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たいけみお

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第59章: 「突破口」

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だめだ。

どうしても、思い出せない・・・



「アーサー」




正月に3人の会話から偶然に耳にしたこの単語。

自分の、不完全な記憶の中で、その意味を一生懸命手繰り寄せようとしているけど・・・どうしても、思い出せない。

あれから2カ月近く、経とうとしてるというのに。



いわゆる、

自分でも理解できないような、特殊な能力・・・


つまり、

記憶力や語学力、その他の能力、

そのエネルギーが加速度を上げて、

自分の中で急速に発達してるのが自分でもわかるから、



正直、

「アーサー」の意味も、

近いうちに思い出すんじゃないかと

俺は軽く考えていたところがあったのかもしれない。



でも。

そうじゃなかった。


他の事はどんどん出来るようになっているのに、

この単語だけが

どうしても思い出せない。



いや、

きっと本当は、

他にも大事なことをたくさん忘れているんだと思う。


でも、

今の俺には、

自分が何を忘れているのかがわからない―――

「アーサー」それ以外は。




どうしても思い出したい。

でも

思い出せない。



それが

その状況が

俺をすごく焦らせる。




突破口。

それをまず見つける必要がある。


「アーサー」のことを思い出したら、

他にも自分が何を忘れているのか、

わかるかもしれないから。





「あのさ、スティーブ」

「ん?」


膝に乗っけていたノートパソコンから

スティーブがゆっくり俺の方に顔を向けた。



「俺が「事故」にあってから、もう半年経つよね?」

「あぁ」


「たぶん俺、1つのこと以外はもう、元に戻ってるような気がするんだ」

「1つのこと、って?」


「14歳から事故までの記憶」

「・・・」


「どう考えてもおかしいと思うんだ。記憶、というか、イメージは断片的に浮かぶのに、それらに関連が付けられない・・・これだけ医学書を読んでも、答えがないんだよ」



そう俺が言うと、スティーブはとても悲しそうに、辛そうに、顔を歪めた。

ポーカーフェイスが得意なスティーブなのに。



きっと、

たぶん、

いや、確実に、


スティーブはその理由を知ってるんだと思う。




でも。

俺にそれを言えない事情が、

深い事情があるんだろう。


俺は、大好きな、

そして信頼してるスティーブを、

困らせるつもりは全くない。


これはきっと、いや・・・

やっぱり

自分でどうにかしなければならいんだと

今のスティーブの表情で

はっきりとわかった。





突破口・・・

それはどこにあるのだろう?





「スティーブ・・・俺、スティーブにお願いが2つあるんだけど」

「なんだ?」


「1つは・・・俺が病院に残してきたもの・・・を、出来ればでいいんだけど、こっちに送ってもらいたいんだ」

「残してきたもの、って?」


「とりあえず、タブレットに書いてたメモ」

「なんでだ?」


「あの時俺、錯乱状態だったから、何をタブに残したのかはっきりとは覚えてないんだけど、でもその時に残したメモを見たいんだ―――なんか手掛かりになるかもしれないし」

「わかったよ。早速、連絡しとく」


「あと・・・あのパンダも・・・まだもしひとりぼっちだったら、だけど」

「・・・わかった。で、もう1つは?」



「俺がそのメモの内容を見てから・・・もう少し経ってからでいいんだけど・・・」

「ん?」

「あの病院で会った2人・・・レオンとサラ、だっけ?彼らに、会いたい」








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