Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈

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落ち着いて聞いてな?

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 自分の部屋だというのに何故かベッドの上に正座している俺。
 床じゃないだけ有り難いと思うべきなのか、対面の智洋のベッドにはどっかと腰掛けたベッドの主が自分の膝に両手を突いて半眼で俺のこと見てるし、その脇には仁王立ちになった携が腕組みして見下ろしているしで生きた心地がしない。

「んで? どうしてそうなったんだか詳しく説明してみろよ」

 沈黙を破って智洋が口を開き、俺は戦々恐々としながらさっきの経過と、ついでに自分の考えも話した。その間二人は黙って聴いていたんだけど、俺が口を閉じると一拍置いて揃って特大の溜息をついた。

「和明ってほんと……」
「いやそこがいいとこなんだけど……」

 疲れたような顔をして空を仰いで。いや、室内だから空はないんだけども。二人とも息が合ってるなあなんてほわーっと見てしまう。

「あのな、和明。口説いてきた相手と二人で遊びに出掛けるって世間ではどういう風にとるか判ってっか?」

 智洋が顔を戻してもう一度俺の目を見た。

「えと、でも俺たち男同士だし? あれは周がからかっただけでさ、あの後は普通にしてるから只の友達じゃん」

 相手が女なら、カップルに見えるかもしれないけどさあ。
 いくらここでは身長低くても、世間一般ではまあ平均的だし、どう見ても俺流石に女には見えねえし?

「いいや、お前がどう思ってようとあっちはデートのつもりだろうぜ」
「えーっ、智洋勘繰り過ぎだろ」

 まっさかあーと笑って見せたら、携もふるふると首を横に振った。

「谷本は和明が思っているような単純なやつじゃないよ。昼間は完全に猫被ってると見るけどね、俺は」

 うんうんと頷く智洋。

「まあこの際周りの目は置いとくとしても、だ。例え出掛ける先が人の多い場所でも、知り合いが誰もいねえ所で何かされたらどうするつもりなんだ?」
「な、何かって?」

 こないだの視聴覚教室みたいなことは、流石に他の場所では出来ないと思うんだ。

「例えば……トイレとか、密室だし」
「トイレー? 学校でなら一緒になったことあるけど」

 ええ? あれもヤバかったのか?
 ああっ、智洋が呆れた顔して……うええっ。

「あー……百歩譲って授業の合間のトイレはいいとしよう。他のヤツも利用するし、時間もないしな」
「時間?」

「他に誰もいなくて個室に連れ込まれたらどうすんだって話」
「どうすんだって言われても……」

 個室って言ったって、トイレだよ? しかも家庭のと違って店の個室ってかなり狭いじゃん。障害者用のスロープ付いてるのは別として。あんな狭いトコ男二人で入ってなにすんだよ。するもなにも身動きとれないだろ。
 想像してみて、体が密着する? のはちょっと問題ありか? なんて唸っていたら、今度は携が口を開いた。

「和明、自分が何されたかもう忘れてるんだ?」

 氷の微笑が見えました。ええ、錯覚じゃありません。ブリザードが襲ってきましたごめんなさい!
 つまりあれですねっ、あん時されたようなことをまたされるってことですね了解です!

「わ、忘れてねえよ!」

 必死でコクコクと頷くと、よしとようやくブリザードが止んだ。反対に事情を知らない智洋が訝しげにしている。

 あー……この際だから、知ってもらっといた方がいいのかなあ。けど、言ったら本当に今度こそ殴りこみに行きそうなんだけど。
 ちらりと携を見上げると、携が促すように顎をしゃくった。自分で説明しろってことか。
 うう、全く気は進まないけど……。ここまできたらこれくらいの恥上塗りしても変わんないか。

「あのな、智洋。実はまだ言ってなかったんだけど。えーと……教える代わりに絶対絶対この件に関して蒸し返して相手をどうにかするとか行動に出すのはしないって、約束してくれる?」

 上目遣いにそろりと見ると、ますます眉を寄せて強張った表情になる。

「なにそれ。つか、それ聞いた時点でもう相手が誰でもぶち殺しに行かなきゃなんねえ気がすんのは気のせい?」
「き、気のせいっ! 頼むから俺のために手を汚すのだけはやめて! マジでっ! 約束してくんねえと話さないかんな」

 こっちも引けないし智洋は既に怒っているしで睨みあいになってしまった。

 ──結局、話が進まないことにはどうにもならないと悟った智洋が折れるのは自然の成り行きだったんだけど、かなり不承不承だったのは誰の目にも明らかだった。
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