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こんな風に気軽に話せるのなら
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素早く考えて、自分からさっさとドアを開けて外に出る方を選んだ。内開きだから押し込まれてしまえば終わりだ。それより人通りのある廊下で話した方がいい、多分。
もう少し待つつもりだったのか、すぐに出てきた俺に周の方が驚いた顔をしていた。
「どうしたの? 午後に別の予定入ったとか?」
もう周のこと警戒なんてしたくないのにと自己嫌悪しながらも、笑顔で話し掛ける。
ここに来て、嘘吐きのレベルが上がった気がする。上手く普段通り振舞えているかは、自信ないけど……。
「いや、ちょっと話したくて」
誘われるまま、廊下のあちこちに点在する自販機コーナーへと向かう。三人掛けのベンチシートがあり、大抵皆持ち帰るなりして飲食するから、今もそこは空いていた。
スポーツドリンクを二本購入した周が、片方を俺に手渡す。
「ありがと」
礼を言うと満面の笑みで見つめられ、何処となく居心地の悪いまま二人でベンチに腰掛けた。
そういや、昨日食堂でも物言いた気にこっち見てたっけ。あれかな?
「あのさ、昨日……軸谷先輩と何処行ってたんだ?」
「え?」
時間軸的に違う話題だと思っていた俺は、鳩が豆鉄砲食らったような顔になってしまった。間抜けすぎるよ……。
「だ、だってさっ、あんな日が暮れてからわざわざバイクでっ。で、なかなか帰ってこねえしっ」
周は視線を逸らせてばつが悪そうに唇を結んだ。
あ、ちょっとほっぺた赤い……照れてるんだ?
しかもその言い方だと、いつ帰るかって耳を済ませて待ってくれてたんだ?
──なんか嬉しいかも。
「何処って言われても~? ずっと走ってただけだけど……まあ話とかは休憩がてら、したけどさ」
「は、話っ……て?」
「えー、流石にそれは秘密でしょー」
先輩は「寮や学校じゃ話せない」って最初に言ってた。だとすれば、先輩が話したことは全て秘密にすべきことなんだと思う。
珍しく視線を彷徨わせて落胆した様子の周が気の毒になり、何か話せることあったっけ? と思い出してみる。
俺が振った話ならいいのかなあ。
「あ、そう言えば、俺が好きですって言ったら喜んでた……かな」
「は……?」
そうそう、「すげえ」ってギュッて抱き締めてくれたんだよねー。
あの思い出は一生の宝物にするんだ!
温もりとか思い出してにやにや笑ってしまう。
あ、しまった、会話について来れずに周が固まってるや。そういや、俺がここに来た理由、周は知らないもんな。わかんねえよなー、急にこんな話したって。
「あのな、俺、中学の時に浩司先輩とちょっと縁が出来てさ、それで一緒の学校通いたくてここ受けたんだ~。本校からこっちに来てるかどうかは賭けだったけど、会えて凄く幸せでさ。それでつい、言わなくていいことまで言っちゃったよ。まさか誘ってくれるなんて思ってもいなかったし」
「へ、へえ……」
視線はこっちに向けてくれたけど、唇の端がひくついているというか、引き攣ってるよ、周。
「浩司先輩って、ホント何やっても様になるし、かっこいいし、優しいし。凄い人だよなあ。正直俺、遠くからこっそり眺めてるだけでも良かったんだ。高嶺の花っていうか。けど、何かと気に掛けてくれるし、これってやっぱり応援団入ったからかな? だとしたら、すっげーラッキーだよな~」
「ああ、まあ……そうな……」
なんだか曖昧に、どうでもいい相槌打たれてますね。そういや、智洋もそうか……。携がいっつも嬉しそうにうんうん頷いてくれるから気にしてなかったけど、こういう話、他のやつはしたくないってことかな?
確かに、俺は浩司先輩至上主義だけど、誰にでも好みはあるから困るか。俺だって、テレビで見掛けるけど別に好きじゃないタレントの話とか熱く語られても退くしなあ。
「ごめん、別にこういうのが聞きたい訳じゃないよな」
手の中で少し温くなってしまったプルトップを開け、ごくごくと一気に半分ほど飲み干した。
「あ、いや、俺が聞きたいって言ったんだし」
ハッと我に返った周も、何だか慌てた様子で缶に口を付けた。
流石に携にいつもしているようにつぶさに浩司先輩について語るわけにもいかず、その後は演舞の振り付けについてとか授業の内容についてとか、当たり障りのない話題を振ってみた。
やっぱり、こうやって気軽に話出来るのは楽しいし嬉しい。変な雰囲気にさえ持ち込まれなきゃ、周は友人としていいやつだと思う。
もう少し待つつもりだったのか、すぐに出てきた俺に周の方が驚いた顔をしていた。
「どうしたの? 午後に別の予定入ったとか?」
もう周のこと警戒なんてしたくないのにと自己嫌悪しながらも、笑顔で話し掛ける。
ここに来て、嘘吐きのレベルが上がった気がする。上手く普段通り振舞えているかは、自信ないけど……。
「いや、ちょっと話したくて」
誘われるまま、廊下のあちこちに点在する自販機コーナーへと向かう。三人掛けのベンチシートがあり、大抵皆持ち帰るなりして飲食するから、今もそこは空いていた。
スポーツドリンクを二本購入した周が、片方を俺に手渡す。
「ありがと」
礼を言うと満面の笑みで見つめられ、何処となく居心地の悪いまま二人でベンチに腰掛けた。
そういや、昨日食堂でも物言いた気にこっち見てたっけ。あれかな?
「あのさ、昨日……軸谷先輩と何処行ってたんだ?」
「え?」
時間軸的に違う話題だと思っていた俺は、鳩が豆鉄砲食らったような顔になってしまった。間抜けすぎるよ……。
「だ、だってさっ、あんな日が暮れてからわざわざバイクでっ。で、なかなか帰ってこねえしっ」
周は視線を逸らせてばつが悪そうに唇を結んだ。
あ、ちょっとほっぺた赤い……照れてるんだ?
しかもその言い方だと、いつ帰るかって耳を済ませて待ってくれてたんだ?
──なんか嬉しいかも。
「何処って言われても~? ずっと走ってただけだけど……まあ話とかは休憩がてら、したけどさ」
「は、話っ……て?」
「えー、流石にそれは秘密でしょー」
先輩は「寮や学校じゃ話せない」って最初に言ってた。だとすれば、先輩が話したことは全て秘密にすべきことなんだと思う。
珍しく視線を彷徨わせて落胆した様子の周が気の毒になり、何か話せることあったっけ? と思い出してみる。
俺が振った話ならいいのかなあ。
「あ、そう言えば、俺が好きですって言ったら喜んでた……かな」
「は……?」
そうそう、「すげえ」ってギュッて抱き締めてくれたんだよねー。
あの思い出は一生の宝物にするんだ!
温もりとか思い出してにやにや笑ってしまう。
あ、しまった、会話について来れずに周が固まってるや。そういや、俺がここに来た理由、周は知らないもんな。わかんねえよなー、急にこんな話したって。
「あのな、俺、中学の時に浩司先輩とちょっと縁が出来てさ、それで一緒の学校通いたくてここ受けたんだ~。本校からこっちに来てるかどうかは賭けだったけど、会えて凄く幸せでさ。それでつい、言わなくていいことまで言っちゃったよ。まさか誘ってくれるなんて思ってもいなかったし」
「へ、へえ……」
視線はこっちに向けてくれたけど、唇の端がひくついているというか、引き攣ってるよ、周。
「浩司先輩って、ホント何やっても様になるし、かっこいいし、優しいし。凄い人だよなあ。正直俺、遠くからこっそり眺めてるだけでも良かったんだ。高嶺の花っていうか。けど、何かと気に掛けてくれるし、これってやっぱり応援団入ったからかな? だとしたら、すっげーラッキーだよな~」
「ああ、まあ……そうな……」
なんだか曖昧に、どうでもいい相槌打たれてますね。そういや、智洋もそうか……。携がいっつも嬉しそうにうんうん頷いてくれるから気にしてなかったけど、こういう話、他のやつはしたくないってことかな?
確かに、俺は浩司先輩至上主義だけど、誰にでも好みはあるから困るか。俺だって、テレビで見掛けるけど別に好きじゃないタレントの話とか熱く語られても退くしなあ。
「ごめん、別にこういうのが聞きたい訳じゃないよな」
手の中で少し温くなってしまったプルトップを開け、ごくごくと一気に半分ほど飲み干した。
「あ、いや、俺が聞きたいって言ったんだし」
ハッと我に返った周も、何だか慌てた様子で缶に口を付けた。
流石に携にいつもしているようにつぶさに浩司先輩について語るわけにもいかず、その後は演舞の振り付けについてとか授業の内容についてとか、当たり障りのない話題を振ってみた。
やっぱり、こうやって気軽に話出来るのは楽しいし嬉しい。変な雰囲気にさえ持ち込まれなきゃ、周は友人としていいやつだと思う。
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