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智洋さん、急病ですか!?
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「あのさ、智洋……」
「んー?」
「俺、いっつも迷惑ばっかかけてごめんな」
智洋が、バッと起き上がった。
「迷惑なんて掛けられたことねえよ!」
「だってさ、」「お前のせいじゃねえだろ」
智洋は優しいからそんな風に言ってくれるけど、絶対俺ってば心配ばっかり掛けてるし、余計な手間も掛けていると思うんだ……。
「氷見と和明ってさ、なんか見てて凄く羨ましいっつうかさ。俺、そういう親友みたいな存在居た事ないから憧れるし、いつかそんな誰かが見つかればいいなって思ってる」
何だか真剣な口調で静かに話し始めたので、俺も体を起こして智洋の方を向いた。
「けど、そこに至るまでにはやっぱり色々あったわけだろ? 最初からずっと仲がいいって場合もあるんだろうけどさ……。色々乗り越えたからこそ、信頼があるって言うか」
そうだな、最初はやなヤツって敬遠してて、その後興味が出て近寄って拒絶されてそれでもなんだかんだと関わっていたらようやくちょっとづつだけど心を開いてくれて。野良猫と仲良くなるくらい大変だったっけ。
しみじみと中学時代を思い出してしまった。
「──まあ、だからさ……何が言いたいかっつうと、俺はもっと和明と仲良くなりてえし、だから迷惑とか全然思わねえし、お前に降りかかる火の粉なんて全部俺が振り払ってやるくらいの心構えなんだけど」
なんか……。
そのまんま昔の俺が思っていたこと代弁されたみたいで、じんわりと涙が出てきた。
「うん」
こくりと頷いた俺を見て、智洋があたふたと慌てて通路に下りた。
「なんで泣くんだよ」
「……嬉しくて。感激したっていうか」
にこっと笑って見せると、智洋が息を呑んだ。
「ホント、智洋って優しくてかっこよくて、大好きだよ」
携とは別のところで癒してくれるっていうか……二人とも、凄く好きだし大事だなって思える。
智洋に何かあったときは、俺だって全身全霊で守りたいって思うし、だからそういう風に言ってくれる智洋の気持ち大事にしたい。
ありがとう。
そっと言葉を紡ごうとした時、中腰になった智洋に抱き締められていた。
「っん……智洋?」
肩口に当たっている頭からは、仄かにシャンプーの香りがした。まだちょっぴり湿り気の残る髪が頬に当たり、くすぐったい。それを押さえるように、俺は智洋の後頭部にそっと手を当てた。
細かく、震えている。
何か、あったのかな……。
俺、別に智洋を泣かせるようなこととか、言ってねえよな? 多分。
分からなくて、原因は別のところだと勝手に信じることにして反対側の腕を背中に回してみた。今まで携くらいにしか自分から抱きつくなんて出来なかったから、なんだかどきどきする。
ビリヤードを教えてもらった時に、浩司先輩とも結構体がくっついたりして心臓が壊れるかもってくらいに緊張したけど、やっぱり相手が智洋でもどきどきってするもんなんだなあ。かっこいいからかな、理由は判らないや。
それはともかく、びっくりした拍子に俺の方の涙は止まったみたいだった。
子供をあやす時のようにぽふぽふと軽く背中を叩いていたら、智洋がなにやら呻き声のようなものをあげた。
「どっか苦しいの?」
ぽふぽふからさすさすに変えてみる。お腹でも痛くなったんだろうか。
相変わらず顎の辺りとかちょっと震えてるみたいだし、可哀相だ。痛い所判ったらそこを撫でてやるのにな……手当てって結構馬鹿に出来ないんだ。手の平当ててると本当に痛みが引いたりするんだから、人間って不思議だ。
あちこち手の届く範囲で彷徨いつつ撫でていると、ぎゅうっと力を込めて抱き締められて、ヒュッと肺の空気が押し出された。
「っ、く、るし……っ」
呼吸困難になる前に、撫でるのをやめて軽く叩いて知らせた。
ごめん、智洋だって苦しいのに! でも息出来ねえからっ。
途端にバッと体を離すと、「わりいっ」と吐き出すように言って、智洋は自分のベッドに転がり込んで布団を被って丸まってしまった。
あー……やっぱり腹痛だったのかな。
消灯五分前の音楽がスピーカーから流れ始めた。点呼の時間短縮のためにドアの前に出ないといけない時間でもある。
来年度からはシステムが変わるらしいけれど、今のところ寮長と副寮長の二人だけで毎日全員の点呼をしてくれている。こういうのって余所は当番制の持ち回りになっているとかクラスメイトに聞いたから、やっぱり大変そうだ。せめて各部屋を回る手間を省くためにと、特に人数の多い一年生は全員廊下に並ぶことにしている。
「急病でベッドから出られないって言っとくから、智洋は寝てなよ」
簀巻き状態の智洋に声を掛けると、うーと唸り声が返ってきた。
「んー?」
「俺、いっつも迷惑ばっかかけてごめんな」
智洋が、バッと起き上がった。
「迷惑なんて掛けられたことねえよ!」
「だってさ、」「お前のせいじゃねえだろ」
智洋は優しいからそんな風に言ってくれるけど、絶対俺ってば心配ばっかり掛けてるし、余計な手間も掛けていると思うんだ……。
「氷見と和明ってさ、なんか見てて凄く羨ましいっつうかさ。俺、そういう親友みたいな存在居た事ないから憧れるし、いつかそんな誰かが見つかればいいなって思ってる」
何だか真剣な口調で静かに話し始めたので、俺も体を起こして智洋の方を向いた。
「けど、そこに至るまでにはやっぱり色々あったわけだろ? 最初からずっと仲がいいって場合もあるんだろうけどさ……。色々乗り越えたからこそ、信頼があるって言うか」
そうだな、最初はやなヤツって敬遠してて、その後興味が出て近寄って拒絶されてそれでもなんだかんだと関わっていたらようやくちょっとづつだけど心を開いてくれて。野良猫と仲良くなるくらい大変だったっけ。
しみじみと中学時代を思い出してしまった。
「──まあ、だからさ……何が言いたいかっつうと、俺はもっと和明と仲良くなりてえし、だから迷惑とか全然思わねえし、お前に降りかかる火の粉なんて全部俺が振り払ってやるくらいの心構えなんだけど」
なんか……。
そのまんま昔の俺が思っていたこと代弁されたみたいで、じんわりと涙が出てきた。
「うん」
こくりと頷いた俺を見て、智洋があたふたと慌てて通路に下りた。
「なんで泣くんだよ」
「……嬉しくて。感激したっていうか」
にこっと笑って見せると、智洋が息を呑んだ。
「ホント、智洋って優しくてかっこよくて、大好きだよ」
携とは別のところで癒してくれるっていうか……二人とも、凄く好きだし大事だなって思える。
智洋に何かあったときは、俺だって全身全霊で守りたいって思うし、だからそういう風に言ってくれる智洋の気持ち大事にしたい。
ありがとう。
そっと言葉を紡ごうとした時、中腰になった智洋に抱き締められていた。
「っん……智洋?」
肩口に当たっている頭からは、仄かにシャンプーの香りがした。まだちょっぴり湿り気の残る髪が頬に当たり、くすぐったい。それを押さえるように、俺は智洋の後頭部にそっと手を当てた。
細かく、震えている。
何か、あったのかな……。
俺、別に智洋を泣かせるようなこととか、言ってねえよな? 多分。
分からなくて、原因は別のところだと勝手に信じることにして反対側の腕を背中に回してみた。今まで携くらいにしか自分から抱きつくなんて出来なかったから、なんだかどきどきする。
ビリヤードを教えてもらった時に、浩司先輩とも結構体がくっついたりして心臓が壊れるかもってくらいに緊張したけど、やっぱり相手が智洋でもどきどきってするもんなんだなあ。かっこいいからかな、理由は判らないや。
それはともかく、びっくりした拍子に俺の方の涙は止まったみたいだった。
子供をあやす時のようにぽふぽふと軽く背中を叩いていたら、智洋がなにやら呻き声のようなものをあげた。
「どっか苦しいの?」
ぽふぽふからさすさすに変えてみる。お腹でも痛くなったんだろうか。
相変わらず顎の辺りとかちょっと震えてるみたいだし、可哀相だ。痛い所判ったらそこを撫でてやるのにな……手当てって結構馬鹿に出来ないんだ。手の平当ててると本当に痛みが引いたりするんだから、人間って不思議だ。
あちこち手の届く範囲で彷徨いつつ撫でていると、ぎゅうっと力を込めて抱き締められて、ヒュッと肺の空気が押し出された。
「っ、く、るし……っ」
呼吸困難になる前に、撫でるのをやめて軽く叩いて知らせた。
ごめん、智洋だって苦しいのに! でも息出来ねえからっ。
途端にバッと体を離すと、「わりいっ」と吐き出すように言って、智洋は自分のベッドに転がり込んで布団を被って丸まってしまった。
あー……やっぱり腹痛だったのかな。
消灯五分前の音楽がスピーカーから流れ始めた。点呼の時間短縮のためにドアの前に出ないといけない時間でもある。
来年度からはシステムが変わるらしいけれど、今のところ寮長と副寮長の二人だけで毎日全員の点呼をしてくれている。こういうのって余所は当番制の持ち回りになっているとかクラスメイトに聞いたから、やっぱり大変そうだ。せめて各部屋を回る手間を省くためにと、特に人数の多い一年生は全員廊下に並ぶことにしている。
「急病でベッドから出られないって言っとくから、智洋は寝てなよ」
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