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第73章:「フローチャートV:フォルダーONE」
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************************
20XX年3月25日
正確に言うと、俺はこの日にこの日記をつけてない。
でもこの日から俺の、美和との人生が始まったから、
ここから書き始めなければならない。
************************
3月25日?
美和・・・は、やっぱり、暗号のミワ、なのか?
狂嵐の抗争に巻き込まれ、ケガをして、
美和という人の家、つまり「麻生家」の目の前で倒れていたところを、
彼女に助けてもらったらしい。
そしてその日は「偶然」にも、彼女の誕生日。
俺の日記は、
そこから始まっていた。
この、どこかの時点から過去に遡った俺の日記は、
自分でも恐ろしくなるほど詳細で膨大で・・・
ま、全てを一目で記憶してしまえる俺の能力を考えたら当然のことなのだけど、
読み進めるうちに、まだ、10000分の1も読み進めてないうちに・・・
俺はわかってしまった。
―――俺が、この美和という人を愛してた、ってことを。
3月25日は俺にとって、
最も重要な日、だったのだ。
俺はただひたすら、それを読み続けた。
一言一句、
改めて、記憶しながら。
この、美和という人の―――
言葉
表情、
行動、
それがいつ、どこで、何時に起こって、
俺がそれにどう反応したのか。
そんなことを、
ひとつひとつ、
丁寧に記した日記。
そして更に。
その時、誰が俺の傍にいてくれて、
何があって、
俺がどういうことを思い、
何をしたのか。
そんなことを詳細に綴っている。
だけど。
それでも――――
俺の記憶は戻ってこない。
これだけ詳細に書かれているのに、
読むだけで色や香りや情景が想像できるくらいなのに、
それを現実のものとして実感することができない。
ただ、なんかの小説を読んでるようにしか感じられない。
それが――――
悔しくて、たまらない。
その日記は、その美和という人と夏休みの旅行に行くところで突然終わっていた。
北米だと書いてあるから、
その時乗っていたジェットが墜落したんだろう。
なんで―――
こんなにも美和という人が大事だったのに、
なぜ俺は何も思い出せないのか・・・
バン!
俺は悔しくて、
悔しくて、
机を大きく叩いた。
何度も。
何度も。
俺のこぶしが、
赤く染まるまで。
====================
「・・・もし」
目の前に座っているミワは少し項垂れて、
でも、
テーブルに乗せている両こぶしをキツく握りしめた。
「私が杏を迎えに行ったら、どうなるのかな」
「そして――― 杏の記憶を奪ったのは私なんだと言ったら・・・?」
そう、ミワが不安になるのは当然だろう。
ミワの記憶がないキョウの前に、ミワが突然現れて、
そんなことを説明したら、
アイツはどんな反応をするんだろうか。
「俺にもわからないよ・・・キョウがどう思うか」
ここで「大丈夫、キョウならわかってくれるよ」みたいな慰めを言ったところで、
どうにかなるわけじゃない。
本当に、アイツがどう反応するのか、わからないのだから。
それにもし、
キョウが怒り狂ったら―――もしくは逆に、
キョウが何も反応しなかったら―――
ミワはどうするのだろうか。
俺は―――ミワがこれ以上苦しむ姿も、見たくない。
だが・・・
「でも、キョウに罵倒されて、前みたいな関係に仮に戻れなかったとしても、ミワはキョウに会いたいんじゃないのか?」
すると、それまで聞き役に回っていたカレンが言葉を挟んだ。
「前に・・・私、アーサーに入る前は本当に酷い思い出しかないって言ったの、覚えてる?」
「・・・うん」
「本当に・・・日常ではもう、ほとんど思い出さないわ。でも突然、その時の夢に魘されて・・・本人は忘れようとしてるのに、誰かがそれを思い出させようとするかのように・・・・それは突然やってくるの。まだ過去が私を追い回すのよ?」
「「「・・・」」」
「それってね、とてもつらいことで・・・今までは「なんで?どうしてそれは追いかけてくるの?十分に辛い思いをしたんだからもういいでしょう?」って、見えない何かに訴えるしかなかったの」
「・・・」
「でも・・・」
「でも?」
「最近こう思うようになったの・・・それは・・・私の細胞がそれを「誤って」記憶してしまってるから、じゃないかって」
「・・・」
「別の言葉で言えば、全ての真実を私が知らない・・・「真実で上書き」されてないから、じゃないかって」
真実で、上書き?
「仮に・・・ま、そんなことは私の場合はありえないけど、その、私に酷いことをした人たちが「なぜ、私にそんなことをしたのか」理由を教えてくれたら・・・ま、それでも許さないと思うけど、でも、何かが変わるんじゃないかな、って思う」
「・・・」
「それがどんな事実であったとしても、ちゃんと真実を知れば、もう過去が私を振り回すことはないんじゃないかって、思うの」
するとケイが言った。
「真実は傷を残さないよ。一時的なショックはあったとしても、人間はそれを受け止める力を持ってるんだ。でもウソやマニピュレートは深い傷を残し、それをさらに拡大させ伝染させる・・・そうだよな、カレンちゃん」
「そう・・・それを「アーサー」に教えてもらったの」
カレンが俺を見て・・・微笑んだ。
その笑顔を見て・・・
カレンにいつか、
その真実を知ることが出来る時が来るとしたら・・・
俺がその時はカレンの傍にいたい、って思った。
そして。
俺もいつか、この気持ちをちゃんと伝えよう、って。
別にカレンがどう、ってことじゃなくて。
俺の、真実の気持ち、として。
「ミワ」
「ん」
「別に急ぐ必要はないよ。でも時期が来たら・・・真実をキョウに伝えてやってほしい。アイツのために」
すると。
ミワは言った。
「・・・約束する・・・絶対に」
隣にいたカレンが、ミワをキツく抱きしめた。
20XX年3月25日
正確に言うと、俺はこの日にこの日記をつけてない。
でもこの日から俺の、美和との人生が始まったから、
ここから書き始めなければならない。
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3月25日?
美和・・・は、やっぱり、暗号のミワ、なのか?
狂嵐の抗争に巻き込まれ、ケガをして、
美和という人の家、つまり「麻生家」の目の前で倒れていたところを、
彼女に助けてもらったらしい。
そしてその日は「偶然」にも、彼女の誕生日。
俺の日記は、
そこから始まっていた。
この、どこかの時点から過去に遡った俺の日記は、
自分でも恐ろしくなるほど詳細で膨大で・・・
ま、全てを一目で記憶してしまえる俺の能力を考えたら当然のことなのだけど、
読み進めるうちに、まだ、10000分の1も読み進めてないうちに・・・
俺はわかってしまった。
―――俺が、この美和という人を愛してた、ってことを。
3月25日は俺にとって、
最も重要な日、だったのだ。
俺はただひたすら、それを読み続けた。
一言一句、
改めて、記憶しながら。
この、美和という人の―――
言葉
表情、
行動、
それがいつ、どこで、何時に起こって、
俺がそれにどう反応したのか。
そんなことを、
ひとつひとつ、
丁寧に記した日記。
そして更に。
その時、誰が俺の傍にいてくれて、
何があって、
俺がどういうことを思い、
何をしたのか。
そんなことを詳細に綴っている。
だけど。
それでも――――
俺の記憶は戻ってこない。
これだけ詳細に書かれているのに、
読むだけで色や香りや情景が想像できるくらいなのに、
それを現実のものとして実感することができない。
ただ、なんかの小説を読んでるようにしか感じられない。
それが――――
悔しくて、たまらない。
その日記は、その美和という人と夏休みの旅行に行くところで突然終わっていた。
北米だと書いてあるから、
その時乗っていたジェットが墜落したんだろう。
なんで―――
こんなにも美和という人が大事だったのに、
なぜ俺は何も思い出せないのか・・・
バン!
俺は悔しくて、
悔しくて、
机を大きく叩いた。
何度も。
何度も。
俺のこぶしが、
赤く染まるまで。
====================
「・・・もし」
目の前に座っているミワは少し項垂れて、
でも、
テーブルに乗せている両こぶしをキツく握りしめた。
「私が杏を迎えに行ったら、どうなるのかな」
「そして――― 杏の記憶を奪ったのは私なんだと言ったら・・・?」
そう、ミワが不安になるのは当然だろう。
ミワの記憶がないキョウの前に、ミワが突然現れて、
そんなことを説明したら、
アイツはどんな反応をするんだろうか。
「俺にもわからないよ・・・キョウがどう思うか」
ここで「大丈夫、キョウならわかってくれるよ」みたいな慰めを言ったところで、
どうにかなるわけじゃない。
本当に、アイツがどう反応するのか、わからないのだから。
それにもし、
キョウが怒り狂ったら―――もしくは逆に、
キョウが何も反応しなかったら―――
ミワはどうするのだろうか。
俺は―――ミワがこれ以上苦しむ姿も、見たくない。
だが・・・
「でも、キョウに罵倒されて、前みたいな関係に仮に戻れなかったとしても、ミワはキョウに会いたいんじゃないのか?」
すると、それまで聞き役に回っていたカレンが言葉を挟んだ。
「前に・・・私、アーサーに入る前は本当に酷い思い出しかないって言ったの、覚えてる?」
「・・・うん」
「本当に・・・日常ではもう、ほとんど思い出さないわ。でも突然、その時の夢に魘されて・・・本人は忘れようとしてるのに、誰かがそれを思い出させようとするかのように・・・・それは突然やってくるの。まだ過去が私を追い回すのよ?」
「「「・・・」」」
「それってね、とてもつらいことで・・・今までは「なんで?どうしてそれは追いかけてくるの?十分に辛い思いをしたんだからもういいでしょう?」って、見えない何かに訴えるしかなかったの」
「・・・」
「でも・・・」
「でも?」
「最近こう思うようになったの・・・それは・・・私の細胞がそれを「誤って」記憶してしまってるから、じゃないかって」
「・・・」
「別の言葉で言えば、全ての真実を私が知らない・・・「真実で上書き」されてないから、じゃないかって」
真実で、上書き?
「仮に・・・ま、そんなことは私の場合はありえないけど、その、私に酷いことをした人たちが「なぜ、私にそんなことをしたのか」理由を教えてくれたら・・・ま、それでも許さないと思うけど、でも、何かが変わるんじゃないかな、って思う」
「・・・」
「それがどんな事実であったとしても、ちゃんと真実を知れば、もう過去が私を振り回すことはないんじゃないかって、思うの」
するとケイが言った。
「真実は傷を残さないよ。一時的なショックはあったとしても、人間はそれを受け止める力を持ってるんだ。でもウソやマニピュレートは深い傷を残し、それをさらに拡大させ伝染させる・・・そうだよな、カレンちゃん」
「そう・・・それを「アーサー」に教えてもらったの」
カレンが俺を見て・・・微笑んだ。
その笑顔を見て・・・
カレンにいつか、
その真実を知ることが出来る時が来るとしたら・・・
俺がその時はカレンの傍にいたい、って思った。
そして。
俺もいつか、この気持ちをちゃんと伝えよう、って。
別にカレンがどう、ってことじゃなくて。
俺の、真実の気持ち、として。
「ミワ」
「ん」
「別に急ぐ必要はないよ。でも時期が来たら・・・真実をキョウに伝えてやってほしい。アイツのために」
すると。
ミワは言った。
「・・・約束する・・・絶対に」
隣にいたカレンが、ミワをキツく抱きしめた。
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