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第61章:「レオンの理由」
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パルドゥルース大学にある、厳重にロックされている「アーサー」部屋。
キョウがデイヴィッドの指導を受けてる間に、
俺はこの部屋に潜り込んだ。
「地球上」には、
ここや、日本にある「研究所」のように、
いわゆる「アーサー」の出張所、拠点、が
いくつかある。
廊下からは、他と変わらない研究室にしか見えないこの部屋だけど、
一歩中に入ればそこはかなり広い空間で、
更にいくつもの部屋に分かれている。
俺はその一番奥にあるドアの前に立ち、
赤い光が俺をスキャンし終えるのを静かに待った。
赤い光がすーっと消えたと同時に、
目の前のシルバーのドアが横に開く。
数えきれない位のモニターのど真ん中にある、
少し大きめのモニターに映し出されているのは
「アーサー」の現所長、レオンだ。
「キョウがオマエとサラに会いたいって言ってるんだ」
これが、今日俺がこの部屋に来た目的。
俺は正直、レオンがその言葉に多少驚くと思っていた。
だからちゃんとした場所で
どうレオンが対応するのか、
聞いた方がいいなって。
だが実際は違った。
「ん、そろそろだと思ってたよ。サラも、そろそろキョウが連絡してくるんじゃないかって呟いてたし」
「どういう意味だ?」
「言ったでしょう?できるだけ「アーサー」の記憶は残したって。まだ「アーサー」のことは思い出せないかも知れないけど、断片が残ってたらそれを「アーサー」でつないであげればいいだけだから・・・心配しなくても今よりはだいぶ記憶が戻ると思うよ。「アーサーの記憶は」だけどね」
「つまり・・・最初からそのつもりで「アーサーの記憶」を出来るだけ残したってことか?仮に断片的なモノだけが残ったとしても、後で繋げばいいって?」
「そうだよ」
「何のためだ?どうしてそこだけミワの意見に反した?それもアイツに内緒で・・・それになんで「そろそろだ」ってわかったんだ?」
「だってキョウは入院してた時にボク達とは会ってるわけだし、仮にボク達が誰なのかを覚えてなかったとしても、「何かを探す手掛かり」として「キョウを前から知ってる」ボク達のところに来るのは当然の流れだよ。特に「あまりに近い」スティーブやケイに聞けない事についてはね」
「・・・」
「それに、カラダの方はもう完全に戻ったし、パルドゥルースで精神的にもだいぶ落ち着いてきた。IQもまた伸び始めてるし、この間の妙な動きも気になるし・・・ま、「次の段階」に移るタイミングだよね」
「やっぱりそうか」
「やっぱり、って?」
「IQ、伸びてるんだ」
「あぁ、軽く200越え。どこまで行くんだろうね。怖いなぁ。あんな数値、ボクいままで見たことないよ。くく。ね、スティーブ知ってる?」
「なにをだ?」
「IQってね、高くなればなるほど、少し違うだけで全然違うんだよ?」
「そうなのか?」
「うん。だから仮にボクとスティーブのレベルでIQが数値的に5しか違わなくても、実際の能力は全然違う」
「ってことは、キョウの能力はオマエと比べても全然違うってことか?」
「うん、遥かにキョウの方が凄いよ。ただボクと違うのは、キョウはまだその能力を全然意識的に使ってないってこと。恐ろしいよね。あはは」
「たしかに・・・特に最近は驚愕するものがあるよ、キョウの能力は。でもその「全然意識的に使ってない」っていうのはどういう意味だ?」
「そのままだよ。例えばキョウは一目で全てを記憶できる能力を持ってるよね?」
「あぁ」
「だけどキョウは、記憶してるはずなのに知らないように振舞うことがあるでしょう?」
「たしかにな・・・それが俺にもよくわからない部分なんだけど。たまにアイツ変な事言うからさ。この間も、ウチにあるガジュマルのプラント見て、「あれ?こいつ前からウチにいたっけ?」みたいなこと言うし・・・。目にしたものを自動で記憶してるなら、ガジュマルも記憶してるはずだろ?」
「うん、そういうことなんだよ。別にキョウは嘘を吐いてる訳じゃない。キョウの中に全ては記憶されてるんだけど、キョウはそれを放置してる状態なんだ」
「なるほどね。だけど例えば、医学書なんかは自分からアクセスしてるから、全て表面上に現れてるってことか」
「そういうこと」
「で・・・オマエ、なに考えてる?なんでキョウの「アーサーの記憶」だけ残した?キョウの事に関しては俺に従うって約束したんだ。俺にはちゃんと説明しろ」
「わかってる。けど、スティーブ」
「なんだよ?」
「どうも・・・スティーブもケイもジェイクも、まぁキョウはもちろんなんだけど・・・ケンやミワの事については個人的なキモチで動いてる事が多いよね。キモチが入り過ぎっていうか、周りが見えなく位にさ・・・それはそれでいいとは思うんだけど。ボクも同じキモチ、あるしね・・・」
レオンはなぜか、真っ直ぐに俺の問いに答えようとしない。
何が言いたい?
「まぁ、「麻生家」は「アーサー」や「新しいの地球」の「カギ」だから、そういう気持ちで動いてもらってても、全く問題はないんだけど」
「そんなことわかりきった事だろう?いまさら何いってんだ。何が言いたいんだよ?」
「ボクが言いたいのは・・・こんだけボクに近い、所謂「アーサー」の中心メンバーでさえ、肝心なことを見過ごしてる、ってことだよ」
「どういうことだ?」
「ボクは「アーサー」の所長だよ?スティーブも所長だったんだからわかると思うけど、ボクの言いたい事」
「・・・」
「ミワが「自分と麻生家とアーサーの記憶を全てキョウから抜いて欲しい」って泣きながらボクに懇願したのはさ・・・そうだよ、それは勿論ミワがキョウを愛してるからだよ。愛してるから、危険から彼を守りたかったからだし、今ならまだ「一般人」に戻してあげられるって思ったからだ。まだ「外部」はキョウの存在に気付いてないからね」
「あぁ」
「でもさ、わかってないよミワは・・・っていうか、認める事を恐れたんだと思うけど」
「何を?」
「キョウは・・・ミワ個人のモノじゃないってことを、だよ」
「・・・」
「タダの「アーサー」でもない」
「・・・」
「ボクやスティーブがもう二度と「アーサーではない自分」に戻れないように、キョウもまた、普通の人生にはもう戻れないんだよ」
「でも、アイツは「アーサー」のトップじゃないし、「外部」にもまだ漏れてないし、ましてや正式な「アーサーメンバー」でもないじゃないか」
「スティーブ、それ、まさか本気で言ってないよね?キョウの能力を知ってて、冗談でしょう?仮に自分が今、アーサーの所長だって立場で考えてみてよ?」
「・・・」
「キョウはもう「新しい地球」のモノだよ」
「・・・」
「アーサーのモノでもない」
「・・・」
「だから、ましてや、「破滅に向かっている地球上」にキョウを戻すわけなんていくわけないじゃないか。仮に戻して野放しにでもしたら、「ヤツら」がキョウをマニピュレートして使うかもしない。キョウはあまりにも純粋だ。それにマニピュレートされなくても、もしかしたらキョウが自分の力に気づいて、キョウ一人で戦わなければならない状況が生まれるかもしれない。そんなことはボクが絶対にさせない」
「オマエ・・・まさか、それ・・・最初からわかってて・・・?」
「そうだよ。だからキョウは「アーサーメンバー」じゃないんだよ」
はぁ。
俺は軽くため息をついた。
つまり。
「アーサー」所長としてのレオンは、キョウを最初から「守る目的」で近くに置いていた、ということ。
―――「新しい地球」のために。
「ミワと麻生家」という名目で、
「アーサーメンバー」としてでなくキョウを育ててこれたのは、
「アーサー」にとっても好都合だったってこと、か。
「ってことは、ミワや麻生家のことがなくても、キョウを保護したってことか?」
「ミワなしでも、今のキョウの能力が開花してたらね」
「それはありえないだろう?」
「ないと思うな。これは「宿命」だから」
「同期、してるから、だよな?」
「ま、そうともいえるし、そうじゃないとも言える、んじゃないかな・・・その辺はまだボクには確信はない」
「・・・」
「けど、仮に同期が全く影響を与えていなかったとしても、一度キョウがミワに会ってしまったら、その能力を開花させていたと思うよ・・・キョウはミワのためならなんでもやるからね」
「・・・」
「でもキョウに「アーサー」の記憶を出来るだけ残した、一番の理由は―――」
「まだあるのか?!」
「・・・ま、これはまた改めて話すよ。ミワのいるところで、時期をみて、さ」
「それは、いま俺が知らなくてもいいことなんだな?」
「うん、全く必要ない」
「そうか・・・ま、そこまで言われたらオマエを信じるけどな。で?キョウに会ったらどうするんだ?」
「ま、当初のプランからは変わっちゃったけど、普通に「アーサー」に歓誘するよ。そしたら勝手に、キョウの頭の中で記憶の断片が繋がって行くと思うからね」
キョウがデイヴィッドの指導を受けてる間に、
俺はこの部屋に潜り込んだ。
「地球上」には、
ここや、日本にある「研究所」のように、
いわゆる「アーサー」の出張所、拠点、が
いくつかある。
廊下からは、他と変わらない研究室にしか見えないこの部屋だけど、
一歩中に入ればそこはかなり広い空間で、
更にいくつもの部屋に分かれている。
俺はその一番奥にあるドアの前に立ち、
赤い光が俺をスキャンし終えるのを静かに待った。
赤い光がすーっと消えたと同時に、
目の前のシルバーのドアが横に開く。
数えきれない位のモニターのど真ん中にある、
少し大きめのモニターに映し出されているのは
「アーサー」の現所長、レオンだ。
「キョウがオマエとサラに会いたいって言ってるんだ」
これが、今日俺がこの部屋に来た目的。
俺は正直、レオンがその言葉に多少驚くと思っていた。
だからちゃんとした場所で
どうレオンが対応するのか、
聞いた方がいいなって。
だが実際は違った。
「ん、そろそろだと思ってたよ。サラも、そろそろキョウが連絡してくるんじゃないかって呟いてたし」
「どういう意味だ?」
「言ったでしょう?できるだけ「アーサー」の記憶は残したって。まだ「アーサー」のことは思い出せないかも知れないけど、断片が残ってたらそれを「アーサー」でつないであげればいいだけだから・・・心配しなくても今よりはだいぶ記憶が戻ると思うよ。「アーサーの記憶は」だけどね」
「つまり・・・最初からそのつもりで「アーサーの記憶」を出来るだけ残したってことか?仮に断片的なモノだけが残ったとしても、後で繋げばいいって?」
「そうだよ」
「何のためだ?どうしてそこだけミワの意見に反した?それもアイツに内緒で・・・それになんで「そろそろだ」ってわかったんだ?」
「だってキョウは入院してた時にボク達とは会ってるわけだし、仮にボク達が誰なのかを覚えてなかったとしても、「何かを探す手掛かり」として「キョウを前から知ってる」ボク達のところに来るのは当然の流れだよ。特に「あまりに近い」スティーブやケイに聞けない事についてはね」
「・・・」
「それに、カラダの方はもう完全に戻ったし、パルドゥルースで精神的にもだいぶ落ち着いてきた。IQもまた伸び始めてるし、この間の妙な動きも気になるし・・・ま、「次の段階」に移るタイミングだよね」
「やっぱりそうか」
「やっぱり、って?」
「IQ、伸びてるんだ」
「あぁ、軽く200越え。どこまで行くんだろうね。怖いなぁ。あんな数値、ボクいままで見たことないよ。くく。ね、スティーブ知ってる?」
「なにをだ?」
「IQってね、高くなればなるほど、少し違うだけで全然違うんだよ?」
「そうなのか?」
「うん。だから仮にボクとスティーブのレベルでIQが数値的に5しか違わなくても、実際の能力は全然違う」
「ってことは、キョウの能力はオマエと比べても全然違うってことか?」
「うん、遥かにキョウの方が凄いよ。ただボクと違うのは、キョウはまだその能力を全然意識的に使ってないってこと。恐ろしいよね。あはは」
「たしかに・・・特に最近は驚愕するものがあるよ、キョウの能力は。でもその「全然意識的に使ってない」っていうのはどういう意味だ?」
「そのままだよ。例えばキョウは一目で全てを記憶できる能力を持ってるよね?」
「あぁ」
「だけどキョウは、記憶してるはずなのに知らないように振舞うことがあるでしょう?」
「たしかにな・・・それが俺にもよくわからない部分なんだけど。たまにアイツ変な事言うからさ。この間も、ウチにあるガジュマルのプラント見て、「あれ?こいつ前からウチにいたっけ?」みたいなこと言うし・・・。目にしたものを自動で記憶してるなら、ガジュマルも記憶してるはずだろ?」
「うん、そういうことなんだよ。別にキョウは嘘を吐いてる訳じゃない。キョウの中に全ては記憶されてるんだけど、キョウはそれを放置してる状態なんだ」
「なるほどね。だけど例えば、医学書なんかは自分からアクセスしてるから、全て表面上に現れてるってことか」
「そういうこと」
「で・・・オマエ、なに考えてる?なんでキョウの「アーサーの記憶」だけ残した?キョウの事に関しては俺に従うって約束したんだ。俺にはちゃんと説明しろ」
「わかってる。けど、スティーブ」
「なんだよ?」
「どうも・・・スティーブもケイもジェイクも、まぁキョウはもちろんなんだけど・・・ケンやミワの事については個人的なキモチで動いてる事が多いよね。キモチが入り過ぎっていうか、周りが見えなく位にさ・・・それはそれでいいとは思うんだけど。ボクも同じキモチ、あるしね・・・」
レオンはなぜか、真っ直ぐに俺の問いに答えようとしない。
何が言いたい?
「まぁ、「麻生家」は「アーサー」や「新しいの地球」の「カギ」だから、そういう気持ちで動いてもらってても、全く問題はないんだけど」
「そんなことわかりきった事だろう?いまさら何いってんだ。何が言いたいんだよ?」
「ボクが言いたいのは・・・こんだけボクに近い、所謂「アーサー」の中心メンバーでさえ、肝心なことを見過ごしてる、ってことだよ」
「どういうことだ?」
「ボクは「アーサー」の所長だよ?スティーブも所長だったんだからわかると思うけど、ボクの言いたい事」
「・・・」
「ミワが「自分と麻生家とアーサーの記憶を全てキョウから抜いて欲しい」って泣きながらボクに懇願したのはさ・・・そうだよ、それは勿論ミワがキョウを愛してるからだよ。愛してるから、危険から彼を守りたかったからだし、今ならまだ「一般人」に戻してあげられるって思ったからだ。まだ「外部」はキョウの存在に気付いてないからね」
「あぁ」
「でもさ、わかってないよミワは・・・っていうか、認める事を恐れたんだと思うけど」
「何を?」
「キョウは・・・ミワ個人のモノじゃないってことを、だよ」
「・・・」
「タダの「アーサー」でもない」
「・・・」
「ボクやスティーブがもう二度と「アーサーではない自分」に戻れないように、キョウもまた、普通の人生にはもう戻れないんだよ」
「でも、アイツは「アーサー」のトップじゃないし、「外部」にもまだ漏れてないし、ましてや正式な「アーサーメンバー」でもないじゃないか」
「スティーブ、それ、まさか本気で言ってないよね?キョウの能力を知ってて、冗談でしょう?仮に自分が今、アーサーの所長だって立場で考えてみてよ?」
「・・・」
「キョウはもう「新しい地球」のモノだよ」
「・・・」
「アーサーのモノでもない」
「・・・」
「だから、ましてや、「破滅に向かっている地球上」にキョウを戻すわけなんていくわけないじゃないか。仮に戻して野放しにでもしたら、「ヤツら」がキョウをマニピュレートして使うかもしない。キョウはあまりにも純粋だ。それにマニピュレートされなくても、もしかしたらキョウが自分の力に気づいて、キョウ一人で戦わなければならない状況が生まれるかもしれない。そんなことはボクが絶対にさせない」
「オマエ・・・まさか、それ・・・最初からわかってて・・・?」
「そうだよ。だからキョウは「アーサーメンバー」じゃないんだよ」
はぁ。
俺は軽くため息をついた。
つまり。
「アーサー」所長としてのレオンは、キョウを最初から「守る目的」で近くに置いていた、ということ。
―――「新しい地球」のために。
「ミワと麻生家」という名目で、
「アーサーメンバー」としてでなくキョウを育ててこれたのは、
「アーサー」にとっても好都合だったってこと、か。
「ってことは、ミワや麻生家のことがなくても、キョウを保護したってことか?」
「ミワなしでも、今のキョウの能力が開花してたらね」
「それはありえないだろう?」
「ないと思うな。これは「宿命」だから」
「同期、してるから、だよな?」
「ま、そうともいえるし、そうじゃないとも言える、んじゃないかな・・・その辺はまだボクには確信はない」
「・・・」
「けど、仮に同期が全く影響を与えていなかったとしても、一度キョウがミワに会ってしまったら、その能力を開花させていたと思うよ・・・キョウはミワのためならなんでもやるからね」
「・・・」
「でもキョウに「アーサー」の記憶を出来るだけ残した、一番の理由は―――」
「まだあるのか?!」
「・・・ま、これはまた改めて話すよ。ミワのいるところで、時期をみて、さ」
「それは、いま俺が知らなくてもいいことなんだな?」
「うん、全く必要ない」
「そうか・・・ま、そこまで言われたらオマエを信じるけどな。で?キョウに会ったらどうするんだ?」
「ま、当初のプランからは変わっちゃったけど、普通に「アーサー」に歓誘するよ。そしたら勝手に、キョウの頭の中で記憶の断片が繋がって行くと思うからね」
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