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たいけみお

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第38章:「どうしても、出来ない」

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「杏・・・」

「ん・・・?」


私は隣で眠っている杏の上に覆いかぶさった。

すると、杏がうっすら目を開けて、私の頬を撫でた。


「どうした・・・?」

「ぎゅってして?」


杏は無理やり起こされたのにも関わらず文句も言わないで、ただ微笑んで私を強く引き寄せてくれる。



「くく・・・甘えたくなったの?」

「うん」

「なんかこの体勢、エロいよ」

「そんなのどうでもいいよ。ふふっ」

「俺的にはどうでもよくない・・・」


杏の舌が私の舌を捉え、激しく口内を犯す。

お互いの吐息が官能的で、気持ち良くて、力が抜けて、

このままじゃ杏をつぶしてしまいそう・・・




「はぁ・・・美和・・・もっと来て・・・」



杏の右手が私の素肌全体を滑る。

それ自体はいつものことだけど、今日は何かが違う・・・

たぶんそれは、私の気持ちのせい。



「美和・・・はぁ・・・一緒に行こう?」

「・・・」

「美和をここに置いて行くのヤダし」

「・・・」

「美和だって寂しいだろ・・・俺と離れるの・・・」



「ん、杏と5日も離れるのはイヤ・・・」

「じゃ、行こう・・・?」


「でも、スティーブが呼んだのは杏で、私が彼と会ったら絶対にお父さんの話になるよ。それは耐えられない・・・」



あの不審物の爆発事件の直後、スティーブから圭ちゃん経由で杏と直接話をしたいと連絡があった。

内容は爆発事件のことだと言っているけれど、絶対にお父さんのことも絡んでいる。

耐えられない・・・そう杏には言ったけど、それだけじゃなくて、出来ない話が多すぎるから会えない。



その時。

杏が右手の動きを止めた。



「その話の時は一緒にいなきゃいい。俺が全部聞いとくから」

「・・・」


「じゃ、スティーブにここに来てもらうか?」

「それは・・・ダメ」


「なんで?」

「圭ちゃんやジェイクと違ってスティーブは、「秘密結社」の重要人物だってことがバレてるから」


「秘密結社?」

「アーサーのこと」


「所長だったから?」

「そう。だから未だに様々な「表」の組織が彼を追跡してる。もし彼がここに来たら、ここがターゲットになっちゃうでしょ?だからスティーブは圭ちゃん経由で「アーサー」本部に来るように言ったんだよ」

「そっか・・・じゃ、やっぱ一緒に行こう?あんなことがあった直後だし、一緒にいれば少なくともこうやってぎゅって出来るんだし」





「・・・美和?」

返事をしない私を心配そうに見つめる杏。


「ごめん、やっぱり今回はここに残る」

「美和・・・」

「ごめんね。私、ここでいいコにしてるから・・・行って来て?」

すると杏は無言で私をぎゅって抱きしめて・・・しばらく間が合ってからこう言った。



「じゃ、俺も行くのやめるよ」

「え?」

「スティーブに研究所に来てもらうか、電話で話す」

「杏・・・」

「とりあえずそう言ってみる。そんな不安そうな顔してる美和をここに一人残していく訳にはいかない」




杏は上半身裸のまま、シャワーを浴びに部屋を出た。

きっとちゃんと目を覚ましてから、圭ちゃんと話そうとしてるんだと思う。


杏は優しくて、強くて、だからいつも動じなくて冷静で。

真っ先に私のことを考えて動いてくれる・・・スーパーマンみたいな人。


でも同時に。

素直で甘えん坊で、ミワワみたいに可愛いところは、出会った当初から変わらない。



ううん。

きっとあの頃よりもっとずっと素直で甘えん坊になってる。

―――私と杏が、彼氏彼女、になってからは特に。




一方で。



もし私が男だったら、私みたいな女の子は本当に面倒なだけだなって思う。

こんなことに付き合わされて、おまけに危険も伴って・・・


2年前とは比べ物にならないくらいのたくましい体つきだって、

私のためにZの厳しい訓練に耐えているから。

そう思うと、胸が痛い。

杏は「俺一人じゃここまでは鍛えられないよね。Zに感謝だな」って笑ってたけど。





私はなんてことをしてしまったのだろう。

一番大切な人を―――こんな危険なことに巻き込んでしまって。


いくら、それが意図的でなかったとしても、

赦されるようなことじゃ、ない。



それも―――

「事」は裏で、どんどん進んでいる気がする。



今回の不審物の爆発事件だって、そのサイン。

おそらく―――お父さんからの。

私は更に・・・杏を危険な状況に追い込んでいる。



だから。


杏を普通の生活に戻してあげられたら。

―――そう思わない日は、本当に一日だってない。




でも、私にはそれが出来ない。

どうしても、できない。


自分勝手なのはわかっている。けど・・・


杏のことが大好きだから、

どうしてもそうすることが、できない。




杏―――本当にごめんなさい。


でも私はあなたの傍にいたいの。

すごく、幸せなの。


だから。



「麻生家」のこと以外で私が杏を幸せに出来ることがあれば、なんでもしようって思ってる。

本当に、なんでも。


だから・・・

私が杏の傍にいることを―――赦して。




でももし。

杏が自らここを出たいと言った時には、

私は静かに見送ろうと思ってる。



そして私は永遠に、

杏の記憶から消える―――。

彼が・・・過去に囚われずに、前だけを見て進めるように。





シャワーから戻ってきた杏の髪の毛はいつも通りびしょびしょで。

こういうことをわざとするところも、すごく可愛くて好き。


「美和、髪乾かして」

「ほっといてもすぐ乾くよ。夏だよ?」

「なんでそんな意地悪なこと言うんだよ・・・」


ちょっと拗ねた、そんな表情の杏も好き。

「ふふっ。こっちきて?」



夏だし、杏の髪の毛は女の子のそれと違って、あっという間に乾く。

その、たった何分かのことでも、杏にとってはすごく大切な儀式。

もちろん、私にとっても、

とても大切な時間。



髪が乾くと、杏はすごく満足そうな表情をして・・・圭ちゃんに電話をした。

私を抱きかかえながら。



「スティーブにここの研究所で会いたいって伝えてもらえますか?それか今回は電話で話を聞きます」

「美和ちゃん、駄々捏ねてるんだ」

「俺が美和を一人にしたくないだけですよ」

「俺とジェイクで美和ちゃん見てるから、オマエはスティーブに会って来い」

「・・・俺がムリなんですよ」



「スティーブが直接会いたがってる。会うなら本部の方がいいし、今、会った方がいい・・・何かが起こる前に。きっとスティーブもそう思って杏に会いたいって言ってんだよ」

「それは・・・」

「ここでスティーブとちゃんと会って、話をしておいた方がいい。いいか、アイツはアーサーの前所長だ。それにレオンよりも何倍も経験積んでる凄いヤツなんだよ。ソイツが今のタイミングでオマエに会いたがってる・・・わかるだろ?」

「・・・」

「美和ちゃんに代わって」




私はスマホを受け取った。

「圭ちゃん・・・」

「5日間、俺とジェイクと遊ぼうよ。せっかくの夏休みなんだし、パーっと豪華にさ。それに毎日杏だけじゃ飽きるでしょ?たまには刺激も必要だよ?」

「飽きないもん!」

「圭さん、五月蠅いですよ」

「くくっ。ま、豪華な夏休みをプレゼントするからさ。俺達と遊ぼう?」



なんとなく。

圭ちゃんはスティーブが杏に話す内容を知っていて、今回どうしても2人を会わせたいと思ってるような気がした。



「わかった・・・圭ちゃんたちと遊ぶ」

「やったね」

「マジかよ・・・」


そして杏は一週間後に「アーサー」本部に行くことになった。




電話を切った後。


「ホントに・・・?」

「うん」

「マジで?」

「うん」



「俺、美和を残して行きたくねぇ。俺ムリ・・・それも美和が圭さんとジェイクと一緒とか・・・あの「かくれんぼ」を思い返しただけで吐き気してくる・・・」

「じゃ、一日で終わらせてきて?」

「往復考えたら・・・どう考えても3日はかかるだろ」

「・・・」



「美和はホント、わかってないよな・・・はぁ・・・」

「なにが?」


「俺がどんなに・・・美和のこと好きか」

「わかってるよ」


「目覚めた時に美和がいないだけで、俺がどれだけ不機嫌になるか・・・見てるだろ?」

「修学旅行、どうするの?」



「美和、なんか冷たくない?ほら、やっぱわかってないんだよ・・・」

「わかってるって」



「じゃ、なんでそんな意地悪すんの?俺の泣き顔でも見たい訳?」

「意地悪なんかしてないよ・・・わかってないのは杏の方だよ」

「なにが?」

「私が杏を・・・どんなに好きか」



その言葉を口にした途端・・・涙が零れた。

杏が、いつか私の傍からいなくなったら・・・どうしよう・・・

そう思って、

涙が溢れて、溢れて、止まらなくなった。



「ふぇぇ」

「そんなに泣くほど・・・俺のことスキなの?」

「・・・スキ。ダイスキ。ふぇぇ」

「じゃ、もっと泣け」

「ふぇぇ」


「もっと、もっと、泣いて?」

「もうヤダぁ。ふぇぇぇ」

すると杏はぎゅって私を抱きしめて言った。


「ごめん・・・でも、すげぇ嬉しい」

「ふぇぇ」


「ーーー死ぬほど好きだよ」

そう呟いて、杏はその唇で私の涙を掬った。



「な、美和・・・」

「ん・・・」

「俺が美和を超えたらそのご褒美に、美和を壊していい?」

「壊・・・す?」


すると杏が私のおなかをさすった。

「初めての時、すげぇ痛いんだって」




「だから優しくしたいけど―――、優しく出来ない自信ある。俺、美和の中に入ったら絶対理性ぶっ飛んで・・・ただの動物になる」



あはは。

その言葉で私の涙が止まった。


「冗談で言ってるんじゃないよ。それにたぶん、俺の体力が果てるまで止められないと思うし―――」

「ふふっ」


「だから笑い事じゃないって。今から謝っとく。ごめんな?」


杏は笑いながら私の頭を撫でた。






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