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体で払うって、どういう意味だろ
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絶句する智洋をよそに、さわさわとひとしきり触ってようやく納得したのか、翔子さんが吐息した。
「ほんとだあ、全然勃たないや」
俺たちは対応する│術《すべ》を知らず、円華さんは盛大に噴き出して大笑いしている。
そこへ、
「おー、また痴女が出没してんのかこの家」
ドアに凭れた浩司先輩の低い声が落とされた。
翔子さんは素早く立ち上がると跳ねるようにして浩司先輩の方へと寄って行く。
「浩司くん久し振りぃ! 会いたかったよー! 今日もかっこいいっ」
「浮気な女は要らん。熨し付けてくれてやるからお持ち帰りされとけ」
「いやん、そんなの冗談だってぇ~。だってだって浩司くんとはえっち出来ないしー、てか抱いてくれたら誰にもこんなこと言わないのにぃ」
「ぜってぇ抱かねえっつってんだろうが、いい加減納得して男作れよ」
「ぶーっ。だって浩司くん以上の男が現れないんだからしょうがないじゃんっ! 浩司くんがそんなにかっこいいのが悪い!」
軽口を叩き合っている浩司先輩、呆れたような表情ではあるけど楽しそう。
恋愛対象じゃないけど傍にいてもいいよって、そんな感じ。瞳が優しいんだよな。
そんでもって、態度はアレな感じだけども翔子さんの言い分には激しく同意する。
そりゃあそうだよな、振られたって、諦められないし、先輩以上の男なんてその辺に転がってねえもんなあ。
にしても、智洋のこと本気じゃなかったんだな、良かった……。
掛け合い漫才みたいな遣り取りに一段落ついたのか、浩司先輩がソファーの背の方からぐるりと回って俺の後ろに立った。
「どしたんだ? カズ。俺に会いたかったとか?」
屈んで背あて部分に両腕を置いて覗き込まれて、振り返ったすぐ傍にその端正な顔があってどきどきする。
「あ、あの……そうなんですけど」
かあっとまた赤面してしまい、「お」と楽しそうに笑みを浮かべた浩司先輩がわしわしと髪を掻き混ぜた。
「ほんっと可愛いなーお前って」
ぎゅっと頭を抱きこむようにされて、息が止まりそうになる。
「きゃー! 浩司くんってば私にも可愛いって言ってよおっ」
翔子さんはムンクの叫びのようなポーズで悲鳴を上げているけど……隣の智洋は、怖くて見ることが出来ない。
流石に智洋の前じゃあこんなことされたことないもんな。びっくりしてるよなあ、多分……。
「図々しいんだよ、てめーはぁ。謙虚って言葉知ってっかあ?」
浩司先輩が呆れたように翔子さんを見遣ると「いけずー!」と叫んで身悶えしている。面白い二人だなあ。
あ、面白がってる場合じゃなかった。ミッションあったんだった。
「あのー、先輩、実は先輩のこと……助けてもらったこと言ったら、親がきちんとお礼言っとけって」
ソファーの上に正座するように後ろ向きになると、なんだか至近距離で見詰め合ってるみたいで恥ずかしい。けど振り返る姿勢でずっと話すのも失礼だしなあと、そんなポーズになってしまった。
ああ、と言いながらも不思議そうな顔の先輩。
そりゃそうだよね、今更って感じだし。
「ああいうの、先輩にとってはよくあることでも、うちにとっては大事件だったんで……何かお礼したいなって。欲しいものとかあります? 結構持たされたんで、お酒とかでも大丈夫ですけど。それか、そのまま渡しても」
ソファーに後ろ向きで正座している俺と、床に膝を突いている浩司先輩の視線がばっちり絡まってて。
すげー、どきどきが大きい……。
きょとんとしていた浩司先輩が不意にニヤリと笑って、顔が近付いて。耳元で、囁かれる。
「じゃあ、体で払ってもらおうかな」
ふえ? 体ってどういうことだろう……肉体労働?
いくら小さな声だったとは言え、すぐ隣の智洋にも聞こえていたみたいで、びくっと体が動いたからついつい視線を遣ってしまった。
なんか、言われた俺より驚いてない?
浩司先輩は、くすくす笑いながらもう一度声を落とした。
「それそのまま持っといて。またガッコ帰ってからゆっくり話そう」
さっきくしゃくしゃにされた髪の毛を指で梳くように、何度も何度も撫でられた。
「ほんとだあ、全然勃たないや」
俺たちは対応する│術《すべ》を知らず、円華さんは盛大に噴き出して大笑いしている。
そこへ、
「おー、また痴女が出没してんのかこの家」
ドアに凭れた浩司先輩の低い声が落とされた。
翔子さんは素早く立ち上がると跳ねるようにして浩司先輩の方へと寄って行く。
「浩司くん久し振りぃ! 会いたかったよー! 今日もかっこいいっ」
「浮気な女は要らん。熨し付けてくれてやるからお持ち帰りされとけ」
「いやん、そんなの冗談だってぇ~。だってだって浩司くんとはえっち出来ないしー、てか抱いてくれたら誰にもこんなこと言わないのにぃ」
「ぜってぇ抱かねえっつってんだろうが、いい加減納得して男作れよ」
「ぶーっ。だって浩司くん以上の男が現れないんだからしょうがないじゃんっ! 浩司くんがそんなにかっこいいのが悪い!」
軽口を叩き合っている浩司先輩、呆れたような表情ではあるけど楽しそう。
恋愛対象じゃないけど傍にいてもいいよって、そんな感じ。瞳が優しいんだよな。
そんでもって、態度はアレな感じだけども翔子さんの言い分には激しく同意する。
そりゃあそうだよな、振られたって、諦められないし、先輩以上の男なんてその辺に転がってねえもんなあ。
にしても、智洋のこと本気じゃなかったんだな、良かった……。
掛け合い漫才みたいな遣り取りに一段落ついたのか、浩司先輩がソファーの背の方からぐるりと回って俺の後ろに立った。
「どしたんだ? カズ。俺に会いたかったとか?」
屈んで背あて部分に両腕を置いて覗き込まれて、振り返ったすぐ傍にその端正な顔があってどきどきする。
「あ、あの……そうなんですけど」
かあっとまた赤面してしまい、「お」と楽しそうに笑みを浮かべた浩司先輩がわしわしと髪を掻き混ぜた。
「ほんっと可愛いなーお前って」
ぎゅっと頭を抱きこむようにされて、息が止まりそうになる。
「きゃー! 浩司くんってば私にも可愛いって言ってよおっ」
翔子さんはムンクの叫びのようなポーズで悲鳴を上げているけど……隣の智洋は、怖くて見ることが出来ない。
流石に智洋の前じゃあこんなことされたことないもんな。びっくりしてるよなあ、多分……。
「図々しいんだよ、てめーはぁ。謙虚って言葉知ってっかあ?」
浩司先輩が呆れたように翔子さんを見遣ると「いけずー!」と叫んで身悶えしている。面白い二人だなあ。
あ、面白がってる場合じゃなかった。ミッションあったんだった。
「あのー、先輩、実は先輩のこと……助けてもらったこと言ったら、親がきちんとお礼言っとけって」
ソファーの上に正座するように後ろ向きになると、なんだか至近距離で見詰め合ってるみたいで恥ずかしい。けど振り返る姿勢でずっと話すのも失礼だしなあと、そんなポーズになってしまった。
ああ、と言いながらも不思議そうな顔の先輩。
そりゃそうだよね、今更って感じだし。
「ああいうの、先輩にとってはよくあることでも、うちにとっては大事件だったんで……何かお礼したいなって。欲しいものとかあります? 結構持たされたんで、お酒とかでも大丈夫ですけど。それか、そのまま渡しても」
ソファーに後ろ向きで正座している俺と、床に膝を突いている浩司先輩の視線がばっちり絡まってて。
すげー、どきどきが大きい……。
きょとんとしていた浩司先輩が不意にニヤリと笑って、顔が近付いて。耳元で、囁かれる。
「じゃあ、体で払ってもらおうかな」
ふえ? 体ってどういうことだろう……肉体労働?
いくら小さな声だったとは言え、すぐ隣の智洋にも聞こえていたみたいで、びくっと体が動いたからついつい視線を遣ってしまった。
なんか、言われた俺より驚いてない?
浩司先輩は、くすくす笑いながらもう一度声を落とした。
「それそのまま持っといて。またガッコ帰ってからゆっくり話そう」
さっきくしゃくしゃにされた髪の毛を指で梳くように、何度も何度も撫でられた。
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