Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈

文字の大きさ
上 下
63 / 132

特別な人

しおりを挟む
『悪いけど、あんたのお姉さん大嫌い』

 俺がまだ小等部のときだった。
 姉貴とみっくんは中等部の二年生で、姉貴に押されてというかほだされて、二人が付き合い始めて暫くのこと──。

 クラスメイトの榎本│美里《みさと》に唐突に告げられたんだ。名前で判る通り、みっくんの妹に当たる。ボーイッシュでさっぱりしていて男女共に友人が多いが、妹の方は好き嫌いがはっきりしていて嫌いな相手とはさっさと線を引いてしまうきらいがあった。
 俺とは普通にクラスメイトとして接していたけれど、唐突にそんな話をされてびっくりした。

「霧川のことは嫌いじゃないよ?」

 とちゃんと断りを入れて、その理由が告げられる。
 ──曰く、近隣の学校からも交際の申し込みが絶えない近所のお姉さんが、実は昔からみっくんに心を寄せていて、みっくんも恐らく好きだったのではないか。引越しを機に、そのお姉さんがみっくんに告白をしたけれど、その時みっくんは断りうちの姉貴と付き合い始めたんだと。

 その理由が、『裕子ちゃんにはオレしかいないけど、彼女なら他にもっといい相手がいる』とか。
 確かに、その人は俺から見てもそこいらの女優とかアイドルとか裸足で逃げ出すような美人で頭も良くて、おまけに美里から見ても相当性格の良い才色兼備を絵に描いたような人だった。

「兄貴なんかにゃ勿体無いけどさ、あんなに想われてるのにあっさりフッた理由がそれだよ? 結局は図々しくへばりついていた方の勝ちじゃん。学校でも放課後でもずっと兄貴にくっついて回ってさあ、媚びてるのが丸わかりで反吐が出そう」

 小学六年生でも立派に女なんだなあと、唖然としたんだっけ。

 確かに、その頃の姉貴の世界は、『榎本満』を中心に回っていた……。

 だから、姉貴が感じていた以上に、『霧川裕子』という存在は『榎本満』にとっては特別だったんだと、その頃から俺は知っていた。少なくとも恋愛感情を抱いていたのは別の女性で、その人に告白されたのに振ってしまうほどに、特別な存在だったのは間違いない。
 それなのにあっさりと──かどうかは部外者には判らないけど、自分から手を離した姉貴の気持ちが、俺には理解できなかった。今も、解らない。

 姉貴は、多分今、他の男がいるし、みっくんも付き合っている相手がいる。これは浩司先輩のことを聞き込んでいるときに一緒に知ったことだ。浩司先輩が一時付き合っていた人と同じグループのヤンキーらしい。

 みっくんとヤンキーって真逆のような気もするんだけど……一体どんな女性なのかなあ。そういうのも、もう別れたら気にならないもんなんだろうか。

 自分の影と会話するように足を進めているうちに、家に到着した。荷台からバッグを取り上げると、自転車をしまいに行った姉貴より先に家に入る。
 ただいまーと声を掛けると、嬉しそうに母親がダイニングから出てきた。


 取り敢えずと二階に上がり、半袖の服をいくつかクローゼットから引っ張り出した。
 寮から出る時はそうでもなかったけど、街中だからなのかこっちの駅に着いた途端にむわっと暑く感じた。出掛ける前に着替えようと、薄手の半袖パーカーとカーゴパンツをセットしておく。万が一食事中に汚してもアレなんで、すぐには着替えない。

 キッチンで食事の用意をしている音を聞きながら、俺はリビングのソファーに座って休憩しながらも、さっきの会話を思い返していた。

 んー……。似てる、かなあ?
 確かに俺、男女問わず誰とでも仲良くなれるといいなと思ってるし、よっぽど嫌とかじゃないとそれなりに和やかに付き合うしな。こないだの資料室みたいに明らかに気持ち悪いって思うこともあるし、流石にそれは受け付けないけど、今のところあいつら以外に嫌なやつっていない。同好会のメンバーだって、遊び相手としては楽しいやつらだしなあ。

 けど、そういうのが、美里や姉貴にとっては嫌な部分なんだろうな。他の女子の意見なんて聞けないけど……。

 ん? てことは俺、男の友達にも嫌な思いさせてるんだろうか。
 向こうからは距離をとりたいって思ってるのに、勝手にずかずか近付いてたりとか。
 一番親しいと思ってるのに、俺の態度にがっかりしてるとか……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

処理中です...