Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈

文字の大きさ
上 下
35 / 153

浩司先輩、落ち着いて!

しおりを挟む
 思案気な先輩をそれとなく観察していると、前よりは控え目だけどまたしても鬱血痕を見つけてしまい、流石にこう目の前だと焦ってしまった。
 それに気付いた先輩が「どうした?」と覗き込んでくる。

 ひええっ! 近いっ、近いですーっ!

「え、えとそれっあのっ、」

 意味不明な言葉と指差された場所を確認して「ああ」と何故かげんなりした様子の先輩。

「目立つか?」
「いえ、先週ほどではっ」
「先週?」

 先輩の目が見開かれる。あっ、しまった!

「すすすみませんっ! ウォルター先輩が部屋に入れてくれて、その時まだ先輩寝ててっ、見えちゃいましたあっ」
「──……」

 さあっと辺りの温度が冷え込んだ気がした。
 なんかもうゴゴゴゴゴゴッて効果音が聞こえてくるんですけど気のせいですかねっ。

「すっ、すみませんっホントあのっ」

 続けて謝ろうとする俺の眼前に「いい」と手の平が押し留めるように上げられた。

「──あの野郎、いつかきっちり話つけなきゃいけねえようだな」

 どうやら怒りの矛先は金髪王子だったみたいで。
 勝手に部屋に入れたこと怒ってるんだよね。いくら入り口付近だけとはいえ、やっぱり下級生の俺なんかが勝手に入っちゃ駄目だったよねっ。

「せ、先輩、お願いだからそんな怒んないでください~っ! もう絶対に絶対に入りませんからっ」

 体を拭くためのスポーツタオルを握り締めて、何とか宥めようと試みた。

 浩司先輩は噂によると極真空手の黒帯だ。しかも単独で族潰し出来る位の喧嘩巧者だ。あんなおっとりした感じのウォルター先輩に勝ち目はないと思われ……。

 どうどう、と落ち着かせるためにその手を握ってツボ押ししてみた。手の平にあるやつ。だって他のトコに触るわけにはいかねえし。
 据わっていた目が僅かに見開かれ、怒らせていた肩も下りた。
 き、効いた……かな?

「はいはい軸谷~。それ以上後輩いじめるな?」

 不意に、先輩と俺の肩の両方にぽんぽんと手の平が載せられて。

「大野かよ……」「会長っ」

 にっこり微笑んでいるけどなんか恐いです大野生徒会長。
 くいっと顎をしゃくるのでつられて周りをぐるりと見回してみると……。

 これから入る人も中から出てきた人も、一様に動きが止まっていて表情は強張っていて。浴場内と脱衣所を仕切るガラス扉の向こうには恐々覗いている人がずらっと並んでたりして。
 ──どうやら皆、浩司先輩の気迫に気圧されてフリーズしていたらしかった。

 ようやくといった感じで、浩司先輩がはあっと息を吐いた。がりがりと後頭部を掻きながら「わり」と言う。

「本校と違って皆お前に慣れてないんだから、こんなとこで敵意や害意剥き出しのオーラ出さないように」
「はいよー。んじゃお先」

 踵を返して自分のロッカーがあるらしき反対側に向かう先輩を見て、他の連中の石化も解けていく。

 よ、良かったのかな? 俺、今度もう一回謝った方がいいよね?
 心配だったけど、今日はもうそっとしておいたほうが良さそうだ。

 再び服を脱ぎ始めた俺の隣で、これから入浴するらしい生徒会長もボタンを外し始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

処理中です...