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ついに当日! 体育会
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体育会当日はそれは見事な晴天だった。これこそが五月晴れってもんだろうというほどの、遠くに僅かに雲が浮かんでいる程度の抜けるような蒼。
小・中みたいに万国旗を張り巡らせているわけでもなく、ましてや地域住民に周知しているわけでもないので、まあ全校生徒揃った体育の授業だと思えば緊張しない──
んなわけあるかーっ!
確かに、正門に一応立て看板置いているだけの質素なイベントではあるけれども。父兄や知人は出入りできるんだし、きっと観覧者はいるだろう。
一般的には地元の人が散歩がてらにちょいと覗こうかってなるようなケースがないわけで、しかも土曜だから学生は多分来ないだろうってだけで、親とかは入れるわけだし。
そんなことより演舞は全校生徒が注目するプログラムなわけで。
前日、最後の練習の際に受け取った学ランを自分の机に置いてじっと見つめながら、俺は必死で平常心を取り戻そうとしていた。
「カズーっ! おっはよ!」
弾むような明るい声と共に、開けっ放しのドアから教室に入ってきたのは辰だった。
今日は全員体操着で登校して良い為、上下ブランド物のスウェットで全開にしたジッパーから見えるインのシャツも同じスポーツブランドのものだった。
あれ好きだよな。揃えてんのかな。
声も弾んでいるけどもしかしたらスキップで廊下をやって来たんじゃねえかと危惧するような軽やかな足取り。余程今日が楽しみだったんだろうな。
解るよ~俺も応援団員じゃなければ同じ様子だったと思うし!
「はよ」
ほっと息を吐いて微笑むと、がしっと腕を首に回された。
「なんだよなんだよ、浩司先輩の晴れ舞台当日だぜ。もっと嬉しそうな顔しろよ。カメラも一応あるけどさ、心の目に焼き付けるもんね」
「うう、それは辰が当事者じゃねえからだろ」
こっちは緊張でそれどころじゃねえよ。
顔が強張っている俺を覗き込み、ふうむと唸った後に辰は上着のポケットをまさぐると手拭いを引っ張り出した。
「んなこと解ってるよ~。けどさ、今からそんなじゃ身がもたねえぞ。演舞は昼だし、その前に俺らの二人三脚とかあるっつうの。練習しようぜ」
あー、足をくくるための手拭いか。
ほけっとしている間にしゃがんだ辰が、自分の左足首と俺の右足首を固定する。隙間が空かないようにぎゅうぎゅうに締めると、立ち上がって今度はぐいと肩を抱き寄せられた。
「ほらもっとくっついて。一心同体! 同じ歩幅で同じ呼吸で足ださねえとな」
促されるまま辰の腰に腕を回して体もくっつける。
じゃあ真ん中の足からなと言われ、その場で足踏みを辰のいちに、いちに、という声に合わせて開始する。
徐々に登校して来たクラスメイトが面白そうに眺めていたり、自分たちもと練習を始めるペアも出てくる中、教室の後ろのスペースを往復しては歩幅も少しずつ確認して揃えた。
わ、なんか楽しいな~!
小学校や中学校でもあったけど、確か男女のペアだった。低学年の頃ならいざ知らず、フォークダンスだって(主に周囲の目を気にして)手を繋げない人が多いようなお年頃、当然皆まともに走れやしなかった。なるべく体を離すようにノコノコ歩いたりとかな……。
そうだよ、これが正しい二人三脚のありようだよな。やっぱ男子校って楽しい。
校庭に集合して学園長の挨拶と大野生徒会長からの注意事項の後、まずは広がってお決まりのラジオ体操をしてからトラックに添って輪になり、赤白対抗の大玉送りから競技はスタートした。
滑るように転がり出した大玉を、頭上に手をやった全校生徒が次々に送っていき先に三周させた方が勝ち。練習では途中で落としちゃった箇所もあったけれど、本番ではどちらのチームもとちることなく無事にゴール。僅差で白の勝ちだった。
幸先悪いなあ……。
そうそう、周と辰は同じ赤組なんだけど、智洋も携も白組なんだよな。
携は最初赤に入ろうとしてたけどクラスの中で一人だけ足らなくて、止むを得ず移ったんだ。穏便に済んだけどちょっと寂しい。
智洋とはクラスでも組でも敵同士っていう微妙な立場で、今日一日は目に付くところではあまり一緒にいられない。
元々学校ではあまり話していなかったけど、こうもはっきり立場が明確にされると更に寂しさが増すっていうか。まあ少しくらいはライバル意識持たないと、こういうのって盛り上がらないから、それはそれでいいんだろうけどさ。
応援団は、全員参加の競技以外は鉢巻と襷だけ着用してそれぞれの組を応援することになっている。とはいえ、一つ前のプログラムで入場門に集合しないといけないから結構忙しく、バタバタと入れ替わりが激しい。
プログラム二番が棒倒しだったため二・三年は全員参加、その次が二人三脚なため俺も準備しなければならず、残り数人の一年生だけじゃあ殆ど太鼓の添え物みたいなものだった。
鼓舞するような太鼓のリズムに心が浮き立つ。足首を結んだまま辰と俺は背伸びしてグラウンドの中を見つめる。
浩司先輩は赤組でウォルター先輩は白組。
二人とも目立つからすぐに判ったんだけど……金髪王子、やる気ゼロっすね。一番外れの方でポケットに手ぇ突っ込んで傍観者ってあんた。もう少しなんとかポーズだけでも作れないもんですか。
あの大野会長だって懸命に白組の棒支えてるじゃないっすか。
あ、浩司先輩が何か指示してる。スクラム組んで棒の手前で突入している赤組メンバーが全員頭を下にしたと思ったら!
と、跳んだーっ!
つうか、ジャンプして味方の背中踏んでまた跳んで、棒の上の方に蹴りを入れて。ぐらついたところで思い切り体重掛けてぶら下がって棒を斜めに倒してしまった。
そこまで行くともう立て直す方が無理ってもんで。白組は必死になって棒を支えていたけど、それにぶら下がっていた先輩が体を持ち上げて棒の上に立ち上がって思い切り跳ねた。
丸木橋に使われるような直径三十センチくらいの木は、頑丈だけど重量もある。そんなところで人一人が跳ねたら支えている連中にどれだけの負担が掛かるものなんだろう。
一息に棒は傾き、ついには下敷きになるのを恐れた方向の生徒たちが退けてしまい、どおんと土煙を巻き上げながら白組の丸太は倒れた。
ピピーッ! 終了のホイッスルの音。
「すっげー! 浩司先輩すげえっ」「さすが浩司さん、惚れ直す!」
俺と辰は抱き合ったまま飛び上がって喜び、興奮状態。
今ならなんでも出来る気がするよ!
小・中みたいに万国旗を張り巡らせているわけでもなく、ましてや地域住民に周知しているわけでもないので、まあ全校生徒揃った体育の授業だと思えば緊張しない──
んなわけあるかーっ!
確かに、正門に一応立て看板置いているだけの質素なイベントではあるけれども。父兄や知人は出入りできるんだし、きっと観覧者はいるだろう。
一般的には地元の人が散歩がてらにちょいと覗こうかってなるようなケースがないわけで、しかも土曜だから学生は多分来ないだろうってだけで、親とかは入れるわけだし。
そんなことより演舞は全校生徒が注目するプログラムなわけで。
前日、最後の練習の際に受け取った学ランを自分の机に置いてじっと見つめながら、俺は必死で平常心を取り戻そうとしていた。
「カズーっ! おっはよ!」
弾むような明るい声と共に、開けっ放しのドアから教室に入ってきたのは辰だった。
今日は全員体操着で登校して良い為、上下ブランド物のスウェットで全開にしたジッパーから見えるインのシャツも同じスポーツブランドのものだった。
あれ好きだよな。揃えてんのかな。
声も弾んでいるけどもしかしたらスキップで廊下をやって来たんじゃねえかと危惧するような軽やかな足取り。余程今日が楽しみだったんだろうな。
解るよ~俺も応援団員じゃなければ同じ様子だったと思うし!
「はよ」
ほっと息を吐いて微笑むと、がしっと腕を首に回された。
「なんだよなんだよ、浩司先輩の晴れ舞台当日だぜ。もっと嬉しそうな顔しろよ。カメラも一応あるけどさ、心の目に焼き付けるもんね」
「うう、それは辰が当事者じゃねえからだろ」
こっちは緊張でそれどころじゃねえよ。
顔が強張っている俺を覗き込み、ふうむと唸った後に辰は上着のポケットをまさぐると手拭いを引っ張り出した。
「んなこと解ってるよ~。けどさ、今からそんなじゃ身がもたねえぞ。演舞は昼だし、その前に俺らの二人三脚とかあるっつうの。練習しようぜ」
あー、足をくくるための手拭いか。
ほけっとしている間にしゃがんだ辰が、自分の左足首と俺の右足首を固定する。隙間が空かないようにぎゅうぎゅうに締めると、立ち上がって今度はぐいと肩を抱き寄せられた。
「ほらもっとくっついて。一心同体! 同じ歩幅で同じ呼吸で足ださねえとな」
促されるまま辰の腰に腕を回して体もくっつける。
じゃあ真ん中の足からなと言われ、その場で足踏みを辰のいちに、いちに、という声に合わせて開始する。
徐々に登校して来たクラスメイトが面白そうに眺めていたり、自分たちもと練習を始めるペアも出てくる中、教室の後ろのスペースを往復しては歩幅も少しずつ確認して揃えた。
わ、なんか楽しいな~!
小学校や中学校でもあったけど、確か男女のペアだった。低学年の頃ならいざ知らず、フォークダンスだって(主に周囲の目を気にして)手を繋げない人が多いようなお年頃、当然皆まともに走れやしなかった。なるべく体を離すようにノコノコ歩いたりとかな……。
そうだよ、これが正しい二人三脚のありようだよな。やっぱ男子校って楽しい。
校庭に集合して学園長の挨拶と大野生徒会長からの注意事項の後、まずは広がってお決まりのラジオ体操をしてからトラックに添って輪になり、赤白対抗の大玉送りから競技はスタートした。
滑るように転がり出した大玉を、頭上に手をやった全校生徒が次々に送っていき先に三周させた方が勝ち。練習では途中で落としちゃった箇所もあったけれど、本番ではどちらのチームもとちることなく無事にゴール。僅差で白の勝ちだった。
幸先悪いなあ……。
そうそう、周と辰は同じ赤組なんだけど、智洋も携も白組なんだよな。
携は最初赤に入ろうとしてたけどクラスの中で一人だけ足らなくて、止むを得ず移ったんだ。穏便に済んだけどちょっと寂しい。
智洋とはクラスでも組でも敵同士っていう微妙な立場で、今日一日は目に付くところではあまり一緒にいられない。
元々学校ではあまり話していなかったけど、こうもはっきり立場が明確にされると更に寂しさが増すっていうか。まあ少しくらいはライバル意識持たないと、こういうのって盛り上がらないから、それはそれでいいんだろうけどさ。
応援団は、全員参加の競技以外は鉢巻と襷だけ着用してそれぞれの組を応援することになっている。とはいえ、一つ前のプログラムで入場門に集合しないといけないから結構忙しく、バタバタと入れ替わりが激しい。
プログラム二番が棒倒しだったため二・三年は全員参加、その次が二人三脚なため俺も準備しなければならず、残り数人の一年生だけじゃあ殆ど太鼓の添え物みたいなものだった。
鼓舞するような太鼓のリズムに心が浮き立つ。足首を結んだまま辰と俺は背伸びしてグラウンドの中を見つめる。
浩司先輩は赤組でウォルター先輩は白組。
二人とも目立つからすぐに判ったんだけど……金髪王子、やる気ゼロっすね。一番外れの方でポケットに手ぇ突っ込んで傍観者ってあんた。もう少しなんとかポーズだけでも作れないもんですか。
あの大野会長だって懸命に白組の棒支えてるじゃないっすか。
あ、浩司先輩が何か指示してる。スクラム組んで棒の手前で突入している赤組メンバーが全員頭を下にしたと思ったら!
と、跳んだーっ!
つうか、ジャンプして味方の背中踏んでまた跳んで、棒の上の方に蹴りを入れて。ぐらついたところで思い切り体重掛けてぶら下がって棒を斜めに倒してしまった。
そこまで行くともう立て直す方が無理ってもんで。白組は必死になって棒を支えていたけど、それにぶら下がっていた先輩が体を持ち上げて棒の上に立ち上がって思い切り跳ねた。
丸木橋に使われるような直径三十センチくらいの木は、頑丈だけど重量もある。そんなところで人一人が跳ねたら支えている連中にどれだけの負担が掛かるものなんだろう。
一息に棒は傾き、ついには下敷きになるのを恐れた方向の生徒たちが退けてしまい、どおんと土煙を巻き上げながら白組の丸太は倒れた。
ピピーッ! 終了のホイッスルの音。
「すっげー! 浩司先輩すげえっ」「さすが浩司さん、惚れ直す!」
俺と辰は抱き合ったまま飛び上がって喜び、興奮状態。
今ならなんでも出来る気がするよ!
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