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第72章:「フローチャートIV:扉の中」
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フォルダーをクリックすると・・・
中には更に、3つのフォルダーがあった。
でも一つだけ、それとは別に、
ドキュメントらしきものがある。
「これを先に読め、ってことか?」
俺はそれをダブルクリックする。
1ページ目にはこんなことが書かれていた。
********************
ここまでたどり着いたんだから、もうわかってるだろ?
これは杏、
オマエが自分自身で、
自分のために残したものだ。
元の道に戻るために、残したものだ。
全部読んで、全部自分に植えつけろ。
ここに残してあるのは全部、
オマエが思い出さなきゃいけないものだ。
オマエが忘れたくなかったもの、
一番大事にしてたもの。
なによりも、大事にしてたもの。
これを読んでるってことは、
その大事な記憶が消えてる、ってこと。
オマエはそれを避けるために、この仕組みを構築したんだ。
この全てを、思い出すために。
全部読んで、全部思い出せ。
仮にいますぐに思い出せなくても、これを残した自分を信じろ。
ここにあるのは全て真実だ。
どうしても、何が起こったとしても、これらを忘れたくなかった自分を信じろ。
疑うな。
惑わされるな。
いまのオマエは何もわかっちゃいない。
いまのオマエは幻想を彷徨ってるだけだ。
ちゃんと真実と向き合え。
全ての記憶がある、これを必死で残した過去のオマエを信じろ。
美和と一緒にいるオマエが真実だ。
何があっても、美和に会うまでは絶対に諦めるな。
ただ、ひたすら、美和のところへ向かえ。
********************
美和・・・ミワ?
俺は――――。
1と付いているフォルダーを開いた。
===================
明後日・・・そんなに急なのか。
まぁ、国家試験までの残された期間を考えれば、すぐにでも移りたいのは当然だろうけど。
事前に俺が何かできる時間はほとんどないに等しいな。
何が・・・出来るとも思えないが。
「明後日なら・・・俺と一緒に来るか?その予定だったし。ケイはどうする?どうせキョウの誕生日にはパルドゥルースに来るつもりだったんだろ?」
「俺は仕事があるから一度日本に戻るよ。5日にはそっちに行くから」
「美和ちゃん、どうする?スティーブと一緒にZ部隊に送ってもらう?」
「そう、だね・・・Z部隊、二度手間にならないしね」
「荷物運ぶのも手伝ってもらえるしね?ふふ」
「ふふ」
そんな風に話ができるってことは、
レオンが言ってた「ミワがアーサーを抜けようとしてる」っていうのはデマなのか?
アイツが嘘を吐くはずがないけど。
「ミワ、聞きたいことがあるんだけどさ」
「ん」
「オマエ、アーサーを抜けたいのか?」
「はぁ?」
ケイが驚くのは当然だ。
そんなこと、不可能なのだから。
「スティーブ、おまえアホか?どこのデマだよ?な、美和ちゃん?」
「ん・・・と」
「なんだよ美和ちゃん、はっきり言えよ?」
「そう、レオンとサラに言ったのは確か」
「はぁ?!なんでだよ?そんなの無理だし健ちゃんのことだって・・・」
「うん、わかってる。でもそれも踏まえて、それが可能かどうか、レオンとサラに聞いたの」
「なんでだ?」
「私の記憶も抜いてもらいたいな、って・・・思ってしまって・・・」
「「「・・・」」」
「そんなこと言える立場じゃないことはわかってるから。本当にごめんなさい」
「・・・じゃ、もうそんなことは言わないんだな?」
「うん・・・大丈夫。あの時はちょっと・・・心が弱ってて・・・」
「・・・美和ちゃん」
当然のことだが・・・
ミワは苦しんでいる。
苦しみ続けている。
そして、
きっとこの先もずっと、
苦しみ続けるのだろう。
罪悪感に苛まれて。
そう、思ったら―――
言うつもりのなかったことが、
口先から滑り落ちた。
「ミワ・・・キョウを迎えに行かないのか?」
「・・・」
「アイツ、記憶もないのに言ったんだよ。「どこかに、帰りたい場所がある気がする」って」
「「「家」を、家族でいっぱいにしたい」って。「血が繋がってなくても家族って呼べるような人達でいっぱいにしたい」って」
その俺の言葉に、ケイが続けた。
「美和ちゃんも会いたいだろ、杏に・・・」
「・・・」
「記憶がなくても、アイツのカラダは・・・細胞は全部覚えてる。アイツは、アイツの細胞はきっとその、「帰りたい場所」を求めて一生彷徨うよ・・・それが見つかるまで」
ミワは・・・
涙を零した。
「生きてるとさ、いろんなことがあるよ。予想もしないことが次々起こるし、自分ではどうにもならないことの方が多いし、人間だから間違いだって犯す」
「・・・」
「この年になっても、未だに人生がなんなのか、何の意味があるのか、俺にはわからない。辛いことだらけの人生なら生きる意味があるのか、って自問自答する時だって多々あるし」
その言葉で、
ミワが顔を上げた。
「・・・圭ちゃんでも?」
「そりゃそうだよ。俺だって迷ってばかりさ。でも最終的には自分の心に素直に従うよ―――それしか、出来ないからね」
ケイが笑うと、ミワも少し微笑んだ。
だから俺も言った。
「そんな苦しい時なんて、今までオマエにはなかっただろ?ミワの前だからって、何カッコつけてんだよ?俺たち、何十年一緒にいると思ってんだ?」
「うるせぇな、あるんだよ、そういう時だって。オマエに言わねぇだけだ」
「じゃ、ま、今度からは俺に言えよ。なんとかしてやっから」
「オマエみたいな単細胞な奴に、俺の気持ちが理解できるわけねぇだろが」
「俺のどこがだよ?単細胞なのはジェイクだろ?」
「オマエもだよ。「アーサー」の所長をレオンに譲ったときとか、あまりにあっさりしすぎて、俺とジェイクは笑うしかなかったからな」
「俺はちゃんとわかってんだよ、自分の事を。それだけだろ?」
「もー、こんなところで子供みたいにケンカするの、辞めてもらえます?ふふ」
カレンのその一言で、俺とケイは黙った。
でもすぐに、ケイはミワの目を見て言った。
「コイツのせいで話が逸れたけど・・・」
「うるせぇな」
「この先もしかしたら、今まで俺がしてきた決断で、俺が後悔することがたくさん出てくるかもしれないけど、でもな、2つだけ、絶対に後悔しないだろうなって確信できることがあるんだよ」
「・・・なに?」
「昌太郎と孝太郎、そして杏を、自分の家族に出来たこと」
「・・・」
「あと、アーサーのメンバーになって、みんなと出会えたこと、だよ・・・この先、俺たちにどんな未来が待ってたとしても」
中には更に、3つのフォルダーがあった。
でも一つだけ、それとは別に、
ドキュメントらしきものがある。
「これを先に読め、ってことか?」
俺はそれをダブルクリックする。
1ページ目にはこんなことが書かれていた。
********************
ここまでたどり着いたんだから、もうわかってるだろ?
これは杏、
オマエが自分自身で、
自分のために残したものだ。
元の道に戻るために、残したものだ。
全部読んで、全部自分に植えつけろ。
ここに残してあるのは全部、
オマエが思い出さなきゃいけないものだ。
オマエが忘れたくなかったもの、
一番大事にしてたもの。
なによりも、大事にしてたもの。
これを読んでるってことは、
その大事な記憶が消えてる、ってこと。
オマエはそれを避けるために、この仕組みを構築したんだ。
この全てを、思い出すために。
全部読んで、全部思い出せ。
仮にいますぐに思い出せなくても、これを残した自分を信じろ。
ここにあるのは全て真実だ。
どうしても、何が起こったとしても、これらを忘れたくなかった自分を信じろ。
疑うな。
惑わされるな。
いまのオマエは何もわかっちゃいない。
いまのオマエは幻想を彷徨ってるだけだ。
ちゃんと真実と向き合え。
全ての記憶がある、これを必死で残した過去のオマエを信じろ。
美和と一緒にいるオマエが真実だ。
何があっても、美和に会うまでは絶対に諦めるな。
ただ、ひたすら、美和のところへ向かえ。
********************
美和・・・ミワ?
俺は――――。
1と付いているフォルダーを開いた。
===================
明後日・・・そんなに急なのか。
まぁ、国家試験までの残された期間を考えれば、すぐにでも移りたいのは当然だろうけど。
事前に俺が何かできる時間はほとんどないに等しいな。
何が・・・出来るとも思えないが。
「明後日なら・・・俺と一緒に来るか?その予定だったし。ケイはどうする?どうせキョウの誕生日にはパルドゥルースに来るつもりだったんだろ?」
「俺は仕事があるから一度日本に戻るよ。5日にはそっちに行くから」
「美和ちゃん、どうする?スティーブと一緒にZ部隊に送ってもらう?」
「そう、だね・・・Z部隊、二度手間にならないしね」
「荷物運ぶのも手伝ってもらえるしね?ふふ」
「ふふ」
そんな風に話ができるってことは、
レオンが言ってた「ミワがアーサーを抜けようとしてる」っていうのはデマなのか?
アイツが嘘を吐くはずがないけど。
「ミワ、聞きたいことがあるんだけどさ」
「ん」
「オマエ、アーサーを抜けたいのか?」
「はぁ?」
ケイが驚くのは当然だ。
そんなこと、不可能なのだから。
「スティーブ、おまえアホか?どこのデマだよ?な、美和ちゃん?」
「ん・・・と」
「なんだよ美和ちゃん、はっきり言えよ?」
「そう、レオンとサラに言ったのは確か」
「はぁ?!なんでだよ?そんなの無理だし健ちゃんのことだって・・・」
「うん、わかってる。でもそれも踏まえて、それが可能かどうか、レオンとサラに聞いたの」
「なんでだ?」
「私の記憶も抜いてもらいたいな、って・・・思ってしまって・・・」
「「「・・・」」」
「そんなこと言える立場じゃないことはわかってるから。本当にごめんなさい」
「・・・じゃ、もうそんなことは言わないんだな?」
「うん・・・大丈夫。あの時はちょっと・・・心が弱ってて・・・」
「・・・美和ちゃん」
当然のことだが・・・
ミワは苦しんでいる。
苦しみ続けている。
そして、
きっとこの先もずっと、
苦しみ続けるのだろう。
罪悪感に苛まれて。
そう、思ったら―――
言うつもりのなかったことが、
口先から滑り落ちた。
「ミワ・・・キョウを迎えに行かないのか?」
「・・・」
「アイツ、記憶もないのに言ったんだよ。「どこかに、帰りたい場所がある気がする」って」
「「「家」を、家族でいっぱいにしたい」って。「血が繋がってなくても家族って呼べるような人達でいっぱいにしたい」って」
その俺の言葉に、ケイが続けた。
「美和ちゃんも会いたいだろ、杏に・・・」
「・・・」
「記憶がなくても、アイツのカラダは・・・細胞は全部覚えてる。アイツは、アイツの細胞はきっとその、「帰りたい場所」を求めて一生彷徨うよ・・・それが見つかるまで」
ミワは・・・
涙を零した。
「生きてるとさ、いろんなことがあるよ。予想もしないことが次々起こるし、自分ではどうにもならないことの方が多いし、人間だから間違いだって犯す」
「・・・」
「この年になっても、未だに人生がなんなのか、何の意味があるのか、俺にはわからない。辛いことだらけの人生なら生きる意味があるのか、って自問自答する時だって多々あるし」
その言葉で、
ミワが顔を上げた。
「・・・圭ちゃんでも?」
「そりゃそうだよ。俺だって迷ってばかりさ。でも最終的には自分の心に素直に従うよ―――それしか、出来ないからね」
ケイが笑うと、ミワも少し微笑んだ。
だから俺も言った。
「そんな苦しい時なんて、今までオマエにはなかっただろ?ミワの前だからって、何カッコつけてんだよ?俺たち、何十年一緒にいると思ってんだ?」
「うるせぇな、あるんだよ、そういう時だって。オマエに言わねぇだけだ」
「じゃ、ま、今度からは俺に言えよ。なんとかしてやっから」
「オマエみたいな単細胞な奴に、俺の気持ちが理解できるわけねぇだろが」
「俺のどこがだよ?単細胞なのはジェイクだろ?」
「オマエもだよ。「アーサー」の所長をレオンに譲ったときとか、あまりにあっさりしすぎて、俺とジェイクは笑うしかなかったからな」
「俺はちゃんとわかってんだよ、自分の事を。それだけだろ?」
「もー、こんなところで子供みたいにケンカするの、辞めてもらえます?ふふ」
カレンのその一言で、俺とケイは黙った。
でもすぐに、ケイはミワの目を見て言った。
「コイツのせいで話が逸れたけど・・・」
「うるせぇな」
「この先もしかしたら、今まで俺がしてきた決断で、俺が後悔することがたくさん出てくるかもしれないけど、でもな、2つだけ、絶対に後悔しないだろうなって確信できることがあるんだよ」
「・・・なに?」
「昌太郎と孝太郎、そして杏を、自分の家族に出来たこと」
「・・・」
「あと、アーサーのメンバーになって、みんなと出会えたこと、だよ・・・この先、俺たちにどんな未来が待ってたとしても」
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