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たいけみお

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第30章:「hide-and-seek5」

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はぁ、はぁ、はぁ。

さすがの俺も息が乱れてきている。

俺は壁に寄りかかって、地面に腰を下ろした。


この地下迷路に入ってから約20時間。

何人と戦ったんだろう?

40人?

50人?


途中からもう、意識して数えてはないけど、

ざっくり俺の記憶を辿ればまぁ、そんな感じだ。



こんなに戦える奴らを揃えてるなんて、

ジェイクの組織―――ある意味すごいな。

なんでこんな戦闘力を備えてんだろう。





俺の方は・・・

多少擦り傷はあるけど、たいしたことない。

ただ。

なんとなく予想はしていたけれど・・・とうとうさっき、JJ達との通信が途絶えた。


圭さんとレオンのことだ。

俺一人でどこまでやれるのか見てみたい、どうせそんなことを思ってんだろう。



でもそれは最終ステージに近づいてる合図でもある、と俺は思う。

「最後はちゃんとオマエ自身の実力を示せ」

みたいなことを言われてる様な気がするから。



俺の記憶を整理すれば、紆余曲折はしたものの、迷路の半分は余裕で超えてるはず。

そして腕時計の方位磁針は北東を示している。

美和のいる部屋に確実に近付いている。


俺はポケットを探って、アーサーの研究者が開発した丸くレモン色をしたハードゼリーを頬張る。

これ一粒で半日分の栄養素と水分補給ができると聞いた。

そして空腹も抑えられるとも。

だから二粒頬張った。



次にポケットから取り出したのはブルーの錠剤。

これは所謂滋養強壮剤で、丸2日くらいは睡眠を取らなくてもパワー全開でいられるらしい。

もちろんこれも飲んだ。



はぁ。



美和ともう1日以上会ってない。

めちゃくちゃ文句言いてぇ。

んで、ぎゅってしてぇ。


俺は立ち上がった。





その後、約2時間で更に10人倒した。

そして10人目を倒して、行きついた先。


それは―――



「マジかよ」




そこは。

このゲーム開始時に、マイケルに会った場所と瓜二つな空間。


俺は自分の目を疑った。


信じたくないけど、もしかして俺は、

元の場所に戻ってきてしまったんじゃないか?


俺は腕時計を見た。



方位磁石の針の方向が微妙に違う。

ってことは、ここはあそことは別の空間?


杏、冷静になれ。

記憶を辿れ。



俺は頭の中にある映像を最初から早送りで再生する。

向かった方向、切り石に付けてきた傷、JJの指示・・・ここは明らかにスタート地点じゃない。


いや待てよ?

もしここの磁場が狂っていたら?

もしくはここの磁場が圭さんとジェイクによってコントロールされていたら?



俺は42時間中22時間、ただ、戦い損をしてきたことになる。

ただただ体力を消耗しただけ。

また振り出しに戻ってしまったということ。


信じたくねぇ・・・



その時俺は思い出した。

武器を、箱に入れて施錠したことを。


その方向を見ると・・・同じような箱がある。

少し諦め気味に、

俺はポケットからカギを取り、南京錠に差し込んだ。


カチャ。



「・・・」


それは 俺が置いていった武器だった。


でもそのことよりもショックだったのは―――

俺のナイフの上に、

俺とお揃いの美和のペンダントが置いてあったことだった。



―――やられた、な。




これじゃ、美和を追跡できない。

JJ達とも連絡が取れない今、どうやって美和を探す?


とりあえず俺は、本当にここがスタート地点なのかどうか確かめるため、階段を駆け足で上った。



はぁ。



信じたくはないけど・・・そこはやはりスターティングポイント。

俺はバイクまで歩く。


外へ出てもJJ達とは全く繋がらない。

腕時計の方位磁石は、俺をあざ笑うかのようにくるくる回り続けている。


俺、全然まともに戦えてねぇ。

―――この1年、俺は何やってきたんだよ。



こんなんじゃ美和を取り戻せない。

圭さんを超えるどころか、美和を守れない。



はぁ。



バイクを横目に座り込む俺。

あと20時間しかない。


どうする、杏?

どうしたらいい、美和?


美和、俺―――約束の時間内にオマエを迎えに行けないかもしれない・・・



くそ!


俺は美和の残したペンダントをじっと見つめた。




あ。

そうか―――




俺は自分のペンダントを外し、美和のと一緒にバイクのミラーにかけた。

そしてそこから10m程離れた大木にもたれ、深呼吸して目を閉じる。



俺と美和は―――



いつのまにか、自然に同期してしまっていることはあっても、

麻生家のことで、単発的にすぐ傍で同期することはあっても、


いままで、こういった形で同期を試みたことはない。


でも―――






美和。

美和。

美和。

オマエ、何処にいるんだよ、美和―――



俺ら、同期してるんだろ?

俺の声、届いてくれよ。


美和。

美和。

美和。

会いてぇ―――





はぁ・・・

どうやったら、美和と繋がれるんだ?




俺は更に、息を深く吸い、

美和と、美和の持つエネルギーを

俺のハートと腹でイメージした。



ありありと、

本当に、そこに、

美和がいるように―――。














――――杏?


美和?

美和か?!



――――うん。杏の声が聞こえる・・・

早く、迎えに来て?

どこにいるの?





美和、オマエ今どこにいる?

――――船の上。サイパン島の近く。



圭さんもジェイクも一緒?

――――うん。




その時、俺との会話以外の美和の声が聞こえ始めた。

これが・・・感情の流入?


最初の頃は特に無秩序にお互いを行き来してしまうと、レオンとサラが言っていた




――――早く杏と家に帰りたいよ。

――――早く杏に会いたいよ。

――――海も空もキラキラ光っててきれいだな。

――――あ、大きな魚がいる!

――――哲ちゃんが作ってくれたケーキそのままだ。どうしよう?

――――杏、怒ってるかな。怒ってるよね。

――――杏に早く会いたいよ。

――――早く一緒におウチに帰りたいよ。

――――杏にぎゅってしてもらいたいよ。





ふっ。



きっと俺の感情も美和に丸見えなんだろうな。

なんて、聞こえてるんだろう?

聞こえてたって、どうせ美和のことしか考えてないし、

困ることなんか1つもないけど・・・



むしろ。

俺の気持ちがそのまま伝わればいいとさえ思う。

たぶん、美和はわかってるようでわかってないと思うから。



俺が、

一分一秒休まず、

美和のことを考えてるってことを。





美和。

――――ん。



俺の感情、そっちに流れてる?

――――少しね。私のこと怒ってる。ふふっ。



当たり前だろ。一生のトラウマ。

――――そんなぁ。



責任取れよ。

――――わかってる。責任取るよ。



忘れるなよ、その言葉。

――――忘れないよ・・・ね、杏?



ん?

――――早く迎えに来て?



ん、今行くから。

――――ん。








さて、と。

美和と繋がって、居場所がわかったのはよかったけど、未だJJ達との通信手段は断たれたまま。

どうやって彼らと連絡を取るか。


一応スマホも確認したけど、圏外になってる。


最終手段は・・・ペンダントを引っ張ってZ部隊をここに呼ぶことだけど・・・

俺はとりあえずバイクで滑走路まで戻り、JJ達と連絡が取れるかどうか試してみることにした。



すると。



滑走路にはアーサーのヘリ。

その脇にはパイロットが立って待っている。

俺は近寄った。



「Who are you with? (所属は?)」

「ARTHUR. Z部隊です。この島の通信手段を失ったのでここでキョウを待機するようにZから指示を受けました。Dと申します」

「助かった―――そしたらとりあえずサイパン方面に向かってもらえますか。美和を乗せた船がその近辺にいるのと、あとZ達とも連絡を取りたいから」

「もちろんです。さ、乗ってください」



ジェイクの島から上空に飛び立ちサイパン島に近付くと、突然通信が復活した。

「やっぱりあの島全体で通信不可能だったんだ」

「あの島はジェイク個人のものなので好き勝手にコントロールできるみたいですね」

「だからあそこを選んだってことか」



ヘリの窓から眼下を見下ろす。

思ったより海に出ている船が多い。

この中から美和のいる船を捜すのか。



俺は再び、ハートと腹に意識を向けた。




美和。

―――うん。



ちゃんと聞こえる?

―――うん。



そこから何が見える?

―――右手にサイパン島。右手後方にスーサイドクリフ。



ってことはバード島とサン・ホアン・ビーチの間のどこかか。

「D、島の左側を飛んで」

「了解です」



船の特徴は?

―――かなり大きいよ。全長200mくらいあってホテルというか1つの街みたい。白地に濃紺の二重ラインがボディに入ってる。



つまり豪華客船ってこと?

―――そう。



わかった。今そっちに向かうから。

―――最上階デッキで待ってる。ヘリでしょう?見つけたら手を振るから。



いや、ヘリで至近距離まで近くづから・・・危ないから中にいて。

―――でも。


大丈夫。すぐ行くから。








そしてしばらくして。


「明らかにあれですね」

「そうですね」

Dと俺は同時に船を発見した。



「あの船に飛び移りたいんですけど、どこまで近寄れますか?」

「それはいくらキョウでもちょっと危険だと思います」

「大丈夫、アーサーの研究者から特別な装置もらってるので」

「特別って?」



それはみかけ親指サイズのLED懐中電灯。

でもスイッチを押すと、俺の体重を支えられるくらいの大量の空気が噴射される。

これを片手で1つずつ持って噴射量や角度を調整すれば、船に飛び移れる。


そうやって説明しても不安そうなD。



「大丈夫。研究所で一度使ったことがあるから」

「念のためZの指示を仰がせてください―――ヘリの振動もありますが、ここは風が特に強いし波もかなり荒れてる・・・Z、キョウの指示通りでいいですか?」


「あぁ、大丈夫。その船、バカでかいし。でも万が一のために至急ボートをサイパンからそっちに向かわせるから」

「俺、ホントに大丈夫ですよ。ヘマしませんって」

「万が一海に落ちてもキョウは泳げるしな」

「くく、そうですよ。だから大丈夫」


「Dはキョウが船に移った後もしばらく上空で待機。いいな」

「はい」



ギリギリまで船に寄ってくれようとするD。

でもこれ以上近付くとDが危険だ。


「D、もう充分。ここから降ります」

「検討を祈りますよ!」


そして俺はヘリから飛び降りた。






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