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Chapter 45:「貰って、もらえますか?」
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【2月11日(月)】
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TOKYO CHIC 2037号
「君に会えたら」 第42話 掲載
ドラマ「君に会えたら」第5話 オンエア
*******************************
「絢・・・ちゃん」
最後に桃野くんの声を聞いてから、もう1か月以上が経っていた。
軽井沢に来てから初めて、私は自分から桃野くんに電話をした。
なぜなら―――
最終話がほぼ、完成したから。
そして、
書き終えた後も、桃野くんが知ってるままの私が、この世に残ったから。
だからまた・・・桃野くんの声が聞けると思ったから。
「桃野くん・・・元気だった?」
「元気、なわけ、ないよ・・・」
「ごめんなさい」
「はぁ・・・」
「本当に、ごめんなさい」
「・・・俺、マジで死にそうだった」
「え?」
「この電話取るまで・・・いつ死んでもおかしくなかった」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ・・・電話ありがとう。とりあえず命拾いしたみたいだ」
「そんなぁ」
「俺―――、絢ちゃんの声聞けて・・・マジで泣きそうなんだけど・・・」
「本当に、本当にごめんなさい・・・心配かけて」
「はぁぁ―――、すげぇ久しぶりにちゃんと呼吸してる気がする・・・」
「・・・で、どうした?なんか困った事でもあった?なんでも言って?」
こんなときでも、桃野くんは優しい。
死ぬほど、優しい。
もっと私のこと怒ってもいいのに・・・。
「最終話、大丈夫だよって言おうと思って。心配してると思ったから・・・」
「絢ちゃんのことは心配してるけど、原稿のことは全く心配してないよ。「片桐担当」としては完全に失格だけど。くく」
そう言って桃野くんは電話口で笑ってくれる。
なんかホッとして・・・泣きそう。
「でも、知らせてくれてありがとう。最終話進んでるんだ」
「もうほとんど終わってる。あとは・・・本当にこの終わり方でいいかどうか、自分自身に確認したいだけ」
「そっか。まだもう少し待てるから、ゆっくり考えたらいいよ・・・後悔しないように」
「うん、ありがとう」
「・・・あとね、もう1つ、桃野くんに話があるの」
「なに?」
「「片桐作品」を、川上さんに渡すことにしたの」
「・・・どういう、こと?」
顔が見えなくても、桃野くんが動揺しているのがわかる。
あれだけ頑なに拒否してたんだから、当然だと思うけど。
「決めたの。川上さんは誰よりも「片桐純」を大切にしてくれると思うから・・・きっと、原作を越える「パラレルワールド」にしてくれると思うから・・・」
「絢ちゃん、それって・・・」
「飯島さんに伝えておいてもらえるかな?川上さんには私から伝えるから・・・じゃ、また連絡するね」
私が電話を切ろうとすると、桃野くんがそれを遮った。
「絢ちゃん!」
「ん」
「絢ちゃんに、会いたい・・・んだ」
「死ぬほど、会いたい・・・」
「いますぐ、会いたい」
私も、会いたい。
そして。
これだけ心配と迷惑をかけてるにもかかわらず、怒るどころか桃野くんにそう言ってもらえて、すごく嬉しかった。
だけど。
まだ最終話を桃野くんに渡す覚悟が出来ていない私は、
なんと言えばいいのかわからなくて、言葉を繋ぐことができない。
すると、その間に耐えきれなくなったのか、桃野くんが言った。
「―――仕事が終わってから電話かけ直させて。その方がゆっくり話せるから」
「―――うん」
桃野くんとの電話を切ってすぐ、私は川上さんに電話をした。
「心配させんなよ!オマエ、本当に殺人犯になるところだったんだぞ!わかってんのか?!」
川上さんは怒っていた。
相当、怒っていた。
当たり前だ。
この一ヶ月間、音信不通だったんだから。
桃野くんの反応の方が・・・普通じゃないのだ。
「すみません・・・」
「で、大丈夫なのか?」
「はい・・・ほぼ書き終わりました」
「原稿もだけど、絢ちゃん自身は?大丈夫なのか?」
「・・・正直、祐の姿がはっきり見えた時には、もうダメだと思いました」
なんで祐のことを、当たり前のように川上さんに話しているんだろう?
桃野くんには言えないのに。
「今もまだ、祐くんが見えてるの?」
驚いた様子も見せず、川上さんも淡々と会話を続ける。
「いえ、祐はあっちの世界へ戻りました。「君に会えたら」の最終話に満足したみたいです。あとは、桃野くんにその原稿を渡す覚悟をするだけです」
「そっか、よかったよ・・・絢ちゃんがこっちの世界に留まってくれて」
「どうやら病院行きにも墓場行きにもならずに済んだみたいです。へへ」
「ん、安心した。まぁ、そういう理由じゃ、桃野のいるあのマンションで最終話を書くのはムリだよな・・・でもさ」
「はい」
「今の話だと、1つ大きな問題があるよ・・・俺にとってだけど」
「え?」
「前に絢ちゃん、俺が祐くんに似てるって言ったよね?」
「はい」
「祐くんがその最終話に満足したってことは、きっと、俺が耕介の立場だったら幸せな結末だけど、耕介を好きな第三者だったら不本意な結末ってことだよね?」
「川上さん・・・」
「まぁ、「脚本家、川上保」としては最終話がどう上がってくるか楽しみにしてるけど・・・もし俺が凹んでたら、ちゃんと慰めてよね。絢ちゃんのせいなんだからさ」
川上さんも、ものすごく優しい人。
そして、ものすごく器の大きな人なんだと思う。
賢くて、真っ直ぐで、そして、
脚本家としてものすごい才能を持ってる人。
私はやっぱり―――
「片桐純」を川上さんに託したいと思う。
「あの・・・川上さん」
「ん」
「「パラレルワールド」のことなんですけど・・・」
「ん?」
「というより、「片桐純」のことなんですけど・・・」
「なに?」
「軽井沢に来て、祐とも話したんですけど・・・川上さんの元へ、嫁がせたいと思って」
「は?」
「「片桐純」の作品全て、川上さんに託したいんです」
私がそう言うと、数秒、間が開いた。
「絢ちゃん、なに言ってんの?ここでそんな冗談止めろよ。マジで怒るよ。俺が「パラレルワールド」に関して、どれほど真剣か、知ってんだろ?」
「冗談じゃないです・・・。貰って、もらえますか?」
「・・・意味、わかんないんだけど。それに「片桐純」の作品全部ってどういうこと?」
「―――仮に私が「片桐純」の母親だとして。川上保と私の好きな人が川で溺れていたとします。そして、1人しか助けられないとします」
「は?」
「私はどちらを助けると思いますか?」
「ははっ・・・そりゃ究極だな。「立花絢」としてだったら「川上保」じゃないだろうけどな」
「・・・すみません」
「謝るなよ!凹むだろ?!・・・でも「片桐純」の為だったら・・・俺かもな」
「私もそうだと思いますよ」
「でもそれはきっと・・・祐くんのためだよね」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えます」
「なんで?」
「川上さんが、「過去」と「今」しかなかった「片桐純」に、幸せな「未来」を与えられる、唯一無二の人だと思うからです」
「・・・」
「川上さんが言うように、たしかに「片桐純」は祐の世界を執筆してきました。「片桐純」にとって執筆が何よりも大切で、何よりも優先されてきたのはそれが「祐」だからです。でもその優先順位は、私が意図してつけたものではなくて、本能です」
「ん」
「でも「君に会えたら」を書き終えて・・・・思ったんです。「片桐純」が描こうとした祐の世界は、もう書き尽くしたって」
「・・・それはつまり、「片桐純」を辞めるってこと?」
「そう、かもしれませんね。厳密にいうと、辞めるというより、もう書けないと思うんですけど」
「それは―――祐くんのことを乗り越えた、っていう意味でもある?」
「それは・・・どうかな・・・」
「・・・」
「実際のところ、これからもいままでのように、「片桐純」を私が守り続ける、ということも全然できたと思いますから・・・」
「・・・」
「でも一方で―――、川上さんに「片桐純」を託す、という気持ちが私の中で自然に生まれた―――」
「・・・」
「今の私に確実に言えるのは・・・もし川上さんと出会わなければ、「片桐純」が私のもとを離れる、ということは絶対になかったということです。きっとこれからも、「片桐純」を辞めても、絶対に誰にも渡さなかった」
「・・・」
「川上さんに託したいという気持ちは私の中の「真実」であって、祐も私がそうしたいならそうすればいいと言ってくれました。だから、川上さんが貰ってくれるのであれば、私はそうしたい」
「・・・桃野は?」
「え?」
「桃野に「片桐純」を渡すこともできるんじゃないの?アイツ、片桐担当なんだし」
「あははっ。それはないですよ」
「なんで?」
「「片桐純」がいなくなれば、桃野くんは片桐担当じゃなくなります。それに桃野くんに渡したって結局川上さんのところに行きますよ」
「どうして?」
「言ったでしょう?川上さんだけが「片桐純」に未来を与えられるのだと。それは、祐の世界を壊さずに、原作を越えるものを創造できる、という意味です」
「・・・」
「それにさっき桃野くん、言ってました」
「なんて?」
「私のことは心配してるけど、原稿のことは全く心配してないって。川上さんはちゃんと原稿のことも心配してくれてたでしょ?ふふっ」
「そりゃ、まぁ・・・」
「川上さんになら、川上さんだけに、私の命だった「片桐純」を託せます」
「絢ちゃん・・・」
「「片桐純」のこと、よろしくお願いしますね?」
「―――なぁ」
「はい?」
「祐くんのことを書き尽くしたのなら、他の世界を描けばいいんじゃないのか?」
「え?」
「これから先にある未来。祐くんの世界を踏まえた新しい「片桐純」の世界」
「この先に描きたい世界があるのかどうか、今の私には全く分からないです。だから、川上さんが「片桐純」に未来を与えてください。お願いします」
「どういう意味?「君に会えたら」の最終話、ハッピーエンド中のハッピーエンドなんじゃないの?」
「違いますよ」
「え?」
「もうすぐわかります。とにかく、片桐作品を川上さんに託す旨、飯島さんに伝えてもらうように、桃野くんに頼んでありますから。ドラマにでも映画にでも、川上さんの好きなように・・・でも、いいものにしてくださいね、祐と私のために」
「絢ちゃん」
「はい」
「そんだけ俺のこと信頼してくれるんだったら・・・絢ちゃんの命である「片桐純」を俺に託してくれるんだったらさ・・・」
「俺の為に「片桐純」を辞めないでよ」
「・・・」
「一緒に新しい世界を創っていこうよ」
「俺は「片桐純」に命、賭けられるよ・・・そのくらいの覚悟はね、前から出来てた。でも、今の絢ちゃんの言葉を聞いて・・・
俺にはもう、微塵の迷いもない。たとえ「立花絢」が他の男のモノになってもね。俺は命がけで「片桐純」を守るし大切にする。絶対に原作を越えるくらいいいモノにしてみせる。だからさ、一緒にやろうよ」
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TOKYO CHIC 2037号
「君に会えたら」 第42話 掲載
ドラマ「君に会えたら」第5話 オンエア
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「絢・・・ちゃん」
最後に桃野くんの声を聞いてから、もう1か月以上が経っていた。
軽井沢に来てから初めて、私は自分から桃野くんに電話をした。
なぜなら―――
最終話がほぼ、完成したから。
そして、
書き終えた後も、桃野くんが知ってるままの私が、この世に残ったから。
だからまた・・・桃野くんの声が聞けると思ったから。
「桃野くん・・・元気だった?」
「元気、なわけ、ないよ・・・」
「ごめんなさい」
「はぁ・・・」
「本当に、ごめんなさい」
「・・・俺、マジで死にそうだった」
「え?」
「この電話取るまで・・・いつ死んでもおかしくなかった」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ・・・電話ありがとう。とりあえず命拾いしたみたいだ」
「そんなぁ」
「俺―――、絢ちゃんの声聞けて・・・マジで泣きそうなんだけど・・・」
「本当に、本当にごめんなさい・・・心配かけて」
「はぁぁ―――、すげぇ久しぶりにちゃんと呼吸してる気がする・・・」
「・・・で、どうした?なんか困った事でもあった?なんでも言って?」
こんなときでも、桃野くんは優しい。
死ぬほど、優しい。
もっと私のこと怒ってもいいのに・・・。
「最終話、大丈夫だよって言おうと思って。心配してると思ったから・・・」
「絢ちゃんのことは心配してるけど、原稿のことは全く心配してないよ。「片桐担当」としては完全に失格だけど。くく」
そう言って桃野くんは電話口で笑ってくれる。
なんかホッとして・・・泣きそう。
「でも、知らせてくれてありがとう。最終話進んでるんだ」
「もうほとんど終わってる。あとは・・・本当にこの終わり方でいいかどうか、自分自身に確認したいだけ」
「そっか。まだもう少し待てるから、ゆっくり考えたらいいよ・・・後悔しないように」
「うん、ありがとう」
「・・・あとね、もう1つ、桃野くんに話があるの」
「なに?」
「「片桐作品」を、川上さんに渡すことにしたの」
「・・・どういう、こと?」
顔が見えなくても、桃野くんが動揺しているのがわかる。
あれだけ頑なに拒否してたんだから、当然だと思うけど。
「決めたの。川上さんは誰よりも「片桐純」を大切にしてくれると思うから・・・きっと、原作を越える「パラレルワールド」にしてくれると思うから・・・」
「絢ちゃん、それって・・・」
「飯島さんに伝えておいてもらえるかな?川上さんには私から伝えるから・・・じゃ、また連絡するね」
私が電話を切ろうとすると、桃野くんがそれを遮った。
「絢ちゃん!」
「ん」
「絢ちゃんに、会いたい・・・んだ」
「死ぬほど、会いたい・・・」
「いますぐ、会いたい」
私も、会いたい。
そして。
これだけ心配と迷惑をかけてるにもかかわらず、怒るどころか桃野くんにそう言ってもらえて、すごく嬉しかった。
だけど。
まだ最終話を桃野くんに渡す覚悟が出来ていない私は、
なんと言えばいいのかわからなくて、言葉を繋ぐことができない。
すると、その間に耐えきれなくなったのか、桃野くんが言った。
「―――仕事が終わってから電話かけ直させて。その方がゆっくり話せるから」
「―――うん」
桃野くんとの電話を切ってすぐ、私は川上さんに電話をした。
「心配させんなよ!オマエ、本当に殺人犯になるところだったんだぞ!わかってんのか?!」
川上さんは怒っていた。
相当、怒っていた。
当たり前だ。
この一ヶ月間、音信不通だったんだから。
桃野くんの反応の方が・・・普通じゃないのだ。
「すみません・・・」
「で、大丈夫なのか?」
「はい・・・ほぼ書き終わりました」
「原稿もだけど、絢ちゃん自身は?大丈夫なのか?」
「・・・正直、祐の姿がはっきり見えた時には、もうダメだと思いました」
なんで祐のことを、当たり前のように川上さんに話しているんだろう?
桃野くんには言えないのに。
「今もまだ、祐くんが見えてるの?」
驚いた様子も見せず、川上さんも淡々と会話を続ける。
「いえ、祐はあっちの世界へ戻りました。「君に会えたら」の最終話に満足したみたいです。あとは、桃野くんにその原稿を渡す覚悟をするだけです」
「そっか、よかったよ・・・絢ちゃんがこっちの世界に留まってくれて」
「どうやら病院行きにも墓場行きにもならずに済んだみたいです。へへ」
「ん、安心した。まぁ、そういう理由じゃ、桃野のいるあのマンションで最終話を書くのはムリだよな・・・でもさ」
「はい」
「今の話だと、1つ大きな問題があるよ・・・俺にとってだけど」
「え?」
「前に絢ちゃん、俺が祐くんに似てるって言ったよね?」
「はい」
「祐くんがその最終話に満足したってことは、きっと、俺が耕介の立場だったら幸せな結末だけど、耕介を好きな第三者だったら不本意な結末ってことだよね?」
「川上さん・・・」
「まぁ、「脚本家、川上保」としては最終話がどう上がってくるか楽しみにしてるけど・・・もし俺が凹んでたら、ちゃんと慰めてよね。絢ちゃんのせいなんだからさ」
川上さんも、ものすごく優しい人。
そして、ものすごく器の大きな人なんだと思う。
賢くて、真っ直ぐで、そして、
脚本家としてものすごい才能を持ってる人。
私はやっぱり―――
「片桐純」を川上さんに託したいと思う。
「あの・・・川上さん」
「ん」
「「パラレルワールド」のことなんですけど・・・」
「ん?」
「というより、「片桐純」のことなんですけど・・・」
「なに?」
「軽井沢に来て、祐とも話したんですけど・・・川上さんの元へ、嫁がせたいと思って」
「は?」
「「片桐純」の作品全て、川上さんに託したいんです」
私がそう言うと、数秒、間が開いた。
「絢ちゃん、なに言ってんの?ここでそんな冗談止めろよ。マジで怒るよ。俺が「パラレルワールド」に関して、どれほど真剣か、知ってんだろ?」
「冗談じゃないです・・・。貰って、もらえますか?」
「・・・意味、わかんないんだけど。それに「片桐純」の作品全部ってどういうこと?」
「―――仮に私が「片桐純」の母親だとして。川上保と私の好きな人が川で溺れていたとします。そして、1人しか助けられないとします」
「は?」
「私はどちらを助けると思いますか?」
「ははっ・・・そりゃ究極だな。「立花絢」としてだったら「川上保」じゃないだろうけどな」
「・・・すみません」
「謝るなよ!凹むだろ?!・・・でも「片桐純」の為だったら・・・俺かもな」
「私もそうだと思いますよ」
「でもそれはきっと・・・祐くんのためだよね」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えます」
「なんで?」
「川上さんが、「過去」と「今」しかなかった「片桐純」に、幸せな「未来」を与えられる、唯一無二の人だと思うからです」
「・・・」
「川上さんが言うように、たしかに「片桐純」は祐の世界を執筆してきました。「片桐純」にとって執筆が何よりも大切で、何よりも優先されてきたのはそれが「祐」だからです。でもその優先順位は、私が意図してつけたものではなくて、本能です」
「ん」
「でも「君に会えたら」を書き終えて・・・・思ったんです。「片桐純」が描こうとした祐の世界は、もう書き尽くしたって」
「・・・それはつまり、「片桐純」を辞めるってこと?」
「そう、かもしれませんね。厳密にいうと、辞めるというより、もう書けないと思うんですけど」
「それは―――祐くんのことを乗り越えた、っていう意味でもある?」
「それは・・・どうかな・・・」
「・・・」
「実際のところ、これからもいままでのように、「片桐純」を私が守り続ける、ということも全然できたと思いますから・・・」
「・・・」
「でも一方で―――、川上さんに「片桐純」を託す、という気持ちが私の中で自然に生まれた―――」
「・・・」
「今の私に確実に言えるのは・・・もし川上さんと出会わなければ、「片桐純」が私のもとを離れる、ということは絶対になかったということです。きっとこれからも、「片桐純」を辞めても、絶対に誰にも渡さなかった」
「・・・」
「川上さんに託したいという気持ちは私の中の「真実」であって、祐も私がそうしたいならそうすればいいと言ってくれました。だから、川上さんが貰ってくれるのであれば、私はそうしたい」
「・・・桃野は?」
「え?」
「桃野に「片桐純」を渡すこともできるんじゃないの?アイツ、片桐担当なんだし」
「あははっ。それはないですよ」
「なんで?」
「「片桐純」がいなくなれば、桃野くんは片桐担当じゃなくなります。それに桃野くんに渡したって結局川上さんのところに行きますよ」
「どうして?」
「言ったでしょう?川上さんだけが「片桐純」に未来を与えられるのだと。それは、祐の世界を壊さずに、原作を越えるものを創造できる、という意味です」
「・・・」
「それにさっき桃野くん、言ってました」
「なんて?」
「私のことは心配してるけど、原稿のことは全く心配してないって。川上さんはちゃんと原稿のことも心配してくれてたでしょ?ふふっ」
「そりゃ、まぁ・・・」
「川上さんになら、川上さんだけに、私の命だった「片桐純」を託せます」
「絢ちゃん・・・」
「「片桐純」のこと、よろしくお願いしますね?」
「―――なぁ」
「はい?」
「祐くんのことを書き尽くしたのなら、他の世界を描けばいいんじゃないのか?」
「え?」
「これから先にある未来。祐くんの世界を踏まえた新しい「片桐純」の世界」
「この先に描きたい世界があるのかどうか、今の私には全く分からないです。だから、川上さんが「片桐純」に未来を与えてください。お願いします」
「どういう意味?「君に会えたら」の最終話、ハッピーエンド中のハッピーエンドなんじゃないの?」
「違いますよ」
「え?」
「もうすぐわかります。とにかく、片桐作品を川上さんに託す旨、飯島さんに伝えてもらうように、桃野くんに頼んでありますから。ドラマにでも映画にでも、川上さんの好きなように・・・でも、いいものにしてくださいね、祐と私のために」
「絢ちゃん」
「はい」
「そんだけ俺のこと信頼してくれるんだったら・・・絢ちゃんの命である「片桐純」を俺に託してくれるんだったらさ・・・」
「俺の為に「片桐純」を辞めないでよ」
「・・・」
「一緒に新しい世界を創っていこうよ」
「俺は「片桐純」に命、賭けられるよ・・・そのくらいの覚悟はね、前から出来てた。でも、今の絢ちゃんの言葉を聞いて・・・
俺にはもう、微塵の迷いもない。たとえ「立花絢」が他の男のモノになってもね。俺は命がけで「片桐純」を守るし大切にする。絶対に原作を越えるくらいいいモノにしてみせる。だからさ、一緒にやろうよ」
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