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第26章:「hide-and-seek1」
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「でもここにいるんだな、そういう人。ふふっ」
「美和?」
そう言うと、美和はすくっとその場から立ち上がって俺の髪を撫でた。
「どうした、突然」
俺は、俺の髪を撫でてる美和の右手を掴んでその動きを止めた。
言われてることは俺にとって嬉しいことだけど・・・
なんかすごく違和感がある。
「なんでそんな話、ここで持ち出すんだ?」
「私・・・なんて幸せ者なんだろうって思って。「自分の好きな人」にこんなに大切に想われて」
自分の好きな人。
―――って、ここで言うってことは、
俺のこと、だよな?
はっきりそう言われて嬉しいはずなのに・・・何故か違和感が拭えない。
なにかが・・・起こっている。
俺は美和の手を更に強く握った。
「美和、どうした?」
すると優しく微笑みながら美和が言った。
「杏、そのまま表情を変えずに聞いて。このまま一気に大通りまで走るから。そして出来ればそこでタクシーを拾って、バンのある駐車場に戻る。もし拾えなかったら駅まで走って電車に乗ってバンを拾う。いい?」
それを聞いた瞬間―――俺は気付いた。
俺達から約100メートル距離を置いて、3つの人影を感じる。
3人とも長身・・・180は超えている。
ここは巨大な霊園。
等間隔に3人が俺達に意識を向けてるなんて・・・どう考えてもおかしい。
畜生。
美和より先に気付けなかった。
明らかに、俺は油断してた。
一般の人達が100メートル離れてる、自分に意識を向けてる人間の気配を感じるのはほぼ不可能。
でも俺はこういう場合を想定してトレーニングを積んできたはずだったのに。
杏。
オマエ、何やってんだよ。
無性に自分に腹が立つ。
だけど今はそんなことよりも、冷静にこの場を・・・美和を安全な場所に移さなければ。
更に美和は続けた。
「もし彼らを巻く途中で私たちが離れ離れになってしまったら、家で集合。わかった?」
「俺が美和から離れるわけないだろ。美和もちゃんと俺について来いよ」
「万が一よ。わかってると思うけど、私もちゃんとトレーニング積んでるから、「万が一」そういうことになっても心配しないでね」
「だから「万が一」ってことはねぇよ」
俺は美和の頬を撫でながら、でも完全に戦闘モードに入った。
圭さんから見せてもらった地図が一瞬で蘇る。
大通りまでの近道。
ルートはわかるけど、この霊園を囲むのが高い塀だったら敵に追い詰められる。
来た道をそのまま全力で走れば・・・約1分。
「美和、ヤツらがじわじわ近付いてきてる。このまま来た道を走るぞ。いいか?」
「うん」
「いくぞ・・・3、2、1」
俺は美和の手を握ったまま、霊園を走った。
美和に渡すつもりだった20本のバラの花束を残して―――。
霊園の入り口を無事に抜け、走りながら大通りを行き交う車を目で追う。
さすが、長い間トレーニングを受けてきただけあって、美和は俺の早さに難なくついてきた。
目で「大丈夫か?」と問うと、美和は余裕で微笑む。
背後にあの3人の気配は感じない。
どこだ?
どこへ行った?
そこへタイミング良くタクシーが来るのが見えた。
でも・・・
何故だか俺の直感が「乗るな」と伝える。
「美和、やっぱり駅まで走ろう。ここは人通りが多いから追手が来てもなんとかなる」
「そうだね」
俺達は走った。
バンを拾えればとりあえずなんとかアイツらを振りきれるはず。
あの車には様々な装置もついてるし、なにしろ頑丈にできてる。
このペンダントを引っ張ればZ部隊は動くけど・・・それはまだ早い気がする。
行きしなに往復で切符を買っておいて正解だった。
大通りを必死に走る俺たち2人を、通りすがりの人達が訝しげに見る。
そう、そうやって俺達を見てくれ。
そうすればアイツ等はヘタに動けない。
緑が丘駅に到着し、俺はポケットから2枚の切符を取り出して美和を改札に押し込んだ。
表示を見上げればあと1分で電車が来る。
階段を駆け下りたタイミングで電車がホームに入ってきた。
ドアが開いた瞬間、俺は美和を強く押し込み、美和を抱きしめながらドアが閉まるのを眺めた。
「大丈夫か?」
俺の腕の中にいる美和にそう問いかけると
「もちろん!」
美和がイタズラっぽく笑った。
くくっ。
美和には勝てねぇ。
「とりあえずレオンに電話する」
俺は美和を左腕で抱えながら、右手でスマホを取った。
TRRRRRRRRRRRRR
「キョウ?ごめんなさい、レオンは今電話を取れなくて・・・サラよ。どうしたの?」
「サラ、俺と美和、どうも追われてる気がするんだ。急いで調べてくれないか?」
「わかったわ。JJとZ、キタジマにも連絡しておく。GPS使うわよ?」
「あぁ、頼むよ」
「美和は?平気なの?」
「大丈夫。あと5分でアーサーのバンに戻るから。それに張り付いてる車がいるかも調べて」
「もちろんよ。十分に気を付けて。すぐ応援を行かせるから。車を拾ったら家に戻るんでしょう?」
「そう。あそこが一番安全だから」
「わかったわ。じゃ、またすぐ連絡する」
サラと話しながら辺りを見回していたけど、一般人しか見当たらない。
美和も同じことを思ったみたいだ。
「杏、駅に着いたら車までまたダッシュね」
「そうだな」
ドアが開いた瞬間、俺達は再びバンまで走った。
無事にバンに乗り込み、急発車させると、俺はハンドルの裏に付いている小さなボタンを押した。
これで「アーサー本部」と常時繋がることができる。
フロント部分からはカーナビのようなスクリーンが立ちあがり、JJが映し出された。
「キョウ、ミワ、大丈夫ですか?!」
「うん、大丈夫。とりあえず家に戻るつもりなんだけど、このルートで大丈夫そう?」
「はい。出来るだけ大通りを通ってください。そこで仕掛けてくる可能性は低いですから。Z部隊は研究所でキョウからの指示待ち。キタジマのチームは10分後にキョウ達のバンと並走出来る予定です」
「了解。で、アイツらは誰?」
「それはこちらに任せて。とにかく今は無事に家にたどり着くよう、頑張ってください」
「わかった」
ここから家まで車で約30分。
喜多嶋さんのことだから、きっちり10分で俺らに追いつくだろう。
だから勝負はたぶんこの10分。
俺は念のため、シート裏に隠してあるはずの麻酔銃を手で確認した。
見ると、隣に座っている美和も、このバンに装備されている道具を確認している。
「美和」
「ん?」
俺は美和の頭を撫でながら言った。
「大丈夫だよ」
「わかってる。杏と一緒だもん」
「美和?」
そう言うと、美和はすくっとその場から立ち上がって俺の髪を撫でた。
「どうした、突然」
俺は、俺の髪を撫でてる美和の右手を掴んでその動きを止めた。
言われてることは俺にとって嬉しいことだけど・・・
なんかすごく違和感がある。
「なんでそんな話、ここで持ち出すんだ?」
「私・・・なんて幸せ者なんだろうって思って。「自分の好きな人」にこんなに大切に想われて」
自分の好きな人。
―――って、ここで言うってことは、
俺のこと、だよな?
はっきりそう言われて嬉しいはずなのに・・・何故か違和感が拭えない。
なにかが・・・起こっている。
俺は美和の手を更に強く握った。
「美和、どうした?」
すると優しく微笑みながら美和が言った。
「杏、そのまま表情を変えずに聞いて。このまま一気に大通りまで走るから。そして出来ればそこでタクシーを拾って、バンのある駐車場に戻る。もし拾えなかったら駅まで走って電車に乗ってバンを拾う。いい?」
それを聞いた瞬間―――俺は気付いた。
俺達から約100メートル距離を置いて、3つの人影を感じる。
3人とも長身・・・180は超えている。
ここは巨大な霊園。
等間隔に3人が俺達に意識を向けてるなんて・・・どう考えてもおかしい。
畜生。
美和より先に気付けなかった。
明らかに、俺は油断してた。
一般の人達が100メートル離れてる、自分に意識を向けてる人間の気配を感じるのはほぼ不可能。
でも俺はこういう場合を想定してトレーニングを積んできたはずだったのに。
杏。
オマエ、何やってんだよ。
無性に自分に腹が立つ。
だけど今はそんなことよりも、冷静にこの場を・・・美和を安全な場所に移さなければ。
更に美和は続けた。
「もし彼らを巻く途中で私たちが離れ離れになってしまったら、家で集合。わかった?」
「俺が美和から離れるわけないだろ。美和もちゃんと俺について来いよ」
「万が一よ。わかってると思うけど、私もちゃんとトレーニング積んでるから、「万が一」そういうことになっても心配しないでね」
「だから「万が一」ってことはねぇよ」
俺は美和の頬を撫でながら、でも完全に戦闘モードに入った。
圭さんから見せてもらった地図が一瞬で蘇る。
大通りまでの近道。
ルートはわかるけど、この霊園を囲むのが高い塀だったら敵に追い詰められる。
来た道をそのまま全力で走れば・・・約1分。
「美和、ヤツらがじわじわ近付いてきてる。このまま来た道を走るぞ。いいか?」
「うん」
「いくぞ・・・3、2、1」
俺は美和の手を握ったまま、霊園を走った。
美和に渡すつもりだった20本のバラの花束を残して―――。
霊園の入り口を無事に抜け、走りながら大通りを行き交う車を目で追う。
さすが、長い間トレーニングを受けてきただけあって、美和は俺の早さに難なくついてきた。
目で「大丈夫か?」と問うと、美和は余裕で微笑む。
背後にあの3人の気配は感じない。
どこだ?
どこへ行った?
そこへタイミング良くタクシーが来るのが見えた。
でも・・・
何故だか俺の直感が「乗るな」と伝える。
「美和、やっぱり駅まで走ろう。ここは人通りが多いから追手が来てもなんとかなる」
「そうだね」
俺達は走った。
バンを拾えればとりあえずなんとかアイツらを振りきれるはず。
あの車には様々な装置もついてるし、なにしろ頑丈にできてる。
このペンダントを引っ張ればZ部隊は動くけど・・・それはまだ早い気がする。
行きしなに往復で切符を買っておいて正解だった。
大通りを必死に走る俺たち2人を、通りすがりの人達が訝しげに見る。
そう、そうやって俺達を見てくれ。
そうすればアイツ等はヘタに動けない。
緑が丘駅に到着し、俺はポケットから2枚の切符を取り出して美和を改札に押し込んだ。
表示を見上げればあと1分で電車が来る。
階段を駆け下りたタイミングで電車がホームに入ってきた。
ドアが開いた瞬間、俺は美和を強く押し込み、美和を抱きしめながらドアが閉まるのを眺めた。
「大丈夫か?」
俺の腕の中にいる美和にそう問いかけると
「もちろん!」
美和がイタズラっぽく笑った。
くくっ。
美和には勝てねぇ。
「とりあえずレオンに電話する」
俺は美和を左腕で抱えながら、右手でスマホを取った。
TRRRRRRRRRRRRR
「キョウ?ごめんなさい、レオンは今電話を取れなくて・・・サラよ。どうしたの?」
「サラ、俺と美和、どうも追われてる気がするんだ。急いで調べてくれないか?」
「わかったわ。JJとZ、キタジマにも連絡しておく。GPS使うわよ?」
「あぁ、頼むよ」
「美和は?平気なの?」
「大丈夫。あと5分でアーサーのバンに戻るから。それに張り付いてる車がいるかも調べて」
「もちろんよ。十分に気を付けて。すぐ応援を行かせるから。車を拾ったら家に戻るんでしょう?」
「そう。あそこが一番安全だから」
「わかったわ。じゃ、またすぐ連絡する」
サラと話しながら辺りを見回していたけど、一般人しか見当たらない。
美和も同じことを思ったみたいだ。
「杏、駅に着いたら車までまたダッシュね」
「そうだな」
ドアが開いた瞬間、俺達は再びバンまで走った。
無事にバンに乗り込み、急発車させると、俺はハンドルの裏に付いている小さなボタンを押した。
これで「アーサー本部」と常時繋がることができる。
フロント部分からはカーナビのようなスクリーンが立ちあがり、JJが映し出された。
「キョウ、ミワ、大丈夫ですか?!」
「うん、大丈夫。とりあえず家に戻るつもりなんだけど、このルートで大丈夫そう?」
「はい。出来るだけ大通りを通ってください。そこで仕掛けてくる可能性は低いですから。Z部隊は研究所でキョウからの指示待ち。キタジマのチームは10分後にキョウ達のバンと並走出来る予定です」
「了解。で、アイツらは誰?」
「それはこちらに任せて。とにかく今は無事に家にたどり着くよう、頑張ってください」
「わかった」
ここから家まで車で約30分。
喜多嶋さんのことだから、きっちり10分で俺らに追いつくだろう。
だから勝負はたぶんこの10分。
俺は念のため、シート裏に隠してあるはずの麻酔銃を手で確認した。
見ると、隣に座っている美和も、このバンに装備されている道具を確認している。
「美和」
「ん?」
俺は美和の頭を撫でながら言った。
「大丈夫だよ」
「わかってる。杏と一緒だもん」
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