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もうすぐって思ったら緊張しちゃうよ……
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アナウンスによると、これから全員で後片付けをして十七時までに校庭にキャンプファイヤーの薪を組むらしい。
クラスの立て看板を壊して全て火にくべてしまうから勿体無い気がする。智洋のとか、俺が着ていた衣装も同じく。
まあでも他に使い道なさそうだし、仕方ないか。
智洋の手を取って、二人でグラウンドに戻った。
携が原画を描いた竜虎対決図、見納めしとこうっと!
まだ明るい中、ファイヤーキーパーの大野会長が点火して徐々に大きくなる炎を見ながら、輪になった皆で歌った。
火勢が強くなりテンションも上がってきたところでオクラホマミキサーが流れ始めて、全然練習なんてしてねえのにそれぞれが適当に踊り始めたもんだから大変なことになった。
判らなくて輪から外れてしまってんのは多分黒凌出身のやつらなんだろうけど、それぞれのクラスメイトとかに引き込まれて無理矢理踊らされている内に少しは楽しそうになってきた。
勿論俺と辰に挟まれた周も躍らせたけどな!
十八時半には解散になり、一旦教室に荷物を取りに帰ったり、俺みたいに部室に行く奴もいたりしたけど、特別に今日は二十二時まで開けておくという食堂に直行するやつも多かった。
智洋は教室にジャージを置いてきたらしく、食堂で待ち合わせることにして別れると、ずっと学生ズボンとTシャツでいたらしい浩司先輩に声を掛けられた。
「ようやく解禁だな」
ふっと笑いかけられたものの、最初意味が判らなくてきょとんと見上げてしまった。
「大分慣らせたか?」
声を顰めて耳元に囁かれて、ようやくあれのことだと思い至り、かあっと顔が熱くなる。
両手を組んで胸の前で握りながら、小さく頷いた。
そっか、と頭をくしゃくしゃ撫でてくれる手は大きくて。
「明日、午後から遊戯室乗っ取って応援団で打ち上げするんだけどさ。まあ体辛かったら途中で顔出すだけでもいいから」
ふええっ! 辛いって、男同士ってやっぱりそんなに大変なのかなあっ!?
血の気が引き掛けて、でも智洋とひとつになりたいってところだけは譲れなくて。ひとり百面相をしている俺を、また先輩が優しく抱き締めてくれた。
「あー……娘を嫁に出す父親ってこんな気分なのかなあ」
苦笑しながらポンポンと背中を叩く先輩も、結構複雑な心境らしい。
俺ってわんこだったり娘だったり、なんか後輩の立ち位置として面白すぎるんですけど。
でも浩司先輩に抱き締められるのは天国なんでそのまま甘えていたら、いつの間にか傍に来ていた会長に「いい加減にしろ」って浩司先輩が頭をはたかれてしまった。
ちょっと時間を取り過ぎたのか、食堂では智洋を待たせてしまった。珍しく携も席に着いて黙々と食べているところへ俺が到着。
さっきの先輩の言葉であれやこれや思い出しては妄想しちゃってた俺は、智洋の顔を見た途端に迂闊にも赤面してしまった。
「和明?」
怪訝そうな智洋に釣られて携にまで横目で見られては首を傾げられて、更に上がってしまう。
「お、遅くなってごめん」
二人の間に腰を下ろすと、ははーんみたいな、なんか一人で納得した様子で携が頷いてから食事に戻った。
携さん? 何か誤解してませんかね?
でもここであれやこれや説明するわけにもいかねえし、そもそもまだ携に俺たちのこと報告すらしてなくて、どうしようってうろたえながらもいただきますをした。
横目でチラッと智洋を窺うと、訝しげに見られたままで目が合っちゃって。なんかこのままだと反対方向に誤解されそうだから、前みたいにそっと太腿の上に手を置いてポンポンしてみた。
やだなー。平常心、平常心……。
こういうときお経でも憶えてたら心の中で唱えればいいんだろうけど、そういうの知らないから仕方なく古文の活用形など唱えてみる。ろらるとすさすしむとずざりじと、むましまほしは未然形、あれ已然形だっけか。
そんな儚い努力を指を絡めてきた智洋により打ち砕かれる。
うわっ、うわあー!
どうしよう、指と指の間擦れるだけでもなんか変な感じに背筋がぞくぞくするんですけどっ!
泣きそうになりながら顔を赤くしたまま俯いている俺を、周りから見たらどんなだとか気にするゆとりはなかった。
クラスの立て看板を壊して全て火にくべてしまうから勿体無い気がする。智洋のとか、俺が着ていた衣装も同じく。
まあでも他に使い道なさそうだし、仕方ないか。
智洋の手を取って、二人でグラウンドに戻った。
携が原画を描いた竜虎対決図、見納めしとこうっと!
まだ明るい中、ファイヤーキーパーの大野会長が点火して徐々に大きくなる炎を見ながら、輪になった皆で歌った。
火勢が強くなりテンションも上がってきたところでオクラホマミキサーが流れ始めて、全然練習なんてしてねえのにそれぞれが適当に踊り始めたもんだから大変なことになった。
判らなくて輪から外れてしまってんのは多分黒凌出身のやつらなんだろうけど、それぞれのクラスメイトとかに引き込まれて無理矢理踊らされている内に少しは楽しそうになってきた。
勿論俺と辰に挟まれた周も躍らせたけどな!
十八時半には解散になり、一旦教室に荷物を取りに帰ったり、俺みたいに部室に行く奴もいたりしたけど、特別に今日は二十二時まで開けておくという食堂に直行するやつも多かった。
智洋は教室にジャージを置いてきたらしく、食堂で待ち合わせることにして別れると、ずっと学生ズボンとTシャツでいたらしい浩司先輩に声を掛けられた。
「ようやく解禁だな」
ふっと笑いかけられたものの、最初意味が判らなくてきょとんと見上げてしまった。
「大分慣らせたか?」
声を顰めて耳元に囁かれて、ようやくあれのことだと思い至り、かあっと顔が熱くなる。
両手を組んで胸の前で握りながら、小さく頷いた。
そっか、と頭をくしゃくしゃ撫でてくれる手は大きくて。
「明日、午後から遊戯室乗っ取って応援団で打ち上げするんだけどさ。まあ体辛かったら途中で顔出すだけでもいいから」
ふええっ! 辛いって、男同士ってやっぱりそんなに大変なのかなあっ!?
血の気が引き掛けて、でも智洋とひとつになりたいってところだけは譲れなくて。ひとり百面相をしている俺を、また先輩が優しく抱き締めてくれた。
「あー……娘を嫁に出す父親ってこんな気分なのかなあ」
苦笑しながらポンポンと背中を叩く先輩も、結構複雑な心境らしい。
俺ってわんこだったり娘だったり、なんか後輩の立ち位置として面白すぎるんですけど。
でも浩司先輩に抱き締められるのは天国なんでそのまま甘えていたら、いつの間にか傍に来ていた会長に「いい加減にしろ」って浩司先輩が頭をはたかれてしまった。
ちょっと時間を取り過ぎたのか、食堂では智洋を待たせてしまった。珍しく携も席に着いて黙々と食べているところへ俺が到着。
さっきの先輩の言葉であれやこれや思い出しては妄想しちゃってた俺は、智洋の顔を見た途端に迂闊にも赤面してしまった。
「和明?」
怪訝そうな智洋に釣られて携にまで横目で見られては首を傾げられて、更に上がってしまう。
「お、遅くなってごめん」
二人の間に腰を下ろすと、ははーんみたいな、なんか一人で納得した様子で携が頷いてから食事に戻った。
携さん? 何か誤解してませんかね?
でもここであれやこれや説明するわけにもいかねえし、そもそもまだ携に俺たちのこと報告すらしてなくて、どうしようってうろたえながらもいただきますをした。
横目でチラッと智洋を窺うと、訝しげに見られたままで目が合っちゃって。なんかこのままだと反対方向に誤解されそうだから、前みたいにそっと太腿の上に手を置いてポンポンしてみた。
やだなー。平常心、平常心……。
こういうときお経でも憶えてたら心の中で唱えればいいんだろうけど、そういうの知らないから仕方なく古文の活用形など唱えてみる。ろらるとすさすしむとずざりじと、むましまほしは未然形、あれ已然形だっけか。
そんな儚い努力を指を絡めてきた智洋により打ち砕かれる。
うわっ、うわあー!
どうしよう、指と指の間擦れるだけでもなんか変な感じに背筋がぞくぞくするんですけどっ!
泣きそうになりながら顔を赤くしたまま俯いている俺を、周りから見たらどんなだとか気にするゆとりはなかった。
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