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第5章:「更なる謎」
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コンちゃんがここで暮らし始めて数週間した週末の土曜。
美和が妙におめかしをしている。
大学に行く時だって、ここまでちゃんしない。
ま、たまにしか行ってないけど。
「美和、どっか行くのか?」
「うん、寂しい?」
美和が笑いながら俺の髪を撫でる。
「別に・・・コンちゃんもミワワもいるから・・・」
「そうよ、私がいるでしょ?」
隣にいたコンちゃんが笑いながら俺の首に腕を回した。
「ごめんね、今回は杏は連れてってあげられないの。夕食には戻るからね。途中でなんか美味しそうなもの買ってくるから楽しみにしてて?」
美和がそう俺達に言った時、ちょうどインターホンが鳴った。
美和はボタンを押し、門を開ける。
「じゃ、行って来るから。いいコにしてるんだよ?」
「俺、そこまでガキじゃねぇよ」
「そうなんだ?ふふっ」
美和は手を振りながら去って行った。
俺とコンちゃんは急いで、玄関が見渡せる縁側に走る。
玄関には高級車。
見計らったのか、ちょうどいいタイミングでコンちゃんくらいの年恰好のオトコが車から下りてきた。
そして、助手席のドアを美和のために、それも慣れた手つきでスムースに開ける。
「ありえない位いいオトコねぇ。美和ちゃんもやるじゃないっ」
コンちゃんが親指をくわえて眺めている。
「おまけにあんな高級車に乗ってるんだから金持ちに違いないわっ。あぁ羨ましいっ」
俺はそのオトコをマジマジと眺めた。
身長はたぶん185cmくらい。
ゴツくも細くもない。
なんとかっていう俳優に似てる。
実は前にも何度か、あのオトコを見かけたことがある。
後姿だったけど、雰囲気的に間違いない。
そのときも美和は、綺麗な格好をして出かけていった。
そして実は、この人以外にも美和を時々迎えにくる人がいる。
俺にはお抱え運転手の姿しか見えないけど、後部座席にその人は乗っている。
まぁ、まだその人のことはコンちゃんには言わないつもり。
「ねぇ、杏くんはあのイケメンのこと聞いてないの?」
「いや全く」
「誰なのかしらぁ。気になるわぁ」
誰なのかは知らないけど、あの人がここに美和を迎えに来るのは月に一回あるかないか。
もう一人のオトコもその程度。
大学に行く以外、ほとんど家にいる美和のことを考えると、どちらも美和の彼氏だっていうのは考えにくい。
でも美和って、ある意味変わってるからなぁ。
常識的に考えても、美和には当てはまらないかもしれないしなぁ。
でもまぁ。
美和がいないとつまんないのはたしかだ。
早く帰って来ねぇかな・・・
ミワワとじゃれながらそんなことを思っていたら、コンちゃんが言った。
「アタシたちもお出かけする?せっかくの夏休みなんだし」
俺は頷いて立ち上がった。
この家は便利だ。
戸締りをしなくていいんだから。
巨大な表門を閉めさえすれば、それで完了。
ちなみに。
コンちゃんは車の免許もバイクの免許も持っている。
ここにはバイクでやってきたんだけど、先月何を思ったか、美和がフルスモークの真っ黒なバンを買ったから、この家には車もある。
あれ?
そういえば、美和って免許、持ってんのか?
持ってたって、こんなにデカイ車、運転できるわけないよな?
おまけに・・・
それこそ暴走族かヤクザ、もしくは一流芸能人が乗るような、見るからに重要人物が乗ってそうな怪しげなバン。
なんでこの車にしたんだろ?
「今日は暑いから車がいいわね」
コンちゃんは楽しそうにそのバンを発進させた。
「総皮張りの高級車ってだけじゃなくて、黒光りのフルスモーク、そしてこのフル装備特別仕様。運転するの、ワクワクしちゃうわ!」
「これってそんなにスゴイの?」
「スゴイわよ。2-3千万くらいするんじゃない?」
「はぁ?」
「でもあれね。美和ちゃんの車の趣味、あの若さでかなり変わってるわよね?もしかしたらあのイケメンが選んだのかしら?」
「・・・どう、かな」
「だって考えても見なさいよ?2千万も出せるんだったら、美和ちゃんに似合う、もっとリーズナブルで小回りの利くカワイイ車がいくらでもあるわよ?」
「そう、だけど・・・美和、変わってるからなぁ」
「ま、それもそうね。ふふ」
「美和って・・・」
「ん?」
「金持ちなんだな」
「まぁ、とても貧乏には見えないわね。あんな豪邸に住んでるんだし、なんだかんだ、いいモノ揃えてるし。でもあの素朴さ、可愛くてたまらないわ」
「・・・コンちゃんて、美和のこと狙ってんの?」
「え、えっ?!あ、あははっ!」
「なんだよ?」
「そんな怖い顔しなくても大丈夫よ。アタシ、ゲイよ?美和ちゃんはアタシにとっては妹みたいなものよ。ふふ」
「・・・」
「安心して。杏くんの邪魔なんかしないわよ。アタシはいつでも杏くんのミ・カ・タ。ね、だからもう睨まないで?」
「なんだよそれ?睨んでなんかねぇよ。睨む理由もねぇし」
「ふふ。そう、なのかしら、ね? いまのはそういう感じじゃあなかったけど。ふふ。で、どこに行きたい?」
「特にはないけど・・・コンちゃんは?」
「そうねぇ、お腹もすいてきたし、とりあえずアタシの知り合いのカフェでランチでもどう?」
コンちゃんはまるで自分の車かのように慣れた手つきでサクサクと走り、おしゃれな店が立ち並ぶ大通りに程近い駐車場に美和のバンを停めた。
「カフェはすぐそこ。行きましょう?」
レイバンのサングラスをかけている短髪長身のコンちゃんは、傍から見たらとてもオカマさんには見えない。
しゃべらなかったらきっとモテるんだろうな、女にも。
「杏くんって、今、身長どのくらい?」
「んと・・・168くらいかな。まだ伸びてるけど」
「アタシも中2くらいの時はそんな感じだったわね。高校卒業する時には180越えてたけど」
「昌太郎さんも同じくらい?」
「そうね、同じくらい。でも二卵性だからなのか、骨格は違うのよ。アタシの方が線が細いの。っていうか、笑っちゃうのはね」
「ん?」
「ウチの家族で一番背が高いのは親父なの。体格も一番いいし、実年齢より相当若く見えるし。陰で美容整形でもしてんのかしらねぇ。ホント、あの人は謎が多くて怖いわ・・・あ、ここよ」
コンちゃんは大通りに面したオープンエリアを通り越し、店の奥へとどんどん進んで行く。
「あ、孝太郎!」
そこには真っ黒なエプロンをつけた色白でちょっと茶髪の綺麗なお姉さん。
「ナオ、なんかおいしいもの食べさせて?このコは杏くん。アタシの大切なお友達」
「どうも、杏です」
「うわぁ、可愛いお友達ね!ナオです。よろしくね?」
ナオさんは軽く俺にお辞儀をして微笑んだ。
コンちゃん曰く。
ナオさんは、自分がゲイだと認識する前の、コンちゃんにとっては最後のオンナの恋人で今では大親友。
高校を卒業してしばらく近藤組系の店でホステスをしてたけど、3か月ほど前、「fusion」という名のこのカフェをオープンさせた。
小さな自分のお城を持つこと、それがナオさんの小さなころからの夢で、働き始めてからたった5年でその夢を叶えたらしい。
このカフェは美和の家から車で10分くらい。
案外近い場所にあって、かなり繁盛してる。
「旨い!」
俺はハンバーガーのプレートを頼んだ。
ファーストフード店のハンバーガーと違って、ふんわりとしたハンバーグは、美和が作ってくれるハンバーグに似てる。
付き合わせのポテトは皮つきで、食べきれないほど。
サワークリームとチリソースで食べる。
「このBLTもおいしいわよ。半分コする?」
「する!!」
「お口に合うかしら?」
俺がBLTにがっついてたら、ナオさんがマンゴーとイチゴのスムージーを持ってきてくれた。
「ハンバーガーもBLTも、めっちゃおいしいです!今度、美和も連れてきます!」
「美和?」
ナオさんはちょっと困った顔をした。
その瞬間、間髪入れずに、
「アタシと杏くんがお世話になってる家のオーナーよ」
コンちゃんはそれまで見たこともないような真面目な顔でナオさんにそう言った。
この2人はどうも、話さなくても会話ができるみたい。
よくわからないけど、ナオさんにすぐ、笑顔が戻った。
お店を出る時、ナオさんがコンちゃんに言った。
「アイツの家、出たんだ」
「あぁ」
あれ?
コンちゃんの顔つきもしゃべり方も・・・オトコっぽくなってる。
「よかった」
「心配掛けたな」
そう言うと、コンちゃんはナオさんの肩を叩いた。
「さてと・・・杏くん、次にいくわよ?」
あれ?
またオンナに戻った。
「どこに行くの?」
「アタシ、洋服買いたいの。後先構わず逃げてきたから服もちょっとしか持ちだせなかったし、実家に取りに行くのもヤだし。ね、付き合って?」
「ヒマだし別にいいけど・・・じゃ、ナオさんまた。ホント、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「ふふっ。またいつでも寄ってね?美和さんにもよろしく」
その後、コンちゃんが向かったのは・・・fusionの近くにあるめちゃくちゃ高そうな洋服屋。
店で働いてる人達は皆モデルみたいで、ビシッと真っ黒なスーツを着こなしている。
「これはこれは珍しい方が。お元気でいらっしゃいましたか?」
店の奥の方から渋いオトコの人が出てきた。
コンちゃんよりかなり年上だと思う。
「お陰さまでまだしぶとく生きてるわ。今日はアタシとこのコの分を適当に見繕って欲しいんだけど」
そう言ってコンちゃんは俺の肩を叩いた。
「え、俺、いらないよ!」
「いいじゃないの。アタシが買ってあげたいの。こんな若くて可愛いコに貢げるなんて、ドキドキしちゃうわ!」
「・・・」
「承知しました。フォーマルですか?」
「いいえ普段着をお願い。杏くんをちょっといいオトコにしてやって?ま、中学生にしてはいいセンスしてるとは思うけど、もう少し磨きたいわ」
「孝太郎さん、杏くんを磨いて、連れ回すつもりなんでしょう?」
「コンちゃん、俺、ホントに服はいっぱい持ってるから大丈夫だよ。明良さんと祥吾さんからたくさんもらうし、最近は美和もどっかから持ってくるから・・・」
「いいじゃないの。美和ちゃんはわからないけど、狂嵐のあの2人がここの店の服を選ぶとは思えないわ。ちゃんといいモノがわかるオトナになるためにはね、若いうちからいいモノを身に付けないとダメなのよ?」
「・・・」
「まぁ、孝太郎さんが言うことにも一理あると思いますよ。ここは大人しく孝太郎さんに従ってみては?」
「・・・はぁ」
「ところで杏くん」
「はい?」
「高校生になったらここでバイトしてみないかい?」
え?
その人―――
この店のオーナー、佐伯さんは俺に怪しく微笑んだ。
この人もオカマさんなのか?
俺は何気に、狙われてんのか?
「ちょっと~佐伯さ~ん、杏くんにヘンなこと言わないでちょうだいよ~」
「キミはウチのお得意さんに相当可愛がられると思うな・・・道歩いてたらスカウトとかされちゃうんじゃないの?」
「・・・全く記憶にないですけど」
「もぅ~佐伯さん、ホントにやめてよ~。杏くんがかわいそうでしょ~。このコは純粋なのよ~」
「いやいや、孝太郎さんもそう思うでしょう?よく今まで無事だったなぁ」
「はぁ?無事・・・って?」
「もーいい加減にして!」
「あはは。すみません孝太郎さん。でもちなみに・・・」
「?」
「ここのバイトはものすごく競争率が高いから、働きたくても働けないコたちが大勢いるんだよ。何十回って応募してくるコもいるしね」
「あぁ、だからみなさん、モデルみたいにカッコいいんですね」
「それはここで働いてるうちに磨かれて行くからだけどね。モデルや俳優としてスカウトされて行くコたちもいるし、仕事ぶりが大企業の社長の目に止まって就職してくコたちもいるし。あ、モデルのshowって知ってる?最近ドラマにも出てるけど」
「アノ子、可愛いわよねぇ~。アタシの好みよ」
「showはここで働き始めて数カ月でスカウトされてね。それからも人気が出るまではここで働いてくれたんだよ。義理固い、いいコなんだな」
「へぇ~、ますますスキになっちゃうわね~。失敗したわ!マメにここに顔出しておけばよかった!」
「「・・・」」
「ま、とにかくね。そこらへんのバイトに比べたらお給料は断然いいよ?顧客がついたら格段に収入も増えるし、チップがもらえるコもいるしね」
「それは・・・いいかも、な」
「き、杏くんったら、な、なに言っちゃってんの?!」
コンちゃんは目を見開いて俺の肩を激しく揺すった。
「だって俺・・・高校生になったらバイトして、美和に部屋代払いたいからさ。給料がいいんだったら、中学の2年分も返せるかもしれないし。ね、コンちゃんは今、いくら美和に払ってんの?」
「そ、それは内緒よっ!!」
それは・・・今まで見たことがない、ひどく狼狽したコンちゃん。
なんでそんなに焦ってるんだ?
「なんで?きっと同じくらいの部屋代だと思うんだよね。教えてよ。そしたら俺がどのくらいの時給でどのくらい働けば返せるか、わかるじゃん」
「だから言わないって!これは美和ちゃんとの約束なのっ!」
「え?」
「杏くんに部屋代を言ったことがバレたらアタシ、あの家から速攻立ち退かないといけないんだからっ!あ~、もう絶対に聞かないでよっ!」
なんだよ、それ?
「まぁまぁ、孝太郎さん、落ち着きましょう?とにかく杏くん、待ってるからね?高校に合格したらとりあえず顔みせてね?」
佐伯さんは俺に名刺を手渡した。
結局。
コンちゃんは俺の服を、上から下まで一式、それも3セット買った。
「コンちゃん、これはいくらなんでも買いすぎだよ。いくらしたんだよ?」
「いいじゃないの。また一緒に行きましょうね?杏くんがいいオトコになるのを見るのは楽しいわ!」
「・・・」
「デートの時には必ずそのうちのどれかを着てくのよ?」
「ないよ、デートなんて。だから俺、遠慮なくフツーの時に着させてもらうから」
ふふっ。
コンちゃんは意味深に微笑み、こう言った。
「じゃ、今日みたいに美和ちゃんにお洒落してもらって、近いうちに3人で出かけましょう?アタシも今日買った服を着るから・・・杏くんはあのイケメンに負けちゃダメよ?」
美和が妙におめかしをしている。
大学に行く時だって、ここまでちゃんしない。
ま、たまにしか行ってないけど。
「美和、どっか行くのか?」
「うん、寂しい?」
美和が笑いながら俺の髪を撫でる。
「別に・・・コンちゃんもミワワもいるから・・・」
「そうよ、私がいるでしょ?」
隣にいたコンちゃんが笑いながら俺の首に腕を回した。
「ごめんね、今回は杏は連れてってあげられないの。夕食には戻るからね。途中でなんか美味しそうなもの買ってくるから楽しみにしてて?」
美和がそう俺達に言った時、ちょうどインターホンが鳴った。
美和はボタンを押し、門を開ける。
「じゃ、行って来るから。いいコにしてるんだよ?」
「俺、そこまでガキじゃねぇよ」
「そうなんだ?ふふっ」
美和は手を振りながら去って行った。
俺とコンちゃんは急いで、玄関が見渡せる縁側に走る。
玄関には高級車。
見計らったのか、ちょうどいいタイミングでコンちゃんくらいの年恰好のオトコが車から下りてきた。
そして、助手席のドアを美和のために、それも慣れた手つきでスムースに開ける。
「ありえない位いいオトコねぇ。美和ちゃんもやるじゃないっ」
コンちゃんが親指をくわえて眺めている。
「おまけにあんな高級車に乗ってるんだから金持ちに違いないわっ。あぁ羨ましいっ」
俺はそのオトコをマジマジと眺めた。
身長はたぶん185cmくらい。
ゴツくも細くもない。
なんとかっていう俳優に似てる。
実は前にも何度か、あのオトコを見かけたことがある。
後姿だったけど、雰囲気的に間違いない。
そのときも美和は、綺麗な格好をして出かけていった。
そして実は、この人以外にも美和を時々迎えにくる人がいる。
俺にはお抱え運転手の姿しか見えないけど、後部座席にその人は乗っている。
まぁ、まだその人のことはコンちゃんには言わないつもり。
「ねぇ、杏くんはあのイケメンのこと聞いてないの?」
「いや全く」
「誰なのかしらぁ。気になるわぁ」
誰なのかは知らないけど、あの人がここに美和を迎えに来るのは月に一回あるかないか。
もう一人のオトコもその程度。
大学に行く以外、ほとんど家にいる美和のことを考えると、どちらも美和の彼氏だっていうのは考えにくい。
でも美和って、ある意味変わってるからなぁ。
常識的に考えても、美和には当てはまらないかもしれないしなぁ。
でもまぁ。
美和がいないとつまんないのはたしかだ。
早く帰って来ねぇかな・・・
ミワワとじゃれながらそんなことを思っていたら、コンちゃんが言った。
「アタシたちもお出かけする?せっかくの夏休みなんだし」
俺は頷いて立ち上がった。
この家は便利だ。
戸締りをしなくていいんだから。
巨大な表門を閉めさえすれば、それで完了。
ちなみに。
コンちゃんは車の免許もバイクの免許も持っている。
ここにはバイクでやってきたんだけど、先月何を思ったか、美和がフルスモークの真っ黒なバンを買ったから、この家には車もある。
あれ?
そういえば、美和って免許、持ってんのか?
持ってたって、こんなにデカイ車、運転できるわけないよな?
おまけに・・・
それこそ暴走族かヤクザ、もしくは一流芸能人が乗るような、見るからに重要人物が乗ってそうな怪しげなバン。
なんでこの車にしたんだろ?
「今日は暑いから車がいいわね」
コンちゃんは楽しそうにそのバンを発進させた。
「総皮張りの高級車ってだけじゃなくて、黒光りのフルスモーク、そしてこのフル装備特別仕様。運転するの、ワクワクしちゃうわ!」
「これってそんなにスゴイの?」
「スゴイわよ。2-3千万くらいするんじゃない?」
「はぁ?」
「でもあれね。美和ちゃんの車の趣味、あの若さでかなり変わってるわよね?もしかしたらあのイケメンが選んだのかしら?」
「・・・どう、かな」
「だって考えても見なさいよ?2千万も出せるんだったら、美和ちゃんに似合う、もっとリーズナブルで小回りの利くカワイイ車がいくらでもあるわよ?」
「そう、だけど・・・美和、変わってるからなぁ」
「ま、それもそうね。ふふ」
「美和って・・・」
「ん?」
「金持ちなんだな」
「まぁ、とても貧乏には見えないわね。あんな豪邸に住んでるんだし、なんだかんだ、いいモノ揃えてるし。でもあの素朴さ、可愛くてたまらないわ」
「・・・コンちゃんて、美和のこと狙ってんの?」
「え、えっ?!あ、あははっ!」
「なんだよ?」
「そんな怖い顔しなくても大丈夫よ。アタシ、ゲイよ?美和ちゃんはアタシにとっては妹みたいなものよ。ふふ」
「・・・」
「安心して。杏くんの邪魔なんかしないわよ。アタシはいつでも杏くんのミ・カ・タ。ね、だからもう睨まないで?」
「なんだよそれ?睨んでなんかねぇよ。睨む理由もねぇし」
「ふふ。そう、なのかしら、ね? いまのはそういう感じじゃあなかったけど。ふふ。で、どこに行きたい?」
「特にはないけど・・・コンちゃんは?」
「そうねぇ、お腹もすいてきたし、とりあえずアタシの知り合いのカフェでランチでもどう?」
コンちゃんはまるで自分の車かのように慣れた手つきでサクサクと走り、おしゃれな店が立ち並ぶ大通りに程近い駐車場に美和のバンを停めた。
「カフェはすぐそこ。行きましょう?」
レイバンのサングラスをかけている短髪長身のコンちゃんは、傍から見たらとてもオカマさんには見えない。
しゃべらなかったらきっとモテるんだろうな、女にも。
「杏くんって、今、身長どのくらい?」
「んと・・・168くらいかな。まだ伸びてるけど」
「アタシも中2くらいの時はそんな感じだったわね。高校卒業する時には180越えてたけど」
「昌太郎さんも同じくらい?」
「そうね、同じくらい。でも二卵性だからなのか、骨格は違うのよ。アタシの方が線が細いの。っていうか、笑っちゃうのはね」
「ん?」
「ウチの家族で一番背が高いのは親父なの。体格も一番いいし、実年齢より相当若く見えるし。陰で美容整形でもしてんのかしらねぇ。ホント、あの人は謎が多くて怖いわ・・・あ、ここよ」
コンちゃんは大通りに面したオープンエリアを通り越し、店の奥へとどんどん進んで行く。
「あ、孝太郎!」
そこには真っ黒なエプロンをつけた色白でちょっと茶髪の綺麗なお姉さん。
「ナオ、なんかおいしいもの食べさせて?このコは杏くん。アタシの大切なお友達」
「どうも、杏です」
「うわぁ、可愛いお友達ね!ナオです。よろしくね?」
ナオさんは軽く俺にお辞儀をして微笑んだ。
コンちゃん曰く。
ナオさんは、自分がゲイだと認識する前の、コンちゃんにとっては最後のオンナの恋人で今では大親友。
高校を卒業してしばらく近藤組系の店でホステスをしてたけど、3か月ほど前、「fusion」という名のこのカフェをオープンさせた。
小さな自分のお城を持つこと、それがナオさんの小さなころからの夢で、働き始めてからたった5年でその夢を叶えたらしい。
このカフェは美和の家から車で10分くらい。
案外近い場所にあって、かなり繁盛してる。
「旨い!」
俺はハンバーガーのプレートを頼んだ。
ファーストフード店のハンバーガーと違って、ふんわりとしたハンバーグは、美和が作ってくれるハンバーグに似てる。
付き合わせのポテトは皮つきで、食べきれないほど。
サワークリームとチリソースで食べる。
「このBLTもおいしいわよ。半分コする?」
「する!!」
「お口に合うかしら?」
俺がBLTにがっついてたら、ナオさんがマンゴーとイチゴのスムージーを持ってきてくれた。
「ハンバーガーもBLTも、めっちゃおいしいです!今度、美和も連れてきます!」
「美和?」
ナオさんはちょっと困った顔をした。
その瞬間、間髪入れずに、
「アタシと杏くんがお世話になってる家のオーナーよ」
コンちゃんはそれまで見たこともないような真面目な顔でナオさんにそう言った。
この2人はどうも、話さなくても会話ができるみたい。
よくわからないけど、ナオさんにすぐ、笑顔が戻った。
お店を出る時、ナオさんがコンちゃんに言った。
「アイツの家、出たんだ」
「あぁ」
あれ?
コンちゃんの顔つきもしゃべり方も・・・オトコっぽくなってる。
「よかった」
「心配掛けたな」
そう言うと、コンちゃんはナオさんの肩を叩いた。
「さてと・・・杏くん、次にいくわよ?」
あれ?
またオンナに戻った。
「どこに行くの?」
「アタシ、洋服買いたいの。後先構わず逃げてきたから服もちょっとしか持ちだせなかったし、実家に取りに行くのもヤだし。ね、付き合って?」
「ヒマだし別にいいけど・・・じゃ、ナオさんまた。ホント、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「ふふっ。またいつでも寄ってね?美和さんにもよろしく」
その後、コンちゃんが向かったのは・・・fusionの近くにあるめちゃくちゃ高そうな洋服屋。
店で働いてる人達は皆モデルみたいで、ビシッと真っ黒なスーツを着こなしている。
「これはこれは珍しい方が。お元気でいらっしゃいましたか?」
店の奥の方から渋いオトコの人が出てきた。
コンちゃんよりかなり年上だと思う。
「お陰さまでまだしぶとく生きてるわ。今日はアタシとこのコの分を適当に見繕って欲しいんだけど」
そう言ってコンちゃんは俺の肩を叩いた。
「え、俺、いらないよ!」
「いいじゃないの。アタシが買ってあげたいの。こんな若くて可愛いコに貢げるなんて、ドキドキしちゃうわ!」
「・・・」
「承知しました。フォーマルですか?」
「いいえ普段着をお願い。杏くんをちょっといいオトコにしてやって?ま、中学生にしてはいいセンスしてるとは思うけど、もう少し磨きたいわ」
「孝太郎さん、杏くんを磨いて、連れ回すつもりなんでしょう?」
「コンちゃん、俺、ホントに服はいっぱい持ってるから大丈夫だよ。明良さんと祥吾さんからたくさんもらうし、最近は美和もどっかから持ってくるから・・・」
「いいじゃないの。美和ちゃんはわからないけど、狂嵐のあの2人がここの店の服を選ぶとは思えないわ。ちゃんといいモノがわかるオトナになるためにはね、若いうちからいいモノを身に付けないとダメなのよ?」
「・・・」
「まぁ、孝太郎さんが言うことにも一理あると思いますよ。ここは大人しく孝太郎さんに従ってみては?」
「・・・はぁ」
「ところで杏くん」
「はい?」
「高校生になったらここでバイトしてみないかい?」
え?
その人―――
この店のオーナー、佐伯さんは俺に怪しく微笑んだ。
この人もオカマさんなのか?
俺は何気に、狙われてんのか?
「ちょっと~佐伯さ~ん、杏くんにヘンなこと言わないでちょうだいよ~」
「キミはウチのお得意さんに相当可愛がられると思うな・・・道歩いてたらスカウトとかされちゃうんじゃないの?」
「・・・全く記憶にないですけど」
「もぅ~佐伯さん、ホントにやめてよ~。杏くんがかわいそうでしょ~。このコは純粋なのよ~」
「いやいや、孝太郎さんもそう思うでしょう?よく今まで無事だったなぁ」
「はぁ?無事・・・って?」
「もーいい加減にして!」
「あはは。すみません孝太郎さん。でもちなみに・・・」
「?」
「ここのバイトはものすごく競争率が高いから、働きたくても働けないコたちが大勢いるんだよ。何十回って応募してくるコもいるしね」
「あぁ、だからみなさん、モデルみたいにカッコいいんですね」
「それはここで働いてるうちに磨かれて行くからだけどね。モデルや俳優としてスカウトされて行くコたちもいるし、仕事ぶりが大企業の社長の目に止まって就職してくコたちもいるし。あ、モデルのshowって知ってる?最近ドラマにも出てるけど」
「アノ子、可愛いわよねぇ~。アタシの好みよ」
「showはここで働き始めて数カ月でスカウトされてね。それからも人気が出るまではここで働いてくれたんだよ。義理固い、いいコなんだな」
「へぇ~、ますますスキになっちゃうわね~。失敗したわ!マメにここに顔出しておけばよかった!」
「「・・・」」
「ま、とにかくね。そこらへんのバイトに比べたらお給料は断然いいよ?顧客がついたら格段に収入も増えるし、チップがもらえるコもいるしね」
「それは・・・いいかも、な」
「き、杏くんったら、な、なに言っちゃってんの?!」
コンちゃんは目を見開いて俺の肩を激しく揺すった。
「だって俺・・・高校生になったらバイトして、美和に部屋代払いたいからさ。給料がいいんだったら、中学の2年分も返せるかもしれないし。ね、コンちゃんは今、いくら美和に払ってんの?」
「そ、それは内緒よっ!!」
それは・・・今まで見たことがない、ひどく狼狽したコンちゃん。
なんでそんなに焦ってるんだ?
「なんで?きっと同じくらいの部屋代だと思うんだよね。教えてよ。そしたら俺がどのくらいの時給でどのくらい働けば返せるか、わかるじゃん」
「だから言わないって!これは美和ちゃんとの約束なのっ!」
「え?」
「杏くんに部屋代を言ったことがバレたらアタシ、あの家から速攻立ち退かないといけないんだからっ!あ~、もう絶対に聞かないでよっ!」
なんだよ、それ?
「まぁまぁ、孝太郎さん、落ち着きましょう?とにかく杏くん、待ってるからね?高校に合格したらとりあえず顔みせてね?」
佐伯さんは俺に名刺を手渡した。
結局。
コンちゃんは俺の服を、上から下まで一式、それも3セット買った。
「コンちゃん、これはいくらなんでも買いすぎだよ。いくらしたんだよ?」
「いいじゃないの。また一緒に行きましょうね?杏くんがいいオトコになるのを見るのは楽しいわ!」
「・・・」
「デートの時には必ずそのうちのどれかを着てくのよ?」
「ないよ、デートなんて。だから俺、遠慮なくフツーの時に着させてもらうから」
ふふっ。
コンちゃんは意味深に微笑み、こう言った。
「じゃ、今日みたいに美和ちゃんにお洒落してもらって、近いうちに3人で出かけましょう?アタシも今日買った服を着るから・・・杏くんはあのイケメンに負けちゃダメよ?」
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