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第14章:「「愛」ってなんですか?」
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12月24日、早朝5時半。
クリスマスパーティの翌朝。
俺は玄関前に横付けされた喜多嶋さんの高級車の傍にスーツケース片手に立っている。
中身は前にコンちゃんが買ってくれた洋服3セットと多少の下着、靴下のみ。
「必要なものは全てこっちで用意したので、ホントに手ぶらでいいんですよ?」
「そうは言われても・・・念のため」
「あはは。ま、初めてですからね。次回からは手ぶらになると思いますよ、美和さんみたいに」
喜多嶋さんが目を向けた先には、めっちゃ眠そうに玄関から出てくる美和。
持ち物は、財布とスマホしか入ってなさそうな小さなショルダーバックだけ。
「杏、何そのスーツケース」
「念のため」
「ふふっ。喜多嶋さんって相変わらず信用されてないなぁ」
「イヤなこと言わないでくださいよ?」
「信用してないとか、そんなんじゃないですよ。念のためですよ」
「くくっ。わかってますって」
他のみんなは酔いつぶれてまだ夢の中・・・
のはずだったけど、美和を追うように、中から圭さんが出てきた。
早朝でも寝起きでも、圭さんは圭さん。
迫力ある存在感はそのまま。
「美和ちゃん、俺に挨拶もなしで行くつもり?」
「だって圭ちゃん、寝てると思ったから・・・」
美和がそう言うと、圭さんが美和を抱きかかえた。
目線は真っ直ぐ俺に向かってるけど。
「レオンとサラによろしく言っておいて?」
「もちろん。じゃ、行ってくるね?」
「あぁ、本当に気を付けて。ま、杏がいるから大丈夫だとは思うけど・・・杏、ちょっとこっちに来い」
圭さんが美和を下ろし、俺を手招きした。
またなんか言われんのかな・・・
ちょっと憂鬱になりながら足を進める。
正直これ以上はもう、勘弁してほしい。
目の前で立ち止まると、圭さんは昨日と同じように俺の首に右腕を巻き付け、誰にも聞かれないように耳元で囁いた。
「昨日、自分で言ったこと、忘れんなよ?」
明らかに強迫入ったメッセージ。
圭さんとはいえちょっとムカついて、そのままの体勢で言った。
「俺のことなめてるんですか?もう十分過ぎるくらいわかってますよ。勘弁してください」
「くくっ。こっちに戻ってきたら、俺のところでもちゃんと鍛えてやるからな。楽しみにしてろ?」
「そんな話、聞いてないですよ」
「俺が決めたんだよ、杏を立派な男にするってな。だからオマエを息子にしたんだ。研究所じゃそういうことは教えないからな。くくっ」
昨日のある時点まで、圭さんは俺のことを「杏くん」と呼んでいた。
でも俺との話が終わった直後、昌さんとコンちゃんを呼んでこう言った。
「今から杏を俺の息子にする。つまりオマエ達の弟だから今まで以上に可愛がってやれ」
「あ?」「へ?」「ホントなの、それ?!」
「組と会社のヤツらにもこれからはそう紹介するから」
「圭さん、ちょっと待って下さい。なんでそういう話になるんですか?それに俺、両親いるんですけど?」
「別に戸籍をどうこうするつもりはないから。そんなことする必要もないし。俺がそう言ったら、そういう風に周りが動く」
「・・・」
「俺はいいと思うよ。自慢の弟になりそうだし、可愛がってやるよ」
昌さんが俺に微笑んだ。
「そりゃまぁアタシだって杏くんが弟だったら嬉しいけどぉ・・・でも、ヤクザな世界に引き込むのはどうかと思うわ。杏くんはアタシ達と違って頭はいいし、カッコいいし、性格はいいし、普通に生きてても明るい未来が待ってると思うのよ?」
「その辺は心配するな。杏は既に普通の人生は歩めないし、自分でもそう選んだ」
「え、そうなの?!」
「まぁ・・・でも圭さんの息子になるなんて初耳だけど」
俺はもう、かなり呆れて、諦め気味にそう言った。
「ま、親父が決めたことだ。間違えないだろ。どうせ全てを見通したうえで決めたことだろうし」
「そうよね。あ!これで遠慮なく佐伯さんのところの服いっぱい買ってあげられるぅ~★他にもね、いっぱい連れて行きたいお店があるのよ。私の行きつけの美容室とか~」
「・・・」
「杏」
「はい」
「わかってるとは思うけど、昌太郎も孝太郎もいいヤツらだから。安心して頼れよ?」
「なんかこれから面白くなりそうだな」
「そうね!」
昌さんとコンちゃんが笑った。
そしてそのことはすぐ、その場にいたみんなにも伝えられた。
でも、当然だとは思うけど、みんな驚愕と共に半信半疑。
美和にいたっては、かなり複雑な表情で。
結局その場は冗談ぽくかわされて話を終えた。
「美和ちゃんを一生愛し抜く覚悟をしろ。じゃなかったら今、ここで、姿を消せ。美和ちゃんにもこの家のことにもう関わるな」
そう言われた時。
正直俺はビビった。
言われてる内容にビビったんじゃなくて、圭さんの気迫に。
あぁ、この人は本当に美和の為ならなんでもするんだろう、って。
俺は美和を越えるより前に、この人を越えないといけないなって。
正直に、全力でぶつかんないと負けるって、直感でそう思った。
だから―――
俺も素直に圭さんに聞いた。
「圭さん」
「何?」
「「愛」ってなんですか?」
「それはオマエが自分で答えを出すべきだと、俺は思うけど。で、返事は?覚悟する?それとも今、ここで姿を消す?しつこいようだけど、今、ここでの答えしか受け付けないから」
このこと・・・美和のことに関しては、俺は何故だか迷いが全くない。
それは前に美和にも言った。
それにその圭さんの問いには
「迷ってる時間がない」っていうことと「迷うようならここから今すぐ出ていけ」っていう2つのメッセージが込められてるような気がした。
だから俺は、圭さんの瞳に語りかけるように言葉を続けた。
「姿を消す、っていう選択肢は当然俺にはないですよ」
「即答だね」
「ありえないです、美和に会えなくなるじゃないですか」
「そう」
「「美和を一生愛し抜く」覚悟・・・ん・・・「愛」の定義がまだよくわかってないけど、それがなんであれ・・・覚悟っていうか、普通に俺、そうすると思いますけど」
「くくっ、そうなんだ。なんかすごく軽く聞こえるけど?オマエにとってはそれ、そんなに簡単なことなの?普通のことなんだ?覚悟、いらないの?」
「美和に関してはそうですね、普通のことです。圭さんの質問の意味もよくわかってないのに、答えが決まってるって、そういうことでしょう?」
「へぇ・・・」
「迷いがないんですよ、根拠もなく。ま、いまの俺なりにちょっと言葉を変えて言うなら・・・」
「ん?」
「美和のことは「一生大切に」しますよ。美和は・・・彼女が、俺にとってかけがえのない人だっていうのは、俺の中で確かだから。でも、どうしたら美和を「本当の意味」で、大切にできるのか・・・それはこれからもずっと、考えていきます。これ、圭さんの質問の答えになってますか?」
俺がそう言うと、圭さんは満足そうに微笑み、俺の顔を両手で強く挟んでこう言った。
「合格だ。「一生大切にする」っていうその言葉、忘れんなよ?万が一裏切るような事したらどうなるか・・・ま、想像できるよな?」
::::::::::::::::
そして、家を出てから2時間後。
俺と美和は窓のないジェット機の中にいた。
「なんでこの飛行機、窓ないんだ?それになんで客が俺達だけなの?」
「窓がないのは場所が特定できないように。私達だけなのはこれが専用ジェットだから」
喜多嶋さんが空港まで送ってくれるって言った時、俺はてっきり羽田か成田だと思ってたんだけど、実際に着いたのは研究所で。
その敷地内に何故か滑走路があって、そこから俺達は飛び立った。
「じゃ、美和がどこに行くかわからないって言ったのは本当だったんだ」
「うん・・・だけど、これから行くのは私が3年間いたところ」
「え?」
「でも、場所がどこなのかは未だに不明。毎回飛行時間は違うし、施設からは出られないし」
「そっか・・・今回はどのくらいで着くんだろう?」
「今回は10時間ほどで到着です。それまでここでお2人、楽しんで下さいね。映画もゲームもありますよ?」
ジュースとフルーツの盛り合わせを片手にそう声をかけてきたのは、機内での俺達の「お世話係」と自己紹介してきた日高さんという男性。
美和と日高さんは顔見知りらしい。
「日高さん、私昨日ほとんど寝てないので・・・少し寝ます」
「じゃ、奥の部屋で横になりますか?」
俺達が座ってるのは、美和の家のリビングにあるような大きな革張りのソファーで。
「ううん、ここでいいです・・・杏、いい?」
「うん、俺もここでちょっと寝る」
「じゃ、明かりを落としますね。用があったらそこのボタンで知らせてください」
「はい」
そして美和は、俺に寄りかかって眠りに落ちた。
もちろん、俺も。
次に気が付いた時―――
美和はいつのまにか俺の腕の中にいて、俺達には毛布が掛けられていた。
どおりで腕が痛いわけだ。
でも、すげぇ温けぇ。
おまけに、なんだか急にミワワのことを思い出した・・・ミワワ、寂しがってないかな。
「杏・・・おきたの?」
毛布の中から美和が顔をのぞかせる。
ホントにミワワみてぇ。くくっ。
「ごめん、俺が動いたから起こした?」
「ううん、大丈夫。なんかすごくよく眠れた・・・こんなによく眠れたの、いつ以来だろう?」
「もうちょっと寝たら?きっと疲れたんだよ、パーティの準備で」
「うん・・・もうちょっとこのままゴロゴロする」
そう言うと美和は、またぱふっと俺の腕の中に収まった。
結局俺達は、到着の1時間前に日高さんが起こしに来るまでゴロゴロしていた。
でもゴロゴロしながらいっぱい美和の話を聞いた。
美和のお父さんとお母さんは美和が通ってる医学部で知り合って、大恋愛をして、学生結婚したこと。
でも2人ににはなかなか子供が出来なくて、美和は結婚6年目にしてようやく出来た待望の赤ちゃんだったこと。
そして、美和のお父さんと圭さんは実は、あの研究所で知り合った幼馴染みだってこと。
「圭さん・・・明らかにタダモノじゃないもんな」
「だけど、圭ちゃんの特殊能力とか、そういうのは詳しく知らないの。ヤクザさんてことも知らなかったし」
「家業がヤクザさんだったから継いだのかな」
「そうかもね」
「昨日、圭ちゃんが杏を息子にするって宣言したじゃない?」
「あぁ」
「冗談なのか本気なのかよくわかんないけど、なんか、すごく羨ましい」
そう言って美和はちょっと寂しそうな顔をした。
「なんでそんな顔するの?まぁ俺も寝耳に水、って感じだったけど。くく」
「だって・・・杏は私の家族なのに、圭ちゃんの息子でもあって、コンちゃんと昌太郎さんの弟でもあって、本当のご両親もいて、叔父さん夫婦もいて、平井くんと松本くんも初めてウチに来た時「杏の家族は俺達だから」って言ってたし、ミワワもいるし・・・」
「美和・・・」
「ごめん、たぶん、杏を一人占め出来ないっていう大人気ない嫉妬。圭ちゃんにも取られたくないとか、ホントにこれじゃ、コドモだよね。大人になるって約束したのに」
美和はめちゃくちゃ歪んだ笑顔を俺に見せた。
「あのさぁ・・・」
「ん?」
「俺のこともっと信じろ。100%信じろ」
「え?」
「俺はずっと、これから何があっても、美和の傍にいる。俺の言葉が信じられなかったら、圭さんに聞いたらいい。圭さんが証人になってくれるから」
「・・・」
「それに、どれだけ家族が増えても―――俺の中での一番は美和だ。ずっとな」
「・・・」
「それでも美和が不安になるんだったら俺、どうしたらいい?どうしたら、美和を安心させられる?」
俺は美和の髪をゆっくり撫でた。
クリスマスパーティの翌朝。
俺は玄関前に横付けされた喜多嶋さんの高級車の傍にスーツケース片手に立っている。
中身は前にコンちゃんが買ってくれた洋服3セットと多少の下着、靴下のみ。
「必要なものは全てこっちで用意したので、ホントに手ぶらでいいんですよ?」
「そうは言われても・・・念のため」
「あはは。ま、初めてですからね。次回からは手ぶらになると思いますよ、美和さんみたいに」
喜多嶋さんが目を向けた先には、めっちゃ眠そうに玄関から出てくる美和。
持ち物は、財布とスマホしか入ってなさそうな小さなショルダーバックだけ。
「杏、何そのスーツケース」
「念のため」
「ふふっ。喜多嶋さんって相変わらず信用されてないなぁ」
「イヤなこと言わないでくださいよ?」
「信用してないとか、そんなんじゃないですよ。念のためですよ」
「くくっ。わかってますって」
他のみんなは酔いつぶれてまだ夢の中・・・
のはずだったけど、美和を追うように、中から圭さんが出てきた。
早朝でも寝起きでも、圭さんは圭さん。
迫力ある存在感はそのまま。
「美和ちゃん、俺に挨拶もなしで行くつもり?」
「だって圭ちゃん、寝てると思ったから・・・」
美和がそう言うと、圭さんが美和を抱きかかえた。
目線は真っ直ぐ俺に向かってるけど。
「レオンとサラによろしく言っておいて?」
「もちろん。じゃ、行ってくるね?」
「あぁ、本当に気を付けて。ま、杏がいるから大丈夫だとは思うけど・・・杏、ちょっとこっちに来い」
圭さんが美和を下ろし、俺を手招きした。
またなんか言われんのかな・・・
ちょっと憂鬱になりながら足を進める。
正直これ以上はもう、勘弁してほしい。
目の前で立ち止まると、圭さんは昨日と同じように俺の首に右腕を巻き付け、誰にも聞かれないように耳元で囁いた。
「昨日、自分で言ったこと、忘れんなよ?」
明らかに強迫入ったメッセージ。
圭さんとはいえちょっとムカついて、そのままの体勢で言った。
「俺のことなめてるんですか?もう十分過ぎるくらいわかってますよ。勘弁してください」
「くくっ。こっちに戻ってきたら、俺のところでもちゃんと鍛えてやるからな。楽しみにしてろ?」
「そんな話、聞いてないですよ」
「俺が決めたんだよ、杏を立派な男にするってな。だからオマエを息子にしたんだ。研究所じゃそういうことは教えないからな。くくっ」
昨日のある時点まで、圭さんは俺のことを「杏くん」と呼んでいた。
でも俺との話が終わった直後、昌さんとコンちゃんを呼んでこう言った。
「今から杏を俺の息子にする。つまりオマエ達の弟だから今まで以上に可愛がってやれ」
「あ?」「へ?」「ホントなの、それ?!」
「組と会社のヤツらにもこれからはそう紹介するから」
「圭さん、ちょっと待って下さい。なんでそういう話になるんですか?それに俺、両親いるんですけど?」
「別に戸籍をどうこうするつもりはないから。そんなことする必要もないし。俺がそう言ったら、そういう風に周りが動く」
「・・・」
「俺はいいと思うよ。自慢の弟になりそうだし、可愛がってやるよ」
昌さんが俺に微笑んだ。
「そりゃまぁアタシだって杏くんが弟だったら嬉しいけどぉ・・・でも、ヤクザな世界に引き込むのはどうかと思うわ。杏くんはアタシ達と違って頭はいいし、カッコいいし、性格はいいし、普通に生きてても明るい未来が待ってると思うのよ?」
「その辺は心配するな。杏は既に普通の人生は歩めないし、自分でもそう選んだ」
「え、そうなの?!」
「まぁ・・・でも圭さんの息子になるなんて初耳だけど」
俺はもう、かなり呆れて、諦め気味にそう言った。
「ま、親父が決めたことだ。間違えないだろ。どうせ全てを見通したうえで決めたことだろうし」
「そうよね。あ!これで遠慮なく佐伯さんのところの服いっぱい買ってあげられるぅ~★他にもね、いっぱい連れて行きたいお店があるのよ。私の行きつけの美容室とか~」
「・・・」
「杏」
「はい」
「わかってるとは思うけど、昌太郎も孝太郎もいいヤツらだから。安心して頼れよ?」
「なんかこれから面白くなりそうだな」
「そうね!」
昌さんとコンちゃんが笑った。
そしてそのことはすぐ、その場にいたみんなにも伝えられた。
でも、当然だとは思うけど、みんな驚愕と共に半信半疑。
美和にいたっては、かなり複雑な表情で。
結局その場は冗談ぽくかわされて話を終えた。
「美和ちゃんを一生愛し抜く覚悟をしろ。じゃなかったら今、ここで、姿を消せ。美和ちゃんにもこの家のことにもう関わるな」
そう言われた時。
正直俺はビビった。
言われてる内容にビビったんじゃなくて、圭さんの気迫に。
あぁ、この人は本当に美和の為ならなんでもするんだろう、って。
俺は美和を越えるより前に、この人を越えないといけないなって。
正直に、全力でぶつかんないと負けるって、直感でそう思った。
だから―――
俺も素直に圭さんに聞いた。
「圭さん」
「何?」
「「愛」ってなんですか?」
「それはオマエが自分で答えを出すべきだと、俺は思うけど。で、返事は?覚悟する?それとも今、ここで姿を消す?しつこいようだけど、今、ここでの答えしか受け付けないから」
このこと・・・美和のことに関しては、俺は何故だか迷いが全くない。
それは前に美和にも言った。
それにその圭さんの問いには
「迷ってる時間がない」っていうことと「迷うようならここから今すぐ出ていけ」っていう2つのメッセージが込められてるような気がした。
だから俺は、圭さんの瞳に語りかけるように言葉を続けた。
「姿を消す、っていう選択肢は当然俺にはないですよ」
「即答だね」
「ありえないです、美和に会えなくなるじゃないですか」
「そう」
「「美和を一生愛し抜く」覚悟・・・ん・・・「愛」の定義がまだよくわかってないけど、それがなんであれ・・・覚悟っていうか、普通に俺、そうすると思いますけど」
「くくっ、そうなんだ。なんかすごく軽く聞こえるけど?オマエにとってはそれ、そんなに簡単なことなの?普通のことなんだ?覚悟、いらないの?」
「美和に関してはそうですね、普通のことです。圭さんの質問の意味もよくわかってないのに、答えが決まってるって、そういうことでしょう?」
「へぇ・・・」
「迷いがないんですよ、根拠もなく。ま、いまの俺なりにちょっと言葉を変えて言うなら・・・」
「ん?」
「美和のことは「一生大切に」しますよ。美和は・・・彼女が、俺にとってかけがえのない人だっていうのは、俺の中で確かだから。でも、どうしたら美和を「本当の意味」で、大切にできるのか・・・それはこれからもずっと、考えていきます。これ、圭さんの質問の答えになってますか?」
俺がそう言うと、圭さんは満足そうに微笑み、俺の顔を両手で強く挟んでこう言った。
「合格だ。「一生大切にする」っていうその言葉、忘れんなよ?万が一裏切るような事したらどうなるか・・・ま、想像できるよな?」
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そして、家を出てから2時間後。
俺と美和は窓のないジェット機の中にいた。
「なんでこの飛行機、窓ないんだ?それになんで客が俺達だけなの?」
「窓がないのは場所が特定できないように。私達だけなのはこれが専用ジェットだから」
喜多嶋さんが空港まで送ってくれるって言った時、俺はてっきり羽田か成田だと思ってたんだけど、実際に着いたのは研究所で。
その敷地内に何故か滑走路があって、そこから俺達は飛び立った。
「じゃ、美和がどこに行くかわからないって言ったのは本当だったんだ」
「うん・・・だけど、これから行くのは私が3年間いたところ」
「え?」
「でも、場所がどこなのかは未だに不明。毎回飛行時間は違うし、施設からは出られないし」
「そっか・・・今回はどのくらいで着くんだろう?」
「今回は10時間ほどで到着です。それまでここでお2人、楽しんで下さいね。映画もゲームもありますよ?」
ジュースとフルーツの盛り合わせを片手にそう声をかけてきたのは、機内での俺達の「お世話係」と自己紹介してきた日高さんという男性。
美和と日高さんは顔見知りらしい。
「日高さん、私昨日ほとんど寝てないので・・・少し寝ます」
「じゃ、奥の部屋で横になりますか?」
俺達が座ってるのは、美和の家のリビングにあるような大きな革張りのソファーで。
「ううん、ここでいいです・・・杏、いい?」
「うん、俺もここでちょっと寝る」
「じゃ、明かりを落としますね。用があったらそこのボタンで知らせてください」
「はい」
そして美和は、俺に寄りかかって眠りに落ちた。
もちろん、俺も。
次に気が付いた時―――
美和はいつのまにか俺の腕の中にいて、俺達には毛布が掛けられていた。
どおりで腕が痛いわけだ。
でも、すげぇ温けぇ。
おまけに、なんだか急にミワワのことを思い出した・・・ミワワ、寂しがってないかな。
「杏・・・おきたの?」
毛布の中から美和が顔をのぞかせる。
ホントにミワワみてぇ。くくっ。
「ごめん、俺が動いたから起こした?」
「ううん、大丈夫。なんかすごくよく眠れた・・・こんなによく眠れたの、いつ以来だろう?」
「もうちょっと寝たら?きっと疲れたんだよ、パーティの準備で」
「うん・・・もうちょっとこのままゴロゴロする」
そう言うと美和は、またぱふっと俺の腕の中に収まった。
結局俺達は、到着の1時間前に日高さんが起こしに来るまでゴロゴロしていた。
でもゴロゴロしながらいっぱい美和の話を聞いた。
美和のお父さんとお母さんは美和が通ってる医学部で知り合って、大恋愛をして、学生結婚したこと。
でも2人ににはなかなか子供が出来なくて、美和は結婚6年目にしてようやく出来た待望の赤ちゃんだったこと。
そして、美和のお父さんと圭さんは実は、あの研究所で知り合った幼馴染みだってこと。
「圭さん・・・明らかにタダモノじゃないもんな」
「だけど、圭ちゃんの特殊能力とか、そういうのは詳しく知らないの。ヤクザさんてことも知らなかったし」
「家業がヤクザさんだったから継いだのかな」
「そうかもね」
「昨日、圭ちゃんが杏を息子にするって宣言したじゃない?」
「あぁ」
「冗談なのか本気なのかよくわかんないけど、なんか、すごく羨ましい」
そう言って美和はちょっと寂しそうな顔をした。
「なんでそんな顔するの?まぁ俺も寝耳に水、って感じだったけど。くく」
「だって・・・杏は私の家族なのに、圭ちゃんの息子でもあって、コンちゃんと昌太郎さんの弟でもあって、本当のご両親もいて、叔父さん夫婦もいて、平井くんと松本くんも初めてウチに来た時「杏の家族は俺達だから」って言ってたし、ミワワもいるし・・・」
「美和・・・」
「ごめん、たぶん、杏を一人占め出来ないっていう大人気ない嫉妬。圭ちゃんにも取られたくないとか、ホントにこれじゃ、コドモだよね。大人になるって約束したのに」
美和はめちゃくちゃ歪んだ笑顔を俺に見せた。
「あのさぁ・・・」
「ん?」
「俺のこともっと信じろ。100%信じろ」
「え?」
「俺はずっと、これから何があっても、美和の傍にいる。俺の言葉が信じられなかったら、圭さんに聞いたらいい。圭さんが証人になってくれるから」
「・・・」
「それに、どれだけ家族が増えても―――俺の中での一番は美和だ。ずっとな」
「・・・」
「それでも美和が不安になるんだったら俺、どうしたらいい?どうしたら、美和を安心させられる?」
俺は美和の髪をゆっくり撫でた。
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