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Chapter 31:「嵐の予感?」
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【10月29日(月)の週】
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TOKYO CHIC 2025号
「君に会えたら」 第30話 掲載
*******************************
2日間の徹夜のお陰で第2話の脚本は間にあったけど、もちろんそれで終わりというわけじゃない。
なぜなら、今まで上げた脚本全ての見直し作業が待っているから。
だから、今も川上さんは、白金の自宅でほぼ軟禁状態。
そして
見直し作業と同時に、新たな脚本も書き進めているそれは・・・私から見ると、神業。
スケジュールが予定通りに戻るのは11月末くらいじゃないかと脇さんが言っていたけど、本当にあと1カ月でそれをやり遂げたなら、あの人は本当に天才だ。
「自分から言い出したこととはいえ・・・あの人、やっぱり仕事の鬼なんだな」
そういう意味では桃野くんも、川上さんのことを少し見直したみたい。
ところで。
さすがに先日の2日間のような生活を11月末まで続けられるとは思えなかったから、川上さんには代わりに、いつでも電話OKと言ってある。
今も夜中の3時だというのに、川上さんと電話中。
「絢ちゃん、この部分なんだけど、こういう表現にしたら間違ってる?」
「いえ、それで大丈夫です」
「これは?」
「それはちょっと行き過ぎですよ。川上さんじゃないんだからそんな風には言いません。耕介のトーンを考えてください」
「そっか・・・っていうか電話だとすげぇ面倒くさい。一緒にトリップもできないし・・・ウチ来てよ」
「行きませんよ」
「なんで?」
「まだ死にたくないからです。それに、危険だし!」
「なんで俺はダメで、桃野はいいの?」
「桃野くんは危険じゃないです」
「アイツ、十分危険だよ!」
「桃野くんは私の命を守るためにここにいるんですよ?勘違いしないでください」
「じゃあさ、俺がそっちに行くよ」
「は?」
「その方が早く終わるから―――ま、もちろん、絢ちゃんの傍にいたいっていうのもあるけど。絢ちゃん抱きかかえながら仕事したら、すげぇ捗りそうだし」
「ダメです!」
「なんで?」
「なんでもです!」
「なんでかなぁ・・・じゃ、桃野の部屋に俺が住めば問題ないだろ。俺が桃野に話すからさ。そこにいるの?」
「いるわけないじゃないですか。今、何時だと思ってるんですか」
「んー、じゃ、桃野に電話してまた折り返しするよ」
なんて強引な・・・
まぁ、桃野くんがOKする訳ないし。
だけど、それが間違いだったことがすぐ発覚する。
ガラっとベランダのドアが開いた音がして、私の仕事部屋のドアがコンコンと鳴った。
「桃野くん?」
「絢ちゃん・・・」
ドアをちょっとだけ開けて私を覗き込んだ桃野くんは、ものすごく疲れた表情をしていた。
川上さんと相当バトルしたんだろう。
「川上さんに起こされたんでしょ?」
「あぁ」
「ごめんね、私が川上さんを説得できなくて」
「・・・俺も、ごめん」
「え?」
いま、なんて言った?
「俺も勝てなかった・・・ごめん」
「えぇ?」
「川上さん、今日からここに来るから・・・」
「ウソでしょう?!」
「ホント・・・ごめん」
「でも、俺の部屋一つ空けて、そこに簡易ベットを入れて、川上さんにはそこで生活してもらうから」
「イヤだよ!そんなの地獄だよ!桃野くんだって死ぬよ?!あの2日間をもう忘れちゃったの?!」
「・・・」
「桃野く~ん、お願い、どうにかして?」
桃野くんは私の足もとに座った。
「絢ちゃん。ドラマ「君に会えたら」を成功させるために俺たちに残された選択肢は・・・たぶん2つしかない」
「なに?」
「1つ目は、川上さんをここで受け入れる。でも、絶対に絢ちゃんを危険な目には合わせない」
「どうやって?」
「絢ちゃんの部屋に川上さんは立ち入り禁止。俺の部屋だけで仕事も生活もさせる。あと、俺もここで仕事する。2人きりには絶対にさせないし、絢ちゃんも自分のスペースを確保できる」
「なるほどね・・・で、2つ目は?」
「3人でホテルに監禁」
「この間みたいに?」
「そう」
「でもそれが1ヶ月続くってことだよね?」
「うん・・・」
ここにいれば、少なくともコーヒーは飲めるし、料理もできる。
「わかったよ・・・1つ目にする」
「じゃあ、ベランダの仕切りを元に戻すから」
「なんで?」
「絢ちゃん、川上さんに襲われたいの?」
「もちろん違います」
「本当にあの人ウザい・・・」
桃野くんはブツブツ文句を言いながら、私の部屋の方から仕切りを元の位置に戻した。
「・・・桃野くん」
「ん?」
「なんかものすごく疲れた。寝る・・・」
私はがっくり肩を落として寝室に向かった。
今日から始まる怒涛の一カ月のことを考えると、本当に気が重くなる。
川上さんだってまだ、死にたくないだろうに・・・
「絢ちゃん」
「ん?」
「枕持ってきてもいい?」
「うん」
はぁ。
隣に横たわった桃野くんはうつ伏せになり、深いため息を吐いた。
そりゃそうだよね。
個人的な感情としては川上さんをここに迎え入れたくないだろうけど、
「君に会えたら」という仕事のことを考えたら仕方がない。
「桃野くんさ・・・」
「ん?」
「私たち2人にずっと付いてる必要ないからね」
「え?」
「そんなことしたら、桃野くんの身が持たないよ。私と川上さん、またトリップしちゃいそうだし・・・適当に息抜きしたり、実家に帰ってもいいから。でも、2-3日に一度くらい生きてるかどうか確認してもらえるとすごく助かる。さすがにここで川上さんと、それも2人きりで死にたくないから」
「俺は大丈夫。絢ちゃんと川上さんをここで2人きりになんて絶対にしない。心配でそっちの方が俺の身が持たないって」
桃野くんが喉で笑いながら、私の腰に腕を回す。
「絶対に2人きりにはさせない・・・あの人いま、俺との約束、本当に破りそうな目してるし」
「何のこと?」
「内緒・・・男同士の約束だから」
TRRRRRRRRRRRRRR
深い眠りの中でスマホが鳴っている。
夢なのか現実なのか、わからない。
「んん、誰?」
背後から私を抱きかかえる腕の力が強くなる。
私も桃野くんもだるくて起き上がることができない。
それでも鳴り続けるスマホ。
でも、部屋の時計を見たら、まだ朝の6時。
ということは、まだ2時間くらいしか寝てないということ。
「・・・川上さんだよね」
「・・・ん、そうだね」
「・・・まだ早すぎ、もうちょっと寝る」
「・・・ん」
私たちはまた眠りに入った。
鳴り続けるスマホを無視して。
そして諦めたのか、突然スマホは鳴らなくなった。
しばらくして。
背後にいる桃野くんがモソモソ動きだした。
腰にあった桃野くんの右手が、いつのまにか、私の右手と同じ方向で重なって指を絡めている。
「桃野くん、起きたの?」
「このまま寝てたいけど、とりあえず出社して飯島さんにこの状況を説明しておかないと・・・」
「そうだよね・・・はぁ、、、私、超憂鬱なんだけど。一カ月後、私生きてるかなぁ」
「絢ちゃんのことは絶対守るから心配しなくて大丈夫・・・川上さんはどうでもいいけど」
そう言うと、桃野くんは気合を入れるようにベットからすくっと立ち上った。
だから、私もコーヒーを入れることにした。
TRRRRRRRRRRRRRRR
「はぁ・・・川上さんだ・・・もしもし、おはようございます」
桃野くんは私の顔を見ながら、面倒くさそうに話をしている。
「これから俺は一度出社するんで、夕方くらいでお願いします。え?いや、それはマジ勘弁して下さい・・・」
相当、困った顔。
こんなことがあと1カ月も続くのだろうか。
「一度切って、折り返させてください。はい。じゃ」
「なんだって?」
「今から来るって言い張るんだ。なんか遠足に行く直前の子供みたいにはしゃいでるんだけど」
「・・・」
「ちょっと飯島さんに電話する」
私がコーヒーを作っている間、桃野くんは赤ソファーに座って飯島さんと話をした。
「飯島さん、何だって?」
「しばらくはここで仕事しろって。まぁ、そう言われるとは思ってたけど」
「それはよかったけど・・・なんか、すごく不安」
「大丈夫。俺がいつもここにいるから。約束する」
「うん・・・ごめんね。でもありがとう。本当に助かる」
「―――絢ちゃんが謝ることないよ。川上さんがここに来るのは絢ちゃんのせいじゃないんだし」
「でも」
「俺がここにいたいんだよ。今の川上さんと二人きりにさせるとか、ありえないから」
「そうだよね・・・川上さん、私と同類だからなぁ。二人きりだったら死ぬだろうなぁ」
「そういう意味じゃないよ」
「どういう意味?」
「これが「片桐純」じゃなかったら、俺の身体はここまで動かないよ。ま、たぶん放置だね」
「へ?」
「―――そろそろ川上さんの部屋、作っとかないと」
そう言い残し、桃野くんは川上さんの部屋を整えるため、玄関からお隣に戻っていった。
それから1時間後。
「とにかくよろしくな?」
怪しげな微笑みと共にどさっと荷物を置いたのは、まぎれもなく川上さん。
車を持たない彼は、ここまでタクシーで来たらしい。
「桃野が邪魔だけど我慢するよ」
「殴りますよ?」
「俺の部屋どこ?」
「こっちです。簡易ベット入れてますから」
「やだよ、簡易ベッドなんて。俺は絢ちゃんと一緒にベッドでちゃんと寝るよ」
「いやなら出てってもらいますけど」
「はぁ。オマエ小姑かよ」
なんだかもう既に、バトルの予感が・・・
「川上さん、ここにはルールがあります」
桃野くんが威嚇するような目を川上さんに向けた。
「なんだ?」
「まず、川上さんと絢ちゃんが一緒に仕事する時は、俺の部屋のリビングでしてください」
「それはいいよ。問題ない。桃野が傍にいようが、俺は勝手に絢ちゃんとイチャつくから」
「バカですか?!俺がそんな事させるわけないじゃないですか?!」
「だからお前はどうでもいいんだって。俺がこのチャンスを逃すと思うか?」
「さっき電話でも言ったでしょう?!これは仕事なんですよ!それが目的なら今すぐ出てってください!」
「はぁ・・・で?他にもルールあんの?」
「絢ちゃんの部屋は「完全」立ち入り禁止です」
「え、なんで?!」
「当然でしょう?」
「なんで当然なんだよ?愛も語り合えないってこと?!」
「仕事で来てるんだから必要ないでしょう」
「桃野は絢ちゃんの部屋に入るんだろ?」
「当然ですよ。絢ちゃんが生きてるかどうか、確認しないといけないので」
「そんなの不公平だろ!」
「ヤなら出てって下さい!」
そんなバトルが長引きそうだったから、私は自分の部屋に戻ってコーヒーを煎れることにした。
10分くらいして、玄関の鍵がカチャっと鳴った。
「桃野くん、バトルは終わった?」
「あぁ・・・コーヒー飲みたい・・・プリンも・・・」
「うん。もうすぐできるから。持ってくよ」
「絢ちゃん・・・」
「ん?」
桃野くんは私に後ろから抱きついて、ぼそっと呟いた。
「絢ちゃんのことは俺が絶対守る・・・けど、すげぇ不安になってきた。あの人、ストレートすぎる・・・毎日こんなんが続くのかよ・・・勘弁してくれ」
私がいない間に、2人がものすごいバトルを展開していたことを、このときの私は知るよしもなかった。
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TOKYO CHIC 2025号
「君に会えたら」 第30話 掲載
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2日間の徹夜のお陰で第2話の脚本は間にあったけど、もちろんそれで終わりというわけじゃない。
なぜなら、今まで上げた脚本全ての見直し作業が待っているから。
だから、今も川上さんは、白金の自宅でほぼ軟禁状態。
そして
見直し作業と同時に、新たな脚本も書き進めているそれは・・・私から見ると、神業。
スケジュールが予定通りに戻るのは11月末くらいじゃないかと脇さんが言っていたけど、本当にあと1カ月でそれをやり遂げたなら、あの人は本当に天才だ。
「自分から言い出したこととはいえ・・・あの人、やっぱり仕事の鬼なんだな」
そういう意味では桃野くんも、川上さんのことを少し見直したみたい。
ところで。
さすがに先日の2日間のような生活を11月末まで続けられるとは思えなかったから、川上さんには代わりに、いつでも電話OKと言ってある。
今も夜中の3時だというのに、川上さんと電話中。
「絢ちゃん、この部分なんだけど、こういう表現にしたら間違ってる?」
「いえ、それで大丈夫です」
「これは?」
「それはちょっと行き過ぎですよ。川上さんじゃないんだからそんな風には言いません。耕介のトーンを考えてください」
「そっか・・・っていうか電話だとすげぇ面倒くさい。一緒にトリップもできないし・・・ウチ来てよ」
「行きませんよ」
「なんで?」
「まだ死にたくないからです。それに、危険だし!」
「なんで俺はダメで、桃野はいいの?」
「桃野くんは危険じゃないです」
「アイツ、十分危険だよ!」
「桃野くんは私の命を守るためにここにいるんですよ?勘違いしないでください」
「じゃあさ、俺がそっちに行くよ」
「は?」
「その方が早く終わるから―――ま、もちろん、絢ちゃんの傍にいたいっていうのもあるけど。絢ちゃん抱きかかえながら仕事したら、すげぇ捗りそうだし」
「ダメです!」
「なんで?」
「なんでもです!」
「なんでかなぁ・・・じゃ、桃野の部屋に俺が住めば問題ないだろ。俺が桃野に話すからさ。そこにいるの?」
「いるわけないじゃないですか。今、何時だと思ってるんですか」
「んー、じゃ、桃野に電話してまた折り返しするよ」
なんて強引な・・・
まぁ、桃野くんがOKする訳ないし。
だけど、それが間違いだったことがすぐ発覚する。
ガラっとベランダのドアが開いた音がして、私の仕事部屋のドアがコンコンと鳴った。
「桃野くん?」
「絢ちゃん・・・」
ドアをちょっとだけ開けて私を覗き込んだ桃野くんは、ものすごく疲れた表情をしていた。
川上さんと相当バトルしたんだろう。
「川上さんに起こされたんでしょ?」
「あぁ」
「ごめんね、私が川上さんを説得できなくて」
「・・・俺も、ごめん」
「え?」
いま、なんて言った?
「俺も勝てなかった・・・ごめん」
「えぇ?」
「川上さん、今日からここに来るから・・・」
「ウソでしょう?!」
「ホント・・・ごめん」
「でも、俺の部屋一つ空けて、そこに簡易ベットを入れて、川上さんにはそこで生活してもらうから」
「イヤだよ!そんなの地獄だよ!桃野くんだって死ぬよ?!あの2日間をもう忘れちゃったの?!」
「・・・」
「桃野く~ん、お願い、どうにかして?」
桃野くんは私の足もとに座った。
「絢ちゃん。ドラマ「君に会えたら」を成功させるために俺たちに残された選択肢は・・・たぶん2つしかない」
「なに?」
「1つ目は、川上さんをここで受け入れる。でも、絶対に絢ちゃんを危険な目には合わせない」
「どうやって?」
「絢ちゃんの部屋に川上さんは立ち入り禁止。俺の部屋だけで仕事も生活もさせる。あと、俺もここで仕事する。2人きりには絶対にさせないし、絢ちゃんも自分のスペースを確保できる」
「なるほどね・・・で、2つ目は?」
「3人でホテルに監禁」
「この間みたいに?」
「そう」
「でもそれが1ヶ月続くってことだよね?」
「うん・・・」
ここにいれば、少なくともコーヒーは飲めるし、料理もできる。
「わかったよ・・・1つ目にする」
「じゃあ、ベランダの仕切りを元に戻すから」
「なんで?」
「絢ちゃん、川上さんに襲われたいの?」
「もちろん違います」
「本当にあの人ウザい・・・」
桃野くんはブツブツ文句を言いながら、私の部屋の方から仕切りを元の位置に戻した。
「・・・桃野くん」
「ん?」
「なんかものすごく疲れた。寝る・・・」
私はがっくり肩を落として寝室に向かった。
今日から始まる怒涛の一カ月のことを考えると、本当に気が重くなる。
川上さんだってまだ、死にたくないだろうに・・・
「絢ちゃん」
「ん?」
「枕持ってきてもいい?」
「うん」
はぁ。
隣に横たわった桃野くんはうつ伏せになり、深いため息を吐いた。
そりゃそうだよね。
個人的な感情としては川上さんをここに迎え入れたくないだろうけど、
「君に会えたら」という仕事のことを考えたら仕方がない。
「桃野くんさ・・・」
「ん?」
「私たち2人にずっと付いてる必要ないからね」
「え?」
「そんなことしたら、桃野くんの身が持たないよ。私と川上さん、またトリップしちゃいそうだし・・・適当に息抜きしたり、実家に帰ってもいいから。でも、2-3日に一度くらい生きてるかどうか確認してもらえるとすごく助かる。さすがにここで川上さんと、それも2人きりで死にたくないから」
「俺は大丈夫。絢ちゃんと川上さんをここで2人きりになんて絶対にしない。心配でそっちの方が俺の身が持たないって」
桃野くんが喉で笑いながら、私の腰に腕を回す。
「絶対に2人きりにはさせない・・・あの人いま、俺との約束、本当に破りそうな目してるし」
「何のこと?」
「内緒・・・男同士の約束だから」
TRRRRRRRRRRRRRR
深い眠りの中でスマホが鳴っている。
夢なのか現実なのか、わからない。
「んん、誰?」
背後から私を抱きかかえる腕の力が強くなる。
私も桃野くんもだるくて起き上がることができない。
それでも鳴り続けるスマホ。
でも、部屋の時計を見たら、まだ朝の6時。
ということは、まだ2時間くらいしか寝てないということ。
「・・・川上さんだよね」
「・・・ん、そうだね」
「・・・まだ早すぎ、もうちょっと寝る」
「・・・ん」
私たちはまた眠りに入った。
鳴り続けるスマホを無視して。
そして諦めたのか、突然スマホは鳴らなくなった。
しばらくして。
背後にいる桃野くんがモソモソ動きだした。
腰にあった桃野くんの右手が、いつのまにか、私の右手と同じ方向で重なって指を絡めている。
「桃野くん、起きたの?」
「このまま寝てたいけど、とりあえず出社して飯島さんにこの状況を説明しておかないと・・・」
「そうだよね・・・はぁ、、、私、超憂鬱なんだけど。一カ月後、私生きてるかなぁ」
「絢ちゃんのことは絶対守るから心配しなくて大丈夫・・・川上さんはどうでもいいけど」
そう言うと、桃野くんは気合を入れるようにベットからすくっと立ち上った。
だから、私もコーヒーを入れることにした。
TRRRRRRRRRRRRRRR
「はぁ・・・川上さんだ・・・もしもし、おはようございます」
桃野くんは私の顔を見ながら、面倒くさそうに話をしている。
「これから俺は一度出社するんで、夕方くらいでお願いします。え?いや、それはマジ勘弁して下さい・・・」
相当、困った顔。
こんなことがあと1カ月も続くのだろうか。
「一度切って、折り返させてください。はい。じゃ」
「なんだって?」
「今から来るって言い張るんだ。なんか遠足に行く直前の子供みたいにはしゃいでるんだけど」
「・・・」
「ちょっと飯島さんに電話する」
私がコーヒーを作っている間、桃野くんは赤ソファーに座って飯島さんと話をした。
「飯島さん、何だって?」
「しばらくはここで仕事しろって。まぁ、そう言われるとは思ってたけど」
「それはよかったけど・・・なんか、すごく不安」
「大丈夫。俺がいつもここにいるから。約束する」
「うん・・・ごめんね。でもありがとう。本当に助かる」
「―――絢ちゃんが謝ることないよ。川上さんがここに来るのは絢ちゃんのせいじゃないんだし」
「でも」
「俺がここにいたいんだよ。今の川上さんと二人きりにさせるとか、ありえないから」
「そうだよね・・・川上さん、私と同類だからなぁ。二人きりだったら死ぬだろうなぁ」
「そういう意味じゃないよ」
「どういう意味?」
「これが「片桐純」じゃなかったら、俺の身体はここまで動かないよ。ま、たぶん放置だね」
「へ?」
「―――そろそろ川上さんの部屋、作っとかないと」
そう言い残し、桃野くんは川上さんの部屋を整えるため、玄関からお隣に戻っていった。
それから1時間後。
「とにかくよろしくな?」
怪しげな微笑みと共にどさっと荷物を置いたのは、まぎれもなく川上さん。
車を持たない彼は、ここまでタクシーで来たらしい。
「桃野が邪魔だけど我慢するよ」
「殴りますよ?」
「俺の部屋どこ?」
「こっちです。簡易ベット入れてますから」
「やだよ、簡易ベッドなんて。俺は絢ちゃんと一緒にベッドでちゃんと寝るよ」
「いやなら出てってもらいますけど」
「はぁ。オマエ小姑かよ」
なんだかもう既に、バトルの予感が・・・
「川上さん、ここにはルールがあります」
桃野くんが威嚇するような目を川上さんに向けた。
「なんだ?」
「まず、川上さんと絢ちゃんが一緒に仕事する時は、俺の部屋のリビングでしてください」
「それはいいよ。問題ない。桃野が傍にいようが、俺は勝手に絢ちゃんとイチャつくから」
「バカですか?!俺がそんな事させるわけないじゃないですか?!」
「だからお前はどうでもいいんだって。俺がこのチャンスを逃すと思うか?」
「さっき電話でも言ったでしょう?!これは仕事なんですよ!それが目的なら今すぐ出てってください!」
「はぁ・・・で?他にもルールあんの?」
「絢ちゃんの部屋は「完全」立ち入り禁止です」
「え、なんで?!」
「当然でしょう?」
「なんで当然なんだよ?愛も語り合えないってこと?!」
「仕事で来てるんだから必要ないでしょう」
「桃野は絢ちゃんの部屋に入るんだろ?」
「当然ですよ。絢ちゃんが生きてるかどうか、確認しないといけないので」
「そんなの不公平だろ!」
「ヤなら出てって下さい!」
そんなバトルが長引きそうだったから、私は自分の部屋に戻ってコーヒーを煎れることにした。
10分くらいして、玄関の鍵がカチャっと鳴った。
「桃野くん、バトルは終わった?」
「あぁ・・・コーヒー飲みたい・・・プリンも・・・」
「うん。もうすぐできるから。持ってくよ」
「絢ちゃん・・・」
「ん?」
桃野くんは私に後ろから抱きついて、ぼそっと呟いた。
「絢ちゃんのことは俺が絶対守る・・・けど、すげぇ不安になってきた。あの人、ストレートすぎる・・・毎日こんなんが続くのかよ・・・勘弁してくれ」
私がいない間に、2人がものすごいバトルを展開していたことを、このときの私は知るよしもなかった。
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