Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈

文字の大きさ
上 下
58 / 132

こんな風に気軽に話せるのなら

しおりを挟む
 素早く考えて、自分からさっさとドアを開けて外に出る方を選んだ。内開きだから押し込まれてしまえば終わりだ。それより人通りのある廊下で話した方がいい、多分。

 もう少し待つつもりだったのか、すぐに出てきた俺に周の方が驚いた顔をしていた。

「どうしたの? 午後に別の予定入ったとか?」

 もう周のこと警戒なんてしたくないのにと自己嫌悪しながらも、笑顔で話し掛ける。

 ここに来て、嘘吐きのレベルが上がった気がする。上手く普段通り振舞えているかは、自信ないけど……。

「いや、ちょっと話したくて」

 誘われるまま、廊下のあちこちに点在する自販機コーナーへと向かう。三人掛けのベンチシートがあり、大抵皆持ち帰るなりして飲食するから、今もそこは空いていた。
 スポーツドリンクを二本購入した周が、片方を俺に手渡す。

「ありがと」

 礼を言うと満面の笑みで見つめられ、何処となく居心地の悪いまま二人でベンチに腰掛けた。

 そういや、昨日食堂でも物言いた気にこっち見てたっけ。あれかな?

「あのさ、昨日……軸谷先輩と何処行ってたんだ?」
「え?」

 時間軸的に違う話題だと思っていた俺は、鳩が豆鉄砲食らったような顔になってしまった。間抜けすぎるよ……。

「だ、だってさっ、あんな日が暮れてからわざわざバイクでっ。で、なかなか帰ってこねえしっ」

 周は視線を逸らせてばつが悪そうに唇を結んだ。

 あ、ちょっとほっぺた赤い……照れてるんだ?
 しかもその言い方だと、いつ帰るかって耳を済ませて待ってくれてたんだ?
 ──なんか嬉しいかも。

「何処って言われても~? ずっと走ってただけだけど……まあ話とかは休憩がてら、したけどさ」
「は、話っ……て?」
「えー、流石にそれは秘密でしょー」

 先輩は「寮や学校じゃ話せない」って最初に言ってた。だとすれば、先輩が話したことは全て秘密にすべきことなんだと思う。

 珍しく視線を彷徨わせて落胆した様子の周が気の毒になり、何か話せることあったっけ? と思い出してみる。
 俺が振った話ならいいのかなあ。

「あ、そう言えば、俺が好きですって言ったら喜んでた……かな」
「は……?」

 そうそう、「すげえ」ってギュッて抱き締めてくれたんだよねー。
 あの思い出は一生の宝物にするんだ!
 温もりとか思い出してにやにや笑ってしまう。

 あ、しまった、会話について来れずに周が固まってるや。そういや、俺がここに来た理由、周は知らないもんな。わかんねえよなー、急にこんな話したって。

「あのな、俺、中学の時に浩司先輩とちょっと縁が出来てさ、それで一緒の学校通いたくてここ受けたんだ~。本校からこっちに来てるかどうかは賭けだったけど、会えて凄く幸せでさ。それでつい、言わなくていいことまで言っちゃったよ。まさか誘ってくれるなんて思ってもいなかったし」
「へ、へえ……」

 視線はこっちに向けてくれたけど、唇の端がひくついているというか、引き攣ってるよ、周。

「浩司先輩って、ホント何やっても様になるし、かっこいいし、優しいし。凄い人だよなあ。正直俺、遠くからこっそり眺めてるだけでも良かったんだ。高嶺の花っていうか。けど、何かと気に掛けてくれるし、これってやっぱり応援団入ったからかな? だとしたら、すっげーラッキーだよな~」
「ああ、まあ……そうな……」

 なんだか曖昧に、どうでもいい相槌打たれてますね。そういや、智洋もそうか……。携がいっつも嬉しそうにうんうん頷いてくれるから気にしてなかったけど、こういう話、他のやつはしたくないってことかな?
 確かに、俺は浩司先輩至上主義だけど、誰にでも好みはあるから困るか。俺だって、テレビで見掛けるけど別に好きじゃないタレントの話とか熱く語られても退くしなあ。

「ごめん、別にこういうのが聞きたい訳じゃないよな」

 手の中で少し温くなってしまったプルトップを開け、ごくごくと一気に半分ほど飲み干した。

「あ、いや、俺が聞きたいって言ったんだし」

 ハッと我に返った周も、何だか慌てた様子で缶に口を付けた。

 流石に携にいつもしているようにつぶさに浩司先輩について語るわけにもいかず、その後は演舞の振り付けについてとか授業の内容についてとか、当たり障りのない話題を振ってみた。

 やっぱり、こうやって気軽に話出来るのは楽しいし嬉しい。変な雰囲気にさえ持ち込まれなきゃ、周は友人としていいやつだと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

【完】姉の仇討ちのハズだったのに(改)全7話

325号室の住人
BL
姉が婚約破棄された。 僕は、姉の仇討ちのつもりで姉の元婚約者に会いに行ったのに…… 初出 2021/10/27 2023/12/31 お直し投稿 以前投稿したことのあるBLのお話です。 完結→非公開→公開 のため、以前お気に入り登録していただいた方々がそのままお気に入り登録状態になってしまっております。 紛らわしく、申し訳ありません。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

処理中です...