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それって、抱けるってことですか!?
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風呂を済ませて廊下で待ち合わせしておいた俺たちは合流して部屋に帰った。中で会った会長に訊くと、浩司先輩はもう出たらしく、部屋に荷物を置いてから二人で上の階に上がった。
こんな機会でもないと、上級生しかいない二階に上がることはまずないから緊張してしまう。
咎められることはないけど、二、三年は全員星野原本校から来ていて顔見知りなだけに、知らない顔がいると注目を浴びてしまうんだよなー。
ドアを開けてくれた浩司先輩は、特に驚く風もなく俺たち二人を招き入れてくれた。
勧められて椅子に腰掛けると、マグカップにコーヒーを入れて渡してくれる。もう寝る前だし、ミルクだけ入れてもらって頂いた。
ポットや茶器の揃っているキャスター付きの木製ワゴンはどうやら持ち込みらしい。禁止されてはいないから、上級生は結構私物を置いているんだとかで、寮生活に馴染むのにいっぱいいっぱいの俺たちは目から鱗状態だった。
「浩司先輩、驚かないんですね」
恐る恐る俺が言うと、自分は背凭れのないスツールに腰掛けてブラックを啜っていた先輩はにやりと笑った。
「多分来るだろうと思ってたからな」
智洋は少し硬い表情で、ぺこりと頭を下げている。
部屋を見回すまでもなくウォルター先輩は不在のようで、智洋が一緒じゃなかったら二人きりだったってことで。想像するだけで顔が火照るというか、緊張しちゃうんだけど。
「あのー、ウォルター先輩は風呂ですか?」
「いや、恋人が連れ出しに来たからその辺のホテルでも行ってんじゃねえかな多分」
しゃらっと言って先輩は窓の方へ視線を向ける。
何となく釣られて視線を追ってしまったけど、勿論窓の外は真っ暗で外灯の向こうに木のシルエットと塀が見えるくらいだった。
「はあ」
なんとも返しようがなく、二人して吐息のような相槌を打つ。
流石王子、やっぱり恋人がいてしかも迎えに来るってことは車持ちの年上の女性なんですね!
まるで闇の向こうに何かを探すかのように先輩は視線を彷徨わせ、それから飲み終えたカップをことりとワゴンに置いた。
あー、と唸るように声を洩らしながら前髪をかき上げ、イージーパンツを履いた自分の膝の上に肘を突き両手を組んで、俺たちを交互に見遣ると、智洋の瞳をじっと見つめた。
「智洋、だったっけな……ヒロでいいか」
頷くのを確認し、また口を開く。
「ここに来たのは心配なのもあるけど、俺に疑問があるからだろ。どうしてそんなにカズのこと構うのかって。もしかしたら、教えるって口実で手ぇだされるかもとか」
背筋を伸ばして居住まいを正している俺たちの方が目線が上で、前傾姿勢の先輩は下から射すくめるようにじっと智洋を見ている。そんな真っ直ぐな視線を受けて、僅かに身じろいでから智洋は顎を引いた。
「失礼だけど、そうです」
「だよな、そういう性格だと思った」
ふっと笑みを浮かべ、先輩の目つきが一瞬和らぐ。
「まあ、正直言うとどっちでもいいかな、俺は。必要とされれば手を貸すし、不要なら口で教える。そういう意味合いでカズに対して好意を持ってる」
「……それって、抱けるってことですか」
「そうだな、今この学園の中で、カズに限定すれば抱けるかな」
あんまりにも当たり前のように言われて、流石の智洋も半分口を開けたまま戸惑っている。
けど!
俺の方はそんなんじゃ収まらないですよ!?
抱くとかなんとか軽く言ってるけどさ、それってえっち出来るってことだよね? 今そういう話だよね? なにその一足飛びに裏話的展開!
確かに浩司先輩ってば周より酷いボディタッチしてくるけど、でもそういう色めいた感じは受けなくてただ安心して体を任せてた。
ある意味愛情は感じてるけど、そういう意味じゃないんだと……今でもそう思ってるんだけど。
「その辺りがヒロには不安材料だろうから、はっきりさせとく。
俺な、カズみたいに一所懸命なやつすげー好きなの。ただ、その愛情はお前が抱いてるただ一人だけに向けられるもんとは違う。応援したいし、見守りたいし、助けたい。そういう愛情。
大好きなのは変わんねえから、状況から必要だと思えばセックス出来る。
今のところ、本命ってのが不在だから、男女問わずある程度好意を持ってれば平気だからな、俺。
だからヒロの気持ちとは全然違うし、性欲の捌け口にしたいほど困ってないから安心しろよ?」
智洋に向けて言ってるんだろうけど、最後の一言は俺の方にも視線が流れてきて、その自然な目配せだけでノックアウトされそうです。
確かに、俺の方も先輩に周みたいなアタックされたら拒めないし、気持ちも萎えないような気がする……そういうの、智洋は心配してたんだな多分。ごめんって謝りながら流されそうだもん。
こんな機会でもないと、上級生しかいない二階に上がることはまずないから緊張してしまう。
咎められることはないけど、二、三年は全員星野原本校から来ていて顔見知りなだけに、知らない顔がいると注目を浴びてしまうんだよなー。
ドアを開けてくれた浩司先輩は、特に驚く風もなく俺たち二人を招き入れてくれた。
勧められて椅子に腰掛けると、マグカップにコーヒーを入れて渡してくれる。もう寝る前だし、ミルクだけ入れてもらって頂いた。
ポットや茶器の揃っているキャスター付きの木製ワゴンはどうやら持ち込みらしい。禁止されてはいないから、上級生は結構私物を置いているんだとかで、寮生活に馴染むのにいっぱいいっぱいの俺たちは目から鱗状態だった。
「浩司先輩、驚かないんですね」
恐る恐る俺が言うと、自分は背凭れのないスツールに腰掛けてブラックを啜っていた先輩はにやりと笑った。
「多分来るだろうと思ってたからな」
智洋は少し硬い表情で、ぺこりと頭を下げている。
部屋を見回すまでもなくウォルター先輩は不在のようで、智洋が一緒じゃなかったら二人きりだったってことで。想像するだけで顔が火照るというか、緊張しちゃうんだけど。
「あのー、ウォルター先輩は風呂ですか?」
「いや、恋人が連れ出しに来たからその辺のホテルでも行ってんじゃねえかな多分」
しゃらっと言って先輩は窓の方へ視線を向ける。
何となく釣られて視線を追ってしまったけど、勿論窓の外は真っ暗で外灯の向こうに木のシルエットと塀が見えるくらいだった。
「はあ」
なんとも返しようがなく、二人して吐息のような相槌を打つ。
流石王子、やっぱり恋人がいてしかも迎えに来るってことは車持ちの年上の女性なんですね!
まるで闇の向こうに何かを探すかのように先輩は視線を彷徨わせ、それから飲み終えたカップをことりとワゴンに置いた。
あー、と唸るように声を洩らしながら前髪をかき上げ、イージーパンツを履いた自分の膝の上に肘を突き両手を組んで、俺たちを交互に見遣ると、智洋の瞳をじっと見つめた。
「智洋、だったっけな……ヒロでいいか」
頷くのを確認し、また口を開く。
「ここに来たのは心配なのもあるけど、俺に疑問があるからだろ。どうしてそんなにカズのこと構うのかって。もしかしたら、教えるって口実で手ぇだされるかもとか」
背筋を伸ばして居住まいを正している俺たちの方が目線が上で、前傾姿勢の先輩は下から射すくめるようにじっと智洋を見ている。そんな真っ直ぐな視線を受けて、僅かに身じろいでから智洋は顎を引いた。
「失礼だけど、そうです」
「だよな、そういう性格だと思った」
ふっと笑みを浮かべ、先輩の目つきが一瞬和らぐ。
「まあ、正直言うとどっちでもいいかな、俺は。必要とされれば手を貸すし、不要なら口で教える。そういう意味合いでカズに対して好意を持ってる」
「……それって、抱けるってことですか」
「そうだな、今この学園の中で、カズに限定すれば抱けるかな」
あんまりにも当たり前のように言われて、流石の智洋も半分口を開けたまま戸惑っている。
けど!
俺の方はそんなんじゃ収まらないですよ!?
抱くとかなんとか軽く言ってるけどさ、それってえっち出来るってことだよね? 今そういう話だよね? なにその一足飛びに裏話的展開!
確かに浩司先輩ってば周より酷いボディタッチしてくるけど、でもそういう色めいた感じは受けなくてただ安心して体を任せてた。
ある意味愛情は感じてるけど、そういう意味じゃないんだと……今でもそう思ってるんだけど。
「その辺りがヒロには不安材料だろうから、はっきりさせとく。
俺な、カズみたいに一所懸命なやつすげー好きなの。ただ、その愛情はお前が抱いてるただ一人だけに向けられるもんとは違う。応援したいし、見守りたいし、助けたい。そういう愛情。
大好きなのは変わんねえから、状況から必要だと思えばセックス出来る。
今のところ、本命ってのが不在だから、男女問わずある程度好意を持ってれば平気だからな、俺。
だからヒロの気持ちとは全然違うし、性欲の捌け口にしたいほど困ってないから安心しろよ?」
智洋に向けて言ってるんだろうけど、最後の一言は俺の方にも視線が流れてきて、その自然な目配せだけでノックアウトされそうです。
確かに、俺の方も先輩に周みたいなアタックされたら拒めないし、気持ちも萎えないような気がする……そういうの、智洋は心配してたんだな多分。ごめんって謝りながら流されそうだもん。
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