Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈

文字の大きさ
上 下
45 / 153

「だから、好きだ」

しおりを挟む
 視線を感じて顔を戻すと、正面から周に見詰められていた。丁度二個目のバーガーを食べ終えたところみたいで、口の端に付いたソースを舌で舐め取る仕草が妙にエロティックだ。
 なんなんですかね、この人のスキルは。
 口がちょっと大きめだから、かなあ? 余計に扇情的なんだろうか。

「食わねえの?」

 半分食べかけで止まっていたのを指摘されて、慌ててかぶりつく。
 やばいやばい。あんまり下ばかり見てたら二人のこと気付かれるよ。気をつけなくちゃ。
 ふぐふぐ食べている俺を、ポテトを摘まんだりジンジャーエールを飲んだりしながら、じいっと見詰めたままの周。

 流石にちょっと……辛いんですが。

「そいや、一緒に飯食ったのって初めてだな」

 誤魔化すように言うと「だな」と頷いて、塩の付いた指先をぺろりと舐めた。
 あ、舌長いかも。

「カズは、いっつも指定席じゃん。流石に近付けねえし」
「周だって、友達と一緒でしょ」
「あ、気にしてくれてたんだ?」

 にんまりと笑みを浮かべて、首を傾げて目を覗き込まれる。

「少しは、意識してくれてる?」

 ──会って間もない頃にあんなことされたら誰でも意識すると思うんだけどっ。

「う……意識というか、構えては、いる」
「今度もまた何かされないかって?」

「う、ん。──ごめん」
「なんでそこで謝んの。それが普通だろ。ホント優しいな、カズ」

 苦笑して、少しトーンを落とす。

「だから、好きだ」

 店内は空席がないほど混んでいる訳じゃない。けど、音楽も掛かっていて程よい喧騒に包まれていて。
 それでも、俺の耳に確かに届いた。囁くような声。

「俺と同じ意味で、好きになって欲しい」

 焦げ茶の少ない黒い瞳が、食い入るように俺の顔を見詰めていて。まるでその奥の深い闇に捕らわれたように、身動きが出来なくなる。

 人生で初めての告白をされました──しかも男に。

 待て待て待て待て。俺は、男だ。男だよな? ちょっと不安になったけど間違いない。
 周の方も誰が見ても間違いなく男だ。性別偽って男子寮には入れねえしな?
 そもそも周は男って判っていて、あんなことしてきたんだもんな?
 あれはまあふざけ半分だったとしても。その後は警戒するほどには近付いてこなくて拍子抜けした感もあるけど。

 それって……それって──。

「信用できねえか……だよな。今まで、体を繋げることしか興味なかったからさ、正直どういう手順を踏んだらいいのか判んねえんだ」

 少し癖のある黒髪が顔に掛かるのを手櫛でかき上げながら俺を見る瞳が揺れて、ようやく呪縛が解けた。
 でも、なんて相槌を打ったらいいのかも分からない。曖昧に顎を引いて、黙って残りのバーガーを食べた。

「なかなか話せる機会もないから、こんなトコでこんな話になっちまってごめん。でも、カズだって俺のこと嫌いじゃねえだろ?」
「うん……嫌いだったら、なんとしてでも断ってる」

 それは本当だった。前に周に言った通り、友達でいたいしもっと色んな遊びを教えながら仲良くやっていきたい。

「でも、」
「いい」と周が手を上げて制した。

「ノンケのお前の気持ち、何となく判ってるから。だけど……お前が本気で嫌がるようなことはしねえから、避けるのだけは勘弁な? 他の連れと同じようにでいいから、付き合ってくれる?」

 有りか無しかの二択にしたら、切り捨てるしかない。そんな気持ちを、周は俺に抱いてる──だから。
 その感情は周だけのもので、俺から向ける感情は全く別のもので構わないから、傍に居たいって……そういう意思表示をしてて。

 そういうの、凄くはっきりしてて、男らしくて、素直に凄いなと思った。

「うん」

 頷いて、炭酸入りの果汁をストローで思い切り吸い込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

処理中です...