」
後半、まともに聞いちゃいなかった。恐らく皆も。
「彼女―っ!?」
半分悲鳴、半分羨望の雄叫びが口々に溢れてですね。あ、勿論会長とサトサトは別な。
「な、なんて恨めし、いや羨ましい……」
間野―、本音漏れてるぞ。
「はあ、実はメンバーが僕以外女性なので、シナリオを作っていかないと袋叩きにされます」
困ったように続ける山下に、ヒーッ!とまた悲鳴が上がる。
じょ、女性に囲まれてる……? 世の中にはそんなに女性のTRPG好きさんがいるもんなんでしょうか!?
有名な絵画のような顔で叫んでいるメンバーの向こうで、淡々と頷いている会長とサトサト。
「ああ……それは帰らないと怖いな」
「事情は判りました」
山下は、はあ、と相変わらずぽかんとした顔で、それでも申し訳無さそうに広い肩を窄ませている。
俺もねえちゃんいるから、その辺りはなんとなくだけど理解できる。
伴美さんみたいな人ならともかく、うちみたいに静かに怒りを表すタイプとかさ、もしかしたら翔子さんみたいに暴力に訴える人もいるかもしれないしさ、しかもいくらハーレム状態に見えたって、男一人だけは辛いというか肩身が狭いというか……。
以前しげくんもお姉さんがいるとか言ってたからか、俺と同じように理解を示した顔でうんうんと頷いている。
会長は判らないけど、実は同好会員は、小橋と間野が弟一人、サトサトは兄貴二人と男系家族なんだよな。だから「彼女」って言葉に凄く憧れを抱いているっぽい。
姉貴のいる俺やしげくんからしてみれば「女は怖いんだぞ~」って声を大にして言いたいところだけど、言ったところで信じられるわけじゃないだろう。あーあ。
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