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第2章:「任務」
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ミワワ~ミワワ~
どこへ行ったんだろう。
美和がミワワの首に付けた、鈴の音が聞こえない。
こういう時、この家が広すぎて複雑すぎて・・・探しようがないのが厄介だ。
俺の背よりも遥に高い塀に囲まれてるし、まだちっちゃいから、敷地内にいるのは確かだけど。
長い紐でもつけとかないと、そのうち本当にまずいことになるかもな。
ミワワが迷って、俺も知らないヘンな隠し部屋にでも閉じ込められたら大変だし。
「あ!」
みつけた。
美和とミワワを同時に。
リビングのソファーで、気持ちよさそうに一緒にスヤスヤ昼寝をしてる。
「しかたないな」
俺の遊び相手が両方とも寝てるんじゃ、俺も昼寝するしかない。
俺は向かいにある長ソファーに寝転んだ。
―――チリン
ウトウトして深い眠りに落ちそうだった瞬間、耳元で鈴の音が鳴った。
ミワワ!
俺は飛び起きた。
ミワワが驚いて、床に飛び降りた。
びっくり目でこっちを見てる。
「おいで」
俺が両手を広げると、ミワワが俺の胸に飛び込んできた。
すげぇ、かわいい。
俺はミワワをぎゅっと抱きしめて、また眠りにつく。
ミワワは柔らかくて暖かくて―――抱いているとホッとする。
ところで、勉強の方はというと。
今週の課題は、1年の教科書を一日5回ずつ読むことと、2年の教科書を100回ずつ読むこと。
不思議なんだけど、1年の教科書の方はもう、ペラペラめくってるだけで面白いように頭に入ってくる。
それも、文字が自分から、俺の目に飛び込んでくる感じ。
それも覚えてないところだけ。
すげぇ簡単だし早いから、実際は5回どころか結構読んでると思う。
2年の教科書は今週初めてだから、結構読むのに時間がかかった。
おまけにまだ習ってないところも含めて読まないといけない。
でもこの後どうなるのか俺にはわかってる。
すぐにまたペラペラめくるだけになるんだ。
それから一週間が経ち、美和がまたその週読んだ内容について質問をした。
今回もまた、ほぼ完璧に答えられた。
だから今日は、美和がいつも使ってるという隠し部屋に連れてってもらう。
相変わらず俺の左手首をぎゅっと握って、少し前を歩く美和。
いきなり止まったから、ぶつかりそうになった。
「どうした?」
「言うの忘れてたんだけど・・・」
美和が深刻な顔で俺の方に振り返った。
「なに?なんか困ったことでもあった?」
俺にもなんか出来ることがあるんだったら、遠慮なく言ってほしい。
俺にはまだ自分じゃ、
美和のために何が出来るのかがわからないから―――。
「あのね・・・」
「ん?」
「・・・隠し部屋のことは私と杏だけの秘密だよ?」
ぷはっ。
「なんだそんなことかよ?そんなの知ってるよ。みんなが知ってたら隠し部屋じゃないじゃん」
俺は爆笑した。
「そっか。私っておバカだね~」
美和は・・・ホッとした表情で笑った。
「な、美和、隠し部屋っていくつあんの?」
「それは内緒」
「美和は知ってんの?」
「うん。実際に数えたことはないけど、遺言状に書いてあったから本当だと思う」
ここに世話になるようになってから1カ月以上経つけど、俺はまだあんまり美和のことを知らない。
超有名国立大の医学生で、18歳で、両親も兄弟姉妹もいないってことくらい。
俺は美和よりすげぇ年下で―――正確に言うと、学年は5コ違うけど、年は4つ違い。
美和が3月25日生まれで、俺が4月5日生まれだから。
とにかく、それだけ年が離れてるから、頼りなくて俺にはいろいろ言えないのかなってたまに寂しくなる。
美和の力になりたいのに。
だけど、俺がガキすぎて、どうしたらいいのかわからない。
早く大人になって、美和のことを助けたい。
そう思うけど、そのためにはとりあえず高校に行かないと・・・って思う。
俺たちは美和の部屋の前に来た。
美也の部屋は凄く広い。
俺が与えてもらってる部屋も8畳くらいあって広いけど、ここは俺の部屋の倍以上ある。
グランドピアノまで置いてある。
「私がここを使ってるのには理由があるの」
「なに?」
「それをこれから教えてあげる」
美和は部屋の奥にあるクローゼットを開けた。
洋服がたくさんかかってる。
ちなみに。
無頓着そうに見えるのに、美和は結構おしゃれだ。
でも、買い物に行くところを未だ見たことがない・・・洋服に限らず、食料も。
一体いつ買ってくるんだろう?
美和って、本当に不思議だ。
そんなことを考えてたら、美和がそのたくさん洋服のかかっているハンガーを片側に寄せた。
そして、奥の壁をふすまのように横に開ける。
え?
そこにはダイアルロック式のドア。
巨大な金庫って感じ。
「杏、部屋のドアの鍵、内側から閉めてくれる?」
この部屋には内鍵まで付いてるのか。
すごいな。
俺が部屋の鍵を閉めてる間に、その金庫の鍵は空いていた。
暗証番号はわからなかった。
「暗証番号は麻生家の人間にしか教えられないの。ごめんね?」
「そんなの当然だよ」
中に何があるのかはわからないけど、きっと貴重なものなんだろう。
そんな大切なモノを保管してる金庫の番号なんて、知りたくもない。
「さ、中に入ろう?」
地下に続くはしご階段。
古びた家なのに、ここだけすごく新しい感じ。
空調が効いてるみたいで、ひんやりしている。
SF映画に出てくるUFOの中みたいで、俺はドキドキした。
緊張と興奮のハイブリッド。
俺は美和の後について階下に進む。
美和の手を踏まないように、ゆっくり、ゆっくりと。
階段を下りきったところはすごく狭くて、俺と美和が一緒に並んで立てないくらい。
こうやって近くで見ると、ホントに美和ってちっちゃいな。
なんか、潰しちゃいそう。
「杏、ちょっと後ろ向いてて?」
体勢的に後ろを向くのはムリだったから上を向いた。
美和はまた暗証番号を使ってるようだ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
4回音がなったところで、ガーっという音がした。
思わず音のする方を見ると、壁の一部が開いていた。
「ようこそ。麻生図書館へ」
「うわぁ・・・っ」
そこはなんかの映画で見たことがあるような、巨大な図書館。
一見すると、俺の中学の体育館くらいの大きさ。
この家の地下にこんな場所があるなんて・・・信じられない。
ここは。
高い天井から床まで、端から端まで、限りなく本やノート?のようなもので埋め尽くされている。
古いものもあるみたいで、博物館のような、独特の香りもする。
「麻生家は医者の家系でね。人類にとって貴重だと思われる医学書や、明文化されてない医学的に重要な情報を収集・記録して、代々ここに保存してるの。これは麻生家を継ぐ者の任務の1つなんだよ」
「そんな大切なこと、俺に言っていいの?」
美和がさらっとそんな機密事項みたいなことを俺に言ったから、逆にビビる。
「杏は秘密を守れるでしょ?」
「もちろんだよ」
「それに、杏は私の「家族」だから、どうしても見せたかったの」
「!」
その言葉に、俺はなにも応えられなかった。
あまりに嬉しすぎて、声が出なかったんだ。
「家族」
それはきっと・・・俺が美和から欲しかった言葉。
やっぱり美和は、エスパーに違いない。
美和は俺の欲しいモノがなんでもわかるから。
嬉しさのあまり、俺がちょっと俯いていると、美和が俺の左手首をぎゅっと掴んで歩き始めた。
そして、美和はその広い図書館を俺と巡りながら、少しずつ話し始めた。
それは。
ここ以外にも歴史的に貴重なモノが保存されている隠し部屋があること。
俺が知ってる以外の目的、つまり、誰かを逃がしたり貴重なものを保存する以外の目的を持ってる隠し部屋もあること。
外壁が高かったり電熱線を張り巡らしたりしてるのは、そういう秘密を守るためだということ。
そして今はもう―――、
ここを守るのは美和しかいないこと。
依子さんは?と聞いたら、依子さんは美和のお母さんの妹で、麻生家の人間ではないらしい。
「仮にだよ。美和がここに閉じ込められちゃったら、どうやって助けたらいいの?暗証番号も知らないし、部屋も内側から鍵がかかってるし」
「その時は、終わりだよ」
「へ?」
「あはっ、冗談だよ」
「どっちだよっ!」
ったく。
本気で心配してるって言うのに・・・
「このボタン」
それは非常用の赤いボタンというか、よく映画に出てくるミサイル発射のボタンというか。
「これを押すとね、ここに特殊部隊が突入してくるの。このスペースに20コ、配置されてるんだけど」
「は?」
「私を助けるためというより、ここに保存されてる貴重なモノを保護するためなんだけどね」
「なんだよ、それ?」
「それに」
美和はちょっと哀しそうな顔をした。
「私の脈は遠隔でモニタリングされてるから、私の脈が止まったと同時に特殊部隊が動くの。ふふっ。面白いでしょ?」
言い終えたときには、いつもの明るい表情に戻っていた。
図書館の散策を終え、リビングに戻ってきた俺達。
美和は庭で採れるレモンを使った自家製のレモン水を片手に、ちょこんと俺の隣に座っている。
もちろんミワワも一緒。
「黒い髪も似合うよ・・・松本くんたちは笑ってたけど」
黒くなってもくせっ毛でふわふわの俺の髪質は相変わらず。
美和は楽しそうにくしゃくしゃ触ってる。
「杏の髪って気持ちいい。ずっと触ってたい」
美和はそう言ったけど、俺から言わせてもらえば。
美和に髪の毛を触られてると俺の方が気持ち良くて寝そうになる。
俺が美和の髪を触ったら、美和も気持ち良くて眠くなるのかな?
俺は美和の長い髪を一束手に取った。
「俺は美和の真っ直ぐな髪の方がいいよ。あ!枝毛!」
俺はハサミでその部分をカットした。
これってなんか、くせになる。
「これ、なんかハマる・・・枝毛を探すの、やめられなくなりそう」
「ふふっ。じゃあ、髪の毛切らないほうがいいかなぁ。美容室、予約したんだけど」
「え?!切っちゃうの?どのくらい?」
「まだ決めてないんだけど。スタイリストさんと相談して決めようって思ってたから」
「そっか・・・でも俺、今のままがいいな。枝毛は俺が切ってあげるからさ。もうちょっとこのままでいてよ」
俺がそう言うと5秒くらい間が合って、「じゃ、美容室、キャンセルしとく」と美和は笑った。
それから一時間。
俺はまだ美和の枝毛を探している。
案外ないもんだなぁ。
美和は隣で・・・ミワワを抱きながら眠そうな顔。
「美和、そういえば下宿の件はどうなった?募集してんの?」
「ううん・・・募集はするつもりないの」
ウトウトしながら、そう答える美和。
「じゃ、どうやって住む人を探すの?」
「探さなくても、ここに縁のある人は自然にやってくるはず。杏みたいにね」
美和は寝ぼけた顔で、だけど優しく微笑みながら、俺の髪を撫でた。
どこへ行ったんだろう。
美和がミワワの首に付けた、鈴の音が聞こえない。
こういう時、この家が広すぎて複雑すぎて・・・探しようがないのが厄介だ。
俺の背よりも遥に高い塀に囲まれてるし、まだちっちゃいから、敷地内にいるのは確かだけど。
長い紐でもつけとかないと、そのうち本当にまずいことになるかもな。
ミワワが迷って、俺も知らないヘンな隠し部屋にでも閉じ込められたら大変だし。
「あ!」
みつけた。
美和とミワワを同時に。
リビングのソファーで、気持ちよさそうに一緒にスヤスヤ昼寝をしてる。
「しかたないな」
俺の遊び相手が両方とも寝てるんじゃ、俺も昼寝するしかない。
俺は向かいにある長ソファーに寝転んだ。
―――チリン
ウトウトして深い眠りに落ちそうだった瞬間、耳元で鈴の音が鳴った。
ミワワ!
俺は飛び起きた。
ミワワが驚いて、床に飛び降りた。
びっくり目でこっちを見てる。
「おいで」
俺が両手を広げると、ミワワが俺の胸に飛び込んできた。
すげぇ、かわいい。
俺はミワワをぎゅっと抱きしめて、また眠りにつく。
ミワワは柔らかくて暖かくて―――抱いているとホッとする。
ところで、勉強の方はというと。
今週の課題は、1年の教科書を一日5回ずつ読むことと、2年の教科書を100回ずつ読むこと。
不思議なんだけど、1年の教科書の方はもう、ペラペラめくってるだけで面白いように頭に入ってくる。
それも、文字が自分から、俺の目に飛び込んでくる感じ。
それも覚えてないところだけ。
すげぇ簡単だし早いから、実際は5回どころか結構読んでると思う。
2年の教科書は今週初めてだから、結構読むのに時間がかかった。
おまけにまだ習ってないところも含めて読まないといけない。
でもこの後どうなるのか俺にはわかってる。
すぐにまたペラペラめくるだけになるんだ。
それから一週間が経ち、美和がまたその週読んだ内容について質問をした。
今回もまた、ほぼ完璧に答えられた。
だから今日は、美和がいつも使ってるという隠し部屋に連れてってもらう。
相変わらず俺の左手首をぎゅっと握って、少し前を歩く美和。
いきなり止まったから、ぶつかりそうになった。
「どうした?」
「言うの忘れてたんだけど・・・」
美和が深刻な顔で俺の方に振り返った。
「なに?なんか困ったことでもあった?」
俺にもなんか出来ることがあるんだったら、遠慮なく言ってほしい。
俺にはまだ自分じゃ、
美和のために何が出来るのかがわからないから―――。
「あのね・・・」
「ん?」
「・・・隠し部屋のことは私と杏だけの秘密だよ?」
ぷはっ。
「なんだそんなことかよ?そんなの知ってるよ。みんなが知ってたら隠し部屋じゃないじゃん」
俺は爆笑した。
「そっか。私っておバカだね~」
美和は・・・ホッとした表情で笑った。
「な、美和、隠し部屋っていくつあんの?」
「それは内緒」
「美和は知ってんの?」
「うん。実際に数えたことはないけど、遺言状に書いてあったから本当だと思う」
ここに世話になるようになってから1カ月以上経つけど、俺はまだあんまり美和のことを知らない。
超有名国立大の医学生で、18歳で、両親も兄弟姉妹もいないってことくらい。
俺は美和よりすげぇ年下で―――正確に言うと、学年は5コ違うけど、年は4つ違い。
美和が3月25日生まれで、俺が4月5日生まれだから。
とにかく、それだけ年が離れてるから、頼りなくて俺にはいろいろ言えないのかなってたまに寂しくなる。
美和の力になりたいのに。
だけど、俺がガキすぎて、どうしたらいいのかわからない。
早く大人になって、美和のことを助けたい。
そう思うけど、そのためにはとりあえず高校に行かないと・・・って思う。
俺たちは美和の部屋の前に来た。
美也の部屋は凄く広い。
俺が与えてもらってる部屋も8畳くらいあって広いけど、ここは俺の部屋の倍以上ある。
グランドピアノまで置いてある。
「私がここを使ってるのには理由があるの」
「なに?」
「それをこれから教えてあげる」
美和は部屋の奥にあるクローゼットを開けた。
洋服がたくさんかかってる。
ちなみに。
無頓着そうに見えるのに、美和は結構おしゃれだ。
でも、買い物に行くところを未だ見たことがない・・・洋服に限らず、食料も。
一体いつ買ってくるんだろう?
美和って、本当に不思議だ。
そんなことを考えてたら、美和がそのたくさん洋服のかかっているハンガーを片側に寄せた。
そして、奥の壁をふすまのように横に開ける。
え?
そこにはダイアルロック式のドア。
巨大な金庫って感じ。
「杏、部屋のドアの鍵、内側から閉めてくれる?」
この部屋には内鍵まで付いてるのか。
すごいな。
俺が部屋の鍵を閉めてる間に、その金庫の鍵は空いていた。
暗証番号はわからなかった。
「暗証番号は麻生家の人間にしか教えられないの。ごめんね?」
「そんなの当然だよ」
中に何があるのかはわからないけど、きっと貴重なものなんだろう。
そんな大切なモノを保管してる金庫の番号なんて、知りたくもない。
「さ、中に入ろう?」
地下に続くはしご階段。
古びた家なのに、ここだけすごく新しい感じ。
空調が効いてるみたいで、ひんやりしている。
SF映画に出てくるUFOの中みたいで、俺はドキドキした。
緊張と興奮のハイブリッド。
俺は美和の後について階下に進む。
美和の手を踏まないように、ゆっくり、ゆっくりと。
階段を下りきったところはすごく狭くて、俺と美和が一緒に並んで立てないくらい。
こうやって近くで見ると、ホントに美和ってちっちゃいな。
なんか、潰しちゃいそう。
「杏、ちょっと後ろ向いてて?」
体勢的に後ろを向くのはムリだったから上を向いた。
美和はまた暗証番号を使ってるようだ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
4回音がなったところで、ガーっという音がした。
思わず音のする方を見ると、壁の一部が開いていた。
「ようこそ。麻生図書館へ」
「うわぁ・・・っ」
そこはなんかの映画で見たことがあるような、巨大な図書館。
一見すると、俺の中学の体育館くらいの大きさ。
この家の地下にこんな場所があるなんて・・・信じられない。
ここは。
高い天井から床まで、端から端まで、限りなく本やノート?のようなもので埋め尽くされている。
古いものもあるみたいで、博物館のような、独特の香りもする。
「麻生家は医者の家系でね。人類にとって貴重だと思われる医学書や、明文化されてない医学的に重要な情報を収集・記録して、代々ここに保存してるの。これは麻生家を継ぐ者の任務の1つなんだよ」
「そんな大切なこと、俺に言っていいの?」
美和がさらっとそんな機密事項みたいなことを俺に言ったから、逆にビビる。
「杏は秘密を守れるでしょ?」
「もちろんだよ」
「それに、杏は私の「家族」だから、どうしても見せたかったの」
「!」
その言葉に、俺はなにも応えられなかった。
あまりに嬉しすぎて、声が出なかったんだ。
「家族」
それはきっと・・・俺が美和から欲しかった言葉。
やっぱり美和は、エスパーに違いない。
美和は俺の欲しいモノがなんでもわかるから。
嬉しさのあまり、俺がちょっと俯いていると、美和が俺の左手首をぎゅっと掴んで歩き始めた。
そして、美和はその広い図書館を俺と巡りながら、少しずつ話し始めた。
それは。
ここ以外にも歴史的に貴重なモノが保存されている隠し部屋があること。
俺が知ってる以外の目的、つまり、誰かを逃がしたり貴重なものを保存する以外の目的を持ってる隠し部屋もあること。
外壁が高かったり電熱線を張り巡らしたりしてるのは、そういう秘密を守るためだということ。
そして今はもう―――、
ここを守るのは美和しかいないこと。
依子さんは?と聞いたら、依子さんは美和のお母さんの妹で、麻生家の人間ではないらしい。
「仮にだよ。美和がここに閉じ込められちゃったら、どうやって助けたらいいの?暗証番号も知らないし、部屋も内側から鍵がかかってるし」
「その時は、終わりだよ」
「へ?」
「あはっ、冗談だよ」
「どっちだよっ!」
ったく。
本気で心配してるって言うのに・・・
「このボタン」
それは非常用の赤いボタンというか、よく映画に出てくるミサイル発射のボタンというか。
「これを押すとね、ここに特殊部隊が突入してくるの。このスペースに20コ、配置されてるんだけど」
「は?」
「私を助けるためというより、ここに保存されてる貴重なモノを保護するためなんだけどね」
「なんだよ、それ?」
「それに」
美和はちょっと哀しそうな顔をした。
「私の脈は遠隔でモニタリングされてるから、私の脈が止まったと同時に特殊部隊が動くの。ふふっ。面白いでしょ?」
言い終えたときには、いつもの明るい表情に戻っていた。
図書館の散策を終え、リビングに戻ってきた俺達。
美和は庭で採れるレモンを使った自家製のレモン水を片手に、ちょこんと俺の隣に座っている。
もちろんミワワも一緒。
「黒い髪も似合うよ・・・松本くんたちは笑ってたけど」
黒くなってもくせっ毛でふわふわの俺の髪質は相変わらず。
美和は楽しそうにくしゃくしゃ触ってる。
「杏の髪って気持ちいい。ずっと触ってたい」
美和はそう言ったけど、俺から言わせてもらえば。
美和に髪の毛を触られてると俺の方が気持ち良くて寝そうになる。
俺が美和の髪を触ったら、美和も気持ち良くて眠くなるのかな?
俺は美和の長い髪を一束手に取った。
「俺は美和の真っ直ぐな髪の方がいいよ。あ!枝毛!」
俺はハサミでその部分をカットした。
これってなんか、くせになる。
「これ、なんかハマる・・・枝毛を探すの、やめられなくなりそう」
「ふふっ。じゃあ、髪の毛切らないほうがいいかなぁ。美容室、予約したんだけど」
「え?!切っちゃうの?どのくらい?」
「まだ決めてないんだけど。スタイリストさんと相談して決めようって思ってたから」
「そっか・・・でも俺、今のままがいいな。枝毛は俺が切ってあげるからさ。もうちょっとこのままでいてよ」
俺がそう言うと5秒くらい間が合って、「じゃ、美容室、キャンセルしとく」と美和は笑った。
それから一時間。
俺はまだ美和の枝毛を探している。
案外ないもんだなぁ。
美和は隣で・・・ミワワを抱きながら眠そうな顔。
「美和、そういえば下宿の件はどうなった?募集してんの?」
「ううん・・・募集はするつもりないの」
ウトウトしながら、そう答える美和。
「じゃ、どうやって住む人を探すの?」
「探さなくても、ここに縁のある人は自然にやってくるはず。杏みたいにね」
美和は寝ぼけた顔で、だけど優しく微笑みながら、俺の髪を撫でた。
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