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森本先輩がヘンです!
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取り敢えず乾杯の音頭は浩司先輩が取り、「赤組の勝利を祝して&お疲れさまでした」な感じだったんだけど、十二畳の談話室に男が十八人。いやもうカオスなことになっているわけですよ。
アルコールも入ってないのに皆昼間っからテンション高いのなんの。浩司先輩だけは煙草と酒がねえと無理とかぶちぶち言いつつも、それでもやっぱり同級生たちに付き合って古今東西とかやっているうちに妙なテンションになってるし、戸惑うばかりだった周も学年の垣根が低くなってきた頃から先輩たちに突付きまわされてかなり砕けた感じで話しているし。
眺めているだけでも十二分に楽しいんですけど、ちょっと困ったことになってますよ。
「ほら次、霧川~」
なんでか隣に座っている森本先輩に腰を抱き寄せられて、プリッツを咥えさせられる。
「ん」
反対側をパクッと咥えた森本先輩の顔が近くてですね、二重の大きな垂れ目を細くしてカリカリとかじる様子が至近距離過ぎて心臓ばくばくなんですー!
ぎゃー! もう無理―っ!
あと二センチも残ってるのにとか、ぽっきり折れてしまったプリッツを頬張りつつぶうぶう文句言われて頬っぺたを引っ張られる。
「い、いひゃいれふ……」
本気で涙目になっていると、「おら、離れろ」と浩司先輩に反対側から腕を引かれてそのまま胸の中に倒れこんだ。
別のプリッツを咥えた浩司先輩が、上からひょいと覗き込んでくる。
「カズ」
唇の端が笑みの形を作っていて、うっとりしながら反対端をそっと唇に挟めば、かりかりと齧りながら近付いてくるご尊顔。満腹です、ゴチです。恍惚の面持ちでじっとしていると、ぎりぎりで噛み切った先輩が「どうよ」と森本先輩に意地悪げに微笑んだ。
「だー! 霧川―っ! お前軸谷にたらされすぎだ! 軸谷、この男ったらしめーっ」
ふんわりサイドに流している髪を掻き毟る森本先輩はめっちゃ悔しそう。
でも、男ったらしって……酷くね? だって浩司先輩めっちゃかっこいいんだもん。
「森本先輩は女性にモテるでしょ? だったらいいじゃないですか~」
体を起こして胡坐をかくと、じとっと睨まれる。
「ああそうさっ、俺は女にモテる顔ですよっ、体にだってそれなりに自信あるんだよ? けどここじゃ意味ねえー」
「男にモテたいんですか」
「モテたくなんかねえよ! でも悔しいだろうが!」
「矛盾してますね~」
はあと呆れる俺を後ろから抱き締める浩司先輩は、くつくつと喉の奥で笑っている。
「ほっとけ。俺は女にゃモテたくねえよ、めんどくせえ」
「くっつきすぎだぞ、ホモは│本城《ほんじょう》とだけやってろ鬱陶しい」
「うるせえ、│進《しん》は美川がいるからいいんだ。俺はカズを愛でることに決めてんだから邪魔すんな」
「くそー、確かに霧川は可愛いけどなっ」
拳を握って再び俺に視線を向けた森本先輩がちょっとヘンです!
あー、あの仮装はマジ可愛かった、なんてあちこちからヘンな言葉が聞こえてくるんですよ……。
あれか! あの思い出すのも恥ずかしいエルフ姿を皆脳内にリピートしてやがんのか!
皆、やめてよー!
戦々恐々でぐるりと見回すと、ちょっと静かになった談話室内で、ちらちらと視線がこっちに向けられているのが感じられて、そのくせ俺がそっちを向くとササッと違う方向を向いちゃうんだよね。
「あれ、飛び跳ねる時にマントの下からウエストのラインとか見えてさ、やたらと細いし柔らかそうだし」
顎に手を当てて思い出していたらしい森本先輩の手が伸びて、ピラッとシャツを捲られる。
「ぎょわっ! ちょっ、先輩」
後ろから浩司先輩に抱きすくめられているから咄嗟に反応できずにいる内に、大きな手の平が脇腹を撫でた。
「あ、やっぱすべすべー。気持ちいい。ごつごつしてねえのがいいよな」
「腹筋割れてなくてすみませんー! って、そんなとこ……ひゃっ」
昨夜の余韻もあってか、臍の周りやちょっと背中側を静かに触れられただけでも腰が反応してしまう。
「やめっ、ぁっ!」
びくびく跳ねる体が恥ずかしくて頬が紅潮する。それを見た森本先輩の喉仏が動いた。
「霧川」
ぐいと寄ってきた森本先輩の顔に、容赦なく浩司先輩の足の裏がストップをかけた。もしも蹴られていたら流血の大惨事だっただろうけど、そこは浩司先輩も力を抜いている。
「はいはい、踊り子さんには手を触れないでくださいねー」
「くら! 軸谷~っ、鼻が低くなったらどうしてくれる」
「そっちこそ血迷ってんじゃねえよ」
本気で怒りそうな森本先輩を前に、浩司先輩はふんと鼻を鳴らして余裕の表情だ。
身長は同じくらいだし体格も似ているけど、喧嘩したらやっぱり浩司先輩の方が強そうだな。森本先輩っていかにも坊ちゃんタイプの優しそうな美形で、だからきっと本校にいたときは女子にちやほやされてたんじゃないかと思う。
アルコールも入ってないのに皆昼間っからテンション高いのなんの。浩司先輩だけは煙草と酒がねえと無理とかぶちぶち言いつつも、それでもやっぱり同級生たちに付き合って古今東西とかやっているうちに妙なテンションになってるし、戸惑うばかりだった周も学年の垣根が低くなってきた頃から先輩たちに突付きまわされてかなり砕けた感じで話しているし。
眺めているだけでも十二分に楽しいんですけど、ちょっと困ったことになってますよ。
「ほら次、霧川~」
なんでか隣に座っている森本先輩に腰を抱き寄せられて、プリッツを咥えさせられる。
「ん」
反対側をパクッと咥えた森本先輩の顔が近くてですね、二重の大きな垂れ目を細くしてカリカリとかじる様子が至近距離過ぎて心臓ばくばくなんですー!
ぎゃー! もう無理―っ!
あと二センチも残ってるのにとか、ぽっきり折れてしまったプリッツを頬張りつつぶうぶう文句言われて頬っぺたを引っ張られる。
「い、いひゃいれふ……」
本気で涙目になっていると、「おら、離れろ」と浩司先輩に反対側から腕を引かれてそのまま胸の中に倒れこんだ。
別のプリッツを咥えた浩司先輩が、上からひょいと覗き込んでくる。
「カズ」
唇の端が笑みの形を作っていて、うっとりしながら反対端をそっと唇に挟めば、かりかりと齧りながら近付いてくるご尊顔。満腹です、ゴチです。恍惚の面持ちでじっとしていると、ぎりぎりで噛み切った先輩が「どうよ」と森本先輩に意地悪げに微笑んだ。
「だー! 霧川―っ! お前軸谷にたらされすぎだ! 軸谷、この男ったらしめーっ」
ふんわりサイドに流している髪を掻き毟る森本先輩はめっちゃ悔しそう。
でも、男ったらしって……酷くね? だって浩司先輩めっちゃかっこいいんだもん。
「森本先輩は女性にモテるでしょ? だったらいいじゃないですか~」
体を起こして胡坐をかくと、じとっと睨まれる。
「ああそうさっ、俺は女にモテる顔ですよっ、体にだってそれなりに自信あるんだよ? けどここじゃ意味ねえー」
「男にモテたいんですか」
「モテたくなんかねえよ! でも悔しいだろうが!」
「矛盾してますね~」
はあと呆れる俺を後ろから抱き締める浩司先輩は、くつくつと喉の奥で笑っている。
「ほっとけ。俺は女にゃモテたくねえよ、めんどくせえ」
「くっつきすぎだぞ、ホモは│本城《ほんじょう》とだけやってろ鬱陶しい」
「うるせえ、│進《しん》は美川がいるからいいんだ。俺はカズを愛でることに決めてんだから邪魔すんな」
「くそー、確かに霧川は可愛いけどなっ」
拳を握って再び俺に視線を向けた森本先輩がちょっとヘンです!
あー、あの仮装はマジ可愛かった、なんてあちこちからヘンな言葉が聞こえてくるんですよ……。
あれか! あの思い出すのも恥ずかしいエルフ姿を皆脳内にリピートしてやがんのか!
皆、やめてよー!
戦々恐々でぐるりと見回すと、ちょっと静かになった談話室内で、ちらちらと視線がこっちに向けられているのが感じられて、そのくせ俺がそっちを向くとササッと違う方向を向いちゃうんだよね。
「あれ、飛び跳ねる時にマントの下からウエストのラインとか見えてさ、やたらと細いし柔らかそうだし」
顎に手を当てて思い出していたらしい森本先輩の手が伸びて、ピラッとシャツを捲られる。
「ぎょわっ! ちょっ、先輩」
後ろから浩司先輩に抱きすくめられているから咄嗟に反応できずにいる内に、大きな手の平が脇腹を撫でた。
「あ、やっぱすべすべー。気持ちいい。ごつごつしてねえのがいいよな」
「腹筋割れてなくてすみませんー! って、そんなとこ……ひゃっ」
昨夜の余韻もあってか、臍の周りやちょっと背中側を静かに触れられただけでも腰が反応してしまう。
「やめっ、ぁっ!」
びくびく跳ねる体が恥ずかしくて頬が紅潮する。それを見た森本先輩の喉仏が動いた。
「霧川」
ぐいと寄ってきた森本先輩の顔に、容赦なく浩司先輩の足の裏がストップをかけた。もしも蹴られていたら流血の大惨事だっただろうけど、そこは浩司先輩も力を抜いている。
「はいはい、踊り子さんには手を触れないでくださいねー」
「くら! 軸谷~っ、鼻が低くなったらどうしてくれる」
「そっちこそ血迷ってんじゃねえよ」
本気で怒りそうな森本先輩を前に、浩司先輩はふんと鼻を鳴らして余裕の表情だ。
身長は同じくらいだし体格も似ているけど、喧嘩したらやっぱり浩司先輩の方が強そうだな。森本先輩っていかにも坊ちゃんタイプの優しそうな美形で、だからきっと本校にいたときは女子にちやほやされてたんじゃないかと思う。
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