Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈

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準備期間の二週間

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「ついでに言っとくと、この階にいるやつについてはヒロが警戒する必要はねえよ」

 ふ、と息をついて付け足した先輩に、俺は首を傾げ智洋は眉を寄せた。

 警戒? それって恋敵っていう意味で?
 うーん……確かにそりゃねえよな。どの先輩も彼女いておかしくないような出来る人たちばっかだろうし。しかもこの春までは共学にいたんだよ? いきなり男に宗旨替えなんかしねえだろうし。

 確かに会長も優しくしてくれるし金髪王子もセクハラしてはくるけど、そういう危機感は抱いたことがない。根本的に、最初に周にされたアレとは違うって判ってるんだ、なんとなくだけど。
 わざわざ言うってことは、智洋がそこまで心配してると思ってるのかな、浩司先輩。

 一応納得したのか智洋が一歩引いた空気を作り、それからは勉強というかレクチャーを受けるというか、要するに下ネタ談義になった。
 頷いて心のメモ帳にしっかりと書き記しながらも赤くなったり青くなったり変な汗を掻きながら聴く俺の隣では、智洋も興味深そうに耳を傾け、浩司先輩は何処までが本当なのか判らない誰かの体験談を話してくれる。
 どうやらバイト先などの付き合いで色んな人種と交流のある先輩は、ゲイでもないのに知識が豊富で。あまりの内容にくらくらしながら、俺たちは礼を述べて辞去をした。

 自室に帰り、ぽすんとベッドに腰を落とす。逡巡した智洋が隣に腰掛けてそっと腰に巻きつけるようにして抱き寄せられた。いつもしていることなのに、心臓がどきんと跳ね上がる。

 うわーうわーっ! 色々聞いちゃったから、なんか緊張するっていうか……。
 え、あれ、あの準備とかってやっぱりしなきゃ駄目なんだよね? ないとお互いに辛いとか言ってたし、それ以前の準備はまあなくても大抵大丈夫とか言われてもやっぱり最中に汚いことになったら嫌なわけで、それくらいだったら頑張って事前に自分でした方が安心できるわけで!

「和明……怖いなら、いいから。一緒にイけるだけで十分嬉しいし気持ちいいし」

 強張っている体を宥めるように、そっと目尻に唇が落ちてくる。

「実際聞いたらリアルすぎて怖いよな。それに……俺はいいけど、和明に負担が掛かりすぎる」

 頬と頬を寄せて、柔らかく抱き締められているうちに、心が緩んで体の強張りも解けていった。

 ──なんだか智洋が入れる方、みたいなイメージになっちゃってるけど、俺にだってついてるもんはついてんだし、逆でも出来ないってことはない。サイズ的な観点からすれば寧ろ逆の方が楽ではあるだろうと思う。情けないことに。

 けどさー……女の子相手ならいつかはって思っていたその行為も、智洋相手に俺からっていうのは想像がつかねえし、そんな願望すら湧いてこない。
 智洋の腕の中に居ることに慣れてしまった俺は、自分が押し倒したいとかそんな風には感じたこともなくて……ただ、二人で気持ち良くなれるなら俺が多少我慢したり頑張ったりしてもいいかなって思ってるんだ。

 但し、それは早くても体育会が終わってからだ。浩司先輩は、改めて智洋にも念を押していた。

 体育会がある土曜日──そして月曜日は振り替え休日になっているから、一番早いタイミングでも土曜か日曜の夜、点呼の後ってことになる。
 その日まで二週間を切っているから、慣らすなら丁度良いかもとも教えてくれた。
 入り口の筋肉を解す期間……でもその行為を想像しただけでもう呼吸が乱れそうなくらいに恥ずかしくなってくる。

 前はまあ、それも恥ずかしかったけど、でも二人一緒に出しているわけだからまだ羞恥心も薄らぐんだけど。でも後ろだよ? 一方的に俺だけだよ? しかもんなトコ誰にも触られたことねえのに、ゆ、指とかって……!

 ぎゃあああっ! やっぱ駄目! 恥ずかしすぎて死にそうっ。

「あのっ……ええと、まずは今度シャワールームで自分でやってみるな。石鹸つければ入り易いって言ってたし……」

 カッカと火照る顔のままそっと覗うと、黙ってくっ付いていた智洋は眼を見張った。

「で、無理そうだったら……ごめん」
「あ、ああ。それは勿論」

 ほんのりと頬を染めた様子からして、俺の痴態でも想像したのかもしれない。ちょっと意地悪な気持ちになって「えっち」と呟くと視線が泳いでいた。
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