Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈

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智洋の姉ちゃん来襲!

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 文化部は大抵が十七時には活動を止めるため、キャラクターシートを見つめて何とか二人をやり過ごした俺は、帰る先は同じだというのに教室に忘れ物をしたと言い訳して部室棟から逃げ出した。
 あの四人と一緒に寮に帰るのはちょっとごめんなさいしたい。

 勢いで本当に教室まで来てしまった俺は、そろりと窓際に行ってやつらが門を出るまで見送ってから校舎を出た。これなら部屋まで会わずに辿り着けるだろ……。
 面白いやつらではあるんだけど、いくらゲームのためとはいえ女の子扱いはヤメテ欲しいと切実に思う。
 ぜってー男のキャラにしてやる!

 憤然と靴を履き替えて寮のエントランスに入ると、ロビーでうろうろしている女性が目に入った。
 今来たばかりなのか、他に寮生も見当たらず心許なそうにしている。

「あの、」

 声を掛けると、俺より数センチ低いその女性は、薄茶のボブカットを揺らせて振り向いた。サラサラの細い髪、前髪は梳いているところが少し額に掛かっていて、後はサイドに流してある。流行の髪型だった。

 ちょっと年上かな? 誰かの姉さん? めっちゃとは言わないけど、平均よりかなり可愛い。色白で、睫毛長くてパッチリ二重の大きな目。

「誰かに用があるなら、呼んで来ましょうか?」

 確か土日は面会が出来る筈なので、ロビーの脇に面会室なる小部屋もあるのだ。まだ使っているトコ見たことないけど。

「ありがとう! 流石に勝手に中に入っちゃまずいかなあと思ってたの。あのね、一年の栗原って言うんだけど」

 にっこり笑って首を傾ける。

「えっ! 俺同室の霧川ですっ、あの、いつもお世話になってて」

 これが噂のねーちゃんか! 俺は慌ててぺこぺこと頭を下げた。
 智洋はけちょんけちょんに言っているけど、やっぱり第三者から見たら可愛い普通の女子高生だった。当たり前か~。うちのねーちゃんだって、近所でも褒め倒されてるもんな……女の外面の良さといったら。

「そうなんだ~? ヒロくんのルームメイトが良さそうな人で良かった。これからも仲良くしてやってね」

 嬉しそうにお辞儀で返されて、
「じゃあすぐに呼んで来るんでっ」

と小走りに部屋に向かった。多分先に帰っている筈だ。
 慌しくドアを開けて入って行くと、智洋が椅子に座ったまま驚いた顔で振り向いた。

「なんだよ、そんなに慌てて」
「ね、ねーちゃん来てる……っ」

 俺は自分の荷物をベッドの上に放り出すと、ロビーの方を指差した。

「ええー?」

 智洋は訝しげに俺を見上げ、マジで? と呟き俺が頷くのを見て渋々立ち上がった。

「全くもう、何考えてんだよ恥ずかしい……」

 ぶつぶつ言う隣に並んでまたロビーに戻ると、ねーちゃんこと伴美さんが満面の笑みで手を振って出迎えてくれた。トモとトモだから、弟のことは智洋かヒロくんと呼ぶらしい。なるほど~。
 その頃になると、誰かから聞いたのか遠巻きに伴美さんを眺める輩もいたりして、何処となく雑然とした雰囲気になって来ていた。

「で、用件は?」

 ぶっきらぼうに切り出す智洋に、伴美さんは足元の大きな紙袋を指し示した。

「着替え、足りないだろうからってお母さんに言付かってきたの。そんなに嫌がらなくてもいいじゃない~私、一度は男子校の中に入ってみたかったのよねっ」

 うふふと笑う姿は、どんな妄想をしていたのやら。
 やがて騒ぎを聞きつけたのか、寮長と副寮長も現れた。

「なんだ~伴美ちゃんかあ、おひさー!」

 ニットのハーフパンツにラグランスリーブの長袖シャツのみっくんはひらひらと手を振っている。隣の副寮長は相変わらず無表情だ。

「あ~満くんだあ。なんでこんなトコいんのぉ?」

 キャピキャピと会話を始めた二人、何だかお似合いのカップルに見えなくもない。
 ってか、伴美さんってみっくんとも知り合いなんだ?
 そろそろ飯食いに行きたいなあなんて思いながらも、この場を放置して一人で食べに行くわけにもいかずにぽへっと眺めていたら、外からはなんと浩司先輩が帰って来た。手ぶらなところを見ると一旦学校からは帰って来ていたらしい。

 そして、いつもより騒がしく人数の多いロビーを見回すと「うげっ」と顔を顰めた。その姿をいち早く見つけた伴美さんの大きな瞳がキラキラリーン! と輝いた。

「うわー! 浩司くんだーっ! やっほーっ久し振りぃっ」

 自分より背の高い連中に囲まれているもんだからか、ぴょこぴょことジャンプしてアピールするとたったか駆け寄って行く。

「なんでお前がんなとこいるんだよ」

 至近距離まで詰め寄った伴美さんから少しでも遠のこうとする浩司先輩。
 前に智洋が「メロメロ」って表現してたの真実だったな……ラブラブ光線出まくってるよ。
 会話の途中でほっとかれたみっくんも乾いた笑いをしつつも納得の表情。そういう間柄なんだな、きっと。

「弟に荷物渡しに来たの」

 会話できるだけでも嬉しいのか、こっちを指差されて、智洋は仕方なさそうに会釈した。そして意識が少しでもこっちに向いた隙を逃さないように、

「俺、もう戻るよねーちゃん。夕飯食いっぱぐれる」

と、返事を待たない勢いで歩き出すので、俺もそれに合わせて先輩たちに会釈してからそれを追った。

 浩司先輩が気にはなったけど、喜んでいる風でもなかったし、ほどほどに切り上げるでしょ。

 荷物を持ったまま食堂に入って行く智洋を追って、俺も夕飯を食べてから部屋に戻った。
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