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特別な人
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『悪いけど、あんたのお姉さん大嫌い』
俺がまだ小等部のときだった。
姉貴とみっくんは中等部の二年生で、姉貴に押されてというかほだされて、二人が付き合い始めて暫くのこと──。
クラスメイトの榎本│美里《みさと》に唐突に告げられたんだ。名前で判る通り、みっくんの妹に当たる。ボーイッシュでさっぱりしていて男女共に友人が多いが、妹の方は好き嫌いがはっきりしていて嫌いな相手とはさっさと線を引いてしまうきらいがあった。
俺とは普通にクラスメイトとして接していたけれど、唐突にそんな話をされてびっくりした。
「霧川のことは嫌いじゃないよ?」
とちゃんと断りを入れて、その理由が告げられる。
──曰く、近隣の学校からも交際の申し込みが絶えない近所のお姉さんが、実は昔からみっくんに心を寄せていて、みっくんも恐らく好きだったのではないか。引越しを機に、そのお姉さんがみっくんに告白をしたけれど、その時みっくんは断りうちの姉貴と付き合い始めたんだと。
その理由が、『裕子ちゃんにはオレしかいないけど、彼女なら他にもっといい相手がいる』とか。
確かに、その人は俺から見てもそこいらの女優とかアイドルとか裸足で逃げ出すような美人で頭も良くて、おまけに美里から見ても相当性格の良い才色兼備を絵に描いたような人だった。
「兄貴なんかにゃ勿体無いけどさ、あんなに想われてるのにあっさりフッた理由がそれだよ? 結局は図々しくへばりついていた方の勝ちじゃん。学校でも放課後でもずっと兄貴にくっついて回ってさあ、媚びてるのが丸わかりで反吐が出そう」
小学六年生でも立派に女なんだなあと、唖然としたんだっけ。
確かに、その頃の姉貴の世界は、『榎本満』を中心に回っていた……。
だから、姉貴が感じていた以上に、『霧川裕子』という存在は『榎本満』にとっては特別だったんだと、その頃から俺は知っていた。少なくとも恋愛感情を抱いていたのは別の女性で、その人に告白されたのに振ってしまうほどに、特別な存在だったのは間違いない。
それなのにあっさりと──かどうかは部外者には判らないけど、自分から手を離した姉貴の気持ちが、俺には理解できなかった。今も、解らない。
姉貴は、多分今、他の男がいるし、みっくんも付き合っている相手がいる。これは浩司先輩のことを聞き込んでいるときに一緒に知ったことだ。浩司先輩が一時付き合っていた人と同じグループのヤンキーらしい。
みっくんとヤンキーって真逆のような気もするんだけど……一体どんな女性なのかなあ。そういうのも、もう別れたら気にならないもんなんだろうか。
自分の影と会話するように足を進めているうちに、家に到着した。荷台からバッグを取り上げると、自転車をしまいに行った姉貴より先に家に入る。
ただいまーと声を掛けると、嬉しそうに母親がダイニングから出てきた。
取り敢えずと二階に上がり、半袖の服をいくつかクローゼットから引っ張り出した。
寮から出る時はそうでもなかったけど、街中だからなのかこっちの駅に着いた途端にむわっと暑く感じた。出掛ける前に着替えようと、薄手の半袖パーカーとカーゴパンツをセットしておく。万が一食事中に汚してもアレなんで、すぐには着替えない。
キッチンで食事の用意をしている音を聞きながら、俺はリビングのソファーに座って休憩しながらも、さっきの会話を思い返していた。
んー……。似てる、かなあ?
確かに俺、男女問わず誰とでも仲良くなれるといいなと思ってるし、よっぽど嫌とかじゃないとそれなりに和やかに付き合うしな。こないだの資料室みたいに明らかに気持ち悪いって思うこともあるし、流石にそれは受け付けないけど、今のところあいつら以外に嫌なやつっていない。同好会のメンバーだって、遊び相手としては楽しいやつらだしなあ。
けど、そういうのが、美里や姉貴にとっては嫌な部分なんだろうな。他の女子の意見なんて聞けないけど……。
ん? てことは俺、男の友達にも嫌な思いさせてるんだろうか。
向こうからは距離をとりたいって思ってるのに、勝手にずかずか近付いてたりとか。
一番親しいと思ってるのに、俺の態度にがっかりしてるとか……。
俺がまだ小等部のときだった。
姉貴とみっくんは中等部の二年生で、姉貴に押されてというかほだされて、二人が付き合い始めて暫くのこと──。
クラスメイトの榎本│美里《みさと》に唐突に告げられたんだ。名前で判る通り、みっくんの妹に当たる。ボーイッシュでさっぱりしていて男女共に友人が多いが、妹の方は好き嫌いがはっきりしていて嫌いな相手とはさっさと線を引いてしまうきらいがあった。
俺とは普通にクラスメイトとして接していたけれど、唐突にそんな話をされてびっくりした。
「霧川のことは嫌いじゃないよ?」
とちゃんと断りを入れて、その理由が告げられる。
──曰く、近隣の学校からも交際の申し込みが絶えない近所のお姉さんが、実は昔からみっくんに心を寄せていて、みっくんも恐らく好きだったのではないか。引越しを機に、そのお姉さんがみっくんに告白をしたけれど、その時みっくんは断りうちの姉貴と付き合い始めたんだと。
その理由が、『裕子ちゃんにはオレしかいないけど、彼女なら他にもっといい相手がいる』とか。
確かに、その人は俺から見てもそこいらの女優とかアイドルとか裸足で逃げ出すような美人で頭も良くて、おまけに美里から見ても相当性格の良い才色兼備を絵に描いたような人だった。
「兄貴なんかにゃ勿体無いけどさ、あんなに想われてるのにあっさりフッた理由がそれだよ? 結局は図々しくへばりついていた方の勝ちじゃん。学校でも放課後でもずっと兄貴にくっついて回ってさあ、媚びてるのが丸わかりで反吐が出そう」
小学六年生でも立派に女なんだなあと、唖然としたんだっけ。
確かに、その頃の姉貴の世界は、『榎本満』を中心に回っていた……。
だから、姉貴が感じていた以上に、『霧川裕子』という存在は『榎本満』にとっては特別だったんだと、その頃から俺は知っていた。少なくとも恋愛感情を抱いていたのは別の女性で、その人に告白されたのに振ってしまうほどに、特別な存在だったのは間違いない。
それなのにあっさりと──かどうかは部外者には判らないけど、自分から手を離した姉貴の気持ちが、俺には理解できなかった。今も、解らない。
姉貴は、多分今、他の男がいるし、みっくんも付き合っている相手がいる。これは浩司先輩のことを聞き込んでいるときに一緒に知ったことだ。浩司先輩が一時付き合っていた人と同じグループのヤンキーらしい。
みっくんとヤンキーって真逆のような気もするんだけど……一体どんな女性なのかなあ。そういうのも、もう別れたら気にならないもんなんだろうか。
自分の影と会話するように足を進めているうちに、家に到着した。荷台からバッグを取り上げると、自転車をしまいに行った姉貴より先に家に入る。
ただいまーと声を掛けると、嬉しそうに母親がダイニングから出てきた。
取り敢えずと二階に上がり、半袖の服をいくつかクローゼットから引っ張り出した。
寮から出る時はそうでもなかったけど、街中だからなのかこっちの駅に着いた途端にむわっと暑く感じた。出掛ける前に着替えようと、薄手の半袖パーカーとカーゴパンツをセットしておく。万が一食事中に汚してもアレなんで、すぐには着替えない。
キッチンで食事の用意をしている音を聞きながら、俺はリビングのソファーに座って休憩しながらも、さっきの会話を思い返していた。
んー……。似てる、かなあ?
確かに俺、男女問わず誰とでも仲良くなれるといいなと思ってるし、よっぽど嫌とかじゃないとそれなりに和やかに付き合うしな。こないだの資料室みたいに明らかに気持ち悪いって思うこともあるし、流石にそれは受け付けないけど、今のところあいつら以外に嫌なやつっていない。同好会のメンバーだって、遊び相手としては楽しいやつらだしなあ。
けど、そういうのが、美里や姉貴にとっては嫌な部分なんだろうな。他の女子の意見なんて聞けないけど……。
ん? てことは俺、男の友達にも嫌な思いさせてるんだろうか。
向こうからは距離をとりたいって思ってるのに、勝手にずかずか近付いてたりとか。
一番親しいと思ってるのに、俺の態度にがっかりしてるとか……。
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