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第82章:「本当の意味で」
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それから数日。
俺は、病院で彼女を見かけても、
他の人と同じように、あいさつ程度で通り過ぎた。
別に、変に避けてる雰囲気は出してないと思う。
俺は彼女を見かけたら素直に嬉しいから、
自然に表情には出ていたと思うし。
でも、敢えて、
それ以上の会話はしなかった。
――――それ以上のことは、特に今は、してはいけないような気がして。
なぜなら。
今の俺には、明らかに判断材料が少なすぎた。
それはあのロックされた3つ目のフォルダーを開ければわかるのだろうか?
たくさんの疑問が、俺の頭の中を駆け巡る。
それに。
彼女の「存在」のエネルギーはいまも相変わらずわかるけれど、
この間のような、彼女の「感情」のエネルギーは。いまの俺には見えない。
なぜなのかは、わからない。
だめだ。
俺はもう一度、ちゃんと頭の中を整理する必要がある。
何かを・・・見落としている。
何かを――――。
でも一方で。
俺自身のカラダと感情は、彼女を見かけるたびに――――
もっと、話したい。
もっと、近寄りたい。
もっと、触りたい。
もっと、もっと・・・
と、相変わらず強く、俺の理性とは真逆の反応してくる。
はぁ。
俺にどうしろって、言うんだ?
おかしなことを言ってると、自分でもわかっているけど、
二人の俺が、俺の中で、激しく葛藤する。
そのうちの一人の俺は、至極わかりやすい。
本当に、本能そのままだ。
磁石のプラスマイナス極のように、
勝手に彼女に引き寄せられてゆく。
俺もただの男だったんだな、
と自分で笑ってしまうほど、
俺の体が彼女を求めて熱くなる。
でも、もう一人の俺は、考えてあぐねていた。
――――どうしたら、どういう風に接したら、彼女を傷つけずに済む?
――――どうしたら、「本当の意味で」彼女を大切にできる?
「キョウ、この画像を見て、どう判断する?」
突然、内科部長が俺に意見を求めた。
内科の医師5人と、美和・・・さんも並ぶ円卓。
俺はただの見学のはず。
それも今は彼女のことを考えていて、彼らの会話に集中すらしていなかった。
それでも俺は、目の前に映し出された複数枚の胸部画像に一瞬で目を通し、
集中してないながらも耳に入ってきていた情報を踏まえ、
俺なりの判断をそのまま伝えた。
「この胸部画像を見る限りでは結核に見えますが、先程おっしゃっていた皮膚と神経症状を加味すると、サルコイドーシスの可能性もあると思います」
すると内科部長が
「さすがキョウだな。早速組織検査に回して、専門医に判断を仰ごう」
と言って、それは終わった。
席を立ちあがると、他の内科医たちがそれぞれ、
「期待してるよ」とか
「早く卒業して内科に来いよ」とか
俺に一声掛けながら部屋を出ていく。
彼らも・・・「アーサーメンバー」なのかもしれない。
そんな、優しい言葉を、遥か年下の俺にかけていくのだから。
そして、俺もドアに向かって歩き出そうとした時。
同じくドアに向かって歩いていた美和・・・さんが立ち止まって俺に微笑んだ。
「杏くん、さすがだね」
「まぐれだよ」
「それはないよ。限りなくある病名の中からサルコイドーシスを選ぶのは簡単じゃないよ」
「美和さんは?どう判断したの?」
「ふふ。サルコイドーシスだよ」
「くく。なんだ、自画自賛じゃん」
「ふふ」
数日ぶりに話す美和さんは、至って普通だった。
ちょっと・・・だけ、
俺をホッとさせる。
「杏くん」
「ん?」
「この間はごめんね・・・今度また、あのカレー食べさせてね。すごく美味しかったよ」
「え?」
彼女から、その話を蒸し返すのか?
傷ついたのは、彼女の方なのに。
―――優し、すぎる。
俺と関わりあいたくないんだったら、
そんなこと、言わなきゃいいのに。
でも彼女は、話し続けた。
「あの日はなんか・・・いろいろありすぎて、キャパオーバーしちゃった。ちょっと疲れも溜まってたし。でも「アーサー医師団」にサプリを微調整してもらったからもう大丈夫。疲れ知らずになるって太鼓判押されたし。今はココヒヨリっていうドリンク剤も飲んでるんだよ?ふふ」
「美和・・・さんでも、キャパオーバーになることあるんだ」
「ほとんどないけどね」
「でもあるんだ」
追い詰めたくはないんだけど、
ちゃんと理由を知りたくて、
なんかそういう言い方をしてしまって。
すると美和・・・さんは何故か、
諦めたように俺を見た。
「まぁ、私にもひとつだけ弱点があってね・・・」
「ひとつだけ?それ、すごく興味あるな。くく」
ちょっと、笑いで軽く流した方がいいような、そんな表情だったから、
俺は笑って見せた。
でも彼女の表情は・・・諦めから困った顔になった。
言葉は続けてくれたけど。
「・・・「そこ」を突かれると痛いんだな」
「そこ?」
「「そこ」が・・・死ぬほど大事、だから―――」
「・・・」
「覚悟してても人間って・・・自分ではどうしようもないことってあるよね。ふふ」
「美和さんも、普通の人間ってこと、か」
「それはそうだよ・・・私の事、なんだと思ってたの?」
「・・・普通の人とは違う・・・特別なヒト」
「それは杏くんの認識が相当間違ってるなぁ・・・じゃ、私、次に行かないと。またね」
「眼科でしょ。俺も一緒に行く」
「「そこ」が死ぬほど大事、だから」と彼女は言った。
「そこ」をもっと突っ込むと、また泣いてしまいそうな気がして聞けなかったけど。
でも「そこ」って、「彼氏」と「カレー」が含まれてる部分、だよな。
ってことは、
普通に考えたら、俺も含まれてるってこと、だよな?
・・・俺は、現在形じゃないかもしれないけれど。
眼科の実習を終え、俺は美和・・・さんと2人、実習室を出た。
「俺はこれからデイヴィッドと約束があるから・・・また」
「うん、また」
聞きたいこともちゃんと聞けなかったし、
とにかく彼女と離れるのは・・・なんかとても寂しい気がしたけど、
とりあえず俺は、デイヴィッドの待つ部屋に急いだ。
======
私と別れ、速足に病院の長い廊下を去っていく杏―――姿がだんだん小さくなっていく。
ここに通い始めてまだ一週間も経ってないけど、病院内にも知り合いが増えたみたいで、
軽く挨拶しながら通り過ぎていく。
「ねぇ、キョウってかっこいいよね」
「ホント、挨拶するとちゃんと笑顔で応えてくれるし、患者さんたちにも優しいし・・・凄く頭もいいんだって」
「知ってる!先生たちが天才だって言ってた。まだ16歳なんだって」
「え?!16歳?!でもパルドゥルース大学の医学部生で研修に来てるって」
「うん、だから天才なんだって。IQ200超えてるって言ってたよ」
「いいなー、頭が良くて優しくてカッコ良くて将来有望なんて・・・そんな人の彼女になりたいぃ。この際、年下とか関係ないし!」
「みんなそう噂してるから競争率高いよ。もちろん私も立候補するけど!」
看護師たちのそんな声が、自然と私の耳に集まってくる。
通常、アジア系の、それも日本人男性は白人女性には全く人気がないのだけど・・・
それは杏だから、特別なんだと思う。
一緒に研修に参加してる私と杏が「知り合い」ってことは知られてきていて、
杏の話を持ち出されることも多々、ある。
「彼はどういう人なのか」とか
「彼女はいるのか」とか
とりあえず私は、それにはっきり答えず、
なんとなくそこを切り抜け、逃げ去る。
勝手だけど、私が知ってる杏のことは、
私の心だけに閉まっておきたいから。
でも。
きっとこのまま行ったら・・・
杏に彼女が出来るのは時間の問題。
2人並んで、仲良く歩いているところを、
目撃してしまうのだろう。
杏はきっと――――
私にしてくれたように、
きっとその彼女にもすごく優しいんだろう。
―――――私は
それに、耐えられるのだろうか。
実は・・・
明日は4月5日。
杏の17歳の誕生日。
圭ちゃんとジェイク、レオンとサラもここ、パルドゥルースにやってくる。
杏のバースデー・パーティと称して。
圭ちゃんとカレンさん、そしてスティーブが私にそう話してくれた。
でも。
杏からは直接、その話を聞いていない。
まぁ、私はそれを言われる対象ではないとは思うけど。
本当に勝手で、
どうしようもない自分に、
怒りさえ、覚える。
こんなことじゃ・・・
これから杏に降りかかるであろうことから杏を守るには、
私は弱すぎる。
―――強く、ならなきゃ。
明日も目一杯スケジュールが詰まっている。
だから、圭ちゃんとは明後日、ゆっくりブランチをすることにした。
その日は夕方から、救急だけにしてもらったから。
圭ちゃんは、こんな私を見て、何て言うんだろう。
圭ちゃんに、はっきりと、叱ってもらいたい。
―――オマエは、だめなヤツだって。
======
「おいキョウ、聞いてんのか?」
「聞いてるよ。明日は夕方にはここに戻ってくるよ。圭さんとジェイクがわざわざ俺のために来てくれるんだし」
「レオンとサラも来るよ」
「え、そうなの?なんか・・・悪いなぁ。たかが俺の誕生日ごときで」
「カレンとデイヴィッドにも言っといたから顔出すかもな。ミワも」
そういうと、キョウはそれまでとは別の方向を見て俺に言った。
「美和さんは来ないよ」
「なんでわかるんだ?」
「だって、明日の彼女のスケジュール、フルだもん。明日の夜は救急も入ってるし」
「そうなんだ・・・それは残念だな。せっかくレオンとサラも来るのに」
「きっと彼らは別で会うよ。それより・・・」
「ん?」
「彼女、本当はもう、俺とは関わりたくないんじゃないかな」
「え?」
「彼女、大人だからさ、今日も「今度また、あのカレー食べさせてね」とか言ってたけど、たぶんできればもう、俺とは顔合わせたくないのかも」
「・・・なんで、そう思うんだ?」
「確かな理由はわかんないけど・・・俺、なんとなく彼女を追い詰めてる気がする―――顔合わせるたびに」
「そんな気がする。表情で・・・わかる」
「だから、何を言っても彼女を追い詰める気がして・・・」
「だから―――明日のことも、直接彼女には言えなかった」
「オマエはどうなんだ?」
「え?」
「彼女といると居心地悪いのか?」
あはは。
意外にも、
キョウはその俺の言葉を一笑した。
「そんな訳ないじゃん。彼女が俺のせいで泣いてたって楽しいよ。あははは」
「は?」
「関わりたくないって思って困った顔してるのを見るもの楽しい。くく」
「それはオマエ、性格悪くないか?」
「だってなんか・・・彼女、特別だろ?」
「・・・」
「でも・・・「本気で」もう俺と関わるのが嫌なんだと思ってるなら、俺も無理強いはしないよ。そこまでしたらイジメだし、彼女を泣かせるのは本意じゃない」
「・・・」
「でも・・・まだ、そこら辺が・・・彼女の真意が、俺にはわからないんだ」
俺は、病院で彼女を見かけても、
他の人と同じように、あいさつ程度で通り過ぎた。
別に、変に避けてる雰囲気は出してないと思う。
俺は彼女を見かけたら素直に嬉しいから、
自然に表情には出ていたと思うし。
でも、敢えて、
それ以上の会話はしなかった。
――――それ以上のことは、特に今は、してはいけないような気がして。
なぜなら。
今の俺には、明らかに判断材料が少なすぎた。
それはあのロックされた3つ目のフォルダーを開ければわかるのだろうか?
たくさんの疑問が、俺の頭の中を駆け巡る。
それに。
彼女の「存在」のエネルギーはいまも相変わらずわかるけれど、
この間のような、彼女の「感情」のエネルギーは。いまの俺には見えない。
なぜなのかは、わからない。
だめだ。
俺はもう一度、ちゃんと頭の中を整理する必要がある。
何かを・・・見落としている。
何かを――――。
でも一方で。
俺自身のカラダと感情は、彼女を見かけるたびに――――
もっと、話したい。
もっと、近寄りたい。
もっと、触りたい。
もっと、もっと・・・
と、相変わらず強く、俺の理性とは真逆の反応してくる。
はぁ。
俺にどうしろって、言うんだ?
おかしなことを言ってると、自分でもわかっているけど、
二人の俺が、俺の中で、激しく葛藤する。
そのうちの一人の俺は、至極わかりやすい。
本当に、本能そのままだ。
磁石のプラスマイナス極のように、
勝手に彼女に引き寄せられてゆく。
俺もただの男だったんだな、
と自分で笑ってしまうほど、
俺の体が彼女を求めて熱くなる。
でも、もう一人の俺は、考えてあぐねていた。
――――どうしたら、どういう風に接したら、彼女を傷つけずに済む?
――――どうしたら、「本当の意味で」彼女を大切にできる?
「キョウ、この画像を見て、どう判断する?」
突然、内科部長が俺に意見を求めた。
内科の医師5人と、美和・・・さんも並ぶ円卓。
俺はただの見学のはず。
それも今は彼女のことを考えていて、彼らの会話に集中すらしていなかった。
それでも俺は、目の前に映し出された複数枚の胸部画像に一瞬で目を通し、
集中してないながらも耳に入ってきていた情報を踏まえ、
俺なりの判断をそのまま伝えた。
「この胸部画像を見る限りでは結核に見えますが、先程おっしゃっていた皮膚と神経症状を加味すると、サルコイドーシスの可能性もあると思います」
すると内科部長が
「さすがキョウだな。早速組織検査に回して、専門医に判断を仰ごう」
と言って、それは終わった。
席を立ちあがると、他の内科医たちがそれぞれ、
「期待してるよ」とか
「早く卒業して内科に来いよ」とか
俺に一声掛けながら部屋を出ていく。
彼らも・・・「アーサーメンバー」なのかもしれない。
そんな、優しい言葉を、遥か年下の俺にかけていくのだから。
そして、俺もドアに向かって歩き出そうとした時。
同じくドアに向かって歩いていた美和・・・さんが立ち止まって俺に微笑んだ。
「杏くん、さすがだね」
「まぐれだよ」
「それはないよ。限りなくある病名の中からサルコイドーシスを選ぶのは簡単じゃないよ」
「美和さんは?どう判断したの?」
「ふふ。サルコイドーシスだよ」
「くく。なんだ、自画自賛じゃん」
「ふふ」
数日ぶりに話す美和さんは、至って普通だった。
ちょっと・・・だけ、
俺をホッとさせる。
「杏くん」
「ん?」
「この間はごめんね・・・今度また、あのカレー食べさせてね。すごく美味しかったよ」
「え?」
彼女から、その話を蒸し返すのか?
傷ついたのは、彼女の方なのに。
―――優し、すぎる。
俺と関わりあいたくないんだったら、
そんなこと、言わなきゃいいのに。
でも彼女は、話し続けた。
「あの日はなんか・・・いろいろありすぎて、キャパオーバーしちゃった。ちょっと疲れも溜まってたし。でも「アーサー医師団」にサプリを微調整してもらったからもう大丈夫。疲れ知らずになるって太鼓判押されたし。今はココヒヨリっていうドリンク剤も飲んでるんだよ?ふふ」
「美和・・・さんでも、キャパオーバーになることあるんだ」
「ほとんどないけどね」
「でもあるんだ」
追い詰めたくはないんだけど、
ちゃんと理由を知りたくて、
なんかそういう言い方をしてしまって。
すると美和・・・さんは何故か、
諦めたように俺を見た。
「まぁ、私にもひとつだけ弱点があってね・・・」
「ひとつだけ?それ、すごく興味あるな。くく」
ちょっと、笑いで軽く流した方がいいような、そんな表情だったから、
俺は笑って見せた。
でも彼女の表情は・・・諦めから困った顔になった。
言葉は続けてくれたけど。
「・・・「そこ」を突かれると痛いんだな」
「そこ?」
「「そこ」が・・・死ぬほど大事、だから―――」
「・・・」
「覚悟してても人間って・・・自分ではどうしようもないことってあるよね。ふふ」
「美和さんも、普通の人間ってこと、か」
「それはそうだよ・・・私の事、なんだと思ってたの?」
「・・・普通の人とは違う・・・特別なヒト」
「それは杏くんの認識が相当間違ってるなぁ・・・じゃ、私、次に行かないと。またね」
「眼科でしょ。俺も一緒に行く」
「「そこ」が死ぬほど大事、だから」と彼女は言った。
「そこ」をもっと突っ込むと、また泣いてしまいそうな気がして聞けなかったけど。
でも「そこ」って、「彼氏」と「カレー」が含まれてる部分、だよな。
ってことは、
普通に考えたら、俺も含まれてるってこと、だよな?
・・・俺は、現在形じゃないかもしれないけれど。
眼科の実習を終え、俺は美和・・・さんと2人、実習室を出た。
「俺はこれからデイヴィッドと約束があるから・・・また」
「うん、また」
聞きたいこともちゃんと聞けなかったし、
とにかく彼女と離れるのは・・・なんかとても寂しい気がしたけど、
とりあえず俺は、デイヴィッドの待つ部屋に急いだ。
======
私と別れ、速足に病院の長い廊下を去っていく杏―――姿がだんだん小さくなっていく。
ここに通い始めてまだ一週間も経ってないけど、病院内にも知り合いが増えたみたいで、
軽く挨拶しながら通り過ぎていく。
「ねぇ、キョウってかっこいいよね」
「ホント、挨拶するとちゃんと笑顔で応えてくれるし、患者さんたちにも優しいし・・・凄く頭もいいんだって」
「知ってる!先生たちが天才だって言ってた。まだ16歳なんだって」
「え?!16歳?!でもパルドゥルース大学の医学部生で研修に来てるって」
「うん、だから天才なんだって。IQ200超えてるって言ってたよ」
「いいなー、頭が良くて優しくてカッコ良くて将来有望なんて・・・そんな人の彼女になりたいぃ。この際、年下とか関係ないし!」
「みんなそう噂してるから競争率高いよ。もちろん私も立候補するけど!」
看護師たちのそんな声が、自然と私の耳に集まってくる。
通常、アジア系の、それも日本人男性は白人女性には全く人気がないのだけど・・・
それは杏だから、特別なんだと思う。
一緒に研修に参加してる私と杏が「知り合い」ってことは知られてきていて、
杏の話を持ち出されることも多々、ある。
「彼はどういう人なのか」とか
「彼女はいるのか」とか
とりあえず私は、それにはっきり答えず、
なんとなくそこを切り抜け、逃げ去る。
勝手だけど、私が知ってる杏のことは、
私の心だけに閉まっておきたいから。
でも。
きっとこのまま行ったら・・・
杏に彼女が出来るのは時間の問題。
2人並んで、仲良く歩いているところを、
目撃してしまうのだろう。
杏はきっと――――
私にしてくれたように、
きっとその彼女にもすごく優しいんだろう。
―――――私は
それに、耐えられるのだろうか。
実は・・・
明日は4月5日。
杏の17歳の誕生日。
圭ちゃんとジェイク、レオンとサラもここ、パルドゥルースにやってくる。
杏のバースデー・パーティと称して。
圭ちゃんとカレンさん、そしてスティーブが私にそう話してくれた。
でも。
杏からは直接、その話を聞いていない。
まぁ、私はそれを言われる対象ではないとは思うけど。
本当に勝手で、
どうしようもない自分に、
怒りさえ、覚える。
こんなことじゃ・・・
これから杏に降りかかるであろうことから杏を守るには、
私は弱すぎる。
―――強く、ならなきゃ。
明日も目一杯スケジュールが詰まっている。
だから、圭ちゃんとは明後日、ゆっくりブランチをすることにした。
その日は夕方から、救急だけにしてもらったから。
圭ちゃんは、こんな私を見て、何て言うんだろう。
圭ちゃんに、はっきりと、叱ってもらいたい。
―――オマエは、だめなヤツだって。
======
「おいキョウ、聞いてんのか?」
「聞いてるよ。明日は夕方にはここに戻ってくるよ。圭さんとジェイクがわざわざ俺のために来てくれるんだし」
「レオンとサラも来るよ」
「え、そうなの?なんか・・・悪いなぁ。たかが俺の誕生日ごときで」
「カレンとデイヴィッドにも言っといたから顔出すかもな。ミワも」
そういうと、キョウはそれまでとは別の方向を見て俺に言った。
「美和さんは来ないよ」
「なんでわかるんだ?」
「だって、明日の彼女のスケジュール、フルだもん。明日の夜は救急も入ってるし」
「そうなんだ・・・それは残念だな。せっかくレオンとサラも来るのに」
「きっと彼らは別で会うよ。それより・・・」
「ん?」
「彼女、本当はもう、俺とは関わりたくないんじゃないかな」
「え?」
「彼女、大人だからさ、今日も「今度また、あのカレー食べさせてね」とか言ってたけど、たぶんできればもう、俺とは顔合わせたくないのかも」
「・・・なんで、そう思うんだ?」
「確かな理由はわかんないけど・・・俺、なんとなく彼女を追い詰めてる気がする―――顔合わせるたびに」
「そんな気がする。表情で・・・わかる」
「だから、何を言っても彼女を追い詰める気がして・・・」
「だから―――明日のことも、直接彼女には言えなかった」
「オマエはどうなんだ?」
「え?」
「彼女といると居心地悪いのか?」
あはは。
意外にも、
キョウはその俺の言葉を一笑した。
「そんな訳ないじゃん。彼女が俺のせいで泣いてたって楽しいよ。あははは」
「は?」
「関わりたくないって思って困った顔してるのを見るもの楽しい。くく」
「それはオマエ、性格悪くないか?」
「だってなんか・・・彼女、特別だろ?」
「・・・」
「でも・・・「本気で」もう俺と関わるのが嫌なんだと思ってるなら、俺も無理強いはしないよ。そこまでしたらイジメだし、彼女を泣かせるのは本意じゃない」
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