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たいけみお

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第66章:「一蓮托生」

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「キョウがアーサーメンバーになってくれるのは、本当に嬉しいことだよ」

レオンはキョウに微笑んだ。

「それにあたって―――ひとつキョウに同意を得ないといけないことがあるんだ」


「もし俺がそれに同意できなかったときは?」

「あはは。同意してもらわないと困るなぁ―――ある意味、もう手遅れだ」


「なに?」

「通常のアーサーメンバーの場合、もし途中でアーサーを抜けたくなったり、意図せず誰かにマニピュレートされてしまった場合には、彼らから「アーサーの記憶」が削除されて、地上の「普通の生活」に戻される。それが本人にとっても、他のアーサーメンバーにとっても安全だから、ね。そしてこれは契約書として交わされるから、それが起こった時には同意の上、ってことになる」

「なるほど、ね」


「でも・・・キョウの場合、他の通常メンバーとは異なる」

「どういうこと?」


「いま、「記憶の削除」後は地上の「普通の生活」に戻される、って言ったけど、キョウの場合はそれができない」

「なぜ?」


「さっきも言った通り、キョウは普通の人間じゃない。通常のアーサーメンバーでもない。とても特殊なんだ」

「・・・」

「だから、地上に戻すのは危険なんだよ―――キョウにとっても、アーサーにとっても、この地球にとっても」



「じゃ、それが起こった場合、俺はどうなるの?」

「たとえそれまでのアーサーの記憶が削除されたとしても・・・一生、アーサーメンバーで居続けることになる―――ボクやスティーブのように」


するとキョウは俺を見た。


「スティーブもそうなの?」

「あぁ・・・俺とレオンは特殊中の特殊だから、な」



「そっか・・・ん、じゃそれでいいよ」


え?



「オマエ、そんな簡単でいいのか?!一生ってことなんだぞ?!ちゃんと考えろよ!」

「ん、いいよ。これってスティーブと一蓮托生ってことだろ?くく」

「キョウ・・・」

「それに・・・ま、アーサーに参加しないって言う選択肢は、どう考えてもいまの俺にはない。ってことは、どっちにしろその紙にサインするってことだ。迷うだけ時間のムダだよ」


それを聞いたレオンは、嬉しそうに言った。


「スティーブ、愛されてるね」

「うるせぇな」

「照れることないじゃない?」


あはは。

キョウも笑った。



「で、さ。次に話すことは契約ではなく・・・お願いなんだけど。だから、キョウの意志に反することなら断ってくれて構わない」

「なに?」


「まだ思い出せてないかもしれないけど、以前キョウにトレーニングを提供していた時にはね、定期的に身体検査もさせてもらっていて・・・その中にはDNAも含む血液や細胞の採取なんかもさせてもらってたんだ。で、その検査結果に基づいて、毎回微調整を重ねたビタミン剤なんかもキョウに提供してた」

「あぁ、だからここのドアが開けられたんだ」

「そう。で、それはキョウの健康維持のために引き続きさせてもらいたいんだけど―――今回からそれに加えて、キョウの精子の凍結保存も定期的にさせてもらいたいんだよ」

「・・・なんのために?」



「キョウの遺伝子を残したいんだ」

「・・・」


「基本的にアーサーの主要メンバーは全員、ボクやスティーブも含めて、精子の凍結保存をしてる」

「それはどうやって使われるの?」


「まぁボクのはまだ使われたことはないけど・・・サラもいるしね?」

「当たり前でしょ!」

「スティーブのは?」

「俺のもまだ使われたことはないよ」

「じゃ、何のために?」



「ま、今までの例を挙げると・・・「あるメンバー」の場合、自分の遺伝子を持つ子供は欲しかったんだけど、奥さんは欲しくなかった」

「え?」

「危険が常に伴う「アーサーとしての人生」に、大事な誰かを巻き込みたくなかったんだ。だから彼の凍結保存された精子を、同じように凍結保存されていた卵子と組み合わせて、代理母で子供を授かった」

「・・・」


「でも基本的に凍結保存の真の目的は・・・この地球がもっと危機的状況に陥った場合の布石、っていう意味合いが強いよ―――その時点でどうそれが使われるかはまだわからないけど。だからまだ、実際に使われた例は極少ない」

「・・・」

「あとは―――「誰か」がアーサーメンバーの遺伝子を欲しがる可能性もある・・・キョウの場合は特に」

「もちろんアーサーはそれに無条件に応えたりしないから安心して?」



「俺の場合は特にってよくわかんないけど・・・でももし仮に」

「ん」

「誰かが俺の遺伝子を求めた場合、それは俺に告知されるの?どこに提供されるのかとか」



「キョウの遺伝子の提供依頼を正式にアーサーが受けた場合はもちろんキョウに知らせるよ。その時点でまたキョウが提供するかどうか判断できる。でも、キョウがそれに同意した場合、その行先については開示されない―――相手側が同意しない限り」

「どうして?」

「それがその「家族」を守ることが多いからさ。そしてキョウ自身にもその「家族」への責任が及ばなくなる」

「・・・」

「どう、思う?」



ふぅ。

キョウが軽く溜息を吐いた。

どういう、意味なのか。



「俺はさ・・・みんな知ってる通り、相当医学書読んできたよ」

「そうだね」


「俺はそういうカタチで俺の遺伝子を残すつもりはないよ。っていうか、基本的に俺の遺伝子を残したいと思っていない」

「どうしてだ?」



「アーサー医師団や、例えばデイヴィッドが、俺の遺伝子についてどういう見解を示すかはわからないけど、少なくとも俺の両親は重篤な精神疾患を患ってる」

「・・・」


「俺がその遺伝子を引き継いでいる可能性はほぼ100%だし、少なくとも事故後の俺が―――幻覚を見るレベルだってことは自分でもわかってる」

「・・・」

「そんな遺伝子、残さないほうがいいに決まってる」



「その辺については医師団にも調べさせるけど、仮にそうだったとしても―――それでも、キョウの遺伝子が欲しい、っていう依頼が来たら?」

「そんな物好き、いないと思うけどな。どう考えたって、最初から危険性の高い遺伝子欲しいなんて人いないよ。ドナーから精子を提供して欲しいって、つまりは「いい遺伝子」が欲しいわけだろ?それに―――」

「それに、なんだ?」

「あんな辛い思いを、子供に負わせたくない。それも俺の知らないところでなんて―――」

「・・・」



「でも・・・それでも欲しい、っていう人がいたら?」

「ま、そんなことが起こったら、その時考えるよ」

「・・・」



「もしオマエが自分の子供が欲しいって思った時はどうするんだ?」

「それは話が別だよ」

「どうして?」



「あはは。当たり前だよ。俺が本気で誰かに俺の子供産んでもらいたいって思ってて、その人が産んでくれるんだったらさ、その彼女も子供も俺が全力で守ればいいだけだ―――何があったとしても、どんな子供が生まれてきたとしても」

「・・・」

「その時にはどう考えたって、凍結保存された俺の精子を使う必要なんてない。そういう状況で子供ができないんだったら、そういう運命だったんだよ―――それこそ、遺伝子的な理由。それか俺がその人に好かれてないか・・・あはは」

「・・・」


「だから、とりあえずいまは凍結保存はやめとくよ。下手に残して、変に使われても困るしね」






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