【完結】君に会えたら

たいけみお

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Chapter 52:「特集の本当の目的」

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【3月23日(土)】


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連載/放送終了後

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私が沖縄から帰ってきた次の日。

心労と激務で疲れ切った桃野くんは、私を抱き枕にしてなかなか起き上がれない。

寝室の時計は11時を指していた。


「桃野くん、大丈夫?」

「ん、この1カ月、マジでしんどかった。ほとんど寝てなかったし、最後にトドメがあったし」

トドメというのはもちろん、私が失踪したこと。


「それに、その前1ヵ月半の、絢ちゃんと会えなかった狂気の日々もあったし・・・はぁ、絢ちゃんが俺の腕の中にいてくれて、マジでほっとする・・・」

桃野くんは更に強く、私をぎゅーっと抱きしめた。


「コーヒー入れてくるからそのまま横になってて?」

「コーヒーはいいよ・・・ここにいて。ずっといて・・・」

「すぐ戻ってくるから。コーヒー飲んだら少し回復するかもしれないし・・・ちょっとだけ待ってて?」


ぱたぱたぱた。

桃野くんの腕をうまくすり抜け、

私は走ってキッチンに向かい、エスプレッソマシーンの電源を入れた。



「片桐純」個人のことをTOKYO CHICに書かれたこと、怒ってないって言ったらウソになる。

特に今回は―――

「片桐純」をこのままのカタチで封印したい気持ちが強かった。


「片桐純」が自然消滅するなら、

桃野くんの傍にずっといたい、と思えば、なおさら。



だから

特集のタイトルを見ただけで取り乱してしまったのだけれど、

でも、

桃野くんの暖かい腕の中で久しぶりにゆっくり寝たら、すごく落ち着いた。



それに昨日の電話によると、今回の首謀者は川上さん。

桃野くんは本当に知らなかったみたいだから、桃野くんをこれ以上困らせるのは間違ってる。



でもあの特集を組むことに、何の意味があったんだろう?

川上さんが言ってた、「片桐純を諦めない」ってことにどう繋がるんだろう?

それはTOKYO CHICを全部読んだらわかるのだろうか?


少なくとも川上さんは、「片桐純」の本当の意味を十分に理解してる。

だから、今回の行動は絶対に何か考えがあってことに違いないけど・・・


ガチャ


その時、寝室のドアが開いて、のそのそと桃野くんが出てきた。

生気がなくて、まるで亡霊のよう。



「寝てていいのに。すぐコーヒー持ってくよ?」

「絢ちゃんが傍にいてくれないと落ち着かないんだ」

結局桃野くんはそのまま赤ソファーに座り、私は彼の足もとでカーペットの上に直接座ってコーヒーを飲む。

桃野くんの右手は私の頭の上。


「その髪型すごく似会うよ。まだ見慣れなくて一瞬びっくりするけど、すごくかわいい」

「ありがと・・・ね、桃野くん」

「ん」



「ごめんね、ヒドイこといっぱい言っちゃって・・・桃野くんは何も知らなかったのに」

「あれは勘違いしても仕方なかったよ。でも、お願いだからもう、二度と突然いなくなったりしないで。絢ちゃんが思ってること、全部俺にぶつけてくれていいから・・・誤解とかすれ違いとか、俺達には必要ないよ。それって絶対、全部勘違いだから」

桃野くんは笑って私の頭を撫でた。

桃野くんが優しすぎて・・・心臓が痛い。


「ん。もう絶対にしないから・・・ごめん」

私がそう言うと、桃野くんはその特集の背景を静かに話し始めた。



「あの日・・・俺が絢ちゃんに電話する直前。飯島さんの部屋に突然呼ばれて、飯島さんと吉岡さんにメインの対談についての説明を受けたんだ。その瞬間まで、俺だけじゃなくてTOKYO CHICのほとんどのスタッフも、今回の特集のテーマが急遽「君に会えたら」から「片桐純」に差し替えられたことを知らなかった」

「え?!」


「最初は俺もすげぇ怒ったんだ、吉岡さんにも飯島さんにも。絢ちゃんがずっと「片桐純」個人についての仕事を断ってきてたの知ってたし、それは彼らも充分に知ってるはずなわけで。それに、東京に呼び戻された時に一度、その件についてははっきり断ってて、もう終わったはずだった。絢ちゃんだってまた、吉岡さんにちゃんと断ったんだよね?」

「うん。吉岡さんから電話でまた依頼を受けたけどはっきり断って、吉岡さんも納得したと思ってたんだけど・・・」


「でも2人から今回の差し替えについて説明を受けて、対談も含めて特集を全部読んで・・・わかったんだよ、なんでそこまでして「片桐純」の特集を組んだのか」

「なんで?」


「それは絢ちゃんが特集を全部読んだらわかると思う。俺が説明するよりまず、絢ちゃんに感じて欲しいんだ―――なんで彼らがここまでしたのか。だから先に読んでみて・・・後で一緒に読んでもいいし。―――ね、絢ちゃん?」

「ん?」



「やっぱ、こっちきて」

桃野くんは私をひょいっとソファーに持ち上げて、自分の両足の間に私を下ろした。

後ろから両腕で私の体に巻きついて、首筋にキスをし続ける。


「離れるとかムリ。どっか素肌に触れてないと、胸が苦しい」

「桃野く・・」

「やっぱ、こっち」

今度は私を赤ソファーに押し倒して、真上に乗っかってきた。

両手で私の顔を抑えつけて、深くて甘いキスの雨を降らせてくる。

「俺、絢ちゃんのことが好きすぎて、心臓が痛い・・・どうにかして」



私たちはそのまましばらく、抱き合ったまま、赤ソファーで眠ってしまった。

そして次に目醒めた時、先に起きていた桃野くんが耳元で言った。


「・・・TOKYO CHIC読む前に、「君に会えたら」の最終回、一緒に見よう?」

「桃野くん、見たんでしょ?」

「ストーリーはだいたい聞いたけど見てないよ。それどころじゃなかったから」


桃野くんは、脇さんから渡されたというDVD-ROMをデッキに入れた。

桃野くんの部屋にあったサラウンドシステムは、既にこっちに移動している。


桃野くんの部屋の契約が切れるまであと1週間あるけど、もう何もすることはないし、桃野くんはあっちの部屋を使う気はもうないらしい。

だからちょっと早いけど、今日か明日、不動産屋さんに鍵を返すと桃野くんは言っていた。



「絢ちゃんはこっち」

桃野くんが後ろから私の腰に腕を回した状態で、ドラマ「君に会えたら」の最終回を2人で見始めた。

ドラマはほぼ私の連載通りに進んで行く。


「綺麗に取れてるね。高嶋くんも梨瑚ちゃんも脇さんもさすがだなぁ」

「あぁ、絢ちゃんが俺のことこんなに好きだったなんて、全然気がつかなかった・・・」

「う、うるさいっ!」


「そんなに照れなくてもいいんじゃない?真実なんだからさ。しっかし、文章でも映像でも絢ちゃんの俺への気持ちが残ってるなんて、俺ってなんて幸せ者なんだろ。決定的証拠だよ?永久保存版だよ?言い訳とか、一生出来ないよ?」

桃野くんは「年下限定Sモード」的な含み笑いをした。


「桃野くん、私を脅す気?!」

「そんなことするわけ・・・う~ん、するかもなぁ、今回みたいなことがあると・・・でも絢ちゃんがいい子にしてたらそんな姑息な手使う必要ないよ。くくっ」

「・・・」

桃野くん、ちょっと元気になってきたみたい。



「これ見て」

桃野くんは徐に自分のスマホを私の目の前に差し出した。


「実は俺、「君に会えたら」の原稿を全部、ここに入れてるんだ」

「え」

「で、耕介を絢ちゃんだと想像して「君に会えたら」を読むのが俺のブーム。もちろん聡美は俺」

「・・・」


「読むたびもう、めちゃくちゃ幸せになれるんだよね。特に仕事中、絢ちゃんが傍にいなくて寂しい時とか。でもさ・・・」

「なに?」

「絢ちゃんって、ホントにツンデレだよね・・・なんで実物の絢ちゃんはこんなにわかりにくいの?文章にするとこんなに素直なのに」

「・・・」



「ま、でも、ツンデレの方がいいか。甘い部分は俺が独り占めだしな」

桃野くんは後ろから私の首筋に再びキスをした。




そして。

高嶋くん演じる耕介が言った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「君が好きで、君がとても大切だということを伝えたい」

「君が好きだと言うことだけが、今の俺にわかる絶対的な真実だから」

「俺は、自分の気持ちに正直に生きていきたい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

画面が真っ白になった。

連載はここで終わっている。

前川さんの言う通りなら、ここからは川上さんの完全オリジナルということになる。



耕介が聡美に気持ちを伝えてから――――――1年後。


耕介が異国の地にいる場面が写る。

どこの国なのか、その映像からははっきりとはわからない。


早朝のスタンドで、コーヒーとニュースペーパーを買うスーツ姿の耕介。

大量のファイルが積まれたデスクで、難しい顔をして電話をしている耕介。

肌の色の違う、同じくスーツ姿の仲間達と、楽しそうに昼食をしている耕介。

ビルの屋上で、寂しそうに空を眺めてる耕介。

いろんな耕介の場面と表情が、代わる代わる映し出される。


そして一日の仕事が終わり、耕介は缶ビールと出来合いの夕食を買って自宅マンションに戻った。

そこは余計なモノが何一つない殺風景な部屋。

他の人の気配は全くない。



場面が変わり、そこは見慣れた銀座の洋菓子店「zucca」。

オーナーから花束を渡される聡美。

理由はわからないけど、今日で「zucca」を去るようだ。


でも、聡美の愛らしい笑顔はそのまま。

むしろ、以前より綺麗になっている。

きっといま、とても幸せなんだろう。


聡美にはずっと笑ってて欲しい。

それが耕介の望んでいたこと。

ドラマの中で、耕介はいま明らかに聡美の傍にいないけど、

でもきっと、

彼が今の聡美の姿を見たら喜ぶはず。



そしてまた画面が切り替わった。

聡美は角帽とガウンを身につけ、友人たちと一緒に写真を取っている。

卒業式のようだ。

あぁ、だから「zucca」を去ったんだ。



―――ここまでは映像のみ。無声。



しかし聡美のスマホ音から、再び音声が流れ始める。




TRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR







「聡美?」

「耕介さん?」


「卒業おめでとう」

「ありがとう」



聡美ぃ、何してるの!早く、こっちこっち!

遠くで友人達がカメラ片手に大手を振って聡美を待っている。


「ごめんなさい、友達が待ってるから行かないと・・・またあとで掛け直します「・・・聡美」」

「はい?」



「早くこっちに来いよ。俺・・・もう限界だから」


ふふっ。

聡美は笑ってこう言った。


「あと3日の辛抱ですよ?」



そしてfrancの「恋」と共に、空港で耕介と聡美が抱き合ってキスする場面が映し出され、エンディングクレジットとなった。

2人のキスシーンはなんと、「恋」一曲分続いた。

角度を変えて、何度も、何度も・・・



「うわっ、甘すぎる~!川上さん、どうしちゃったの?!川上さんって、こういう脚本を書く人だっけ?!」

「たしかにこのキスシーンは動きがあるとはいえ長すぎ・・・高嶋くんと梨瑚ちゃんが綺麗に演じてくれてるからいいようなものの・・・」


「川上さん、頭おかしくなっちゃったのかなぁ?」

「うん・・・ついに壊れたのかも」

私たちは顔を見合わせて笑った。


最後のキスシーンはちょっと長かったけど、

でも、

前に桃野くんが言ってたように、これが多くの人たちが望んだ結末だったんじゃないかと今となっては思う。


ハッピーエンド中のハッピーエンド。

あの視聴率を見たらわかる。


川上さんは・・・どんな気持ちで、この最後の5分間を書いたのだろう?





その後、私はベッドにうつ伏せになってTOKYO CHIC「片桐純」特集を読み始めた。

桃野くんはゴロゴロしながら、背中から私の上に乗っかったり、耳たぶをはんだりして遊んでいる。

まるで子犬。


「桃野くん、そんなことされたら読めないでしょ?」

「俺のことは気にしなくていいから読んで」

「ムリだよ、そんなの」

「絢ちゃんにひっついてないと落ち着かないんだよ。頑張って読んで。で、質問あったらなんでも聞いて」



私は川上さん、河野さん、ジョシュアさん3人の対談の途中から読み始めた。

前川さんが言った通り、たしかに桃野くんの入院のことが書いてある。

「ね、桃野くん。いつ入院してたの?」

「・・・絢ちゃんが軽井沢にいる間」

桃野くんはバツが悪そうに前髪を掻いた。


「ま、ぶっ倒れるのも悪いことじゃなかったよ」

「どうして?」

「絢ちゃんが傍にいないとダメなんだって、あれでホントにわかったから・・・あれで腹括ったんだよ」

「桃野くん・・・」



「でも・・・」

「ん?」

「今回の失踪事件で身に染みた」

「何が?」


「俺が・・・まだまだなんだってこと」

「?」

「俺―――マジで、腹括ったから」

そう言うと、桃野くんは微笑みながら私の右頬を撫でた。

「絢ちゃんは、絢ちゃんだけは、絶対に失えないんだ」





そして、対談はまだまだ続く。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

川上保:「実は俺、姫に挑戦してもらいたいことがあって。まだ、本人には言ってないんだけど、たぶん才能、あると思うんだ」

ジョシュア・河野:「面白そう!なに?」

川上保:「歌詞とか、キャッチコピーとか、そういうめっちゃ短い文章」

ジョシュア:「あぁ、わかる気がする。あの「君に会えたら」のショートエッセイ、ぐっと来たもんな」

川上保:「そうだろ?あのエッセイみたいに、写真付きの詩集もいいと思うな」

河野光一:「ジョシュアの曲に詞を付けてもらったら?」

ジョシュア:「うわっ、それいい!頼んだらやってくれるかなぁ?」

河野光一:「俺も新作映画のコピー、姫に頼んでみようかなぁ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


対談は最後、川上さんが河野さんに「パラレルワールド」を一緒に映画化しようともちかけ、河野さんが失神寸前、ジョシュアさんが音楽を担当させてくれと土下座するところで終わる。

まぁ、

好き勝手なことを言ってた対談だったけど、祐と片桐作品との関係については、全く触れていなかった。

ちゃんと考慮してくれたんだと思う。


だからたぶん、この対談の本当の被害者は「片桐純」じゃなくて・・・桃野くん。

「ねぇ、こんなに桃野くんのこと暴露されて、社内で大丈夫なの?」

「たぶん大丈夫。絢ちゃんの失踪騒ぎで、集公舎にまともに行ってないから実際のところはわかんないけど」

「え?!そうなの?!」

「うん。絢ちゃんのこと手当たり次第探してたから」


「ごめん・・・でもなんで大丈夫ってわかるの?」

「絢ちゃんと結婚するって、軽井沢から戻ってきてすぐ社長と飯島さんに報告したから。社内全員知ってるよ」

「え?!」

「それに、俺が絢ちゃんのこと好きだってことは、隠すようなことじゃない」

「・・・」

「そんな、俺にとって一番大切な気持ちを隠して生きてくなんてまっぴらだ」



更に特集は、桃野くんや他のスタッフが担当した「君に会えたら」名場面・名セリフ集、撮影に使用されたロケ地や耕介が買ったzucca(つまりアシュフィ)のケーキなどの紹介に続く。

その他にも片桐作品の解説として、集公舎文芸賞の審査員で作家、設楽紗枝さんの「パラレルワールドからみる片桐純」、桜庭栄治文学賞の審査員で、作家・俳優・写真家として活躍している日比野ルイさんの「メメント・モリからみる片桐純」が載っていた。

設楽さんも日比野さんも、ものすごく丁寧な解説と懐の深ーい見解を寄せてくださっていて、読んでて恐縮してしまった。

今度、お礼を言っておこうと思う。


そして。


個人的に最も興味深かったのは、脇さん、高嶋くん、梨瑚ちゃん3人の対談「「君に会えたら」を終えて」。

脇さんがファシリテーターとなって、高嶋くんと梨瑚ちゃんの話を聞いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

脇:「「君に会えたら」は2人にとってどういう作品になったのかな?」

高嶋:「俺は完全に役に入ってしまって、撮影中はオンオフの区別がつかなくて大変でした。寝ても覚めても聡美を想って心臓が痛いんですよ。プライベートでもこんな想いしたことないのに(笑)」

宮崎:「私も同じような感覚でした。今もまだ役が抜け切れていなくて・・・役者として、とてもいい経験をさせて頂いたと思っています」

高嶋:「うん、ホントに。ここまでのめりこめる作品に出会えて、役者冥利につきます」


脇:「僕から見ても、2人はこの短い撮影期間中に役者としてものすごく成長したと思う。でも、何がそこまで2人を惹きつけたんだろう?2人ともまだ若いけど、今までもいろんな役を演じてきたよね?「君に会えたら」は今までと何が違ったんだろう?」

高嶋:「いろいろ理由は付けられると思うんです。例えば、ストーリーや脚本がよく出来ていたからとか、登場人物が魅力的だったからうまく役に入り込めたとか。でも究極的には「片桐作品だったから」じゃないかな?」

脇:「というと?」


高嶋:「「片桐ワールド」に俺自身が飲み込まれたというか・・・劇団の仲間とも良く話すんですけど、どこがどういいって具体的に片桐作品を説明するのは難しいんですよ。説明したいんだけど、しようとすると、言い訳にしか聞こえなくなる」

宮崎:「そうなんですよね・・・私は純さんの「空き教室でいっぱいキスをしよう」がとても好きなんですけど、何度読んでも涙が流れるんです。おかしいでしょ?あの短編集は幸せなストーリーばかりが集められているのに、切なくて涙が出るんです。理由がわからないですよね?」

高嶋:「その気持ちわかる。「パラレルワールド」ってカテゴリー的にはSFじゃないですか。あれだけ読むと、単に「すごい!」「面白い!」ってなるんですけど、他の片桐作品を読んでからまた「パラレルワールド」に戻ると「切ない」になるんですよ。本当に不思議なんだよなぁ」


脇:「2人が言いたいことは僕にもわかるような気がするよ。「君に会えたら」もそうだけど、片桐作品は頭で理解することと、心で感じることが一致しないことがあるんだよね?まるでストーリー自体がなにかの伏線みたいなんだ」

高嶋・宮崎:「(同時に)そうなんですよ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「結局・・・この特集は何が言いたかったのかな?」

私がそう呟くと、桃野くんは優しく私に微笑んだ。


「絢ちゃん、ホントはちゃんとわかってるよね」

「え?」

「この特集は、各々が「片桐純」をどれだけ愛してるか、を語ってるんだよ」

「・・・」

「川上さんはこの特集を通じて、「片桐純」が絢ちゃんが考えているよりもっと大きなモノなんだってことを絢ちゃんに知ってほしかったんだと思う。そして、絢ちゃんと祐くんだけで完結していた「片桐純」の世界を打破して、「片桐純」の世界を広げることによって――「片桐純」を未来に繋げたかったんだ。それに飯島さんと吉岡さんが手を貸したんだよ」



その桃野くん言葉を聞いて私は、飯島さんが私にずっと言い続けてきた言葉を思い出した。

「「片桐純」は執筆以外に生きる意義を見出していない。非常に危険で・・・心配なんだ」

「絢ちゃんは、社会との接点を絶対に断っちゃだめだ」

飯島さんは・・・ううん、川上さんも吉岡さんも他の人達もみんな、私のことを考えてこの特集を組んでくれたんだ。



「絢ちゃん」

「ん?」

少し振り向くと、肩越しに見える桃野くんの表情が妙に深刻。


「どうしたの?」

「もうこの特集のこと・・・怒ってないよね?大丈夫だよね?」

「うん・・・大丈夫」


私がそう言うと、桃野くんは私のこめかみにキスをしてこう言った。

「もう一人で「片桐純」を守らなくてもいいんだよ・・・「片桐純」はたくさんの人達に愛されて、守られてるんだから」



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