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Chapter 48- part 2:「好き II」
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【2月23日(土)】
*******************************
パタリと私の部屋のドアが閉まった瞬間、
桃野くんは私の両肩をぎゅっと掴み、
穴が開きそうなくらい、私をじっと見つめた。
「ごめん・・・さっき言ったこと、もう一回言って?俺、聞き間違えたかも・・・」
だから、私は桃野くんに言った。
「「君に会えたら」は桃野くんを想って書いたの・・・桃野くんが聡美なの」
そして、私はちょっと俯いた。
伝えるだけでいい、と思っていたのは真実だけど、
なんだか急に、桃野くんに何を言われるのか、怖くなったから。
「・・・だから、俺は絢ちゃんを告白するように説得できなかったってこと?だから・・・絢ちゃんの好きな人が誰なのか、聞き出せなかったってこと?」
「うん・・・」
「・・・軽井沢に突然戻ったのはなんで?なんであんなに泣いたの?」
「それは・・・」
桃野くんは私の頬に両手をあて、私の顔を上げた。
「大丈夫だから。言って?」
「それは・・・」
「ん」
「・・・祐の姿がはっきり見えて・・・もう、二度と桃野くんには会えないと思ったから」
私がそう言うと、桃野くんは少しかがんで目線を私の目の位置に合わせた。
「・・・俺を想って、あんなに泣いてくれたってこと?」
桃野くんの親指が、私の唇をなぞる。
「じゃあ・・・あの時キスしたの、怒ってないの?ひっぱたかれなくて済むの?」
そのまま指が私の首元に下りて、桃野くんが沖縄でくれたペンダントのチェーンに絡まる。
「ってことは、ずっと俺の傍に、いてくれるの?」
「・・・桃野くん、それってどういう意味?」
「どういう意味って?」
「3月末で隣の部屋を解約しても、片桐純の担当じゃなくなっても、私が南の島に行っても会ってくれるってこと?桃野くんに好きな人ができて、結婚して、子供が出来ても?」
「えっ・・・ええ?!絢ちゃん、何言ってんの?」
「はっきり言ってくれていいよ。私、なんか大丈夫みたいだから。これからもちゃんと「この世界」で生きていける気がするから・・・自分でもびっくりだけど」
一瞬間が開いて・・・
ぷっ。
桃野くんが吹いた。
「ひどい桃野くん!なんで笑うの?!」
「絢ちゃんは・・・鈍感すぎてホントに・・・俺があれだけ言ったのに・・・くくっ」
「桃野くん、ヒドイよ!こっちは真剣なのに!」
桃野くんは喉で笑いながら、私の頭を両手で撫で始めた。
「・・・なんなの、このありえない生き物。これ以上、俺をどうするつもりだよ」
「え?」
「・・・ま、はっきり言えってことだよね。ヘタレから卒業しないとね?」
そして桃野くんはゆっくり、ゆっくり、私の唇を見ながら顔を寄せてきて・・・でも、
直前で止めてこう言った。
「イヤだったら、今、逃げて?ここでキスしたら俺、途中で止められる自信ないから・・・3秒、待つよ」
―――1
―――2
―――3
そして言った。
「俺―――絢ちゃんに心臓、完全に持ってかれた」
「えっ?」
「俺、本当に、どうしようもないくらい、絢ちゃんしか見えてないから」
「・・・」
「―――気が狂うくらい、絢ちゃんのこと、愛してる」
「・・・」
「だから、お願いだから、ずっと俺の傍にいて。いつも俺の目の届くところにいて」
「・・・」
「―――はぁ、もうムリだ・・・俺の限界値超えた。。。ごめん、ここで絢ちゃん全部、俺のモノにさせて。これが現実だって、確かめさせて・・・」
そして、
桃野くんが唇を私のそれに重ねた瞬間―――
桃野くんは壊れた。
そこにあったベッドに私は押し倒され、
桃野くんはあっという間に私の着ていたもの全てを剥ぎとった。
桃野くんの唇と舌と指先が、私の全てに同時に触れる。
滑らかに、でも、狂ったように。
「アヤ・・・ぁっ・・・はぁ・・・っ・・・全部・・・全部、俺にあずけて・・・チカラ抜いて・・・」
「桃野く・・・」
「アヤ・・・すげぇあったけぇ・・・すげぇ柔らけぇ・・・すげぇ綺麗・・・夢、みてぇ・・・」
直接触れる体温と、耳元で漏れる桃野くんの吐息が官能的で、私は気を失いそうになる。
「アヤぁっ・・・はぁ・・・っ・・・心臓痛ぇ・・・アヤ・・・」
気を失わないように、桃野くんを強く抱きしめると、
「もうムリ・・・アヤ・・・」
桃野くんは枯れるような声でそう囁き、私の左足に腕をかけた。
「はぁっ・・・ぁっ・・・アヤ・・・入るよ・・・」
私は――― とても幸せだった。
激しく息が乱れたまま、繋がったまま、
私の上に倒れ込んだ桃野くんが愛おしくて、ぎゅーっと強く抱きしめた。
ずっとここままでいたいって、そう思いながら、私は眠りに落ちた。
次に気がついたとき。
桃野くんは私の顔を両手で撫でながら、心配そうに私を見下ろしていた。
「・・・とうの、くん?」
「ごめん・・・理性ぶっ飛んだ・・・体どうもない?」
返事の代わりに桃野くんを強く引き寄せると、耳元で彼が囁く。
「俺・・・・もう、コーヒーとプリンがなくても生きていける。絢ちゃんが傍に居てくれたら生きていける」
そして角度を変えて、何度も何度もキスを繰り返す。
「もう、絶対に、何があっても離さない。誰にも、譲らない・・・手放すとか、もう、ムリだから・・・」
甘いキスと甘い言葉の波が何度も繰り返し押し寄せてきて、私はそれに溺れて言葉にならない。
「はぁ・・・幸せ過ぎて頭おかしくなりそう・・・っていうか俺、絢ちゃんのこと考えすぎてとうとう狂った?これって、俺の妄想?・・・でもこんなに感触あるし、あったかいし・・・」
私がそれに応えるように桃野くんの下唇を軽く咬むと、桃野くんは照れたように微笑んでこう言った。
「これが夢だったら、俺もう一生目醒めなくていい・・・一生このまま抱き合ってられたら、もうそれでいいよ・・・はぁ、どうしよう、止まらねぇ・・・」
そう言うと、桃野くんは再び、彼の熱いものを私の中に忍び込ませ、私を揺らし始めた。
今度は優しく、何かを一つ一つを確かめるように、そして同時にキスを繰り返しながらゆっくり動いてゆく。
「抑えないで・・・俺の気持ち、全部、感じて・・・」
「・・・」
「ずっと、死ぬまで俺の傍にいて・・・愛してる・・・」
「桃野、いつこっちに来たの?」
「今朝だよ」
「ってことは、「君に会えたら」の原稿、上がったんだ?」
「っていうか、なんで由幸、私がここにいること知ってるの?連絡しなかったのに」
「みんなが言ってた」
「みんなって?」
「みんなだよ。知ってたけど、仕事の邪魔しないでやったんだよ」
夜になって、お父さんとお母さん、由幸、桃野くん、そして私の5人でお母さんの作った豪華な夕食を食べた。
ペンションのお客さんの相手は、由幸のおばさんに任せてきたらしい。
お母さんは桃野くんのイケメンぶりにかなり興奮気味で、
お父さんは桃野くんと大好きなお酒が飲めて、とても嬉しそうだった。
「うまっ・・・絢ちゃんと絢ちゃんのお母さんの料理、同じ味がする」
桃野くんがすごい勢いで夕食を平らげている。
私がいなかった1ヵ月半、まるで何も食べていなかったような食べっぷり。
「そんな風においしいそうに桃野くんに食べてもらえて、ホント嬉しいわ!」
「いや、本当においしいです!すみません、初対面なのに図々しく箸が止まらなくて・・・」
「その食べっぷり、見てて気持ちいいよ!あはは」
「いや、なんでだか自分でもわかんないんですけど、勝手に箸が伸びてるんですよ・・・しっかし、絢ちゃんが料理が上手なのはお母さん譲りなんだね。この味、すげぇ落ち着く」
ニコニコしながらひたすら食べ続ける桃野くん。
少し痩せたみたいだから、いっぱい食べて、少し太ってくれた方がいいことはいいけど。
そんなことを考えてたら、由幸が口を挟んだ。
「絢はまだまだおばさんには勝てないよ。なんつーか、おばさんの料理の方がココロに染みるんだよな。まさにオフクロの味って感じ?」
コバカにされてムカついたから、由幸の大好きなお母さん特製、甘酢あんかけ肉団子をお皿ごと取り上げた。
「なにすんだよ!」
「そんなこと言うんだったら、もうご飯作ってあげないから!もう夕食に誘わないからね!」
「・・・ごめん、絢。夕食作って」
シュンとした由幸に、みんな笑った。
「ところで、桃野くんはいつまでここにいられるんだい?待ちに待った桃野くんにこうやって会えたことだし、お酒飲みながらたくさん語りたいんだけどなぁ」
「はっきりといつまでとは決めてないんですが・・・「君に会えたら」の連載もドラマもまだ続いている状況なので突然戻ることになるかもしれません。呼び出しがなければ、絢ちゃんが戻る時に一緒に東京に戻ります」
桃野くんは横に座ってる私の方を見て微笑んだ。
「絢は、いつまでいられるの?最終話を書き終わったってことは、しばらくここで休んで行けるの?」
「うん。でも、卒業式があるから、あと2週間くらいしたら戻るけど」
「そう・・・」
お母さんがちょっと寂しそうな顔をした。
「桃野くん、折角ここに来たんだから、陶芸をやってみないかい?」
「陶芸、ですか?俺、テレビとかでしか見たことないですよ」
「ほら、このお皿もおちょこも、全部手作りだよ」
「え?お父さんのですか?」
「お父さんはね、思う存分陶芸と園芸をするためにこのペンションをやってるのよ?」
「へぇ、いいな、そういうの・・・あの、コーヒーカップって作れますか?」
「もちろん!」
「うわ、俺、やります!」
桃野くんは急に乗り気になった。
「じゃあ、明日の昼間はロクロ部屋に来てね。待ってるからね!」
お父さんもとっても嬉しそうだった。
夕食後。
私と桃野くんは自宅に向かって並んで歩いた。
由幸は、明日はまた朝からスキー場でバイトだからと言ってさっさと帰って行き、
お父さんとお母さんは後片付けでまだペンションに残っていた。
「桃野くん、お父さんに捕まっちゃったよ・・・なんかごめんね」
「俺、すげぇ楽しみなんだけど」
「ならいいけど」
「絢ちゃんとお揃いのコーヒーカップ作って、それで絢ちゃんの煎れてくれるコーヒーを一緒に飲むんだ。絶対、更にコーヒーが美味しくなると思うな、俺は」
「あはは。うまくいくといいね」
その時、桃野くんがとても嬉しそうに私の左手を取って、ぶんぶんと大きく振った。
同時に尻尾を振ってるのがよくわかる。
すごく穏やかな、幸せそうな顔をしてくれてる。
・・・だけど。
「桃野くん・・・あのね」
「ん?」
「私、桃野くんのこと、本当にスキ・・・だけどね」
「え?」
桃野くんが歩みを止めた。
「まさか・・・今さら変なこと、言わないよな?!幸せ絶頂の俺を突き落とすなんてこと、しないよな?!」
私は桃野くんの腕の中に埋もれた。
「今さら何言ったってもう手遅れなんだよ!」
「えっと・・・あのね」
「なんだよ!怖いから早く言えよ!」
「今さらなんだけど・・・桃野くんと、こんな風になるなんて、全然考えてなかったの。全く想像してなくて・・・」
桃野くんは腕の力を緩めて、私を見つめた。
「桃野くんが私のことスキとか、考えたことなかったの、だって・・・」
「恋をしたことなかったヘタレだし?」
桃野くんは爆笑し始めた。
「それだけじゃなくて・・・桃野くんは「片桐純」の担当だし、優しいから、私の面倒見てくれるんだって思ってたし、それに・・・」
「ん?」
「・・・私は自分に、祐との時間の先に、別の幸せな未来が待ってるなんて、考えたこともなかったの」
「・・・絢ちゃん」
「だからね、本当にこんな風になるなんて思ってもみなくて・・・」
「あの、絢ちゃんさ・・・」
「・・・本当に今さらなんだけど、この急展開にまだ頭がついて行ってなくて・・・あの・・・ホントに私でいいの?桃野くん、私と一緒で幸せになれるの?あ、なんかパニくってきた・・・」
あははははっ!
私を包み込む桃野くんのカラダが大きく震えた。
「桃野くん、なんでそんなに笑ってるの?」
「だって・・・絢ちゃんがあんまり可愛いこと言うから。あのさ、いろいろ考えてもムダだからやめた方がいいよ」
「え?」
「逃げようったってもう、俺から逃げられる訳ないんだから。俺のことスキって言っちゃったんだし。くくっ」
「そこ、笑うところじゃないでしょ!」
「ごめん、でも俺は、これから何があろうと、絢ちゃんが何と言おうと、絶対に絢ちゃんを手放さないよ―――俺もう、二度とあんな思いしたくない」
「桃野くん・・・」
「それに俺、全部覚えてるよ、絢ちゃんが言ったこと―――耕介がなんで聡美に告白しないのか」
「・・・」
「俺さ・・・祐くんのお墓でも言ったけど、絢ちゃんが傍にいてくれるんだったらもう、他のことはどうでもいいから。今朝ここに来るまでは、絢ちゃんが俺の傍に居てくれるんだったら、他の男に気持ちがあってもいいくらい思ってたし。狂いそうなこの1ヵ月半のこと考えたら、ホントにもう、なんでもいいよ。執筆中に俺の事忘れてるくらい何でもないから」
「・・・」
「俺、はじめて本気で好きになったコが絢ちゃんで、そんで絢ちゃんが俺のこと好きになってくれて・・・いま、死ぬほど幸せなんだ。ホント、ありえないくらい幸せ。俺、この気持ち、すげぇ大事にしたいし、絢ちゃんへの想いをもう隠したりしない・・・絢ちゃんにも、周りにも、俺自身にも」
「・・・」
「絢ちゃんはただそのままで、俺の傍にいてくれるだけでいいから。それだけで、俺は幸せだから」
「・・・桃野くん」
「とにかく、頭がまだついてってないんだったらそれでもいいけど、でもとりあえず覚悟はしておいて」
「なんの覚悟?」
「ウザいくらい俺にベタベタされる覚悟・・・俺もう、完全に箍が外れちゃったから」
「え?」
「箍が外れると、すげぇよくわかる・・・まぁ今も絢ちゃんの実家だから相当抑えてるけど―――いやしかし、過去の俺、ホントに奇跡的だよ。ありえねぇ。くく」
そう言うと、桃野くんは赤ちゃんを抱くみたいに、私をひょいっと自分の肩に乗せた。
「えぇ!ちょっと!怖いよ!」
「だからもう、余計なこと考えんな。ムダだから」
「わかったから!怖いからとりあえず下ろして!」
「もう一度俺のことスキって言ってくれたら下ろしてあげるけど、どうする?」
「・・・ダイスキ」
はぁ。
軽く溜息を吐いた桃野くんは、ゆっくり私を降ろしてくれた。
でも、そのまま私の手首をしっかり握って、イルミネーションの広がる小さな森へと進んでいく。
「ど、どうしたの?!」
少し舗道から外れた大樹に着くと、
「アヤ・・・」
樹の幹に私を押し付けて、何度も深いキスを落とす。
そして言った。
「俺の部屋と絢ちゃんの部屋、どっちがお父さんたちの部屋から離れてる?」
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パタリと私の部屋のドアが閉まった瞬間、
桃野くんは私の両肩をぎゅっと掴み、
穴が開きそうなくらい、私をじっと見つめた。
「ごめん・・・さっき言ったこと、もう一回言って?俺、聞き間違えたかも・・・」
だから、私は桃野くんに言った。
「「君に会えたら」は桃野くんを想って書いたの・・・桃野くんが聡美なの」
そして、私はちょっと俯いた。
伝えるだけでいい、と思っていたのは真実だけど、
なんだか急に、桃野くんに何を言われるのか、怖くなったから。
「・・・だから、俺は絢ちゃんを告白するように説得できなかったってこと?だから・・・絢ちゃんの好きな人が誰なのか、聞き出せなかったってこと?」
「うん・・・」
「・・・軽井沢に突然戻ったのはなんで?なんであんなに泣いたの?」
「それは・・・」
桃野くんは私の頬に両手をあて、私の顔を上げた。
「大丈夫だから。言って?」
「それは・・・」
「ん」
「・・・祐の姿がはっきり見えて・・・もう、二度と桃野くんには会えないと思ったから」
私がそう言うと、桃野くんは少しかがんで目線を私の目の位置に合わせた。
「・・・俺を想って、あんなに泣いてくれたってこと?」
桃野くんの親指が、私の唇をなぞる。
「じゃあ・・・あの時キスしたの、怒ってないの?ひっぱたかれなくて済むの?」
そのまま指が私の首元に下りて、桃野くんが沖縄でくれたペンダントのチェーンに絡まる。
「ってことは、ずっと俺の傍に、いてくれるの?」
「・・・桃野くん、それってどういう意味?」
「どういう意味って?」
「3月末で隣の部屋を解約しても、片桐純の担当じゃなくなっても、私が南の島に行っても会ってくれるってこと?桃野くんに好きな人ができて、結婚して、子供が出来ても?」
「えっ・・・ええ?!絢ちゃん、何言ってんの?」
「はっきり言ってくれていいよ。私、なんか大丈夫みたいだから。これからもちゃんと「この世界」で生きていける気がするから・・・自分でもびっくりだけど」
一瞬間が開いて・・・
ぷっ。
桃野くんが吹いた。
「ひどい桃野くん!なんで笑うの?!」
「絢ちゃんは・・・鈍感すぎてホントに・・・俺があれだけ言ったのに・・・くくっ」
「桃野くん、ヒドイよ!こっちは真剣なのに!」
桃野くんは喉で笑いながら、私の頭を両手で撫で始めた。
「・・・なんなの、このありえない生き物。これ以上、俺をどうするつもりだよ」
「え?」
「・・・ま、はっきり言えってことだよね。ヘタレから卒業しないとね?」
そして桃野くんはゆっくり、ゆっくり、私の唇を見ながら顔を寄せてきて・・・でも、
直前で止めてこう言った。
「イヤだったら、今、逃げて?ここでキスしたら俺、途中で止められる自信ないから・・・3秒、待つよ」
―――1
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そして言った。
「俺―――絢ちゃんに心臓、完全に持ってかれた」
「えっ?」
「俺、本当に、どうしようもないくらい、絢ちゃんしか見えてないから」
「・・・」
「―――気が狂うくらい、絢ちゃんのこと、愛してる」
「・・・」
「だから、お願いだから、ずっと俺の傍にいて。いつも俺の目の届くところにいて」
「・・・」
「―――はぁ、もうムリだ・・・俺の限界値超えた。。。ごめん、ここで絢ちゃん全部、俺のモノにさせて。これが現実だって、確かめさせて・・・」
そして、
桃野くんが唇を私のそれに重ねた瞬間―――
桃野くんは壊れた。
そこにあったベッドに私は押し倒され、
桃野くんはあっという間に私の着ていたもの全てを剥ぎとった。
桃野くんの唇と舌と指先が、私の全てに同時に触れる。
滑らかに、でも、狂ったように。
「アヤ・・・ぁっ・・・はぁ・・・っ・・・全部・・・全部、俺にあずけて・・・チカラ抜いて・・・」
「桃野く・・・」
「アヤ・・・すげぇあったけぇ・・・すげぇ柔らけぇ・・・すげぇ綺麗・・・夢、みてぇ・・・」
直接触れる体温と、耳元で漏れる桃野くんの吐息が官能的で、私は気を失いそうになる。
「アヤぁっ・・・はぁ・・・っ・・・心臓痛ぇ・・・アヤ・・・」
気を失わないように、桃野くんを強く抱きしめると、
「もうムリ・・・アヤ・・・」
桃野くんは枯れるような声でそう囁き、私の左足に腕をかけた。
「はぁっ・・・ぁっ・・・アヤ・・・入るよ・・・」
私は――― とても幸せだった。
激しく息が乱れたまま、繋がったまま、
私の上に倒れ込んだ桃野くんが愛おしくて、ぎゅーっと強く抱きしめた。
ずっとここままでいたいって、そう思いながら、私は眠りに落ちた。
次に気がついたとき。
桃野くんは私の顔を両手で撫でながら、心配そうに私を見下ろしていた。
「・・・とうの、くん?」
「ごめん・・・理性ぶっ飛んだ・・・体どうもない?」
返事の代わりに桃野くんを強く引き寄せると、耳元で彼が囁く。
「俺・・・・もう、コーヒーとプリンがなくても生きていける。絢ちゃんが傍に居てくれたら生きていける」
そして角度を変えて、何度も何度もキスを繰り返す。
「もう、絶対に、何があっても離さない。誰にも、譲らない・・・手放すとか、もう、ムリだから・・・」
甘いキスと甘い言葉の波が何度も繰り返し押し寄せてきて、私はそれに溺れて言葉にならない。
「はぁ・・・幸せ過ぎて頭おかしくなりそう・・・っていうか俺、絢ちゃんのこと考えすぎてとうとう狂った?これって、俺の妄想?・・・でもこんなに感触あるし、あったかいし・・・」
私がそれに応えるように桃野くんの下唇を軽く咬むと、桃野くんは照れたように微笑んでこう言った。
「これが夢だったら、俺もう一生目醒めなくていい・・・一生このまま抱き合ってられたら、もうそれでいいよ・・・はぁ、どうしよう、止まらねぇ・・・」
そう言うと、桃野くんは再び、彼の熱いものを私の中に忍び込ませ、私を揺らし始めた。
今度は優しく、何かを一つ一つを確かめるように、そして同時にキスを繰り返しながらゆっくり動いてゆく。
「抑えないで・・・俺の気持ち、全部、感じて・・・」
「・・・」
「ずっと、死ぬまで俺の傍にいて・・・愛してる・・・」
「桃野、いつこっちに来たの?」
「今朝だよ」
「ってことは、「君に会えたら」の原稿、上がったんだ?」
「っていうか、なんで由幸、私がここにいること知ってるの?連絡しなかったのに」
「みんなが言ってた」
「みんなって?」
「みんなだよ。知ってたけど、仕事の邪魔しないでやったんだよ」
夜になって、お父さんとお母さん、由幸、桃野くん、そして私の5人でお母さんの作った豪華な夕食を食べた。
ペンションのお客さんの相手は、由幸のおばさんに任せてきたらしい。
お母さんは桃野くんのイケメンぶりにかなり興奮気味で、
お父さんは桃野くんと大好きなお酒が飲めて、とても嬉しそうだった。
「うまっ・・・絢ちゃんと絢ちゃんのお母さんの料理、同じ味がする」
桃野くんがすごい勢いで夕食を平らげている。
私がいなかった1ヵ月半、まるで何も食べていなかったような食べっぷり。
「そんな風においしいそうに桃野くんに食べてもらえて、ホント嬉しいわ!」
「いや、本当においしいです!すみません、初対面なのに図々しく箸が止まらなくて・・・」
「その食べっぷり、見てて気持ちいいよ!あはは」
「いや、なんでだか自分でもわかんないんですけど、勝手に箸が伸びてるんですよ・・・しっかし、絢ちゃんが料理が上手なのはお母さん譲りなんだね。この味、すげぇ落ち着く」
ニコニコしながらひたすら食べ続ける桃野くん。
少し痩せたみたいだから、いっぱい食べて、少し太ってくれた方がいいことはいいけど。
そんなことを考えてたら、由幸が口を挟んだ。
「絢はまだまだおばさんには勝てないよ。なんつーか、おばさんの料理の方がココロに染みるんだよな。まさにオフクロの味って感じ?」
コバカにされてムカついたから、由幸の大好きなお母さん特製、甘酢あんかけ肉団子をお皿ごと取り上げた。
「なにすんだよ!」
「そんなこと言うんだったら、もうご飯作ってあげないから!もう夕食に誘わないからね!」
「・・・ごめん、絢。夕食作って」
シュンとした由幸に、みんな笑った。
「ところで、桃野くんはいつまでここにいられるんだい?待ちに待った桃野くんにこうやって会えたことだし、お酒飲みながらたくさん語りたいんだけどなぁ」
「はっきりといつまでとは決めてないんですが・・・「君に会えたら」の連載もドラマもまだ続いている状況なので突然戻ることになるかもしれません。呼び出しがなければ、絢ちゃんが戻る時に一緒に東京に戻ります」
桃野くんは横に座ってる私の方を見て微笑んだ。
「絢は、いつまでいられるの?最終話を書き終わったってことは、しばらくここで休んで行けるの?」
「うん。でも、卒業式があるから、あと2週間くらいしたら戻るけど」
「そう・・・」
お母さんがちょっと寂しそうな顔をした。
「桃野くん、折角ここに来たんだから、陶芸をやってみないかい?」
「陶芸、ですか?俺、テレビとかでしか見たことないですよ」
「ほら、このお皿もおちょこも、全部手作りだよ」
「え?お父さんのですか?」
「お父さんはね、思う存分陶芸と園芸をするためにこのペンションをやってるのよ?」
「へぇ、いいな、そういうの・・・あの、コーヒーカップって作れますか?」
「もちろん!」
「うわ、俺、やります!」
桃野くんは急に乗り気になった。
「じゃあ、明日の昼間はロクロ部屋に来てね。待ってるからね!」
お父さんもとっても嬉しそうだった。
夕食後。
私と桃野くんは自宅に向かって並んで歩いた。
由幸は、明日はまた朝からスキー場でバイトだからと言ってさっさと帰って行き、
お父さんとお母さんは後片付けでまだペンションに残っていた。
「桃野くん、お父さんに捕まっちゃったよ・・・なんかごめんね」
「俺、すげぇ楽しみなんだけど」
「ならいいけど」
「絢ちゃんとお揃いのコーヒーカップ作って、それで絢ちゃんの煎れてくれるコーヒーを一緒に飲むんだ。絶対、更にコーヒーが美味しくなると思うな、俺は」
「あはは。うまくいくといいね」
その時、桃野くんがとても嬉しそうに私の左手を取って、ぶんぶんと大きく振った。
同時に尻尾を振ってるのがよくわかる。
すごく穏やかな、幸せそうな顔をしてくれてる。
・・・だけど。
「桃野くん・・・あのね」
「ん?」
「私、桃野くんのこと、本当にスキ・・・だけどね」
「え?」
桃野くんが歩みを止めた。
「まさか・・・今さら変なこと、言わないよな?!幸せ絶頂の俺を突き落とすなんてこと、しないよな?!」
私は桃野くんの腕の中に埋もれた。
「今さら何言ったってもう手遅れなんだよ!」
「えっと・・・あのね」
「なんだよ!怖いから早く言えよ!」
「今さらなんだけど・・・桃野くんと、こんな風になるなんて、全然考えてなかったの。全く想像してなくて・・・」
桃野くんは腕の力を緩めて、私を見つめた。
「桃野くんが私のことスキとか、考えたことなかったの、だって・・・」
「恋をしたことなかったヘタレだし?」
桃野くんは爆笑し始めた。
「それだけじゃなくて・・・桃野くんは「片桐純」の担当だし、優しいから、私の面倒見てくれるんだって思ってたし、それに・・・」
「ん?」
「・・・私は自分に、祐との時間の先に、別の幸せな未来が待ってるなんて、考えたこともなかったの」
「・・・絢ちゃん」
「だからね、本当にこんな風になるなんて思ってもみなくて・・・」
「あの、絢ちゃんさ・・・」
「・・・本当に今さらなんだけど、この急展開にまだ頭がついて行ってなくて・・・あの・・・ホントに私でいいの?桃野くん、私と一緒で幸せになれるの?あ、なんかパニくってきた・・・」
あははははっ!
私を包み込む桃野くんのカラダが大きく震えた。
「桃野くん、なんでそんなに笑ってるの?」
「だって・・・絢ちゃんがあんまり可愛いこと言うから。あのさ、いろいろ考えてもムダだからやめた方がいいよ」
「え?」
「逃げようったってもう、俺から逃げられる訳ないんだから。俺のことスキって言っちゃったんだし。くくっ」
「そこ、笑うところじゃないでしょ!」
「ごめん、でも俺は、これから何があろうと、絢ちゃんが何と言おうと、絶対に絢ちゃんを手放さないよ―――俺もう、二度とあんな思いしたくない」
「桃野くん・・・」
「それに俺、全部覚えてるよ、絢ちゃんが言ったこと―――耕介がなんで聡美に告白しないのか」
「・・・」
「俺さ・・・祐くんのお墓でも言ったけど、絢ちゃんが傍にいてくれるんだったらもう、他のことはどうでもいいから。今朝ここに来るまでは、絢ちゃんが俺の傍に居てくれるんだったら、他の男に気持ちがあってもいいくらい思ってたし。狂いそうなこの1ヵ月半のこと考えたら、ホントにもう、なんでもいいよ。執筆中に俺の事忘れてるくらい何でもないから」
「・・・」
「俺、はじめて本気で好きになったコが絢ちゃんで、そんで絢ちゃんが俺のこと好きになってくれて・・・いま、死ぬほど幸せなんだ。ホント、ありえないくらい幸せ。俺、この気持ち、すげぇ大事にしたいし、絢ちゃんへの想いをもう隠したりしない・・・絢ちゃんにも、周りにも、俺自身にも」
「・・・」
「絢ちゃんはただそのままで、俺の傍にいてくれるだけでいいから。それだけで、俺は幸せだから」
「・・・桃野くん」
「とにかく、頭がまだついてってないんだったらそれでもいいけど、でもとりあえず覚悟はしておいて」
「なんの覚悟?」
「ウザいくらい俺にベタベタされる覚悟・・・俺もう、完全に箍が外れちゃったから」
「え?」
「箍が外れると、すげぇよくわかる・・・まぁ今も絢ちゃんの実家だから相当抑えてるけど―――いやしかし、過去の俺、ホントに奇跡的だよ。ありえねぇ。くく」
そう言うと、桃野くんは赤ちゃんを抱くみたいに、私をひょいっと自分の肩に乗せた。
「えぇ!ちょっと!怖いよ!」
「だからもう、余計なこと考えんな。ムダだから」
「わかったから!怖いからとりあえず下ろして!」
「もう一度俺のことスキって言ってくれたら下ろしてあげるけど、どうする?」
「・・・ダイスキ」
はぁ。
軽く溜息を吐いた桃野くんは、ゆっくり私を降ろしてくれた。
でも、そのまま私の手首をしっかり握って、イルミネーションの広がる小さな森へと進んでいく。
「ど、どうしたの?!」
少し舗道から外れた大樹に着くと、
「アヤ・・・」
樹の幹に私を押し付けて、何度も深いキスを落とす。
そして言った。
「俺の部屋と絢ちゃんの部屋、どっちがお父さんたちの部屋から離れてる?」
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だって料理人にとって匂いは大事だ。
なのに……
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