Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈

文字の大きさ
上 下
28 / 153

根本的なとこで、通じていません!

しおりを挟む
 急いで帰ると必然的に起こり得る事が起こってしまい、俺の足は鈍った。
 門から寮のエントランスまでは、校舎と違ってレンガ敷きになっていて、それ以外は芝生になっている。
 エントランス脇の壁に寄りかかり、周が立っていた。やや俯きがちだった面を上げ、ばっちりと目が合ってしまう。周は何か言いた気に口を開き、俺が近付くのを待っていた。

「さっきはごめん、俺……」

 開口一番に謝られて、驚きながらも俺は首を振った。

「ううん、俺こそゴメンな」

 近付いて隣に並び、さっき周がしていたように壁に凭れ掛かる。

「なんでカズが謝るんだよ」
「だって、理由はともかく、周のこと怒らせちゃったから」
「──変なヤツ」

 周は腕を組んでそっぽを向いたけど、話は続くみたいだった。

「あのさ、俺ずっと寮生だったから、共学のことなんか知らなくってさ……。つい、おんなじようにやっちゃったというか。だから、急には受け入れられないよな。恐かっただろ……ごめん」

 こんなに素直に謝られるなんて思ってもいなかったから、さっきの讃岐や小橋の心配するようなことはなさそうだなと俺は嬉しくなった。

「いや、俺も世間知らずらしいからさ。まあ、周も寮生活のこととか色々教えてな? そんで、明日からも一緒に応援団がんばろ? 折角チームメイトで仲良くなれたんだし、これからも仲良くして欲しいよ」
「え? いいのかよ……。もう近くにいたくねえって思うんが普通じゃねえの?」

 驚いた周が、振り向いて俺を凝視する。

「別に……確かに恐かったけど、友達じゃなくなるほうがもっと嫌だし。だけどああいうのは、俺にはちょっと……」

 ごにょごにょと、語尾を濁す。

「じゃあどういうのだったらOK? 途中までは気持ち良さそうにしてたのに、急に萎えちゃっただろ。次はもっとよくしてやるから」

 うあ! 違うー! 根本的なトコ伝わってないー!

「ほ、他の遊びしよ? な?」
「あのな、なんか誤解してるようだけど、俺は誰彼構わずんなこと仕掛けてんじゃねえぞ」

 隣から正面に位置を変えた周が、そのまま両手を俺の頭の脇に突いた。

 ふえぇ……やばい。なんかわかんないけどちょっとまた変な空気ですー!
 人通りもあるんだからあんまり変なことはしないだろうけど……。

「次は邪魔の入らねえとこでゆっくり、な」

 近付いてくる顔が気になって、言っている内容なんて全然耳に入ってこなかった。

 ひいっ! ここ、外ですようっ玄関口ですよーっ!
 ぎゃあああっ、ち、近いっ! 見つめすぎだしっ。

 横から擦り抜けられないかと壁をまさぐっていると、スパン! と小気味良い音がして、俺たちの顔の横で何かが跳ねた。黄色い残像だけが視界に入ったんだけど。

「──今すぐ離れろよ」
「ああ?」

 不機嫌そうに振り返る周の体越しに、門の方から歩いて来る智洋が見えた。隣にいる誰かと二人、テニスウェアを着てラケットを下げている。
 コロコロと転がったボールが、その足元に返って行った。隣を歩いているヤツが屈んでそれを拾い、少し離れている智洋に投げ、ちらっと横目で見ただけで視線はこちらのままそれを受け取る。
 吊り上がった眼差しが、陽光を全て凍てつかせる位に鋭く冷たく周を睨みつけている。
 こんなに怒りオーラ放っている智洋なんて初めてで、俺は安堵すると共に動けなくなった。

「今度ははずさねえよ?」

 左手をトスの形に上げると、隣のヤツが、

「こいつの球、めっちゃドライブ効いてっから生身に受けたら痛いぞー」

 なんて忠告してくれている。

 軟式出身のヤツは硬式の球にスピンが掛かりやすいって聞いたことある。軟式でも十分痛いだろうに、全力でサーブされた硬式球なんて絶対受けたくない。俺の方がぶるると震えてしまった。

「くっそ、なんなんだよ」

 周は智洋から視線を外さないまま俺から離れると「またな」と言ってロビーに入って行った。

 ふええ……助かった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

もういいや

ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが…… まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん! しかも男子校かよ……… ーーーーーーーー 亀更新です☆期待しないでください☆

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

処理中です...