HOME(ホーム)

たいけみお

文字の大きさ
上 下
35 / 98

第33章:「hide-and-seek8」

しおりを挟む
部屋に戻ると美和はまだベッドで寝ていた。

ずっと、寝てなかったんだろうか?

そのくらい熟睡してる。


俺はサイドテーブルにバラの花束とケーキを置き、ジェイク島から持ってきたペンダントを美和の首にかけた。

そして俺もペンダントを付ける。



別にずっと同期しててもいいとも思うし、

今の同期レベルだったら俺達の精神にたいした影響はないと思うんだけど―――。

それにきっと、ペンダントをしててもしてなくても、俺達は変わらないし。

俺も美和も、気持ちは全部正直に言うし。



でも万が一、また美和が突然いなくなったりしたら、GPSが必要だ。

それと・・・これは俺と美和の名前が彫ってある。

これは唯一の、2人お揃いのモノ。

いつか、俺が美和に指輪を渡すその時まで、きっとこれがその代わりになってくれる。




俺は美和の横に向かい合わせに潜った。

こうやって顔や髪を撫でていても全く起きない。

耳たぶや鼻を甘噛みしても、全く反応がない。

我慢できなくなってすごく深いキスをいっぱいしてたら、ようやく美和の体が動いた。



「うぐぐぐぐ?」

「くくっ。哲ちゃんのケーキあるけど、食べる?」

「食べる!」

「そのまま寝てていいよ」



ベッドの上で、フォークで一口大にカットして美和の口に運ぶ。

「美味しい!」


凄く嬉しそうな、幸せそうな顔。

それが見たくてつい、次々にケーキを口に運んだら、美和の口がクリームだらけになった。

だから俺が全部舐めとった。



「美和、あとこれ。俺からのプレゼント」

俺は20本のバラの花束を横たわってる美和に見せた。


「あ、これ、私にだったんだぁ!」

「他に誰にやるんだよ?」

「ふふっ。凄く嬉しい。杏って案外ロマンチックだね?」

「そう、かな?」


「あ、今のうちに写真撮っとかなきゃ!待ち受けにする!」

「待ち受けは俺の写真じゃないの?くくっ」

「もちろん待ち受けは日替わりだよ!ほら見て?」



今日の待ち受けは、遊園地で女子大生3人に撮ってもらった俺達二人の写真。

向かい合わせに、俺が美和の髪を撫でてる。

「待ってる間、ずっと杏の写真見てたの。よかった、写真持ってて!」


ちなみに俺の待ち受けは遊園地で撮った、美和1人の、笑顔の写真。

俺だってあの地下迷路で、何度もそれを見た。

もうあんな思いはしたくねぇ。



「このバラ、どうやって持って帰ろう?」

「写真に残ってるからいいじゃん。どうせそんなにもたないよ」

「えー、そんなのやだ!あ、うん!ポプリにする!」

「ポプリ?」


「うん、花を乾燥させるの。そうするとね、ずっと持つし、いい香りがするんだよ?」

「へぇ、そうなんだ」


「でもね、それって枯れる前に処理しないといけないの。だから花の部分を切っちゃうけど・・・ごめんね?」

「好きにしたらいいよ。それは美和のもんなんだから」

「うん、ありがとう!」



するとすぐに美和はバラの花の部分を切り落とし、キッチンにあったザルに入れて、日の当らない風通しのいい場所に置いた。

「乾燥したら、ローズオイルを垂らすんだよ?」

「へぇ・・・完成するまでにどのくらいかかるの?」

「2週間くらいかな。楽しみだなぁ。ふふっ」



なんか俺、すげぇ幸せ。

この部屋で美和と2人っきりで、

いっぱい話をして、

笑って、

気持ちの赴くままにぎゅってして、

いっぱい髪を撫でて、

いっぱい触って、

いっぱいキスして、

そして、一緒に眠って。



だから俺はベッドの中で、俺の腕に抱かれてる美和に

「俺、すげぇ幸せ」

って言ってみた。


したら

「私も」

って言ってくれた。

だからもっときつく抱きしめた。




「な、美和」

「ん?」

「俺達、いつまでここにいんのかな?」


「どうなのかな?でも帰ろうと思ったら3時間で帰れるし」

「そっか・・・なんかこのままでずっといたい気もするな」

「ね、杏?」


「ん?」

「あの家に戻っても」

「なに?」

「こうやって毎日一緒に寝てもいい?なんかすごくホッとする・・・すごくよく眠れるの」



「一緒に寝るのはいいけど・・・眠れなくなると思うよ?」

「どうして?」

「美和にいっぱい触って、いっぱいキスしちゃうと思うから」


「ふふっ。それでもいいよ」

「いいよ、って・・・そんなあっさり」

「だってそれって好きだったら当たり前のことでしょう?」



参った。

マジで。



「美和」

「ん?」


俺は美和の首筋を舐めた。


「俺を虐めてんの?」

「虐めてなんか、ないよ・・・」

だから右耳にキスをして、言った。



「俺、いつでも理性飛ばせるけど・・・でも、もったいないから少しずつ美和を食べたい」

「ふふっ、何それ?」

「俺達、死ぬまでずっと一緒にいるんだからさ。ちょっとずつ美和を味わいたい。焦る必要ないし」

「うん」


「―――って言っておきながら、突然コントロール効かなくなりそうだけど。その時はいま言ったこと忘れて?くくっ」

「ふふっ。でも・・・」

「ん?」



「私がおばあちゃんになる前に子供は産ませて?3人は欲しいなぁ。一人っ子は寂しいもん」

「え・・・?」

「ん?」


「美和・・・俺との子供、欲しいの?」

「杏以外に、誰がいるの?」


「それは―――やべぇ、俺、いまマジで理性失いそう・・・」

「だめ、なの・・・?」


美和のその、自信なさげな問いに・・・さらに俺は我を失いそうになる。



―――すげぇ、嬉しくて。

―――美和に、その俺の感情の全てを、カラダを繋げて伝えたくて。


でも。

俺は必死に耐えて、更にきつく美和を抱きしめながら言った。



「俺が18になったらいつでも産んでいいよ。それまでに美和は超えてると思うし、法的にも結婚できるし」

「ホントに?」

「俺が美和のこと放すわけないし。もう確定だから―――っていうか、3人と言わず、もっと、たくさん産んでいいよ?」


「ふふっ・・・早く杏が18にならないかなぁ」

「すぐだよ。こうやっていつも一緒にいたらすぐ来る」

「そうだね、そうだよね」



美和はその唇を、俺のそれに重ねてきた。

まるで、すごく繊細な、大切なものに触れるかのように。

はぁ。

気を、失いそうだ。


愛しくて、愛しくて、

もう

どうしたらいいのか、

自分でもわからなくなる。



美和の唇が、すこしだけ俺の唇と離れたところで、

俺は言った。

「―――圭さんが高校生に美和はやれないって言ってた。どうやって説得するかな」

そして、美和の腰を引き寄せる。



「圭ちゃんのことだから、また杏のことテストしそう。ふふっ」

そうだ。

美和をもらうには美和を超えなきゃいけない。

きっと今回みたいに、圭さんにテストされるに違いない。



ま、それはいい。

どうせ、超えないといけない壁だ。



ただ、

これだけは、いま、

はっきり美和に言っておかなくちゃいけない。




「な、美和」

「ん」

「もう信じられるよな?ずっと、死んでも俺は美和の傍を離れないって」

「うん、信じてる」

俺は美和の頬を撫でた。



「俺は絶対に美和を裏切らない。神に誓うよ」

「杏・・・」


「俺が好きになったのは美和だからだ。麻生家ともアーサーとも関係ない」

「・・・うん」



「でもずっと一緒にいるためには、どうしても俺は「麻生家」のことを知る必要がある。美和と一緒に立ち向かうためにも、美和を守るためにも。わかるよな?」

「・・・」


「全部、俺と分かち合えるよな?」

「・・・」


「アーサーに言えないことでも、俺には言えるよな?」

「杏・・・」



美和は目を閉じた。

美和の呼吸だけが聞こえてくる。

俺はじっと、次の言葉を待った。



「杏」

「ん?」

「少しずつでもいい?」

「もちろん」


「でも・・・」

「なに?」


「その間、なぜ「麻生家」が代々、そういうことをしてきたのか、理由を聞かないでほしいの」

「・・・」

「たぶん私が説明しなくても、杏はその理由に途中で気付くと思う。でも杏が「麻生家」の人間にならない限り、それは私の口からは言えないの」



当然だ。

だからこそ、美和は今まで一人でそれらを守ってきたんだし、「アーサー」にだって言ってないんだから。



「もちろんそれでいいよ。でも」

俺は美和を更に引き寄せ、こう言った。

「でも、俺のことは信じろ。俺も美和のこと信じてるから」





翌朝。



まだ美和が寝ている間に圭さんに呼び出された。

圭さんはデッキで、小さなスーツケースを片手にタバコを吸っていた。


「俺は仕事があるから先に戻るよ。しばらくここで美和ちゃんと遊んでてもいいけど、自分の誕生日までには戻ってこいよ?ちゃんと祝ってやるから」

「美和とは会って行かないんですか?」

「ん、向こうに戻ってからでいい。他の男に持ってかれた、女の顔した美和ちゃんにはまだ会えねぇ。くくっ」


美和をまだ抱いてない、って、喉元まで出かかったけど、わざわざ言うことでもないし、

いつそうなるか自信もなかったから、それを飲みこんだ。


「ここからはどうやって戻るんですか?」

「傷心の俺をZ部隊が送ってくれるってさ」


「圭さん、あの」

「ん?」


「感謝してます、ホントに」

「当たり前だろ?こんな子供思いの親、どこにいるよ?」

「ホントに」

俺は圭さんに抱きついた。


「圭さん、忘れないで欲しいことがあるんですけど」

「なんだ?」

「俺、今まで圭さんに嘘ついたことないです。隠し事も「麻生家の隠し部屋」のこと以外は全くないです」

「くくっ。知ってるよ。オマエはそういうヤツだから信じられるんだよ」


「でも俺はこれから先、圭さんにも言えないことをたくさん知っていくと思います。でもそれは美和と一緒に生きていくため、そして彼女を守るためです。決して圭さんを裏切ってるわけじゃないです。覚えておいてください」


すると圭さんは右腕で強く俺を引き寄せた。

「んな、わかりきってること言わなくてもいい。ただ、助けが必要な時は俺に言え。理由は聞かないでおいてやるから・・・。あとな」

「はい」


「「アーサー」もスティーブもジェイクも同じ気持ちだ。いつでも頼れ」

「ありがとうございます」


「じゃ、またあの家でな?」

そう言って、圭さんは船を降りた。





しおりを挟む

処理中です...