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たいけみお

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第32章:「hide-and-seek7」

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俺はドアの隙間に右手を挟み、思いっきり開くと同時に、左腕で美和を抱きかかえた。

「レオンのスタッフはどこ?」

「杏が来る直前にどこかへ消えたよ・・・私がもう杏は近くにいるって言ったから」



俺は後ろ手にドアのカギを閉めた。

そして美和を抱きかかえたまま、無言で部屋の奥へと進んで行く。

無言の俺に不安になのか、美和は俺の首にしっかりと抱きついていて

「ごめんね」

と俺の耳元でひとこと言った。



「言ったろ?もう二度とこんなこと出来ないようにするって。マジで怒ってんだからな」

「ごめん」

「ま、今の俺の感情、美和には駄々洩れだと思うけど」



一番奥にあるマスタールーム。

俺はそこのカギも後ろ手で閉め、そして目の前にあるキングサイズのベッドに美和を下ろし―――

上向きに俺を見つめる美和の両腕を押さえた。


「あの瞬間を思い出すだけで・・・俺マジで凹むし」

「本当にごめんなさい」


「この感情、自分でもどうしたらいいかわかんねぇ」

「もう絶対にしないから」


「―――でもさ」

「ん?」


「お陰で俺、美和の彼氏に昇格したらしいよ。圭さんによるとだけど」



ふふっ。

美和が少し伏せ目がちに笑う。



「美和はどうなの?」

「え?」

「美和は本当にそれでいいの?俺が彼氏でいいの?」



「―――念のためもう一度、確認しとかないとね・・・本人に」



俺は少し腕の力を緩めた・・・ほんの少しだけ、美和の逃げ道を作るために。




でも次の瞬間、

俺からするりと抜けた美和の腕は、俺の首に回った。

そして言った。


「杏以外の人はイヤ」





嬉しすぎて、心臓が痛い。

幸せすぎて俺、死にそうだ。


おまけに。




ペンダントをしてないから、お互いの感情がコントロールされずに勝手気ままに行きかう・・・

本気で、俺を大事に思ってくれてる感情の波が、俺を飲み込む。



俺・・・溺れそうだ。

すげぇ気持ち良くて、泣きたくなるくらいに。



きっと、

そういう俺の感情も全部、美和に伝わってしまってるんだろう。





「美和・・・悪い」

「なに?」


美和の囁きが俺の耳を擽る。



「今、戦ってきたばっかりだから俺、すげぇ・・・汚れてる」

「あははっ。私の為に戦ってくれたんでしょう?」

美和は俺の汚れてる髪を撫でた。


「美和の為っていうより、俺の為」

「俺達の為、でしょう?約束守ってくれて嬉しかった」



ふぅ。



「美和・・・俺の気持ち、全部見えちゃってると思うけど・・・マジで俺いま、溺れそうなんだ・・・理性、失いそう」

「ん」


「だから、シャワー浴びてくる。そしたらちょっと落ち着くと思うから・・・戻ってきたら、美和をぎゅってしたまま寝て・・・いい?」

「ん、して?ずっとぎゅってしてて?杏と離れてる間、ずっとしてもらいたかったの」



こういうところが、美和の罪なところだ。

美和は何にも動じないし、駆け引きもしない・・・特に俺にはどんどん遠慮がなくなってきてる。

そこがいいところで、可愛いところでもあるんだけど、



でも、



んなことをこの状況で、好きな女に言われて、理性を保てる男がこの世にいんのか?

いたら教えてくれ。



「美和」



俺は美和の頬に両手を置いた。



「キス、したい」



美和からの答えを聞く前に、俺は美和のその柔らかな唇に自分の唇をそっと重ねた。


俺の生まれて初めての、キス。

そして、

美和との初めてのキス。



俺は一度ゆっくりそれを離して、美和を見た。

ちょっと俯き加減に、恥かしそうにして俺を見ない。

だから美和の顔をぐいっと上げた。



「美和、顔見せて?」


美和の長い睫毛が少し上向く。


「もっと、したい・・・もっともっといっぱいしたい」

俺がそう言うと、


美和が自分から唇を重ねてきた。


俺は―――



もっと我慢できなくなって、美和の唇の隙間から舌をすり込ませた。


もっと、もっと

美和を感じたい。


もっと、もっと

お互いの感情が絶え間なく行き来すればいい。



ただひたすら

理性を飛ばしたまま、

俺は貪るように美和にキスをし続ける。



もうずっと、永遠に、このままでいたい。

俺には美和だけいたらいい。



幸せすぎて、気を失いそうで

シャワーで美和と離れる時間さえもったいないくて・・・


そんな、たった一瞬、美和と離れることさえ、今の俺にはムリだと思った。




「はぁっ。杏・・・」

そんな艶っぽい美和の声が俺の耳を掠め、ふと我に帰ると。


俺は―――

美和の着ている服に手をかけ、

外されたボタンの隙間から、美和の首筋にキスをしていた。




やべぇ。


どのくらい美和にキスし続けたのかわかんないけど・・・

完全に我を忘れてた。



「―――やっぱシャワー浴びてくるよ」




ふぅ。



熱いシャワーを勢いよく浴び、髪を乾かしてる間に、少し冷静になった、と思う。

でも俺、なんかの拍子でまた、理性を失っちまう自信、ある。



はぁ。






美和は・・・



美和もたぶん、俺のこと欲しいって思ってくれてる。

ペンダント付けてないから・・・なんとなくわかる。



この「お遊び」でわかったんだけれど、

俺と美和の同期はまだ、レオンとサラが当初体験したレベルまで達していない。


彼らに比べれば、まだ極々わずかな、

微量のエネルギーがお互いを行き来しているだけだ。


だから、

さっきみたいに、お互いが集中して繋がろうとしない限り、

自然に行き来する量は限られている。



それでも。

美和が俺を欲しがってくれてるのはわかるし、

美和にも、俺が美和の全部を求めているのは伝わってしまってるだろう。




でも、一方で俺。


美和といる一瞬一瞬を大切に、

少しずつ進んで行きたい気がするんだ。

勢いに任せるとかじゃなくて。



だって俺達は、

これから死ぬまで一緒にいる。

平均寿命から考えたら、あと60年以上一緒にいれる。



おまけに―――

俺はまだ未成年で、美和は成人。


俺たちが生きる、特別な環境で、

そんなルールは無視しても構わないような気がするけど、

それでも俺は、

美和に犯罪者のリスクを負わせたくない。



焦る必要もないし、

俺自身の気持ちにも自信があるし、

美和のことも信じてる。



理性と本能、どっちも俺の真実。

俺は本当に、

真っ直ぐに美和を大事にしてきたいんだ。


美和もきっと、というか確信に近いところで、俺の言ってる意味、わかってくれると思う。

美和は・・・

そういうヤツだから。




着替えを持ってなかったからそこに掛っていたバスローブを羽織ってベッドに戻ると、美和がそこで子供のように眠っていた。

俺が理性を飛ばした直後だっていうのに、全く無防備な美和。


「食べるぞ。くく」


冗談交じりにそう、耳元で呟いて、鼻を抓んでみたけど、美和は無反応で。

だから俺は隣に寝転んで、美和を背中からぎゅっと抱きしめた。



はぁ。



暖ったくて、

柔らかくて、

美和の匂いがして・・・

すげぇホッとする。


俺はそのまま眠りに落ちた。







TRRRRRRRRRRRRRRRRRR




「はい・・・」

眠気眼でベッド脇の電話を取る。

「今さっき食事を届けたんだけど全く反応がなかったから」

圭さんだった。


「あぁ、すみません・・・すっかり熟睡してました・・・」

「お姫様は?」

「美和も寝てます・・・」


「虐めたんじゃねぇだろうな?」

「虐められたのは俺でしょう・・・?」

「くくっ。あとでジェイクと3人で話そうな」



「・・・今でもいいですか?美和、寝てるし・・・」

「あぁ。じゃ最上階のデッキで待ってる」



ぼーっとしたままリビングに行くと、俺はソファーに真新しい服が何着も置いてあるのを見つけた。


俺のサイズ。


俺は一番上にあった服を着て部屋を出た。




デッキに到着して辺りを見回すと、圭さんとジェイクが既にそこで俺を待っていた。

ワイングラスを片手に。


「来た来た」

「ミワの抱き心地良かった?」

「テメェ、ふざけんなよ?冗談でもそんなこと俺の前で口にすんな」

「でもキョウがミワの公認彼氏になったってことはそういうことなんだろ?」

「うるせぇよ」



はぁ。

勝手に話が盛り上がっている。



「で、話っていうのは?」

「ま、中に入ってゆっくり話そうぜ」


連れていかれたのはジェイク専用の居間。

めちゃくちゃ豪華なんだけど。



「キョウは何飲む?ビール?」

「俺、まだ未成年なんですけど」

「この世界でそんなの関係ねぇだろ?な、ケイ?」

「いや、ある。杏にはコーラで」

「マジかよ?つまんねぇ」

ジェイクは笑って、備え付けのバーフリッジからコーラを差し出した。




「話っていうのは、圭さんとジェイクの関係のことですか?」

「さすが、キョウだな」

「だって俺、ジェイクのこと何にも聞かされてなかったから・・・・ジェイクとレオンが顔見知りってことは、ジェイクもアーサーのメンバーですか?」



「厳密に言うと・・・そうなるかな?ケイと同じチーム?でも今回は俺個人の組織の奴らを動かしただけだけど」

「同じチーム?圭さん、チームに所属してたんですか?」

「ぷはっ。それも言ってないんだ」


「当たり前だろ?俺らのチームを明かしたら意味ないだろ?」

「ま、そうだけど。キョウには言ってもよかったんじゃないの?」

「このゲームを終えたらね」

「あ、そっか」



「で、何のチームなんですか?」

「スティーブの特別プロジェクトチーム。だからアーサー本部の直の仕事はここ10年ほどしてないんだよね」


スティーブって・・・レオンの前のアーサーの所長、だよな?

フィールドで動くのが好きだからって、レオンに役を譲ったって言ってたけど。



「圭さんもそんな感じなんですか?」

「そうだよ。ジェイクも俺もその「特別プロジェクト」メインだね。ま、レオンから頼まれたらもちろん協力してるけど。俺達が関わってるそのプロジェクト自体がシークレットだから、今となっては俺達のことを知らないアーサーメンバーもたくさんいるんじゃないかな」


あぁ、だからJJたちはジェイクのことを知らない感じだったのか。



「で、その「特別プロジェクト」の内容は?」

「美和ちゃんから健ちゃんと花ちゃんのことは聞いた?」

「さらっとですけど・・・陰謀説があるって」


「そう。俺、ジェイク、スティーブそして健ちゃんは、アーサーで知り合った幼なじみでね」

「え?」


「その件について調べてるんだよ・・・花ちゃんは一般人だったから巻き込まれてしまって命を落とした可能性は高い・・・悲しいけど。だけど健ちゃんは違う。健ちゃんはそういう場合を想定してアーサーで長い間訓練を受けてきた。ちょっとやそっとのことで死ぬようなヤツじゃないんだ」

「でも美和は99.99%可能性はないって」

「でもセスナが墜落した現場からは何も見つからなかった。DNAさえも」

「・・・」


「だからね、ケンはまだどこかにいるんじゃないかって俺達は思ってるのさ。何らかの事情で隠れてるんじゃないかって」

「それは・・・美和は知ってるんですか?」

「スティーブが話したよ。でも信じてないふりをしてる」

「どういうことですか?」


「敵を欺くため。探してるってわかったら、健ちゃんも美和ちゃんも余計に狙われるだろ?それでなくともリスクを負ってるのに。それに「麻生家」のことは結局のところ、健ちゃんと美和ちゃんにしかわからない」

「あぁ」


「だから俺とジェイクも美和ちゃんにはそういう話はしないし、表立っては動いてない。だけどいろいろカモフラージュしながら探してる。だから俺がジェイクと会うときはほとんど健ちゃん絡み。組と会社は関係ないから・・・覚えとけよ?」

「了解です。で、俺は何をしたらいいんですか?」


「別に、何も」

「え?」

「ま、美和ちゃんの彼氏になったんだから知っててもらった方がもちろんいいし、それにジェイクが・・・オマエと友達になりたいんだってさ。あはは」


「あの、地下迷路での動きをみたら、そりゃ惚れるだろ?俺の後を継がせたいくらいだ」

「杏は俺の息子だ」

「オマエ、本当にそういうとこ賢いよな。こうなることを見越して布石打っといたんだろ?くく」



それからは3人でずっと美和の話をしていた。

「なんといってもケンの娘だからね。ケイのミワへの執着はよくわかるよ。俺だってミワのこと可愛いしね」

「特に俺達3人とも、娘いないしな。スティーブは子供いないけど」

「ジェイクは息子さんがいるんですか?」

「2人いるよ、ケイんとこの息子達と同い年・・・つまり双子」


「へ?それって・・・すごい偶然ですね」

「偶然、か。くくっ」

圭さんとジェイクは顔を見合わせて笑っていた。


「偶然じゃないんですか?」

「偶然なんてこの世の中ほぼないだろ?少なくとも俺達はそういうものを信じてない」

2人はまた笑った。



「で?キョウの誕生日もすぐなんだって?」

「4月5日です」

「祝いをやるから欲しいモノ考えとけよ」

「いや、お気持ちだけで・・・あ!」

「どうした?」


「圭さん、花束は?あと、哲ちゃんが作ってくれたケーキがどうなったか知ってますか?」

「心配するな。キッチンの業務用冷蔵庫に両方とも入ってる」

圭さん、両方ともここまで丁寧に運んでくれてたんだ。


「ちょっとそれ、美和に渡してきます。特にケーキのことはすげぇ心配してたんで」

「おう。さっさと持ってってやれ」

俺はキッチンの冷蔵庫からそれらを拾って、再び美和のいる部屋に向かった。






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