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第31章:「hide-and-seek6」
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アーサーの研究者達は本当に有能だ。
俺は難なくデッキに降り立つことができた。
振り返って、上空で待機しているDに手を上げると、Dは船から少し離れた位置に移動した。
美和、迎えに来たよ。
―――うん、わかる。杏のエネルギーを近くに感じるから。
そう美和の声が俺のハートに響いた瞬間。
デッキに繋がるドアの1つが開いた。
圭さん。
そして隣にたたずむのは恐らく―――ジェイク。
貫禄のある2人が並ぶと・・・やっぱ普通じゃない。
「杏、さすがだな。まだ19時間も残ってるよ」
「噂通りなかなかやるね、キョウ。さすがだよ。体力といい技術力といい、さすがZ部隊で鍛えられてきただけある。地上最強と言われるウチのヤツらも完敗だね」
「美和はどこですか?」
「せっかく時間もあるし、船の中を案内しようか」
ジェイクが俺に微笑んだ。
「そんなの後でいいですよ。美和に会わせてください」
「ほら、言ったろ?杏はそういうヤツなんだって。くくっ」
「ホント。これじゃケイも譲らない訳いかないよなぁ」
「うるせぇな」
「じゃケイ、早速最後のゲームに移るか?」
「そうだな」
「キョウ、俺達についてきて」
案内された場所は広い道場のような場所。
壁に沿ってジェイクの手下と思われるイカツイヤツらがサングラス越しに俺を睨んでいる。
その壁に映し出されたのは、再びレオン。
「キョウ、よくそんな短時間でそこまで行きついたね。研究者達もすごく喜んでるよ。ただ道具に関しては、もっと開発と改良が必要だって言ってるけど」
「そんなこと今はどうでもいいよ。それより、早くこのゲームを終わらせて美和と家に帰りたいんだけど」
「くくっ。最後のゲームはね、ホントのhide-and-seek」
「どういうこと?」
「ルールは簡単。かくれんぼの範囲はその船全体。ミワは今、ボクのスタッフと共にこの船のどこかにいる。客室だけで400、その他もろもろで500室。そして厨房とかダンスホールとかシアターとか、他にもいろいろあるよね」
「・・・」
「ケイはもちろんジェイクもミワの場所は知らないよ。そしてその間ミワは、自由に船内を移動していいことになってる。で、早くミワを見つけて、ここに連れ戻した方が勝ち」
「なるほどね。で、制限時間はあと19時間ってこと?」
「19時間でキョウがミワを見つけられなかったら、その時点で自動的にケイの勝ちだよ」
「そう」
その話を聞いて、俺は1つ疑問に思った。
俺は美和と同期できるから、どんなにこの船が広くても複雑でも、居場所を特定できる可能性はほぼ100%。
でも圭さんはどうやって美和を見つけるんだ?
もし何のハンデもないんだったらこのゲーム、相当不公平なんじゃないか?
「圭さん」
「なに?」
「圭さんは俺がなんでこんなに素早くこの船を特定できたのか、理由を知ってるんですか?」
その問いに圭さんはちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔になって、いつものように俺の頭を撫で・・・こう言った。
「杏、オマエ何言ってんの?」
「え?」
「言ったろ?オマエのその優しさが命取りになるかもしれないって」
そして、圭さんは真顔になった・・・怖いくらいに。
「これが「お遊び」だったからよかったものの、もし「本番」だったらどうすんだよ。美和ちゃんを危険な目にあわせんのかよ?」
「・・・」
「そんなことオマエが言わなかったら、このゲームは完全にオマエのものだったんだよ。ふざけんな」
―――ってことは。
圭さんは俺に勝つ気はなかったってこと?
その時、スクリーンのレオンが間に割って入ってきた。
「ケイはミワとキョウのトップシークレットに気が付いてたんだ?」
「なんとなくな。今までのことや今回のことを振り返れば・・・どう考えても「偶然」にしては出来過ぎてるだろ。でもレオンはそのことを俺に言うつもりなんてなかったんだろ?」
「まぁね。それはアーサーのトップシークレットだからね。ただボクにも、二人がどの程度コントロールできるのかは未知数だったよ。それはたぶん、二人も同じだったんじゃない?」
「ひでぇ話だよな。杏が勝つように仕組まれてるゲームに参加させられるなんて。くくっ」
「それをわかってて参加したのはケイだろ?愛だよなぁ。ボクそういうの大好きだよ」
そう言いながらレオンが圭さんにウィンクすると。
はぁ。
圭さんが深くため息を吐いた。
苦笑いしながら。
「ケイ、これはもうオマエの負けだ。怪我する前に認めようぜ」
ジェイクが圭さんの肩に右腕を廻す。
「そうだな。勝ち目ねぇもんな」
くくっ。
圭さんは笑いながら俺の頬を撫でる。
「美和ちゃんの彼氏としては認めてやるけど、まだ嫁にはださないからな」
「心配しないでください。18になるまであと2年あります」
「高校生に美和ちゃんをやるわけねぇだろ?」
「大学生になったらいいんですか?」
「美和ちゃんを超えたら、だろ」
「美和はすぐに超えますよ。問題ないです。だから高校生でも問題ないと思うんですけど?」
「ったく、コイツはマジでムカつく・・・けど可愛いよなぁ」
圭さんはがしっと俺を抱きしめた。
「ありがとう、圭さん。俺、約束は守りますから―――本番で誰かに美和を譲ったりなんかしませんよ」
「当然だろ?じゃなかったらマジで殺すからな。な、ジェイク?」
「ケイの頼みならお安いご用だよ。くくっ」
「・・・じゃ、ゲームオーバー。キョウの勝ちだね?」
レオンが笑った。
「で、美和はどこ?」
俺がレオンを見上げると
「それは自分で見つけなよ」
「は?」
「簡単だろ?何分で見つけるか見ものだよ。くくっ」
「ホント、このゲームの余興としては最高だな」
「俺達は高見の見物と行こうぜ」
コイツら・・・
「じゃ、カウント開始。3、2、1!」
もちろん俺はダッシュで船内に入った。
なんなんだよ、ここ。
ホントにひとつの街みてぇ。
これじゃ、○○町、みたいな場所全体で、かくれんぼしてんのと一緒だろ・・・
美和、どこだ?
―――どこって言われても。
そうだよな。じゃ、とりあえず俺のことずっと考えとけ。
―――え?
エネルギーの強い方向に進んで行くから。
―――ふふっ。了解。
すぐ、行くから。
こういうの、どういう風に表現すればいいのかわからないけど。
美和のエネルギーを感じる方向だけ、温かく感じるんだ―――ほんのり明るい光と共に。
だから分かれ道に来ても、その方向に進んで行けば、美和を探し出せる、はず。
俺はその温かい方に迷わず突き進む。
不思議なくらい躊躇がない。
ただ、ただひたすら
美和の元へ走り続ける。
そして。
どのくらい、走っただろうか?
たぶん、そんなに時間は経ってない。
俺の息も、全く乱れていない。
俺は一つのドアの前で、静かに立ち止まった。
明らかに、他とは違うエネルギーレベル。
ふぅ。
美和、ここ?
―――ん。
そして、待ちかねていたようにすぐに開いたドアの隙間から覗いた笑顔は・・・
もちろん、美和のものだった。
俺は難なくデッキに降り立つことができた。
振り返って、上空で待機しているDに手を上げると、Dは船から少し離れた位置に移動した。
美和、迎えに来たよ。
―――うん、わかる。杏のエネルギーを近くに感じるから。
そう美和の声が俺のハートに響いた瞬間。
デッキに繋がるドアの1つが開いた。
圭さん。
そして隣にたたずむのは恐らく―――ジェイク。
貫禄のある2人が並ぶと・・・やっぱ普通じゃない。
「杏、さすがだな。まだ19時間も残ってるよ」
「噂通りなかなかやるね、キョウ。さすがだよ。体力といい技術力といい、さすがZ部隊で鍛えられてきただけある。地上最強と言われるウチのヤツらも完敗だね」
「美和はどこですか?」
「せっかく時間もあるし、船の中を案内しようか」
ジェイクが俺に微笑んだ。
「そんなの後でいいですよ。美和に会わせてください」
「ほら、言ったろ?杏はそういうヤツなんだって。くくっ」
「ホント。これじゃケイも譲らない訳いかないよなぁ」
「うるせぇな」
「じゃケイ、早速最後のゲームに移るか?」
「そうだな」
「キョウ、俺達についてきて」
案内された場所は広い道場のような場所。
壁に沿ってジェイクの手下と思われるイカツイヤツらがサングラス越しに俺を睨んでいる。
その壁に映し出されたのは、再びレオン。
「キョウ、よくそんな短時間でそこまで行きついたね。研究者達もすごく喜んでるよ。ただ道具に関しては、もっと開発と改良が必要だって言ってるけど」
「そんなこと今はどうでもいいよ。それより、早くこのゲームを終わらせて美和と家に帰りたいんだけど」
「くくっ。最後のゲームはね、ホントのhide-and-seek」
「どういうこと?」
「ルールは簡単。かくれんぼの範囲はその船全体。ミワは今、ボクのスタッフと共にこの船のどこかにいる。客室だけで400、その他もろもろで500室。そして厨房とかダンスホールとかシアターとか、他にもいろいろあるよね」
「・・・」
「ケイはもちろんジェイクもミワの場所は知らないよ。そしてその間ミワは、自由に船内を移動していいことになってる。で、早くミワを見つけて、ここに連れ戻した方が勝ち」
「なるほどね。で、制限時間はあと19時間ってこと?」
「19時間でキョウがミワを見つけられなかったら、その時点で自動的にケイの勝ちだよ」
「そう」
その話を聞いて、俺は1つ疑問に思った。
俺は美和と同期できるから、どんなにこの船が広くても複雑でも、居場所を特定できる可能性はほぼ100%。
でも圭さんはどうやって美和を見つけるんだ?
もし何のハンデもないんだったらこのゲーム、相当不公平なんじゃないか?
「圭さん」
「なに?」
「圭さんは俺がなんでこんなに素早くこの船を特定できたのか、理由を知ってるんですか?」
その問いに圭さんはちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔になって、いつものように俺の頭を撫で・・・こう言った。
「杏、オマエ何言ってんの?」
「え?」
「言ったろ?オマエのその優しさが命取りになるかもしれないって」
そして、圭さんは真顔になった・・・怖いくらいに。
「これが「お遊び」だったからよかったものの、もし「本番」だったらどうすんだよ。美和ちゃんを危険な目にあわせんのかよ?」
「・・・」
「そんなことオマエが言わなかったら、このゲームは完全にオマエのものだったんだよ。ふざけんな」
―――ってことは。
圭さんは俺に勝つ気はなかったってこと?
その時、スクリーンのレオンが間に割って入ってきた。
「ケイはミワとキョウのトップシークレットに気が付いてたんだ?」
「なんとなくな。今までのことや今回のことを振り返れば・・・どう考えても「偶然」にしては出来過ぎてるだろ。でもレオンはそのことを俺に言うつもりなんてなかったんだろ?」
「まぁね。それはアーサーのトップシークレットだからね。ただボクにも、二人がどの程度コントロールできるのかは未知数だったよ。それはたぶん、二人も同じだったんじゃない?」
「ひでぇ話だよな。杏が勝つように仕組まれてるゲームに参加させられるなんて。くくっ」
「それをわかってて参加したのはケイだろ?愛だよなぁ。ボクそういうの大好きだよ」
そう言いながらレオンが圭さんにウィンクすると。
はぁ。
圭さんが深くため息を吐いた。
苦笑いしながら。
「ケイ、これはもうオマエの負けだ。怪我する前に認めようぜ」
ジェイクが圭さんの肩に右腕を廻す。
「そうだな。勝ち目ねぇもんな」
くくっ。
圭さんは笑いながら俺の頬を撫でる。
「美和ちゃんの彼氏としては認めてやるけど、まだ嫁にはださないからな」
「心配しないでください。18になるまであと2年あります」
「高校生に美和ちゃんをやるわけねぇだろ?」
「大学生になったらいいんですか?」
「美和ちゃんを超えたら、だろ」
「美和はすぐに超えますよ。問題ないです。だから高校生でも問題ないと思うんですけど?」
「ったく、コイツはマジでムカつく・・・けど可愛いよなぁ」
圭さんはがしっと俺を抱きしめた。
「ありがとう、圭さん。俺、約束は守りますから―――本番で誰かに美和を譲ったりなんかしませんよ」
「当然だろ?じゃなかったらマジで殺すからな。な、ジェイク?」
「ケイの頼みならお安いご用だよ。くくっ」
「・・・じゃ、ゲームオーバー。キョウの勝ちだね?」
レオンが笑った。
「で、美和はどこ?」
俺がレオンを見上げると
「それは自分で見つけなよ」
「は?」
「簡単だろ?何分で見つけるか見ものだよ。くくっ」
「ホント、このゲームの余興としては最高だな」
「俺達は高見の見物と行こうぜ」
コイツら・・・
「じゃ、カウント開始。3、2、1!」
もちろん俺はダッシュで船内に入った。
なんなんだよ、ここ。
ホントにひとつの街みてぇ。
これじゃ、○○町、みたいな場所全体で、かくれんぼしてんのと一緒だろ・・・
美和、どこだ?
―――どこって言われても。
そうだよな。じゃ、とりあえず俺のことずっと考えとけ。
―――え?
エネルギーの強い方向に進んで行くから。
―――ふふっ。了解。
すぐ、行くから。
こういうの、どういう風に表現すればいいのかわからないけど。
美和のエネルギーを感じる方向だけ、温かく感じるんだ―――ほんのり明るい光と共に。
だから分かれ道に来ても、その方向に進んで行けば、美和を探し出せる、はず。
俺はその温かい方に迷わず突き進む。
不思議なくらい躊躇がない。
ただ、ただひたすら
美和の元へ走り続ける。
そして。
どのくらい、走っただろうか?
たぶん、そんなに時間は経ってない。
俺の息も、全く乱れていない。
俺は一つのドアの前で、静かに立ち止まった。
明らかに、他とは違うエネルギーレベル。
ふぅ。
美和、ここ?
―――ん。
そして、待ちかねていたようにすぐに開いたドアの隙間から覗いた笑顔は・・・
もちろん、美和のものだった。
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