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Chapter 34:「思いがけない誕生日」
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【11月24日(土)】
*******************************
TOKYO CHIC 2028号
「君に会えたら」 第33話 掲載
*******************************
「24と25日は仕事禁止!完全オフ!」
3日前、川上さんが私の手作りコロッケを食べてる最中にそう宣言した。
「なんでですか?」
「絢ちゃんの誕生日だから。自分の誕生日も忘れたのか?」
「・・・忘れてました」
「仮にも女の子なんだし、せっかく俺と暮らしてるんだから、たまには「あのバック買って~」とか可愛くおねだりしてみなよ?」
「私がそういうタイプに見えますか?」
「見えないけどさ。絢ちゃんに甘えられたら俺、喜んでなんでもしてやるのに。はぁ、早く絢ちゃんに全力で甘えられるようになりたいよ」
大真面目にそう言う川上さん。
「なんか欲しいものは?」
桃野くんが私の顔を覗く。
「なんでも言え。俺と桃野が叶えてやるから」
「っていうか、2日もオフに出来るんですか?それどころじゃないでしょう?」
「大丈夫。ちゃんとそのつもりで仕事してきたから。すべて計画通り★」
でも、欲しいものも特別にしたいこともない私は、結局何もリクエストをしないまま誕生日を迎えた。
「絢ちゃん起きて。行くよ」
桃野くんの声。
ブランケットの上から、私の肩を揺らす。
「ん?桃野くん?今何時?」
「4時半」
「ん~、なんでこんなに早く起きなきゃいけないの?」
私はなんとか顔を洗って着替え、ぼーっとしたまま、階下に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
「何処に行くの?」
「すぐにわかるよ」
桃野くんも川上さんも怪しげに微笑む。
「うわ~」
到着した先は那覇。
私たちは始発の那覇行きに飛び乗っていた。
3人とも、飛行機の中では完全に熟睡してたけど。
「あーよく寝れた。エネルギー全開!よーし今日は喰いまくるぞ。ソーキそばにフーチャンプルーに・・・」
到着口で子供のようにはしゃぐ川上さん。
そんな彼を呆れたように見つめながら、桃野くんが
「沖縄に行きたい、って前に言ってたから」
そう言って、私の頭を撫でた。
「ほらそこ、勝手にイチャつくな!」
2人によると、今夜は那覇に泊って明日の夕方ごろ銀座に戻るらしい。
だから、空港でレンタカーを借りて、めいっぱい沖縄を満喫することにした。
「絢ちゃん、どっか行きたいところある?」
「えっと・・・一泊だから、ドライブしながらこの辺を一通り観光して・・・でも絶対に海が見たいです!」
「予想通りだったな、桃野」
「そうですね。そしたら今からのんびりドライブして、あとはリゾートホテルでまったりですかね」
「そうだな」
「今日がお誕生日の姫は、何もしなくていいんだよ。全部俺たちに任せて?」
運転席と助手席に座る2人が楽しそうに笑った。
私たちはまず那覇近辺をドライブし、その後、国際通りで買い物を存分に満喫した。
お財布とスマホくらいしか持ってこなかった私たちは、洋服、下着、お土産、ありとあらゆるものを買って・・・と言っても、私の分は全部、男子2人が買ってくれたんだけど。
お昼は、地元の人に教えてもらった沖縄料理の店。
昔からあるお店みたいで、壁に貼られてるメニューがボロボロ。
そのメニューを、川上さんと桃野くんは片っぱしから注文した。
「えっと、ソーキそば、フーチャンプルー、豆腐蓉、海ぶどう、ゴーヤーのてんぷら、パパイヤーイリチ―・・・」
「そんなに?」
「せっかく来たんだ。死ぬ気で食べようぜ!」
地元の人が教えてくれただけあって、全部、ものすごくおいしかった。
私の一番のお気に入りは「島らっきょうのてんぷら」。
お腹一杯なのに、一皿追加してしまったくらい大好きだった。
「いやー喰った喰った!」
「おいしかったぁ」
「俺、沖縄住みたいな」
3人とも食事にとても満足したから、予定よりもちょっと早かったけど、ドライブがてらホテルにのんびり向かうことにした。
ホテルのプライベートビーチがとても素敵らしい。
「あぁ、もうちょっと時期が早かったら、絢ちゃんの水着姿拝めたのになぁ」
川上さんがイヤらしい目つきで、バックミラー越しに私を見る。
「それ、セクハラですよ!オヤジ、キモイ!」
「男なんだから仕方ないだろ?ましてや好きな子の生まれたままの姿を見たいって欲求は普通だよ。な、桃野?お前だって絢ちゃんのビキニ姿見たいだろ?」
「ビキニ・・・」
助手席に座っていた桃野くんの耳が真っ赤になってる。
あ!
泥酔した時の、私の下着姿を思いだしたんだ・・・
「桃野くんもヤラしいよっ!」
私は桃野くんの頭を叩いた。
「桃野、なんでそんなに赤くなってんの?もしかして、見たことあるとか?!」
「な、ないですよ!」
「お前、どもってるよ?」
到着したのはものすごく豪華なリゾートホテル。
全室オーシャンビュー。
2人は今日のために、エグゼクティブスイートを予約してくれていた。
「あ、やっぱり水着が必要だよ!」
川上さんが叫んだ。
「なんでですか?」
「水着なしで、どうやってスパに入るの?」
「え?」
ホントだ。
この部屋には豪華なプライベートスパが付いている。
それも絶景の青い海を眺めながら、シャンパンを飲むような豪華でロマンチックなヤツ。
でも・・・どう考えてもこの2人とは一緒に入れない。
「とりあえず下の店で水着買ってこようぜ」
私たちはエレベーターで階下に降りた。
「せっかくだから、俺はこの派手なヤシの木の海パンにする。桃野は?」
「俺は・・・これかな?」
桃野くんが選んだのはそのまま街を歩けそうな、迷彩のひざ丈のパンツ。
「絢ちゃんも選びなよ。水着の上からTシャツかなんか着れば一緒に入れるでしょ?」
「そっか!」
川上さんもたまにはいいことを言う。
私は必死で水着を選び始めた。
可愛いのがいっぱいあって迷ってしまう。
「絢ちゃん、俺はこれがいい!」
川上さんがニヤニヤしながら持ってきたのは、ほとんどヒモだけって感じのヤツ。
「もういい加減にセクハラはやめてくださいよ!」
「絢ちゃんスタイルいいから、大丈夫だって!」
「見たことないくせに!」
「絢ちゃん、これは?」
桃野くんが探してたことにびっくりしながらも、見てみると超可愛い。
黒地に白の水玉のビキニで、お揃いのショートパンツとタンクトップがセットになってる。
「可愛いし、肌が隠れていい!それにする!」
「お前、どうせ選ぶならもっと露出度の高いのにしろよ!」
「川上さんに見せたくないからこれを選んだんでしょ」
「やっぱオマエ、見たことあんのかよ?!」
結局この水着も2人が買ってくれて、私たちは部屋に戻った。
「私が呼ぶまで、入ってきちゃだめですよ!」
私は長い髪をお団子に束ね、水着に着替えて、ちゃぽんっとスパに入る。
気持ちいい!
「桃野くん、川上さん、もういいよ!」
「うん」
「今行くよ~」
え?
奥から出てきた2人は・・・
目のやり場に困ってしまって、私はあわてて海の方に目を向けた。
2人とも、ものすごく色っぽいんですけど。
なんなの、このフェロモン全開オーラの2人。
このスパが広くてよかった。
近すぎたらドキドキしすぎて、きっと死んでた。
「お誕生日おめでとう、絢ちゃん♪」
「おめでとう、絢ちゃん!」
「ありがとうございま~す!」
スパに浸りながら、シャンパンで乾杯する3人。
普通に考えたら、このメンバーで、この状況はどう考えても異様。
でも2人のお陰で、とても想い出に残る22歳の誕生日になった。
去年、飯島さんと桃野くんに祝ってもらった誕生日も楽しかったけど。
「絢ちゃん」
「はい?」
川上さんの腕が私の首元に伸びてくる。
「今度は2人っきりでこよう?」
川上さんの右手が私のうなじを撫でた瞬間、
じゃぽ~ん!!!
桃野くんが川上さんを思いっきり頭からスパに沈めた。
川上さんがもがいてる間に、桃野くんが囁く。
「本当に、誕生日おめでとう」
「うん、ありがと」
「ふがっ、ぐぶっ、ぷはぁー、桃野!俺を殺す気か!」
「絢ちゃんに変なことするからですよ」
「だって、絢ちゃんのうなじがあまりにも綺麗で、気持ち抑えられなかったんだから仕方ねぇじゃん」
「殺されたいんですね?」
川上さんはもう一度、思いっきりスパに沈められた。
その後私たちは、3人仲良く海辺を散歩。
夕食は、また地元の人に教えてもらって、沖縄産のお肉が堪能できる焼き肉屋に行った。
「お腹いっぱいで死ぬ~」
私はベッドに転がり込んだ。
「まだ終わってないよ?」
桃野くんが笑った。
「どういうこと?」
「まだ肝心なモノ、食べてないでしょ?」
「なんだっけ?」
「すぐわかる」
その時、部屋のドアを誰かがノックした。
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのはホテルの人。
運ばれてきたのは、22本のローソクが立った苺のホールショートケーキ。
そして、ボジョレーヌーボー。
「うわー」
「やっぱケーキは欠かせないでしょ?」
川上さんがウインク。
「さ、ろうそく消して?」
私がふぅーっ、と一気に消すと、2人が拍手してくれた。
「今日は本当にいろいろありがとうございました。いい想い出ができました」
私はペコリと頭を下げた。
「また来年もな?」
「え?」
「本当は絢ちゃんと2人きりがいいけど、別に桃野がいてもいいや。来年も3人でどっか行こうぜ」
「そうですね」
川上さんに微笑む桃野くん。
「えっと・・・?」
「次はサイパンだっけ?早めに予約しないとな」
「そうですね」
桃野くんと川上さんはとても楽しそうだったけど、私はちょっと複雑で、返事ができなかった。
その後。
解禁になったばかりのボジョレーヌーボーに興奮して、ただの酔っ払いになった川上さん。
普段あまり飲んでないから、きっと弱くなってるんだと思う。
まだ酔いが浅いうちは「絢ちゃん大好き★」とか言って、私にくっついて大変だったけど、今は目の前で完全に潰れている。
「川上さん、床じゃなくてちゃんとベッドで寝ましょう?」
「うぅん・・・」
桃野くんに支えられ、川上さんは目の前のベッドに倒れこんだ。
「あーあ」
私と桃野くんは見合わせて笑った。
「絢ちゃんも寝る?」
「せっかくだから、もう一回海辺をお散歩してくる。まだ23時半だし」
「俺も行くよ」
桃野くんと歩く幻想的な漆黒の、沖縄の海。
白い砂が歩くたびにザクザク鳴るのが心地いい。
「なんか不思議な感じ。なんでこの3人で沖縄にいるんだろう?」
私は笑った。
「ホント、人生ってわかんねぇ」
暗くて桃野くんの顔を見えなかったけど、きっと微笑んでいたと思う。
「連れてきてくれて、ありがとうね」
「どういたしまして」
そう言うと、桃野くんはそっと私の左手を取った。
「砂に足取られて転ぶよ?」
「うん」
「絢ちゃん」
「うん?」
「できれば来年の俺の誕生日は、川上さん抜きがいいな・・・今年みたいに。で、また絢ちゃんのオムライスが食べたい。コーヒーとプリン付きで」
「ははっ。出来るかな。ところで川上さんの誕生日っていつなんだろう?」
「それがさ・・・5月3日なんだって」
「もう絶対無理でしょ。絶対に合同誕生会とか言うよ?」
だって桃野くんの誕生日、5月5日だもん。
「やっぱそう思う?だよなぁ・・・」
沖縄の夜の浜辺で、私と桃野くんは大笑いした。
「でも、オムライスでいいんだったら、例え合同誕生日会が5月5日になっても食べられるんじゃない?朝食にとか?ふふ」
来年の五月には銀座にはいないと思ったけど、オムライスを理由に・・・誕生日に桃野くんに会いに来るのは悪くないかも、って思った自分がそこにいた。
「絢ちゃん・・・優しいね」
「そう、かなぁ?」
「すげぇ優しいよ・・・そういうところがツンデレって言われる所以だよな」
「何それ?」
「ホント、参るよなぁ・・・くく」
「桃野くん、意味不明だし」
「ま、それはひとまず置いとくとして。・・・これ、なんだけど」
徐にパーカーのポケットから小さな箱を取り出した桃野くんは、それを私に差し出した。
「なに?」
「ここじゃ暗くてよく見えないと思うんだけど、川上さんがいるところで渡すと絶対うるさいから・・・できれば今日渡したかったし。コーヒーとプリンと、あと美味しいご飯をいつも食べさせてもらってるお礼。こんなんじゃ全然足りないけど・・・」
「キレイ・・・」
箱を開けると、それはシルバーのペンダント。
先端にある丸い透明な部分が、満月と海に反射して星のように輝いた。
「集公舎の近くの店のウィンドウに飾ってあって―――絢ちゃんに似合いそうだと思って」
「ありがとう。すごく嬉しい・・・ね、付けて?」
「ん・・・はい、できた」
「ありがとう。一生大事にするね」
振り返って、桃野くんの表情を見ようとしたら、
突然、腰をぐいっと後ろに引かれて・・・桃野くんが耳元で囁いた。
「俺の方がありがとうだよ。いつもすげぇ感謝してる」
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TOKYO CHIC 2028号
「君に会えたら」 第33話 掲載
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「24と25日は仕事禁止!完全オフ!」
3日前、川上さんが私の手作りコロッケを食べてる最中にそう宣言した。
「なんでですか?」
「絢ちゃんの誕生日だから。自分の誕生日も忘れたのか?」
「・・・忘れてました」
「仮にも女の子なんだし、せっかく俺と暮らしてるんだから、たまには「あのバック買って~」とか可愛くおねだりしてみなよ?」
「私がそういうタイプに見えますか?」
「見えないけどさ。絢ちゃんに甘えられたら俺、喜んでなんでもしてやるのに。はぁ、早く絢ちゃんに全力で甘えられるようになりたいよ」
大真面目にそう言う川上さん。
「なんか欲しいものは?」
桃野くんが私の顔を覗く。
「なんでも言え。俺と桃野が叶えてやるから」
「っていうか、2日もオフに出来るんですか?それどころじゃないでしょう?」
「大丈夫。ちゃんとそのつもりで仕事してきたから。すべて計画通り★」
でも、欲しいものも特別にしたいこともない私は、結局何もリクエストをしないまま誕生日を迎えた。
「絢ちゃん起きて。行くよ」
桃野くんの声。
ブランケットの上から、私の肩を揺らす。
「ん?桃野くん?今何時?」
「4時半」
「ん~、なんでこんなに早く起きなきゃいけないの?」
私はなんとか顔を洗って着替え、ぼーっとしたまま、階下に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
「何処に行くの?」
「すぐにわかるよ」
桃野くんも川上さんも怪しげに微笑む。
「うわ~」
到着した先は那覇。
私たちは始発の那覇行きに飛び乗っていた。
3人とも、飛行機の中では完全に熟睡してたけど。
「あーよく寝れた。エネルギー全開!よーし今日は喰いまくるぞ。ソーキそばにフーチャンプルーに・・・」
到着口で子供のようにはしゃぐ川上さん。
そんな彼を呆れたように見つめながら、桃野くんが
「沖縄に行きたい、って前に言ってたから」
そう言って、私の頭を撫でた。
「ほらそこ、勝手にイチャつくな!」
2人によると、今夜は那覇に泊って明日の夕方ごろ銀座に戻るらしい。
だから、空港でレンタカーを借りて、めいっぱい沖縄を満喫することにした。
「絢ちゃん、どっか行きたいところある?」
「えっと・・・一泊だから、ドライブしながらこの辺を一通り観光して・・・でも絶対に海が見たいです!」
「予想通りだったな、桃野」
「そうですね。そしたら今からのんびりドライブして、あとはリゾートホテルでまったりですかね」
「そうだな」
「今日がお誕生日の姫は、何もしなくていいんだよ。全部俺たちに任せて?」
運転席と助手席に座る2人が楽しそうに笑った。
私たちはまず那覇近辺をドライブし、その後、国際通りで買い物を存分に満喫した。
お財布とスマホくらいしか持ってこなかった私たちは、洋服、下着、お土産、ありとあらゆるものを買って・・・と言っても、私の分は全部、男子2人が買ってくれたんだけど。
お昼は、地元の人に教えてもらった沖縄料理の店。
昔からあるお店みたいで、壁に貼られてるメニューがボロボロ。
そのメニューを、川上さんと桃野くんは片っぱしから注文した。
「えっと、ソーキそば、フーチャンプルー、豆腐蓉、海ぶどう、ゴーヤーのてんぷら、パパイヤーイリチ―・・・」
「そんなに?」
「せっかく来たんだ。死ぬ気で食べようぜ!」
地元の人が教えてくれただけあって、全部、ものすごくおいしかった。
私の一番のお気に入りは「島らっきょうのてんぷら」。
お腹一杯なのに、一皿追加してしまったくらい大好きだった。
「いやー喰った喰った!」
「おいしかったぁ」
「俺、沖縄住みたいな」
3人とも食事にとても満足したから、予定よりもちょっと早かったけど、ドライブがてらホテルにのんびり向かうことにした。
ホテルのプライベートビーチがとても素敵らしい。
「あぁ、もうちょっと時期が早かったら、絢ちゃんの水着姿拝めたのになぁ」
川上さんがイヤらしい目つきで、バックミラー越しに私を見る。
「それ、セクハラですよ!オヤジ、キモイ!」
「男なんだから仕方ないだろ?ましてや好きな子の生まれたままの姿を見たいって欲求は普通だよ。な、桃野?お前だって絢ちゃんのビキニ姿見たいだろ?」
「ビキニ・・・」
助手席に座っていた桃野くんの耳が真っ赤になってる。
あ!
泥酔した時の、私の下着姿を思いだしたんだ・・・
「桃野くんもヤラしいよっ!」
私は桃野くんの頭を叩いた。
「桃野、なんでそんなに赤くなってんの?もしかして、見たことあるとか?!」
「な、ないですよ!」
「お前、どもってるよ?」
到着したのはものすごく豪華なリゾートホテル。
全室オーシャンビュー。
2人は今日のために、エグゼクティブスイートを予約してくれていた。
「あ、やっぱり水着が必要だよ!」
川上さんが叫んだ。
「なんでですか?」
「水着なしで、どうやってスパに入るの?」
「え?」
ホントだ。
この部屋には豪華なプライベートスパが付いている。
それも絶景の青い海を眺めながら、シャンパンを飲むような豪華でロマンチックなヤツ。
でも・・・どう考えてもこの2人とは一緒に入れない。
「とりあえず下の店で水着買ってこようぜ」
私たちはエレベーターで階下に降りた。
「せっかくだから、俺はこの派手なヤシの木の海パンにする。桃野は?」
「俺は・・・これかな?」
桃野くんが選んだのはそのまま街を歩けそうな、迷彩のひざ丈のパンツ。
「絢ちゃんも選びなよ。水着の上からTシャツかなんか着れば一緒に入れるでしょ?」
「そっか!」
川上さんもたまにはいいことを言う。
私は必死で水着を選び始めた。
可愛いのがいっぱいあって迷ってしまう。
「絢ちゃん、俺はこれがいい!」
川上さんがニヤニヤしながら持ってきたのは、ほとんどヒモだけって感じのヤツ。
「もういい加減にセクハラはやめてくださいよ!」
「絢ちゃんスタイルいいから、大丈夫だって!」
「見たことないくせに!」
「絢ちゃん、これは?」
桃野くんが探してたことにびっくりしながらも、見てみると超可愛い。
黒地に白の水玉のビキニで、お揃いのショートパンツとタンクトップがセットになってる。
「可愛いし、肌が隠れていい!それにする!」
「お前、どうせ選ぶならもっと露出度の高いのにしろよ!」
「川上さんに見せたくないからこれを選んだんでしょ」
「やっぱオマエ、見たことあんのかよ?!」
結局この水着も2人が買ってくれて、私たちは部屋に戻った。
「私が呼ぶまで、入ってきちゃだめですよ!」
私は長い髪をお団子に束ね、水着に着替えて、ちゃぽんっとスパに入る。
気持ちいい!
「桃野くん、川上さん、もういいよ!」
「うん」
「今行くよ~」
え?
奥から出てきた2人は・・・
目のやり場に困ってしまって、私はあわてて海の方に目を向けた。
2人とも、ものすごく色っぽいんですけど。
なんなの、このフェロモン全開オーラの2人。
このスパが広くてよかった。
近すぎたらドキドキしすぎて、きっと死んでた。
「お誕生日おめでとう、絢ちゃん♪」
「おめでとう、絢ちゃん!」
「ありがとうございま~す!」
スパに浸りながら、シャンパンで乾杯する3人。
普通に考えたら、このメンバーで、この状況はどう考えても異様。
でも2人のお陰で、とても想い出に残る22歳の誕生日になった。
去年、飯島さんと桃野くんに祝ってもらった誕生日も楽しかったけど。
「絢ちゃん」
「はい?」
川上さんの腕が私の首元に伸びてくる。
「今度は2人っきりでこよう?」
川上さんの右手が私のうなじを撫でた瞬間、
じゃぽ~ん!!!
桃野くんが川上さんを思いっきり頭からスパに沈めた。
川上さんがもがいてる間に、桃野くんが囁く。
「本当に、誕生日おめでとう」
「うん、ありがと」
「ふがっ、ぐぶっ、ぷはぁー、桃野!俺を殺す気か!」
「絢ちゃんに変なことするからですよ」
「だって、絢ちゃんのうなじがあまりにも綺麗で、気持ち抑えられなかったんだから仕方ねぇじゃん」
「殺されたいんですね?」
川上さんはもう一度、思いっきりスパに沈められた。
その後私たちは、3人仲良く海辺を散歩。
夕食は、また地元の人に教えてもらって、沖縄産のお肉が堪能できる焼き肉屋に行った。
「お腹いっぱいで死ぬ~」
私はベッドに転がり込んだ。
「まだ終わってないよ?」
桃野くんが笑った。
「どういうこと?」
「まだ肝心なモノ、食べてないでしょ?」
「なんだっけ?」
「すぐわかる」
その時、部屋のドアを誰かがノックした。
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのはホテルの人。
運ばれてきたのは、22本のローソクが立った苺のホールショートケーキ。
そして、ボジョレーヌーボー。
「うわー」
「やっぱケーキは欠かせないでしょ?」
川上さんがウインク。
「さ、ろうそく消して?」
私がふぅーっ、と一気に消すと、2人が拍手してくれた。
「今日は本当にいろいろありがとうございました。いい想い出ができました」
私はペコリと頭を下げた。
「また来年もな?」
「え?」
「本当は絢ちゃんと2人きりがいいけど、別に桃野がいてもいいや。来年も3人でどっか行こうぜ」
「そうですね」
川上さんに微笑む桃野くん。
「えっと・・・?」
「次はサイパンだっけ?早めに予約しないとな」
「そうですね」
桃野くんと川上さんはとても楽しそうだったけど、私はちょっと複雑で、返事ができなかった。
その後。
解禁になったばかりのボジョレーヌーボーに興奮して、ただの酔っ払いになった川上さん。
普段あまり飲んでないから、きっと弱くなってるんだと思う。
まだ酔いが浅いうちは「絢ちゃん大好き★」とか言って、私にくっついて大変だったけど、今は目の前で完全に潰れている。
「川上さん、床じゃなくてちゃんとベッドで寝ましょう?」
「うぅん・・・」
桃野くんに支えられ、川上さんは目の前のベッドに倒れこんだ。
「あーあ」
私と桃野くんは見合わせて笑った。
「絢ちゃんも寝る?」
「せっかくだから、もう一回海辺をお散歩してくる。まだ23時半だし」
「俺も行くよ」
桃野くんと歩く幻想的な漆黒の、沖縄の海。
白い砂が歩くたびにザクザク鳴るのが心地いい。
「なんか不思議な感じ。なんでこの3人で沖縄にいるんだろう?」
私は笑った。
「ホント、人生ってわかんねぇ」
暗くて桃野くんの顔を見えなかったけど、きっと微笑んでいたと思う。
「連れてきてくれて、ありがとうね」
「どういたしまして」
そう言うと、桃野くんはそっと私の左手を取った。
「砂に足取られて転ぶよ?」
「うん」
「絢ちゃん」
「うん?」
「できれば来年の俺の誕生日は、川上さん抜きがいいな・・・今年みたいに。で、また絢ちゃんのオムライスが食べたい。コーヒーとプリン付きで」
「ははっ。出来るかな。ところで川上さんの誕生日っていつなんだろう?」
「それがさ・・・5月3日なんだって」
「もう絶対無理でしょ。絶対に合同誕生会とか言うよ?」
だって桃野くんの誕生日、5月5日だもん。
「やっぱそう思う?だよなぁ・・・」
沖縄の夜の浜辺で、私と桃野くんは大笑いした。
「でも、オムライスでいいんだったら、例え合同誕生日会が5月5日になっても食べられるんじゃない?朝食にとか?ふふ」
来年の五月には銀座にはいないと思ったけど、オムライスを理由に・・・誕生日に桃野くんに会いに来るのは悪くないかも、って思った自分がそこにいた。
「絢ちゃん・・・優しいね」
「そう、かなぁ?」
「すげぇ優しいよ・・・そういうところがツンデレって言われる所以だよな」
「何それ?」
「ホント、参るよなぁ・・・くく」
「桃野くん、意味不明だし」
「ま、それはひとまず置いとくとして。・・・これ、なんだけど」
徐にパーカーのポケットから小さな箱を取り出した桃野くんは、それを私に差し出した。
「なに?」
「ここじゃ暗くてよく見えないと思うんだけど、川上さんがいるところで渡すと絶対うるさいから・・・できれば今日渡したかったし。コーヒーとプリンと、あと美味しいご飯をいつも食べさせてもらってるお礼。こんなんじゃ全然足りないけど・・・」
「キレイ・・・」
箱を開けると、それはシルバーのペンダント。
先端にある丸い透明な部分が、満月と海に反射して星のように輝いた。
「集公舎の近くの店のウィンドウに飾ってあって―――絢ちゃんに似合いそうだと思って」
「ありがとう。すごく嬉しい・・・ね、付けて?」
「ん・・・はい、できた」
「ありがとう。一生大事にするね」
振り返って、桃野くんの表情を見ようとしたら、
突然、腰をぐいっと後ろに引かれて・・・桃野くんが耳元で囁いた。
「俺の方がありがとうだよ。いつもすげぇ感謝してる」
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